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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第一話 『新米』

 ――ピピピピ


 けたたましく鳴り響くアラームに意識が現実に連れ戻されていく。

 ゆっくりと目を開くと視界に飛び込んでくる見知った景色。ベッドとテレビ位しか物の無い殺風景な部屋――紛れもない我が家だ。

 バイブレーションの振動を頼りに布団の中からスマホを見つけアラームを止めると溜息をついた。


「またいつもの夢か……」


 ベッドから抜け出し食パンをトースターにセットしてコーヒーメーカーのスイッチを入れる。

 その間に髭剃りと洗顔を済ませているとコーヒーの香りが八畳間を満たしていった。


 朝食はトースト一枚にコーヒーだけ。食事付きの寮住まいだがギリギリまで寝ていたいので朝食は自室で取ることにしている。


 静かな部屋に聞き慣れた朝のニュース番組のキャッチフレーズが響いている。お陰で時計を見なくても現在時刻が把握できるのでありがたい。


 無言で食事を済ませたら歯磨きをしてスーツに着替える毎朝のルーチンワークだ。



 千光寺朔太朗(せんこうじさくたろう)、二十四歳。


 大学卒業後警視庁巡査を拝命。六ヶ月の警察学校過程を経て一線署に配属され一年が経ったばかりの新米警察官である。

 黒髪短髪、中肉中背だが無駄の無い締まった体つきが若手警察官らしい。

 容姿は目尻が少し下がり目で鼻筋が通っており第一印象は優しい印象を与えることが多い。


 職場までは自転車で十五分というところ。寮の駐輪場を出発し途中交差点で信号待ちをしていると背後から声がする。

 朔太朗にとっては聞き慣れた声だ。


「おはよう朔」


「おはよう絵麻」


 声の主は月岡絵麻(つきおかえま)

 朔太朗とは大学時代からの友人であり警察学校で苦楽を共にした同期でもある。


 警察官らしい栗色のショートカット。整った顔立ちに意志の強そうな瞳。黒色のパンツスーツがよく似合っている。

 配属先も係も一緒となればもはや腐れ縁といってもいいだろう。

 当番日はいつもこの交差点で当たり前の様に合流し一緒に通勤するのが日常なのだ。


「今日点検だよ! 制服ちゃんとアイロンかけてある?」


「――忘れてた! まあ、何とかなるんじゃない? 大丈夫大丈夫!」


「もう! いい加減なんだから。目を付けられても知らないよ!」 


 しばらくすると二人は並木通りに出る。進行方向には行政施設が建ち並び、その中に朝日に照らされ一際白く輝く庁舎が頭を出していた。

 警視庁東都警察署――職員数四百名を超える大規模署の一つで二人の職場である。


 二人は裏門から敷地内に入り署内の更衣室で制服に着替え『通常点検』に備える。

 通常点検とは、手帳や拳銃を始めとする装備品の状態と基本動作の確認、警察官としての規律を養うために定期的に実施するものだ。



「手帳!」


 整然と署員が並ぶ訓示室の中、一際通った声が響き渡った。

 一斉に胸ポケットから警察手帳を取り出し右掌に載せた署員の間を、一人の警察官が背筋をピンと伸ばしゆっくりと歩いていく。


 獅堂旭(しどうあさひ)警視正――先週この東都署に異動してきた新署長である。白髪長身の紳士的な容姿で警察官の制服が良く映える。その厚い胸元には金色の所属長バッジが光っている。


「動作は完璧だ。人数もこれだけいるし目立つことはないだろう」


 朔太朗は視線を巡らせて周囲を伺う。


「最前列中央にいるのが絵麻か……。優等生め。相変わらずそんな目立つ所に並ぶ意味が解らん。その反面、先輩は端っこのいい所にいるな。抜け目ない」


 ――と、油断していた朔太朗の前で獅堂署長が足を止めた。


 朔太朗はその視線が足元から服装、頭髪へと移っていくのを体中の毛穴という毛穴から敏感に感じ取っている。

 実のところ、朔太朗はこの新署長が苦手だった。親しみと威圧が同居したような気詰まり感——まるで父親を前にしているような気分になるのだ。


「……」


 ゴクリと唾を飲む音が自らの鼓膜に響く。あまりの緊張にまるで時間が止まったような錯覚に陥っていた。


「君。制服がヨレヨレだよ。短靴も汚い。心の緩みが身だしなみにも表れているようだ。名前は?」


「……千光寺朔太朗です」


「千光寺……君ね。知っているよ」


 そう言うと獅堂署長はニヤリと笑った。




 「千光寺! 一係の皆がしっかり準備してきているというのにお前ときたら何だ! お陰で大恥をかいたぞ!」


 地域課長、熊田正午(くまだしょうご)警視はその名前とは対照的に痩せ形で眉が細く神経質そうな容姿の男性だ。年齢は恐らく定年間近だろう。


「普通、若けぇ衆が一番気合い入れるもんだろ? もう一度学校からやり直した方がいいんじゃねえのか!?」


 その隣で課長の顔色を窺っているのが牛津陽介(うしづようすけ)警部。朔太朗の所属する一係の課長代理だ。色黒でがっちりした体格の五十代の男性である。ただでさえ深い眉間のしわがさらに深くなっているようだ。


「申訳ありません。点検日を失念しておりました!」


 朔太朗は今日で何回目かの頭を下げる。逆さの景色越しに遠目から心配そうに様子を窺っている絵麻の姿が見えていた。


 地域課のフロアは広い。

 四交代制で各交番と数台のパトカーを運用しているため必然的に職員の数も多くなる。

 一から四の係毎にデスクの島が並び、その島の前にはそれぞれの課長代理席が配置している。フロアの一番奥に位置する窓際の角には課長席が置かれ、朔太朗は今まさにそこでお説教を受けているのだ。


「署長もおっしゃっておられたが、心が緩んでいると仕事で大きなヘマをするもんだ。どこで足元を掬われるか判らん時代だぞ。これを機会に気を引き締めるように。どういう訳か署長はお前が一皮剥けるのに期待しているご様子だ。ご期待を裏切らないようにな。以上!」


 解放された朔太朗が疲労困憊で一係の島に戻ると絵麻がすかさず近づいてくる。


「大変だったね……。でもさ自業自得だよ」


「千光寺もついてねぇな。俺も点検適当だったんだぜ」


 とは同じ交番の鼠入明(そいりあきら)だ。

 高卒組の二十三歳で年齢的には朔太朗より一つ下だが配属三年目の巡査で先輩にあたる。


「おっともうこんな時間だ。じゃあ俺は係長達と先に行ってるわ。準備出来たらさっさと来いよ!」


「私も行こっ。じゃね朔!」



警察描写はなるべくリアルを目指していますが、本職の読者の方がいらっしゃたらゴメンなさい!

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