思い出の唐揚げおにぎり
五年前。
ディマガバリ大陸の北西に位置するアルパラン。
天然の要塞と呼ばれる岩山と薔薇色のレンガに囲まれた国。その国に属する騎士団に勤める少年ディリオルは、新人の仕事に相応しく今日も正門の警備にあたっていた。
「腹、減ったな……」
腕を動かすとカチャリと鳴る甲冑の上から腹を擦ると、隣にいた歳上の同僚から早くねえ?と笑いが飛ぶ。
まだ昼休憩には早い時間だが、まだまだ食べ盛りの若者と呼ばれる十五歳のディリオルは朝御飯を食べて四の鐘が鳴れば、充分腹の虫が騒ぐ時間だ。
休憩は後鐘一つ分だが、先に食べるのは当然上官達からだ。ディリオルの昼食は鐘二つ鳴ってからでなければ、ありつけないかもしれない。
何かしていれば気が紛れるだろうが、正門の警備の仕事は主に国から出入りする人間の検問だけ。手続きのやり取りは主に上官たちが行うので、ディリオルが出来ることは姿勢を崩さずに人々を見守るだけだ。
警備の仕事が退屈なのは平和な証拠だ。
穏やかな春の気温に、爽やかに晴れ渡る青空。のんびりピクニックか、狩りに行くには持ってこいの日和。
治まらない腹ペコの虫を抱えてディリオルがやや現実逃避していると、視界の端から二等馬車が真っ直ぐ向かって来るのが見えた。
馬車はピタリと正門の手前で止まると、行者と思わしき男が上官に書簡を差し出す。
「メルトーナから参りました」
男がそう告げると上官はハッとした様子でそれを受けとり、同僚に使いを言い渡す。先に使いを走らせると言うことは、この行者風の年若い男はそこそこの上役の客人らしい。
メルトーナは昔からアルパランと交流はあるが、そこまで友好国と言うわけではない。ただ、彼の国はここ数十年かなり発展を見せている国だ。アルパランの貴族達が個人的に交流を持っても何らおかしくはない。
「お客様を奥の部屋へ案内してくれ、手続きの書類の用意をする」
「はっ!」
室内で待ってもらうなんて、見た目はどう見ても行者にしか見えないが、相手はかなりの上客らしい。
緊迫した様子で命じた上官に応じて、ディリオルが男を奥の応接室へ案内しようとすると、彼は先に馬車を寄せたいと申し出た。
「それと、先に娘を中で待たせてもらって良いかな?」
「かしこまりました」
「ミミ、先に降りなさい」
「はーい」
幼い声の後に、父親に呼ばれて荷台から降りてきたのは、明るい花色の上品なワンピースを着たまだ十歳ぐらいの幼い少女だった。
金輝く季節のような明るくふんわりとした髪。大きなジェードグリーンの瞳。肌の色も青の日にみられるスールのように艶やかで美しい少女の姿に、ディリオルは目を見開く。
「直ぐに向かうから、このお兄さんの言うことを聞くんだよ」
「はーい」
可愛らしい声を弾ませて、少女は小さな荷物を手に馬車から降りる。父親の言いつけはしっかり守るつもりなのか、走り出したりはせずに、ただ好奇心を覗かせて瞳をキラキラと輝かせながら辺りを見渡しつつディリオルの後についてきた。
他国から護衛もなく、まして親子二人で貴族に面会。いや、これ程可愛らしい少女と男が親子なのかも怪しい。
滅多にない珍客にディリオルはムクムクと沸き上がる好奇心をグッと堪えて圧し殺す。一昔前と違い、貴族による理不尽な極刑制度はなくなったとは言え、権力がないわけではない。
下手に口を出すのは得策ではない事を、年若いディリオルとてよく理解していた。
「お嬢様。どうぞこちらへ」
ディリオルが応接室のドアの前で手招くと、少女は円らな瞳をパチパチと瞬かせ、クスクスと小さな笑みを見せながら歩み寄ってきた。何がそんなに面白かったのか分からないが、騒ぎもせず大人しく後をついてくる子供の様子にホッと安堵する。
