白い少年は好敵手に会いに、極東の島国のへんぴなところへ行く
雪の積もった小さな町。そこで、一人の白い少年が誰かを待っていた。
「久しぶり、名探偵ちゃん。」
彼が声をかけたのは、背の小さな、中学生に見える高校生。
「久しぶりだね。怪盗君。」
彼女も笑顔でそう言い返す。
「少し、時間はあるかい?よければ、話が聞きたくてね。」
「いいよ。珍しい来客だし。君とは、いつも面白い話ができるからね、大歓迎だよ。」
こうして、二人は『cafe ルピナス』へと足を運んだ。
「わざわざ日本のこんなへんぴなところまで足を運んだ用事というのは?」
女子高生の彼女、清条 優は暖かいコーヒーを飲みながら、白い少年、シルバー・ジョーカーに声をかけた。
「予想はついているんだろ?」
優はくすりと笑う。
「ジョーカー君から余裕が感じられるところから、急ぎの用事ではないみたいだね。で、私のところに来たということは、勝負を仕掛けてくるときか、何か簡単には手に入らない情報が欲しいときぐらい。怪盗団ドリームサーカスが予告状を出したという知らせは聞いていないとなると、何か情報が欲しいんじゃないのかな?」
「Très bien!」
ジョーカーは満足そうに手を叩く。
「流石は優ちゃんだ。僕が認める好敵手だ。」
「それで、何が知りたいの?」
「『夢の花』についてだ。」
「へぇ。なんで?」
「次のターゲットだからさ。ただ、天河氏の作品は行方不明が多くてね。」
「いまいち存在するか自信がない、といったところかな?」
ジョーカーは頷く。
「優ちゃんならもう解いたんじゃないかなって思って。」
優はにっこりと笑う。
「そりゃ当然。あんな美しい謎が目の前にあるんだよ?推理マニアとしては、解かずにはいられないよ。」
「それで、その先に花はあったのかい?」
「さぁ?どうだろうね?」
ジョーカーは不満顔をする。
「ちょっと、真面目に答えてよ。」
「真面目に答えているよ。」
困ったような、呆れたような顔をするジョーカーに、優はスマホの画面を見せる。
「ジョーカー君は、これを見てどう思う?」
そこには、夕日の光をキラキラと反射して輝く一輪の花が咲いていた。
「これがその……『夢の花』かい?」
「6年前に、撮ったんだ。」
「やっぱり、あったんだ……。」
「今はどうなっているんだろうね?誰かが解いて持ってっちゃったかもしれないよ?」
しかしそれは、存在するという事を証明するには十分だった。そう簡単には持ち出せない、写真の花はそう物語るよう透明な部屋に佇んでいたのだから。
「ジョーカー君」
優の真面目な声に、ジョーカーは顔を上げる。
「ジョーカー君はそれを『夢の花』だと思っているみたいだけど、それはちょっと違うかな。」
「どういう事かい?」
優は少しいたずらっ子のように笑う。
「本当の花は、天河氏が本当に見つけて欲しいのは、その花じゃないってこと。」
困惑するジョーカーに、優は相変わらず楽しそうに笑っている。
「そして、君たちでは決して盗むことのできないものだよ。」