表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の悪戯  作者: めけめけ
6/6

ソメイヨシノ

「ねぇ、ねぇ、奥さんにはなんて言ってでてきたの?」

 私は意地悪な気持ちになっていた

 あの人は時々上の空になることがある

 きっと奥さんのことを心配しているのだろう

 だから私は、せめて今だけはあの人を独り占めにしたかった


「いや、別に……、普通に出てきたよ」

 そんなに重たく考えることないと思うんだけどな

 私だってわかっているわ

 こういうことは"いけないこと"だって

 でも、好きになっちゃったんだもん

 仕方がないわ


「ねぇ、チュウして」

 いつまでもこういう関係を続けようとは思わないけど、今は私のことだけ観ていて欲しいな


「こんな人前でなんか、まずいって」

「じゃやさぁ、もう桜も観たし、人がいないところに行こうか」

 急に彼が立ち止まって動こうとしない

 あれ、どうしたのかな?

 怒らせちゃったかな?


 私はあの人にばかり気を取られていて、周りがぜんぜん見えていなかった

 あの人の視線を追う

 川沿いに続く桜並木はずっと先まで続いている

 目の前にある一本の木にあの人の目が釘付けになっている

 そこに一人の女性が立っているのが見えた

 色白ですらっとした美しい女の人がこっちに向かって歩いてくる

 なんだろう

 笑顔なのに目が笑っていない

 私はとっさに身の危険を感じたけど、身がすくんでしまって動けない

 そのくらいの威圧感が私を貫いていた


 私は幼かった頃、姉の大事にしていた人形を外に持ち出して汚してしまったことがある

 あの時と同じだ

 あのとき姉は、私をすごい形相で睨みつけて、私の頬をぶったのだった


「人の物を勝手にとらないで」

 姉はそう言って泣きながら私を突き飛ばした

 あの時も春だったかしら……


 春の悪戯

 見初めた人の肩越しに

 鋭い刃 手にした鬼か

 口惜しいかな

 がくがく震え 身を隠す

 かの人倒れ しゃがみこむ

 逃げる間もなく 激しい痛み

 血に染まりゆく ソメイヨシノか



おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