お偉い様の面会に連れていくだけあって、しつけはキチンとされているようだ。時折検問を通る下町生まれの子供達とは、振る舞いが全然違う。
「こちらでお待ちください」
案内した部屋は、やんごとなき方々を一時的にお連れする為のものなので、広さこそないながらも調度品や来客用のソファ、テーブルなどがある。
二つあるソファの内、一つに少女が座りディリオルは扉の側に控える。少女は手にしていた荷物を自身の隣に置くと辺りをキョロキョロと物珍しく見渡す。
「あの、ご挨拶をしても良いですか?」
「挨拶?」
不意に、少女と目が合ったディリオルは可愛らしい声で訪ねられ、首を傾げてしまう。
「まだ、こちらの挨拶に慣れていなくて。練習させてもらっても良いですか?」
行儀良く座る少女の申し出にやや困る。一応、仕事中なので子供の相手をしても良いのか分からない。ただ、小さくとも客人を無視する事も出来ない。
「一度だけで良いのです」
お願いと大きな瞳を輝かせてねだる少女は、ディリオルを大いに困らせた。
今まで見てきた貴族の我儘小僧達とは違う。可愛くねだることに慣れた淑女のような風格を感じ、そして何より可愛らしい少女のお願いを断るのにチクチクと胸が痛んだ。
「本当に一度だけで良いのですか?」
「はい。ありがとうございます」
諦めて訊ねると、少女は眩いばかりに破顔し早速と言わんばかりにソファから降りると、ディリオルの前に立ち両手を胸元で握り締めた。
「緑歌う良き日。メルトーナより参りました、ミオンミシュリーと申します。親しきと者はミミと呼びます。どうぞお見知り置き下さいませ」
スラスラと唱えてられた挨拶は、淀みなどなく完璧であった。特に季節を表す色言葉は、子供にはやや分かりにくい。
春は緑の芽吹きに祝福の歌を歌い、夏は灼熱の太陽と共に踊る。秋は実る作物と役割を終えた木々が命を輝かせ、冬は雪に包まれ空と大地が眠る。
一度覚えれば簡単だが、覚えるまでは混乱しやすい。彼女ぐらいの子供はキチンと本人が覚える気持ちがなければ、到底覚えきれないだろう。
「緑歌う良き日。お会い出来光栄に存じます。アルパラン騎兵隊所属ディリオル・カーンと申します。ディリとお呼び下さいミミ様」
幼いお姫様の挨拶に、こちらも返礼をせねばなるまいと、ディリオルは、同じく胸元で片手を握り締め、ミミと目線が合うように床に膝を付ける。
甲冑の胸元に輝くアルパランの騎士の証である一本の剣の形をした鉱石。鎧と同じ灰色のそれは、ディリオルが魔力を込めると僅かに赤く煌めき出した。
「うわぁ……」
挨拶が初めてならば返礼を受けるのも初めてなのだろう。
鉱石から淡い赤がぷくっと玉のように溢れて来ると、その泡はゆっくりとミミの目の前にフヨフヨと漂いながら近付き、シュワッと音を立てて消え去る。
「ディリ様。ありがとうございます!」
一般的な返礼ではあるが、ミミは感激と言わんばかりに瞳を煌々とさせて、それでも直ぐに騒いではいけないと思い出したのか、大きく開けた口を両手で閉じてニッコリと笑った。
――――か、可愛い。
幼い頃に周りにいた女の子達や、今でも町にいるような手のかかる弟分や妹分とは明らかに違う。素直で礼儀正しく尚且つ子供らしい可愛らしさを持つミミに、ディリオルは子供は可愛いものなんだなと、この時初めて思ったのだった。
「失礼致します」
「あっ、パパ!」
軽く部屋のドアが叩かれて、同僚の声が聞こえたかと思うと、部屋の扉が開かれてミミに父親と呼ばれた人物と同僚が部屋に入ってくる。するとミミは、パッと父親へと歩み寄り手続きは終わったかと問い掛ける。
