1話「プロローグ」
1章「始まり」
そこは静謐な空間だった。
純白の聖堂のような場所に玉座があり、そこに一人の少女が座っている。
「君は死んでしまったんだけど、僕の好意でやり直してあげようと思ってね」
街角で会った奴にこんな事を言われたら頭がおかしいんじゃないかと普通思うだろう。
だが、その場が醸し出す雰囲気と少女の威圧感が、強制的に脳にこれが現実だと認識させる。
「君は睡眠薬の過剰服薬で死んでしまったんだ。覚えているかい?」
その言葉を聴いた途端に肉体が、死の間際のえずきと嘔吐感を思い出す。
「記憶に障害が残ってしまったかと思ったが、大丈夫そうだね。そうなると僕がつまらないから助かったよ」
言葉に若干の違和感を覚えるが今一番の疑問を問いかける。
「ここは、どこなんだ?」
周囲を見る限りとてもではないが病院とは思えない。
一番近いのは教会の礼拝堂、いや聖堂だろうか。
しかし己の家は代々仏教徒だ。どう考えてもあの親族がクリスチャンだったとは思えない。
大体キリスト教は自殺を禁じているのだから教会に運び込まれるというのもおかしな話だ。
ふと此処が天国なのではないかという馬鹿げた妄想が思い浮かぶが、この場所のこの世でない雰囲気にありえるかもしれないとも思ってしまう。
「俺は死んだのか、死ねなかったのか?」
思わずそう呟いてしまう。
「一つ目の疑問に対しては君の想像通り。まぁ天国のような場所と思ってくれて差し支えないよ」
「二つ目の疑問にも答えよう。YESだ。君はちゃんと死んだよ」
少女がそう呟く。
「じゃあ、今の俺は、俺の状態は何なんだ。ちゃんと体があるぞ!」
そう俺が叫ぶ。
「三つ目の疑問かね。まぁいいこれにも答えよう。今の君は霊体、差し詰め魂だけの状態というところかな」
聞いてみれば確かに今の状態はそうなのかも知れない。
「ちょっと待ってくれ!どうしてそんな・・・、魂だけの状態、か?、になってるんだよ!俺は」
「いやそれは君が死んだからだろう。何を言ってるんだい?」
その言葉に苛立ちを覚えるが、話が進まないのでその感情を無視する。
「分かった。じゃあ俺が死んで魂だけの状態になってると仮定しよう。だったらさっさと地獄なり天国なりに送ってくれよ」
「やっと本題に入れたね。でも君は天国にも地獄にも行く必要がない。面倒は省いてさくっと次の世界に転生させてあげるよ。記憶と体そのままで新しい世界に転生させてあげよう。わぁお徳だね」
少女は薄く笑いながらそう告げる。
「待ってくれ!それってつまりよくわからん異世界に飛ばされてたった一人だけで生きてかなんねぇって事じゃねぇのか!」
貼り付けたような笑顔を浮かべながら少女は手を振る。
それが合図だったかのように俺は、いつの間にか床下に現れていた青い魔法陣に吸い込まれていく。
「それじゃ、良き転生ライフを」
男が魔法陣に消えた後の聖堂で少女が呟く。
「この前のよりは長く楽しませてくれることを願うよ」