2話「自己嫌悪」
「あれ、ここどこだ?!」
「え……?なに、これ。どこ、ここ。」
「……………………は? 城?」
「……………………」
「……ここは?」
目の前の男女は困惑して騒ぐ。
(………彼等が新しい勇者かぁ。)
「元」隊長の少年は心の中で呟き---
寂しげな笑みを浮かべた。
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彼等は勇者。
魔王に対抗する為の手段、即ち人間兵器。
召喚魔法で別世界から人間を攫ってきて魔王と戦わせるのだ。表向きは「魔王を倒す為にやって来た勇者」となっているが---
「………で、これはどういう状況なんですか?ドッキリ?夢?」
僕は今、新しい勇者達と円卓を囲んでいた。
「取り敢えず……これはドッキリでも、ましてや夢でも無いよ。紛れも無い現実。」
高木修斗と名乗った彼は静かに口を開く。
「---まぁ、でしょうね。ドッキリにしては手間がかかり過ぎですし、夢にしてはリアル過ぎですしね。」
そう言いながら眼鏡(---かな?)をクイッと上げる彼。
「ああ、うん………」
少し「分かってるなら何で聞いたんだ」と思ったが、そっと胸の内にしまう。
「…となると、これは現実という事になりますが……あまりにも非科学的過ぎる。意識を失った感覚も無く城内に飛んだんです、そんな事今の科学では不可能。それに「魔法」みたいな能力を普通に使っていましたし---」
「あー、うん。それでそれで?」
(……ニガテなタイプかも。)
内心苦笑しながらテルノアは微笑む。
「……つまり、この現状は小説のジャンルの一つ、「異世界もの」と酷似しているんです。」
(…随分と長かったな。)
「---そうだよ、君達のイメージする異世界転移それと思ってくれていい。みんな、その「異世界転移」って知ってる?」
周囲を見渡しながら聞くと意外な事に女性陣も頷いていた。
少し話を聞くと「友人に詳しい人が居て教えて貰った」らしい。でも「異世界転移」という単語と簡単な内容しか知らない様だ。
「---まず「異世界もの」では、大抵主人公達は異世界で特別な能力を手に入れ功績を残し、異世界を満喫し、結局元の世界に帰れずに終わる。それが良くある「異世界もの」の一部始終だ。」
僕は静かに告げる。
「…君達は物語の主人公の様に「特別な能力」を持っている……そして、君達が「君達」として 地球に戻る事は、二度と叶わない。」
「……は?」
みんな困惑する。
そりゃあそうだ。
僕も昔は困惑した。
「君達、落ち着いて聞いてね。」
一応前置きするが---きっと無理だろう。
僕は円卓の上に懐から取り出した宝玉を転がす。
宝玉は音を立てずに転がり---円卓の中心で止まった。彼等の視線が宝玉に集まる。
「---君達は1度『死んだ』んだ。」
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「あ………あ゛ぁ゛!」
ガタンと音を立てて少年が椅子から崩れ落ちる。
尻餅をつき、酷い悪夢を見た様な顔をする。
他の面々も顔を真っ青にし、困惑する。
「---思い出した?君達は1度死んだ。そして君達は結んだんだ、契約を。」
僕は黙り込む彼等に続けて口を開く。
『同種殺しの僕達の罪を許してもらう為に---この世界を蝕む「魔王」を討伐すると。』
彼等は相変わらず黙りこくる。
仕方ないだろう、忘れていた「死の瞬間」の記憶を思い出したのだから---そして、「ヒトを殺した瞬間の記憶」も。
「君達には「特別な力」が渡された。そして「君達は勇者として」魔王を討伐しなければならない。魔王を1体でも倒せれば死後の「転生する権利を獲得」できる。出来なければ---」
僕は少し間を置き、続ける。
「……地獄行きだ。」
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静寂が、部屋を包んでいた。
「……疲れたよね。明日、「君達の答え」を教えてね。」
僕は呆然とする彼等に伝え---後ろ手に扉を閉じた。
「---はぁ。」
(最悪だ。この感覚は「2度目の殺人」をした時以来だ。)
胸糞悪いし、自分の力不足に腹が立つ。
(彼等を……巻き込んでしまった。)
自分の「ミス」のせいで。
自分がヘラに負けたせいで。
僕は自室のベットに倒れ込む。
(………くそっ)
「---だから言ったのに。」
ふと、枕元から声が聞こえる。
「……ミナ?」
僕が顔を向けて聞くと---
「いや、ルナだよ。」
「はは……そっか。やっぱり体格も声も似てるなぁ。」
彼女の感情が沈んだのを感じる。
「---やっぱり、見えない?」
「………うん。」
今の僕は「魔力感知」や「空間把握」で「どこに」「どんな形の物」があるかを知れるだけ。簡単に言うと---僕は物の輪郭しか見えないんだ。
どんな顔なのかも、どんな色なのかも分からない。
「治る可能性は……?」
「低いと思う。」
最初の嫉妬の魔王を討伐した時---奪われた他の人達の「足」や「顔」は戻らなかった。
(………ああ、クソ。)
胸糞悪い。
彼等はどうやって余生を過ごしたのだろうか。
自分のせいで---
「隊長…?」
「---もう、隊長じゃないよ。ただの無力な「子供」さ。」
「……帰って、きてよ。」
彼女は声を振り絞るように伝えてくる。
「みんな、隊長の事が大好きなんだよ。戦えなくなっても……もしも、一生このままだとしても、みんなっ……!」
「---ごめん。」
胸が苦しい。
痛い程に彼女の気持ちが伝わってきたから。
「……僕さ、役に立ちたいんだよ。最後まで。」
彼女が今どんな顔をしているのか、分からない。
分からない自分に、苛つく。
「心を支える---とか、そういうのじゃなくて……僕が何かをして役に立ちたいんだ。「そこに居るだけでいい」っていうのは、嫌なんだ。」
いつの間にか彼女は居なくなっていた。
(---ああ。)
僕は、静かに今の感情を呟いた。