ジョーカーの謎解き
「ディレクター、こんな感じでどうでしょうか?」
青葉が番組の内容を書き記した書類を提出する。
「うーん……もう少しインパクトが欲しいなぁ……。内容が薄くて、視聴者は飽きる。」
「……ですよねー。何か事件の一つでもあればなぁ。」
――――――ま、これから起こすんだけどね。
「あとは、取材次第ですね。そこで何かいいこと聞けたら、きっと盛り上がりますよ。」
あぁそうだ、と彼女はポケットからスケジュール帳を取り出す。
「博物館に取材のアポ、取れましたよ。1月30日の午後1時30分から、今週の土曜日ですね。」
「了解。ま、何とかするか。」
「そですねー。」
「と、いうわけで、レッドと同じタイミングで取材いけるようになったから!」
ローズは報告を忘れない。
「レッド、無茶ぶりするから頑張ってね!」
「いやー、俺より雅の方が大変そうだな。あいつ、テレビ慣れ絶対してないだろ。」
一方ジョーカーはソファの上で難しい顔をしている。
「ジョーカーの方は、どうだ?」
「……なんとなく、そうだろうなってやつは、分かった気がするんだけどね……。」
立ち上がってパソコンを開き、絵の画像を見せる。
「この間、レッドが雅君に話していた推理、覚えているかい?」
「絵の中に花が入っているんじゃないか、っていうあれか?」
しかしそれは、雅に否定されている。数センチの分厚さのキャンバス内に、宝石彫刻が入っているわけがない、と。
「さっき、ホワイトがスキャン結果を解析していたんだが、あの絵の中には確かに空間があることが分かった。」
キャンバスは木の枠に布を張って造られている。それを壁に貼り付けるように設置してあるのだから、木枠分の空間があるのは当たり前だ。
「キャンバスの木枠のほかに、木の板が数枚入っているみたいなんだ。」
画像が荒くて見えにくいが、何かの絡繰りの様だ。
「で、これがあるのが丁度この少年の位置と同じになってるんだ。」
「つまり、この子をいじれば、何か分かるってこと?」
ジョーカーは大きく頷く。
「でも、一体どうやって?」
本物をその目で見たレッドは首をかしげる。その少年にはボタンのようなものは何もついていないし、頭と胴体の2パーツのみでできている。
「その動かし方が、この詩、ってことだと僕は考えた。」
『彼は、夜空の中、星が集まる光の中に、花の種を垣間見た。』
『彼』=うつむいた少年、『星が集まる光』=シトリン だとすれば、花の種を見るためには顔を上げなければならない。
「つまり、この少年の顔を上に向けるように回転させれば、『花の種』を得るための何かが起こると思うんだ。」
「絵がずれて何かが開くとか?」
「だとすれば、もっと大きな絡繰りが必要だよ。」
少なくとも、画像からは絵を動かすほどの仕掛けがされているとは思えない。
『美しい花の楽園に、かつて少年が花の種を垣間見た場所に。』
「少年が花の種を垣間見た場所―――つまり、この少年の足元からなんかあるんじゃないかな?」
「なるほど!ってことは、俺の推理はあながち間違いじゃなかった、ってことだな!」
謎を解いたのはジョーカーなのに、なぜかレッドが胸を張る。
「ちなみに、この詩は他にもこんな解釈ができてね。」
『彼』=謎を解く人 とすれば、『星が集まる光』=シトリン を見れば、花の種の正体が見られるのではないか、と。
「と、いうわけで機会を窺ってレッドはこのシトリンの中を覗いてきてよ。」
「あぁ、分かった。何が見えるか楽しみだな。」
レッドはふと、辺りを見渡す。
「そういえば、ホワイトは?」
「あっちでスキャン結果の解析してるよ。もう少し詳しく調べたいんだってさ。よかったらレッド、差し入れ持って行ってよ。冷蔵庫の横にパンも置いてあるから、ついでに持ってってくれない?」
「りょーかいっと。」
レッドは台所の方へコーヒーを淹れに行った。
「ジョーカー、また買ってきたの?」
「うん。あそこのパン屋さんのパン、すっごく美味しくてね。ただ、行列がすごくてね。2時間待ちだよ。」
「この間放送したら、すっかり人気になっちゃったもんね。県外から来るお客さんも多いみたい。」
電子レンジがチン、と軽い音を鳴らす。
「ま、この後俺らが予告状を出せば、世界から客が来て待ち時間がさらに倍になるかもな。」
温めたパンと淹れたてのコーヒーがジョーカー達の前に置かれる。
「今のうちに、味わっておこうぜ。」
「そうだね。」
レッドはホワイトのいる部屋をノックする。しかし、返事はない。
「ホワイト、入るぜ。」
扉を開けるとホワイトが真剣な目つきでマウスを操作している。
邪魔にならない位置にコーヒーと差し入れのパンを置く。
「あぁ、レッド。ありがとうございます。」
レッドに気付いた彼女は顔を上げる。
「どうだ?」
「ほぼほぼ終わりましたよ。ジョーカーが先ほど言っていた仮説を検証しようとしているところです。」
「仮説ってあれか?顔を動かして何かするってやつ?」
「えぇ。構造を見た感じだと大丈夫そうですよ。問題は、何が入っているかですね。」
「花の種、って書いてあったけど。」
普通の植物なら文字通り種が入っているのだろうけれど、追い求めている花はただの花ではない、『夢の花』と呼ばれる宝石彫刻だ。その種とは、一体何を示しているのだろうか?
「恐らく、金属でできた何かだと思います。何かのパネルか、あるいは、鍵、か。」
「そうか、ありがとう。今度、見てくるよ。それから、暫く休んだ方がいいんじゃないか?」
ホワイトはここ数日、この解析作業のためあまり寝ていない。
「明日は博物館に行ってくる。きっとその時に解析するもんが山ほど出てくると思うし、それまでは休憩しておきなよ。」
「そうですね。そうさせてもらいます。」
「じゃあ、お休み、ホワイト。」
「おやすみなさい。」