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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第十七話 『VSアウリガ』

 三組が睨み合う一触即発な空気の中、混乱していた客達も身の危険を感じて我先にと逃げ出して行く。

 それを能力を発現させたトレーシーが高所から監視していた。


「第一、第五包囲隊来るわよ! 船上隊も注意して」


 彼女から各隊へ送られる指示に従って店外へ逃げ出した者達が次々に確保されていく。


 一方、店内の様相も刻一刻と変化しつつあった。


「邪魔だぁ——!」


 最初に動いたのはサギッタだ。

 後ろ手に組んでいた手を前方に突き出すと、突如出現した無数の矢がゴーリキを襲う——。 


 しかし、次の瞬間それらは木片となって宙に舞っていた。

 ゴーリキの掌を中心に現れた青く輝くシールドによっていとも簡単にはじき返されたのだ。


「判ったぞスクトゥム、そいつは転送の能力者だ! 丸腰と見せて一瞬で武器を手にするぞ。気を付けろ!」


 アイソポスがゴーリキに注意を逸らした瞬間、アウリガが襲い掛かる。


「同僚の心配をしている場合かな!」


「——そのようだな!」


 直後、エニグマ銃が火を噴いた。

 しかし、弾丸は手応え無くアウリガの身体を貫通し背後の花瓶を破裂させる。


「なにっ⋯⋯!」


「残念!」


 アウリガは怯むことなく間合いを詰め鉤爪で切り掛かる——。辛うじてそれを避けたアイソポスだったが肩口を浅く裂かれていた。



 同じ頃、銃声はカウンターでも轟いていた。


 その数三発。マルタンがアルゴに向けて発砲したのだ。しかしアルゴは全身を鋼色に変化させ全ての弾丸を弾いてしまった。


「スクトゥムと同タイプの『能力者』か!」


「ブハァ。あんな盾野郎と一緒にするんじゃねえ。俺様の『竜骨』は全身硬化——つまり上位互換って奴さ」


 硬化を解いたアルゴは自慢気に笑う。


 ——アイソポスが危ないな。


 サクは三組の状況から判断して、手負いのアイソポスの応援に向かう事にした。しかし同様にマルタンの事も気掛かりだった。


「ヤンセン、ハンセン、ヨハンセン! 隊長の援護を頼む!」


「マジかよ旦那、あんな化け物の相手しろってか?」


「ピスケスを助けたらすぐ合流する。それまで時間稼ぎをしてくれればいい!」


 サクは三人にそう言い残し、アイソポスを追い詰めていたアウリガの前に立ちはだかった。


「ピスケス、傷は大丈夫ですか?」


「⋯⋯ええ、大丈夫。でも判ったよサクさん。奴の能力はマリオネットだ。目の前のそいつはアウリガの本体じゃない!」


 アイソポスがアウリガの能力を看破する。すると目の前のローブの男——マリオネットが拍手を始めた。


「素晴らしい! 正解だよ。お察しの通りこれは私の()()()()だ。つまり君達は私に傷一つ付けることが出来ないという訳さ!」


 マリオネットはサクに向かって鉤爪で襲い掛かる。その挙動はどこか不自然で予想がしづらい。サクはそれらを避けつつアイソポスに問いかけた。


「ピスケス、奴の本体は?」


「それが糸にジャミング効果があるようで私の力ではそこまで辿れないんだ!」


「じゃあ、貴方の認識能力を倍増させれば見えますね?」


「そんな事が出来るならやってます! 近くにいるのは間違いないんだ!」


 悔しさに顔を上げる——。と、そこに笑顔のサクが手を差し伸べていた。


「え?」


 アイソポスは思わずその手を取る——。


 次の瞬間、全身の血管を膨大なエネルギーが駆け巡り体中がカッと熱くなるような感覚に襲われた。

 同時に視界にも変化が起きる。マリオネットの周囲に操り糸の一端を視認するのが精一杯だった能力視野が爆発的に広がっていくのだ。

 アウリガの操り糸は眩い金色に輝きながら本体に向けてグングンと伸びていく。

 そしてついに一人の人物に辿り着いた——。


「こんな⋯⋯ことが」


「ありがとうピスケス! 俺にも見えたよ」


 サクはマリオネットの操り糸を素早くナイフで断ち切り、ゆっくりと歩き出す。

 背後で制御を失ったマリオネットが静かに崩れ落ちていった。


 店内には逃げ遅れた客や演奏者数名が床に伏せていた。サクはその内の一人の男性——弦楽器を抱えた老演奏者の前で足を止めた。

 老演奏者は床にうずくまり身体を震わせている。


「お芝居はお終いだ、アウリガ」


「⋯⋯⋯⋯」


 老演奏者は背中を引っ張られるように不自然に立ち上がると、堪えていた笑いを爆発させる。


「フフフフ⋯⋯ヒャハハハ! よく見破ったな若造」

 

 少し離れてその様子を静観するアイソポスはアウリガ自身を操る糸の全貌を見ることは出来ない。

 サクと手が離れた途端、視野は元に戻ってしまっていたのだ。


「自分自身を操っているのか⋯⋯?」


 その光景に気を取られ、背後でマリオネットが静かに起き上がろうとしていることに気が付かない。


「殺したくはない。大人しく捕まってくれ」


 サクは穏やかに最後通告をすると、アウリガは観念したのか両手を差し出す——。

 と、そのまま嘲るように頭上高くまで上がっていった。


「ヒャハハハ、甘いわ小僧! 情けをかけたのが間違いだったな!」


 アウリガは自らを糸で操り宙高く跳躍する。


「ピスケス! 走れ!」


 サクはアウリガの目的を察すると、自身も走り出し対面から駆けてくるアイソポスに手を伸ばす——。


 二人がすれ違いざまに手を繋いだ瞬間、爆発的な能力視の強化と共有が再び発現した。視界にみるみるアウリガの操り糸が広がっていく。


 サクはその勢いでピスケスを背後から追っていたマリオネットをナイフの一突きで木っ端微塵にする。

 さらに振り向きざまに二階へ逃げようとするアウリガの操り糸を飛ぶ斬撃で切断した。


「今だピスケス!」


「——了解!」


 アイソポスはエニグマ銃のチップアップ式の銃身を持ち上げシリンダー毎交換すると、自由落下していくアウリガに素早く銃を構えた——。


「くらえ、対能力者弾!」


 青白い発砲炎と共に発射された弾丸は空気を震わせアウリガの胸部に命中する。

 被弾したアウリガは空中で大きく弾け、そのまま派手に音を立てて床に落下した。


 操り糸は完全に消失しアウリガはピクリとも動かない。

 

「対能力者弾は対象の能力を封じ込めるだけじゃない。強力な術式で魂の活動を停止させ昏睡状態にするんです。これでもう二、三日は目を覚まさない筈ですよ」


 アイソポスは額の汗を拭った。


 残る『能力者』は二人。


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