「済まない少し手続きに時間がかかりそうだよ。もう少し待てるか?」
「うん。大丈夫よ、あっ、ねえ。なら、今朝作ったの、食べても良い?」
娘の頭を撫でながら眉を下げる父親。しかしミミは、小さな子供とは言え大変聞き分けがよく、大人しく待っている代わりに何かを父親に要求した。
「あぁ、ここは飲食禁止では?」
「問題ございません。ただ、お出し出来るものが……」
「持ってきてるから、大丈夫です!」
門の待機部屋に客人用のお茶などがないわけではないが、美食の国の使者の口に合うほどの高級品は流石にない。同僚が眉を下げる中でミミは元気良く、持参したらしいものを持ってきて食べると話して、同僚は少しホッと息を吐いた。どこの誰の客人かは知らないが、下手なものを出して不満を買う訳にはいかないからだ。
「じゃあ、もう少しいい子で待ってるんだよ」
「はーい!」
再び父親を見送るとミミはソファに腰掛けて、テーブルの上に先程持ち込んでいた彼女の両手よりも大きな包みを置く。
「ふふっ」
布の中から出てきたのは、ディリオルが見たことのない花のように赤い艶やかな四角い箱と、剣のように鈍く銀色に光る細長い筒。
あれは何だと、客人の持ち物だと言うのにディリオルは自身の持ち場からミミの手元を思わず凝視した。
ミミの小さな手で箱の蓋が開かれると、中には白い固まりが幾つかと黄色い何かが幾つか見える。パンとは違う見た目の食べ物は、メルトーナで主食になっていると言うお米だろうか。
ミミの片手より一回りは大きな食べ物を、彼女はナイフやフォークを使うことなく直接その手でわしづかむ。
平民ならまだしも、貴族に近しい身分はありそうな女の子のその行動に思わずディリオルが目を見開けば、突然ミミはクルリとこちらを振り向いた。
「お腹、空いてるんですか?」
「あっ、いや。済まない。気にせず食べてくれ」
見詰めていたのが鬱陶しかったのだろうか。訊ねられて咄嗟に謝罪を紡げば、ぐうううと自身の腹からうなりのような音が響き、少女はポカンとディリオルを見上げる。
「お腹空いてるんですね。私のおにぎり一つ食べますか?」
「おにぎり?」
「あれ、見たことのないですか? メルトーナならどこでもあるのに」
やはりメルトーナ特有の食べ物らしい。小首を傾げてミミが差し出すおにぎりと言う食べ物は、白く丸い形をしている。
「いや、でも。ミミ様の分が……」
「ミミで良いですよ。大丈夫です。大きいの作ったので、それにさっきのご挨拶の練習のお礼です。この後本番があるので、その前に一度練習が出来て良かったです」
未知の食べ物に若干の興味はそそられるが、ディリオルは任務中であり休み時間ではない。おまけにいくらお腹が空いているとは言え、幼い子供から食料を恵んで貰うのは、大人としてやや抵抗があった。
何と言って断ろうかと悩んでいる間も、ミミはにこやかに可愛らしい笑みを浮かべておにぎりを差し出し続ける。
ぐううう、と再び腹が喧しい音を立てて、ディリオルは思わず顔を赤らめ腹に手を当てた。
「お腹の時計は正直ですよ。もし食べていて、上官に怒られたら、私の我が儘に付き合ったと言って下さい。罰則はされないですから、一緒に食べましょう!」
子供にそこまで言われてしまえば、ディリオルとて断るとは出来ない。
何よりも、今の口ぶりは明らかにミミがディリオルの上官にも口を出せる身分であると言う裏付けでもあった。断り続けるのは逆に不敬に当たると考えて、ディリオルはミミの側に歩み寄ると、彼女はソファに座りながら移動し、ディリオルにそのスペースを明け渡した。
座れと言うことだと理解し、ディリオルは恐れ多くもミミの隣に腰掛けた。
