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春の悪戯  作者: めけめけ
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夢から覚めた蝶々

 女の感なんていう、簡単な物じゃないの

 何よりわたしの一番はあなたと一緒にいることなの

 何よりわたしの一番はあなたと過ごす時間の質なの

 何よりわたしの一番はそれを永遠に続けることなの


 だからわたしはあなたの一番でなくてもいいの

 あなたにとってどれだけ仕事が大事かを知っている

 あなたにとってカメラのレンズがどれだけ大事か知っている

 あなたにとってわたしが一番ではないことを知っている


 でもね

 それとこれとは違うのよ


 季節は春だというのに

 わたしの心には冷たい雨が降っている

 桜の花がひらひらと、ひらりひらりと舞い落ちる

 川の水面をピンクで染め

 暗い水底を覆い隠す


 春の気まぐれ

 わたしは街に出かけた

 今朝、あなたは帰りが遅くなると言って出かけていった

 そのときわたしが感じた違和感のようなもの

 指先がストッキングに引っかかるそれを

 わたしは許すことができなかった


 "帰りが遅くなる"

 どこかいつもと違っている


 わたしは気の向くまま、春の風に誘われるままに街に出る

 不思議とそうすれば、あなたに会える気がした

 そう

 昔はこうしてぶらりと散歩に出かけたわ

 あなたの後ろについて、わたしはずっと歩いてきた

 あなたの背中を見るだけで、わたしはあなたの気分が分かる

 だってずっと見てきたのだもの


 あなたの後ろ姿には仕事や付き合いで出かけるそれとは違っていたの

 わたしと一緒にでかけるときのようなやさしい背中をしていたわ

 だからそれは勘とか予感とか胸騒ぎとかではなく

 あなたの嘘

 帰りが遅くなる言っておきながら、あなたはそれを楽しみにしているのがわかるの

 わたしほど、あなたの背中を見ている女はいないのよ

 

 あなたの影を追って街を歩く

 電話を受けて慌しく支度をして出て行ったあなた

 あの日、剃り残した髭はどこに消えたのかしら

 それだけは返してもらわないとね


 わたしは髭を剃るには大きめな刃物を懐に忍ばせ

 あなたの影を探して歩く

 その影に潜む

 良くないものを削ぎ落とすために


 春の悪戯

 夢から覚めたアゲハチョウ

 恋しさあまって女心は

 浮世離れに

 ゆらりゆらゆら花びらの

 血に染まり行く暗き想いが

 狂い咲いても夢一途

 思いを遂げて、なお恨めしい 

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