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3話「狼」

3話「狼」


巨大バッタとのお見合いの余韻に浸る間もなく、夜が始まろうとしていた。

「やばいッ!やばいッて!」

特に用意のない間々森で夜を迎える事の危険性は素人でも分かる。

暗くなる前に寝床を探そうという最初のプランは巨大バッタとの遭遇によって空しい時間の浪費となってしまった。

加えてあのような生き物がいた以上当然、他にもいる可能性が高いと考えざる終えないだろう。

そこに暗闇への原始的恐怖までもが加わってくるのだ。

とはいえ、混乱してばかりもいられない。先のような化け物がまだいるかも知れないのだ。

幸い先のは草食性らしく好戦的でもなかったが次に合うのもそうだと無条件で信じられるほど己の頭はお花畑ではなかった。

不安のせいで無意識に手が伸びたのだろうポケットからタバコを取り出し、そこで気付く。

慌ててポケットの中を探り目的の物を見つける。

あったッ!

そこにはタバコを吸うためのマッチが一箱入っていた。

文明の利器の在り難さをこの時ほど実感した事はないだろう。

数を数えてみると40本はある。多いのか少ないのか判断に困るが節約するに越した事はないだろう。補充のあてなどないのだから。

とりあえず木の枝を何本か折って小さめの松明をつくり着火。

なかなかうまく火が燃え移らないので上着の袖口を少し千切り、それに火をつける。

うまく行った事に安堵しながら手に火の温かさを感じる。

「これは火がないと眠るどころの話じゃないな」

急激に感じ始めた肌寒さを意識しながらつぶやく。

「しかし。これからどうしよう。ここで寝るか?」

それとも、森の中へ分け入ってよりましな寝床を探した方が良いだろうか。

「木の虚なんか温かそうだな」

ただ、火をつけたまま寝た場合不注意で森がやけてしまう可能性がありそうだ。

どうしたら良いだろうか。

待っていて救助が来るならともかく、そんな可能性は万に一つもない以上動いた方が良いのだろうか。

その時だったソレと目が合ったのは。

目の前の暗闇に赤い二つの目が浮かんでいる。

一瞬幻覚かと思うがすぐにそれが何か理解した。闇に隠れてその身体に気付かなかっただけでそれは巨大なトカゲのような何かだった。

日中であればまだじっとしていられたかもしれない。しかし夜の闇がその効果を極限まで引き上げていた。

気付いた時には俺は川の向こう岸へと駆け抜け、更に森の奥へ奥へと無我夢中で突き進んでいた。

過呼吸で止まりそうになる呼吸を無理矢理整えながら走る。

すでに思考は原始的な恐怖で塗りつぶされていた。


                       ●


「はぁはぁはぁはぁはぁ」

どのくらいの時間が立っただろうか。さすがに長時間の全力疾走による腹や喉の痛みによって正気を取り戻した俺は息を整えながら周囲を見回す。

目の前にはぽっかり大きな洞穴が口を開けていた。

「洞窟か」

消え掛けていた松明に急いでマッチを擦って火を足し、洞窟の内部を伺う。

「特に何もないな」

少し安堵し、次いでここを寝床にするべきか逡巡する。

「さすがに疲れた。もう今日は散々な目にあったんだし大丈夫だろ」

さすがに人間というものは極度の緊張状態をそう長く維持していられるものではない。

そう楽観的に捉え、洞窟の奥に入ってゆく。

「んっ?」

洞窟の奥まった部分に干し草がしいてあり、そこに何か小さなモノがいた。

一瞬ビクッとするが、その生き物の小ささにいざとなれば松明で焼き殺せると安心し、慎重に近付く。

それは仔狼だった。

「・・・あ」

瞬間脳が高速回転し始めるがそれはあまりにも遅すぎた。

アオオオオオッン

仔狼が悲鳴を上げる。

そして、

アオオオオッオオオオオオオオオオオオッンンンンン!!

それに答えて暗闇の森の中から物凄い吠え声が鳴り響いた。

ザッザッと高速で草むらを掻き分けながら何かが凄い勢いで洞窟に向かってくる。

沸湯しそうになる脳みそを必死で押さえながらただ考える。

迎え打った方が良いだろうか、それとも今すぐ逃げ出せば間に合うか?

だが沸湯しすぎて逆に冷え切った脳髄は冷徹に判断を下す。

どちらも無理だ。もう遅すぎる。

諦めが思考を支配する。

そうしている間に草むらからソレが飛び出てきた。

アオオオオッオオオオオオオオオッオオオオオオオオオッンンンンンンンンンンン!!

そして、眼前に巨大な牙が迫り、

「うおおおおおおおおッおおおおおおおおおッ!!」

捨て鉢な思考に支配された俺は衝動的に松明ごと狼に突貫しようとするが、緊張と手汗のせいで松明を取り落とし、盛大にずっこけてしまった。

言葉(文章)にして見るととてつもなくふざけた、阿呆らしい光景だが、当事者である俺にとっては死活問題であった。

「うわああああああああッあああああああああああッ!」

俺の最後の記憶は狼の馬鹿でかい顎に飲み込まれていく自分の姿だった。

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