「失礼致します」
「はい、どうぞ!」
先程と同じく手掴みで渡されたそれを受け取る。手渡されたそれをよくよく見ると、おにぎりは薄い膜のようなものに包まれており、触った感触は少しツルツルとした。
「あっ、その外側のラップは食べられないので、剥がして下さい」
「ラップ?」
「透明な布みたいなやつ。こうやって、こうすると、手が汚れないで食べれますよ!」
透明な膜のどこか分からないが、一部分をミミが剥がしていくと、膜は上だけ剥がれ、手に持つところだけが残る。
「凄いな。これならカトラリーがなくても食べられる」
「それがおにぎりですよ!」
見たことはないが、かなり上質な布の類いなのだろうとディリオルは理解した。
得意気に笑うミミは、自分よりもディリオルに、どうぞどうぞと先を譲り、遠慮していたディリオルも見たことのない食べ物への好奇心と空腹に堪えかね、彼女の好意に甘える事にした。
「真ん中に具が入っているので、大きくガブッといくと具まで届きますよ!」
「ガブッと?」
「ガブッと!」
ミミが身ぶり手振りをつけて、口を大きく開けておにぎりを食べる動作をする。可愛らしいその仕草に首を傾げつつ、ディリオルはミミの言葉に倣ってガブッと、大口を開けておにぎりの半分を口の中に入れて、それを頬張った。
「んっ!」
初めて口にした白い何かは、一瞬無味に感じたが仄かにパンとは異なる甘味を感じた。そして、その後にディリオルが感じたのは香しい香りと味わい。
口の中に広がる香ばしい香り、それと共に広がるのは甘じょっぱいタレ。濃すぎるぐらい濃厚なそれに一瞬ディリオルは驚くものの、そのすぐ後に来るぷりぷりとした歯応え抜群の肉の歯ごたえと旨味、ジュワリと口の中に溢れてくる肉汁で、直ぐ様それは調和される。
甘く、しょっぱく、風味豊かな味付けによって、ほんのり甘味を感じる程度の白い食材が輝きを放つ。
手のひらサイズの小さな料理は、パンや串焼きのようにシンプルな作りかと思っていたが、それは大きな間違いだった。
淡泊ながらもほんのり甘味のあるお米が、肉とタレの濃い味わいを和らげて、二重、三重の味わいを引き立ている。
「う、うまい!」
「やったぁ! 本当ですか?」
私が作ったんですと誇らしげに今日一番の笑みを見せるミミ。自分よりも幼い少女がこれ程の料理を作れるとは、流石メルトーナの人間と言うべきか、彼女が凄いと言うべきか、ディリオルには分からなかった。
「あぁ、この中に入っているのは肉ですか? 柔らかいが、少しザクザクもしていて美味い!」
「当たりです! 唐揚げって言うんですよ!一口サイズに切ったお肉をミミ特性ダレで揉んで漬け込んで数刻寝かせて、衣の元を付けて、油でカラッと揚げたら後に、追加のタレで和えたものです!」
料理に疎いディリオルには、ミミの料理工程に関する説明はさっぱり分からないが、この白い米にお肉を入れただけの料理が、見た目以上に手が込んでいることだけは分かった。
「うん。ウマイウマイ!」
お腹が空いていたのもあって、ディリオルは掌にあったおにぎりはものの三口程で食べ終えてしまった。
「マヨネーズ付けるともっと美味しいですよ!」
マヨネーズと、未知の言葉に首を傾げる間も無く、ミミはディリオルにもう一つおにぎりを差し出す。
「いや、流石に。そこまで頂くのは……」
「お腹が空いてたら、お仕事大変ですよ!」
流石に二つも貰うのは忍びないと遠慮すれば、ミミは気にせずディリオルの腕の中におにぎりを手渡して来た。
「ミミ様の分やお父様の分が無くなってしまうのでは?」
「パパの分はまだ別にあります。これは私の試作品なので」
