表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2話「自己嫌悪」

「あれ、ここどこだ?!」

「え……?なに、これ。どこ、ここ。」

「……………………は? 城?」

「……………………」

「……ここは?」


目の前の男女は困惑して騒ぐ。



(………彼等が新しい勇者かぁ。)


「元」隊長の少年は心の中で呟き---



寂しげな笑みを浮かべた。



---


彼等は勇者。

魔王に対抗する為の手段、即ち人間兵器。


召喚魔法で別世界から人間を攫ってきて魔王と戦わせるのだ。表向きは「魔王を倒す為にやって来た勇者」となっているが---




「………で、これはどういう状況なんですか?ドッキリ?夢?」


僕は今、新しい勇者達と円卓を囲んでいた。


「取り敢えず……これはドッキリでも、ましてや夢でも無いよ。紛れも無い現実。」


高木たかぎ修斗しゅうとと名乗った彼は静かに口を開く。


「---まぁ、でしょうね。ドッキリにしては手間がかかり過ぎですし、夢にしてはリアル過ぎですしね。」


そう言いながら眼鏡(---かな?)をクイッと上げる彼。



「ああ、うん………」


少し「分かってるなら何で聞いたんだ」と思ったが、そっと胸の内にしまう。


「…となると、これは現実という事になりますが……あまりにも非科学的過ぎる。意識を失った感覚も無く城内に飛んだんです、そんな事今の科学では不可能。それに「魔法」みたいな能力を普通に使っていましたし---」


「あー、うん。それでそれで?」

(……ニガテなタイプかも。)


内心苦笑しながらテルノアは微笑む。



「……つまり、この現状は小説のジャンルの一つ、「異世界もの」と酷似しているんです。」


(…随分と長かったな。)


「---そうだよ、君達のイメージする異世界転移それと思ってくれていい。みんな、その「異世界転移」って知ってる?」


周囲を見渡しながら聞くと意外な事に女性陣も頷いていた。


少し話を聞くと「友人に詳しい人が居て教えて貰った」らしい。でも「異世界転移」という単語と簡単な内容しか知らない様だ。



「---まず「異世界もの」では、大抵主人公達は異世界で特別な能力を手に入れ功績を残し、異世界を満喫し、結局元の世界に帰れずに終わる。それが良くある「異世界もの」の一部始終だ。」


僕は静かに告げる。


「…君達は物語の主人公の様に「特別な能力」を持っている……そして、君達が「君達」として 地球に戻る事は、二度と叶わない。」



「……は?」



みんな困惑する。


そりゃあそうだ。

僕も昔は困惑した。




「君達、落ち着いて聞いてね。」


一応前置きするが---きっと無理だろう。



僕は円卓の上に懐から取り出した宝玉を転がす。


宝玉は音を立てずに転がり---円卓の中心で止まった。彼等の視線が宝玉に集まる。




「---君達は1度『死んだ』んだ。」




---



「あ………あ゛ぁ゛!」


ガタンと音を立てて少年が椅子から崩れ落ちる。



尻餅をつき、酷い悪夢を見た様な顔をする。



他の面々も顔を真っ青にし、困惑する。



「---思い出した?君達は1度死んだ。そして君達は結んだんだ、契約を。」


僕は黙り込む彼等に続けて口を開く。



『同種殺しの僕達の罪を許してもらう為に---この世界を蝕む「魔王」を討伐すると。』


彼等は相変わらず黙りこくる。


仕方ないだろう、忘れていた「死の瞬間」の記憶を思い出したのだから---そして、「ヒトを殺した瞬間の記憶」も。



「君達には「特別な力」が渡された。そして「君達は勇者として」魔王を討伐しなければならない。魔王を1体でも倒せれば死後の「転生する権利を獲得」できる。出来なければ---」


僕は少し間を置き、続ける。




「……地獄行きだ。」




---



静寂が、部屋を包んでいた。




「……疲れたよね。明日、「君達の答え」を教えてね。」


僕は呆然とする彼等に伝え---後ろ手に扉を閉じた。






「---はぁ。」


(最悪だ。この感覚は「2度目の殺人」をした時以来だ。)



胸糞悪いし、自分の力不足に腹が立つ。


(彼等を……巻き込んでしまった。)



自分の「ミス」のせいで。

自分がヘラに負けたせいで。




僕は自室のベットに倒れ込む。


(………くそっ)



「---だから言ったのに。」




ふと、枕元から声が聞こえる。



「……ミナ?」


僕が顔を向けて聞くと---


「いや、ルナだよ。」

「はは……そっか。やっぱり体格も声も似てるなぁ。」


彼女の感情が沈んだのを感じる。


「---やっぱり、見えない?」


「………うん。」


今の僕は「魔力感知」や「空間把握」で「どこに」「どんな形の物」があるかを知れるだけ。簡単に言うと---僕は物の輪郭しか見えないんだ。



どんな顔なのかも、どんな色なのかも分からない。



「治る可能性は……?」

「低いと思う。」


最初の嫉妬の魔王を討伐した時---奪われた他の人達の「足」や「顔」は戻らなかった。


(………ああ、クソ。)


胸糞悪い。


彼等はどうやって余生を過ごしたのだろうか。



自分のせいで---



「隊長…?」


「---もう、隊長じゃないよ。ただの無力な「子供」さ。」




「……帰って、きてよ。」


彼女は声を振り絞るように伝えてくる。


「みんな、隊長の事が大好きなんだよ。戦えなくなっても……もしも、一生このままだとしても、みんなっ……!」


「---ごめん。」


胸が苦しい。


痛い程に彼女の気持ちが伝わってきたから。



「……僕さ、役に立ちたいんだよ。最後まで。」


彼女が今どんな顔をしているのか、分からない。



分からない自分に、苛つく。



「心を支える---とか、そういうのじゃなくて……僕が何かをして役に立ちたいんだ。「そこに居るだけでいい」っていうのは、嫌なんだ。」




いつの間にか彼女は居なくなっていた。




(---ああ。)



僕は、静かに今の感情を呟いた。
























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