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2話「森」

2話「森」


輝く魔法陣に吸い込まれ意識を失った俺は虫の声で目を覚ました。

あたり一面見渡す限り木、木、木である。

「まあ、考えるまでもなく森だな」

意味のない事をつぶやきながら最低限の護身具に何か武器になりそうな物を探し始める。

やっとの事で木の棒を見つけ、周囲の探索のために歩き始める。

「まずは何はともかく寝床探しだな」

助けを求めるために人を探すという選択もあるが現地人が友好的なのかどうか分からない現状優先度は低い。

というか異世界なのだからもしや人間という種族自体が存在しないかもしれない。

「まぁ、なるようにしかならんだろ」

そう無気力に考えながらとにもかくにも歩き始める。

「しかし冷静に考えてみるとヤバくないかコレ?コンパスも地図もなしで、これでもし原生生物が凶暴だったりしたら・・・」

一度死んだ?身だとしても獣に貪り食われるのは御免被りたい。

「くそっ!、転生ったってすぐに死んじまったら意味ないぞ」

手で前方の草や木の枝を押しのけながらとにかく前進してゆく。

とにかく今はぐだぐだ考えるよりも足を動かしていた方が気が落ち着く。

歩いていれば、とにかく何処かには出るだろう。

と、そんな楽観的な思考が幸いしたのか。思ったよりも早く、その何処かに出た。


                       ●


「・・・これは、川か?」

木々の背が高かったせいで、そこに出るまで気がつかなかったのだろうか。

それにしては、川水の流れる音さえ聞こえなかったのは妙な気がする。

「まぁ、虫の声がうるさかったし。そういう事もあるか」

何となく納得しつつ、水を見た途端に渇きだした喉を潤すために川縁に近付く。

透き通った水面にいつも通りの自分の顔が映る。

「どうせ転生させてくれるなら、イケメンにしてくれれば良かったのにな」

どうでも良い事をつぶやきながら水を掬って飲み干す。

喉を通り抜け腹へと染み渡る爽快感に軽い絶頂感すら覚える。

自分では気付かなかったが、思ったより疲れていたのかも知れない。

それにしても、これからどうするか。今日中に適当な寝床なり人里なりに辿り付けなかった場合、森の中で野宿する事になる。

布団も寝袋もない以上、必然的に地面に雑魚寝という事になるだろう等と考えながら川縁と木々の間どちらが安全だろうと考える。

考えて野宿の素人にそんな事が分かる訳がないと諦める。

「とにかく川沿いに下ってみるか」

どのような世界であれ生物が棲んでいるのであれば飲料水は必須である。

よって当て所なく森をさまようよりは川沿いに下った方が精神安定上に大変良い。

そして何故上るのではなく下るのかというと、川の上流は山か谷である場合が多いからだ。

山岳民族や谷に住居がある等という可能性もあるが、自分的には町や村は下流にある物というイメージが強くあったからである。

その時である目の前のソレに気が付いたのは。

体色が緑色であることが保護色になっていたのであろう。気が付いた後では今まで気が付かなかった事が可笑しいくらいだが現実としてソレは其処にあった。

バッタである。

だが、ただのバッタではない。人間大の大きさのバッタだ。

唐突な現実感の喪失にヒステリックな笑い声を上げそうになるが堪える。熊の例もあるように大型の動物ほど以外に臆病なのだ。

その場合ここで大声を出して驚かせた方が不味い事になる可能性が高い。

それによく見てみればソレは目の前の草を食べているようである。

草を食べている=草食であるという結論は安易にすぎるが、目の前で動物の屍骸を食べていた場合と比較すればまだしも希望的観測が抱ける余地がある。

ただし、仮に草食だとしても安心は出来ない。どんな動物であれ危険を感じれば何らかの行動に出る恐れがあるからだ。それが「逃げる」という行為であれば良いが、そこまで楽観視しない方が良いだろう。

ギョロリと目玉が動く。草を咀嚼しながらも決してこちらから目をそらす事はしない。

たぶんソレなりの警戒行動なのだろう。

警戒されているという事は、逃げてくれるかもしれないという事である。

しかし、こちらから動くのは不味いだろうか。

大声を上げるのは論外として、少しずつ後ろに下がるだけなら大丈夫だろうか?

いやッ!いけないッ!

相手がどのような対応に出るか分からない以上とにかく相手が何らかのアクションを示すまではじっとしているべきだ。

幸い相手はそう好戦的ではないらしく、すぐにこちらに襲い掛かってくる様子はない。

ならば少しの間睨み合っていても問題はないだろう。


                       ●


大変に長かったような時間が経過した後ソレはたぶん、脅威にはなりえないと判断したのだろう。

食物である草の消化を終えるとぴょんぴょんと跳ねながら森の中へ返って行った。

その滑稽な姿に変な笑い声が出そうになるが慎重を期して押さえる。

安堵のために失禁しそうになるが、慌ててジッパーを降ろし木の根元に放尿する。

着替えがない現状で服を濡らしてしまうという事の危険性を瞬間的に自覚したからだ。

生物というものは危険にでくわした時にこそ最大限まで知能が引きあがるのではないか等と考えながら放尿欲求を満たす。

出すものを出し切り、一息吐いたところで自身の視覚が周囲の認識を強制した。

空が暗くなりかけている。

夜が始まろうとしていていたのだ。







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