プロローグ 『来訪者』
気が付くと暗闇の中だった。
それから体一つで落下していると理解するまでに時間はいらなかった。
「⋯⋯うおぉぉぉ落ちる——!」
つい先刻まで無意識状態だった体はクルクルと縦回転を続けまさにアウトオブコントロール。
姿勢制御もままならず雲に突っ込んでいく。
「ふおぉぉぉっ!」
慌てて四肢を広げると、たちまち正面に強烈な向い風を受け寝巻きのパーカーとスウェットパンツがバタバタとはためいた。
そのまま俯せ状態で風に乗り、空気抵抗と重力加速度が釣り合ってようやく姿勢が安定したところで雲を突き抜ける。
「ふぅぅぅ⋯⋯」
安堵して頭上を見上げると巨大な満月が輝いていた。思わずその大きさに息を呑む。
——『来訪者』よ⋯⋯お前は何者だ?
心の内を見透かすような金色の瞳に見つめられ、そう問われたような気がした。
「俺は⋯⋯朔だ!」
その瞬間、胸の奥から込み上げ始めた熱量が我慢できないほどに膨れ上がっていく。
——時間が⋯⋯止まる。
そして意識を失った——。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「⋯⋯あ、流れ星!」
大河を遡上する船上で一組の旅の親子が夜空を眺めていた。
「箒星煌めく夜『来訪者』現るだな⋯⋯」
「え? 何ですかお義父さん」
「古い言い伝えさ⋯⋯。さあ、中に入ろう。ここは冷える」
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