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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第十六話 『潜入』

 ノルド運河は王都内を同心円状に流れる四つの運河の最も外周に位置する運河だ。


 『裏ギルド』の拠点となっている会員制酒場『ノエル』はそのノルド運河沿いかつ王都の南西に位置しており、各隊は司法局を時間差で出発し別々のルートで『ノエル』を目指していた。


 夜の帳の下、サクたち潜入隊も既に『ノエル』が目視できる所まで近づきつつあった。


「ここでしばらく待機だ」


 先頭を行くマルタンが足を止める。後に続くのはアイソポス、ゴーリキ、サク、さらにヤンセン一家の三人だ。


 マルタンの言葉を合図に、司法局の面々は流石に慣れた様子で周囲の景色に溶け込んでいた。


「なあヤンセン、『待機』ってどうすればいいのかな?」


「あー? 街灯の灯りでも数えとけ」


「やめろお前ら!」


 一方、ヤンセン一家はこの調子だ。

 サクはそれを横目に運河沿いのベンチに腰を下ろした。


 ——果たしてリハーサル通り上手くいくかどうか。実際『能力者』が何人いるかも判らないじゃないか⋯⋯。


 思案にふけながら視線を運河に落とす。

 すると眼下を進む船上にマキネンの姿を発見した。運河からの逃亡を阻止する船上隊だ。

 マキネンの方も遅れてサクの視線に気付くと笑顔を返してくれる。そこには負傷を推して捜査に志願した彼から寄せられる厚い信頼が感じられた。


 今回は留守番となったアガーテもサクを信頼して送り出してくれている。彼女の『事件の真相を知りたい』という願いも叶えてあげたい。


 ——自分に何ができるか分からないけど、やるしかないな!


 サクは静かに決意を固めた。

 しばらくするとマルタンの元に伝令が到着した。


「各隊、配置完了です!」


「よし! 第一フェーズ開始だ」


 マルタンが振り返ると一同は頷いた。


「俺達の出番だな!」


 と、ヤンセン一家が先頭を歩き出す。まず『ノエル』の扉を開けなければならない。入店には合言葉が必要だ。当たり前だが会員本人の確認もあるだろう。ここはヤンセン一家が頼りだ。


 店の外観は驚くほど地味だった。煉瓦造の二階建ての建物には、それと判る看板や表示物の類は一切見当たらない。ただ通りに面して頑丈そうな木製扉が一つあるだけだ。

 扉の中央には金属製のドアノッカーと上部に開閉式の小窓が設置されている。


 ヤンセンは一同に目配せをした後、力強くドアをノックした。

 金属の重い打撃音が響き渡ると扉の向こうから直ぐに反応が返ってくる。


「——レッサーパンダは」


「——笹の葉⋯⋯大好き」


 と、ヤンセンは若干タメを入れて答える。


「格好付けて言う合言葉か!」


 サクはツッコミを入れずにはいられない。

 直後、小窓がパカリと開いて暗闇の中に二つの目玉がギョロリ浮かび上がった。


「いらっしゃいませヤンセン様⋯⋯。お連れの方は初めてお目に掛かりますがどちら様で?」


 と、ドアマンが扉越しに問いかける。


「⋯⋯ああ、新しい部下だよ。今日はその歓迎会なんだ」


「そうですか。ご紹介という事ですね⋯⋯。どうぞお入りください」


 重い扉が開き、一同は店内に通された。


 入口から続く廊下は真っ暗だった。一行はヤンセンに案内され左手の下り階段を注意しながら降りていく。


 元々は半地下式のワイン貯蔵庫だったのだろう。階段を降りると煉瓦のアーチで構成された屋内に突如夜の重厚な空気が顔を現した。


 フロアに並ぶテーブル。アーチで仕切られた半個室風のソファ席にビリヤード台。奥のステージからは生演奏が響いている。

 さらに中央は開放感のある吹き抜けになっており、二階席が顔をのぞかせていた。


「流石に本物は雰囲気が違うな⋯⋯」


 サクは思わず呟く。一行はリハーサル通り客の間を通って空いているテーブルに着いた。


 ここからはアイソポスの出番だ。

 徐に眼鏡のブリッジを指先で押し上げたかと思うと能力視の力を発現させ、金色に輝く瞳でゆっくりと店内を見渡していった。


「——どうだ?」


 マルタンが責つく。


「⋯⋯いました。ステージ前の席に二人。燕尾服の男とローブの人物」


「よし、第二フェーズ開始だ」


 と、マルタンは席を立つやズンズンと歩き出す。そのままカウンター前まで辿り着くと令状を頭上に掲げ告知を開始した。


「司法局だ! 王宮の命によりこの店の強制捜査を行う。店内にいる客は全員退出願いたい!」


 ステージの生演奏が中断されざわめきが起こる。既に逃げ始めている客、状況が理解できない客で店内は混沌としていた。


 既にゴーリキは『能力者』二人の前に立ちはだかっている。


「くそ! ヤンセン、てめぇ裏切りやがったな!」


 燕尾服の『能力者』がヤンセン一家を睨みつける。


「へん、それはこっちの台詞だぜ。まさか俺たちの殺害をギルドが受けるなんてよ! それにしてもお前が『能力者』だったとは知らなかったぜ。旦那達、燕尾服の奴が『サギッタ』で隣の気持ち悪ぃのが『アウリガ』だ!」


 サギッタと呼ばれた男はゴーリキが迫って来るや両手を後ろ手に組んだ姿勢で間合いを取る。


「ほら早く店外へ逃げて!」


 アイソポスが周囲の客達を店外へ誘導していると、突如現れたローブの人物——アウリガが妨害する。


「おっとお前の相手は私だよ。見たところ戦闘型の『能力者』じゃないようだね⋯⋯」


 その声は男女どちらともつかない違和感のあるものだった。


「——いつの間に!? お前はスクトゥムが⋯⋯」


「なぜだろうねぇ⋯⋯?」


 アイソポスは脇のホルダーから素早く銃を抜く。両者睨み合ったまま動かない。


「何事だぁ——!?」


 一方、騒ぎを聴いて二階から足音を響かせて大男が降りてきた。黒いシャツの胸元は異常に発達した大胸筋で今にもボタンが弾け飛びそうだ。


「隊長! 奴も能力者です!」


 アイソポスがアウリガに視線を向けたまま報告する。


「——ヤベェぜ旦那! ありゃあ『ノエル』の用心棒アルゴだ。俺ぁ奴が気に食わない『能力者』をぶっ飛ばしてるのを見た事があるぜ⋯⋯」


 流石のヤンセンも後ずさり気味だ。

 二メートルを優に超える巨体のアルゴが腕組みをしてマルタンを見下ろしている。


「ブハァ! お客さん、営業妨害は止めてくれねぇかな⋯⋯」


「大人しく縄につく気はないということか⋯⋯」


 マルタンは静かに銃を抜いた。

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