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春の悪戯  作者: めけめけ
1/6

夢見る蝶々

「ちょっとぉー、待ってよー」

 私はあの人の大きな背中に向かって声を掛ける


「もう、歩くの早すぎぃ!」

 あの人は立ち止まり、振り返りながら言う

「あちこち、よそ見をしてるからさぁー、置いていくぞ」


「もう、意地悪」

 彼の腕を掴み、思いっきり身体を寄せて甘えてみる


「よせよ、恥ずかしい」

 あの人はポケットに手を突っ込んだままだ

 私は下から見上げるようにしてあの人の顔を覗く


「いいじゃん、デートなんだから」

 よく見ると彼の顎の下にそり残した髭が2~3本、明後日の方向を向いている


 よぽど慌てて出てきたのね

 いつもはきれいに剃っているのに


 あの人といると、私はHappyにもBlueにもなれる

 逢えるのはうれしい

 でも、離れるのは悲しい


 あの人といると、私は天使にも悪魔にもなれる

 あの人を見守りたい

 でも、少しだけ意地悪したい


 おろしたてのお洋服も可愛い靴も

 あの人に見て欲しいから

 でも、本当に見てほしいのは……


「そんなにじろじろ見るなよ、恥ずかしい」


 私は少し、すねてみる。

「せっかく新しいお洋服着て、可愛い靴を履いてきたのにさぁ、ぜんぜん褒めてくれなんだもの、つまんないわ」

 そうじゃない

 私が見てほしいのは……


「あっ、ああ、いいんじゃない、なんか春っぽくて」


 あの人は鼻の頭を人差し指でこすりながら、視線を逸らす。

「それに、似合っているんじゃない。その髪型」


 私のこと、ちゃんと見ていて欲しい

 あなたの帰りを待つ、あのひとよりも


 私はそり残した髭を指でなぞり、あの人の耳元で囁く

「あとで私がきちんと剃ってあげるわね」


 あの人は小さな咳払いをしながら呟く

「しょうがないなぁ」


 私の足取りは軽くなり、あの人を引っ張るようにして街の中へと消えていく



 春の悪戯

 夢見心地のアゲハチョウ

 恋に恋する乙女心は

 うたかたに舞い

 ひらりひらひら花びらの

 地に落ち朽ちて果てるとも

 狂い咲いて夢一夜

 思いを遂げて、なお狂わしい

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