「試作品?」
「こう見えて、料理人なんですよ!」
少し得意気にえへんと胸を張ったミミ。
小さな胸をグッと前に突き出して、得意げに笑う姿の何と可愛らしい事か。
思わず、ディリオルが見惚れていれば、ミミはくるくる表情を変えて今度は真剣な表情をこちらに向けた。
「料理は誰かに食べて貰ってこそ、美味しく作れるようになるって、おばあちゃんも言ってましたから。ディリ様は私が家族以外で初めて試作品を食べてくれた貴重な方です!」
「そ、そうなのか?」
聞けば家族以外の人に食べさせる時は、父親の基準に達したものしか出してはいけないらしく、試作品は自分の家族にしか食べて貰えないそうだ。
「色々工夫してるんですけど、味が段々家族の好みだけになっちゃって、他の人の意見も聞きたいなって、ずっと思ってたんです」
そんな厳しそうな父親には見えなかったが、もしかしたら彼女の家は料理人を輩出している家柄なのかもしれない。
それならば、幼いミミがこんな手の込んだ料理が出来るのも可笑しくはないし、父親が出向として他国に来るのも仕事関係ではありえなくもない。
貴重な意見が貰えるタイミングだと、彼女が喜んでいるならば、遠慮しすぎるのもよくないと理解し、ディリオルは二つ目のおにぎりのラップを捲る。
「では、遠慮なく」
「はいどうぞ!」
二つ目のおにぎりに、ディリオルがガブリとかぶりつけば、味の違いが直ぐに分かった。
先程と同じ淡泊な外側に囲まれていたのは、甘じょっぱいタレかと思いきや、コクのある濃厚でクリーミーな味にピリッと辛さの効いたタレ。
タレのベースは先程と同じなのだろうが、辛味の効いた何かとそれを包み込むまろやかなソースが、先程のおにぎりとは全く異なる表情を見せて、お肉の油の甘みをより引き立てている。
一つ目のおにぎりよりもどっしりとした味わいが気に入り、ディリオルはまたしてもものの三口でおにぎりを平らげてしまった。
「美味い! これ、本当に美味いですよミミ様。とても試作品とは思えません! こんなに小さな料理なのに手間暇のかかったものを自分は食べたことありません。たった一つの中に味が凝縮されて、他におかずもいりませんし、ボリュームもあって、本当に美味しいです。ミミ様はきっと、メルトーナでも有名な料理人になれますね!」
夢中になって、味を忘れない内に感想を述べねばと、ディリオルはやや早口になってしまいながらも熱く語れば、ミミは嬉しそうにふにゃりと笑みを浮かべて、ディリオルの口元にハンカチを当てた。
「えっ!?」
「ディリ様。お口にマヨネーズがついています」
優しく口元についたソースを拭き取られ、ディリオルの顔に熱が走る。
「す、すみません!」
「いえ、こちらこそ貴重なご意見ありがとうございます。まだまだ半人前の身ですが、そのように言って頂き嬉しいです」
「あっ、いえ、その。本当に美味しいです。また食べたいと思うぐらい……」
しどろもどろになりながら、ディリオルはミミに胸の内を語った。
二つも貰っておきながら、また食べたいと言うのも厚かましいと思ったが、ミミはディリオルが食べたいと語ると嬉しそうにニッコリと笑みを深めて、小指を立てて片手を差し出してきた。
「では、また私の料理を食べてくれますか? もっともっと練習して、いつかメルトーナで一番の料理人になってみせます」
約束ごとを結ぶ際の契りだと言うその小指に、ディリオルも小指を絡める。
細く、小さなそれは、ディリオルの指と比べれば簡単に折れてしまいそうで、この小さな手で、先程己が感動した料理が生み出されたのだと考えると、ディリオルは益々胸の奥が熱くなった。