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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第十五話 『リハーサル』

 決起会終了後、講堂に集合した捜査員はそれぞれの配置を確認すると足早に各隊へ散らばっていった。


 サクとアガーテも講堂を後にしようと動き出す。


「サクさん!」


 すると、不意に背後から声を掛けられる。

 振り返ると、一人の男性が手を差し出していた。スラリとした体型に知的な雰囲気。丸いレンズの一山式眼鏡が良く似合っている。


「貴方の事はマキネンから聞いています。どうやら体術系の能力に優れているようですね。我々にとって非常に心強いですよ! アガーテさんもよろしくお願いしますね」


「えっと、あなたは⋯⋯」


「これは失礼しました。私は『能力捜査官』のアイソポスです。任務中は『ピスケス』のコードームでお呼びください」


「コードネームですか⋯⋯?」


「ええ。仕事柄、本名は秘匿にして活動しているんです。能力の事は家族にすら秘密していますから」


 そこへもう一人男性が近づいてくる。


「先輩! 一緒にお二人に声を掛けようって言ったじゃないっスか!」


「悪い。忘れてたわ」


「酷いっスよ⋯⋯。あ、自分も『能力捜査官』でゴーリキといいます。コードネームは『スクトゥム』です。いやぁ『来訪者』様とご一緒できるなんて夢にも思いませんでしたよ!」


 と、サクとアガーテそれぞれの両手を掴んで握手する。

 アイソポスとは対照的に短髪大柄でマッチョ体型。どうやら分かり易い体育会系なノリの男性らしい。


「あれ? トレーシー先輩が見当たらないっスね」


 ゴーリキはサクの両手を掴んだまま辺りをキョロキョロと見回している。


「あいつは俺たち潜入隊とは別の持ち場だからな⋯⋯。サクさん、決起会で出しゃばってた女性が居たと思うんですが、彼女がもう一人の『能力捜査官』なんです。彼女についてはまた今度という事で、そろそろ模擬家屋に向かいましょう」



 模擬家屋は周囲を塀で囲まれた敷地内の一角に建てられていた。家屋とはいってもごく簡易的で、組み上げた骨組みに布を張っただけの物に過ぎない。その正面に続々と各隊が集合していた。


「やあ、来たね」


 マルタンはサクを見付けると気さくに声を掛け握手を求める。


「サクさん、改めまして。責任者のマルタンだ。決起会でも述べたが、『来訪者』である貴方の協力を得られる事は我々にとって大きな武器になるだろう。よろしく頼むよ」


「どうも⋯⋯」


 サク達との挨拶を終えるとマルタンは周囲を一瞥し、


「全隊揃ったようだな」


 と、そのまま正面に歩み出て集合した一団と正対した。


「さて、これはヤンセン一家の情報を元に作った『仮想ノエル』だ。これからここで今夜の作戦のリハーサルを行う」


 その言葉を合図に、マルタンの背後に数十人の職員が整然と並んだ。不思議なことに彼ら全員がマントを羽織っており、さらにそれらは赤、青、黄の三色に色分けされているようだ。配分的には青が大半を占め、黄が一割、赤に至っては最前列に一名見えるだけだ。


「彼らにはそれぞれ役を演じてもらう。羽織っているマントの色がその配役を表しており、青が『客』、黄が『店員』、そして赤が『能力者』だ。各隊は対象に合わせた適切な対処をしてもらいたい」


「なかなか本格的だね」


「そうですね!」


 サクの隣のアガーテも興味津々だ。


「そして本作戦は大きく四つのフェーズに分けている。第一が『潜入』、第二が『仕分け』、第三が『確保』、第四が『捜索』だ」


 マルタンはそこまで言うと遠巻きに様子を伺っていたヤンセン一家を手招きで呼び寄せた。


「それでは早速、第一フェーズから訓練を始めよう。潜入隊はこちらへ! 包囲隊も持ち場で待機だ」


 サク、アイソポス、ゴーリキはマルタンの待つ『仮想ノエル』の入口前に集合する。マント姿の役者達も既に屋内に入って配置に着いたようだ。


「まず、ヤンセン一家が店の入口を合言葉で開ける。我々捜査員はいわゆる『一見さん』だが上手く取り繕ってくれ」


「無茶苦茶だぜ、隊長さん」


 ヤンセンのツッコミにマルタンは全く動じる様子もない。そのまま階段を降りて一階フロアに出るとさらに説明を続ける。


「無事潜入できたら自然を装ってテーブルに着こう。この間にピスケスは『能力者』をサーチだ」


「了解」


「アイソポス、あなたの能力はいったい⋯⋯?」


「『ピスケス』ですよ、サクさん。そう、私は能力者の力の発現の察知と視認が出来るんです。今回は力を使うまでもなく誰が能力者か一目瞭然ですが⋯⋯」


 と、赤マントの男性に視線を向けながらサクの問いに答える。


「サーチが完了したら、私が令状を掲げ強制捜査の告知をする。ここからが第二フェーズだ!」


 マルタンがそう言った途端、


「キャー!」


 と、青いマントの客達が逃げ惑う。


「現場は恐らくこの様に混乱するだろう。スクトゥムは速やかに『能力者』を足止めだ。私とピスケスは客と店員を店外へ誘導する。能力者に暴れられて被害者を出さんようにな」

 

 ゴーリキは赤マントの男性を両手を広げてブロックしている。


「ゴーリキの能力は念力系かな?」


「自分の能力はシールドっス。それと任務中は『スクトゥム』って呼んでくだい!」


 サクの質問に答えるや、その両手に青く輝く円形のシールドを一瞬だけ具現化して見せた。


「ここからが第三フェーズだ。店外へ逃げた者達は包囲隊が一人残らず確保する。テレスコピウムが各隊に指示を送れ!


「イエッサー!」


 女性の声と共に『仮想ノエル』の外では包囲隊が慌しく動き始める。


「店内の能力者は潜入隊が確保だ。抵抗するようなら無力化して構わん!」


 と、いっても赤マントの『能力者』は本物ではない。それでも果敢に逃走を試みるが結局ゴーリキに捕まってしまった。


「確保が完了したら第四フェーズに速やかに移行する。『ノエル』内の捜索と証拠品の押収だ。手の空いている者全員で実施するぞ」


 サクはこれまでの説明で、自身の任務について説明がない事に気が付いた。


「マルタンさん、それで俺は何をしたらいいんでしょう?」


「お気付きの様に、サクさんには特定の任務を与えていない。その代わり状況に応じて自由に動く事を許可しよう。差し詰め『遊撃者』といったところかな」


「そう、言われてもな。なかなか難しいミッションだぞ⋯⋯これは」


 サクは自分に重くのしかかるプレッシャーを感じずにはいられない。


 こうして数度のリハーサルを繰り返し、練度を上げた一団は本番を迎えるのだった。

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