怪盗団ドリームサーカスin中国
銀の奇術師が舞い降りた。
中国上海の高層ビル最上階、たくさんの警官に囲まれたガラスケースの上。
「晩上好(こんばんは)。」
舞い降りた銀色の少年は優雅に一礼する。
「怪盗団ドリームサーカスの団長、シルバー・ジョーカーと申します。今宵のショーを、どうぞご堪能ください。」
ふわり、と床に降り立った。
大勢の警官が彼を襲うが、軽い身こなしで全て避けられ、煙玉によって眠らされてしまう。
「ガラスケースは確かに開かないですね。」
ガラスケースの中には、赤サンゴと真珠によって作られたブローチ『海の薔薇』が輝いている。
「どうやって、盗む気だ?」
ジョーカーは不敵に微笑んだ。
「素敵な魔法を、お見せしますよ。」
袖口からカードを取り出し、投げ上げた。
くるくると天井近くまで上がり、そして戻ってくる。
カードがガラスケースに触れた瞬間、銀色のマントが被せられ、ガラスケースの中が見えなくなる。
「1・2・3!(イー・アル・サン)」
マントをとると、そこにブローチは無く、「『海の薔薇』はいただきました。 怪盗団ドリームサーカス」と書かれたカードが置かれていた。
「な……なぜ……!?一体、どうやって……!?」
ジョーカーは笑って答えない。
「予告通り、確かに『海の薔薇』はいただきましたよ。」
手にした獲物を掲げる。
「それではこれで、お暇させていただきます。」
「無理だ。あんたはここから逃げられないよ。それとも、死ぬ気かい?」
フロアにいる大量の警官。
鍵の開かない出入り口。
地上から200m以上の最上階。
地上でひしめくたくさんのパトカー。
上空で待機する20台近いヘリコプター。
これらの警備から、一体全体どうやって逃げ切ることができようか?
警官の言う通り、飛び降りて死ぬぐらいしかできない。
––––––怪盗団ドリームサーカスに、不可能はない。
押さえつけようとする警官たちを軽くあしらい、窓を開いた。
強い風がフロアで渦巻く。
「待て!早まるな!死ぬ気か!!」
枠に足をかけていたジョーカーは、しっぽのように束ねた銀の長髪を揺らして言った。
「見えませんか?僕の背にある、透き通った翼が。」
銀の奇術師が飛んだ。
誰も声が出せない。金縛りにあったかのように、指一本、動かせない。
少年の体は落ちることなく、満月と輝く地上との間を優雅に飛び回る。
「これをもって、本日の公演は終了とさせていただきます。」
その声が、金縛りを解いた。
「お、追えー!!」
慌てふためいた警官たちが右往左往するが、当然、空飛ぶ少年に届くはずがない。
「再見!」
高笑いとともに、銀色の影は満月の彼方へと消えていった。
上海から少し離れた、別の町のホテルにて。
「ただいまーっと。」
銀の奇術師、シルバー・ジョーカーと、仲間である白衣で長い黒髪の少女、技術者のホワイト・スターが戻ってきた。
「おかえり、2人とも。」
そう出迎えたのは、水色のチャイナドレスをミニワンピースに加工したものに身を包んだ藍色の髪の少女、軽業師のブルー・ローズ。
「レッドの様子は、どうですか?」
ホワイトは部屋に入るや否や、そうローズに尋ねた。
「熱はだいぶ下がったから、大丈夫だと思うよ。」
部屋の手前のベッドでは、真紅色の短髪の少年、どんな人物にでもなれる『二重幻像』であるレッド・クリスタルが、いつになく額に冷却シートを貼って眠っていた。その頬は、髪色には劣るものの、いつもよりはずっと赤くほてっていた。
ホワイトはそっと近づき、首筋に手を当てた。
「ん……ホワイト……?いつの間に……?」
「あぁ、すみません。起こすつもりはなかったのですが……。ついさっき、帰ってきたばかりですよ。」
レッドは半身を起こすと、大きく伸びをする。
「仕事の方、大丈夫だったか?」
「まぁ、何とかね」
ついさっき盗んできたばかりの『海の薔薇』を見せる。
「ちゃんと本物か確認したの?」
「大丈夫大丈夫。」
ジョーカーはローズにそれを渡す。
「さぁて、仕事も終わったし、2・3日はゆっくりしようかな。せっかく中国に来たんだ、まずはどこに行こうかな~。」
「とりあえず今日は、もう休みませんか?考えるのは明日でもいいでしょう?」
そうして、ホテルの明かりは消えた。
次の日ローズは、
「ちょっと野暮用があるから。」
と言って、ジョーカーは
「動物園にパンダを見に行ってくるよ!」
とどこかへ行ってしまった。
つまりホテルには、風邪をひいたレッドと、特にすることのないホワイトだけが残った。
「ホワイトは、どこにも行かないのか?」
レッドは寝そべって新聞を読みながらホワイトにきいた。
「えぇ。レッドに何かあっても困りますし。」
ホワイトはペーパーブックを読みながら答える。
「オレは大丈夫だよ。もう、普通に動けるし。それよりも、ジョーカーをほったらかしにしてもいいのか?独りぼっちで、すねてんじゃねぇか?」
「それは問題ありませんよ。むしろ、はしゃぎすぎて周りの人に迷惑かけていないかの方が心配です。」
––––––そのころ、ジョーカーはホワイトの心配通り、パンダの檻に張り付いて大騒ぎしていたため、周りの人に迷惑がられていた。さらに、檻の中のパンダまで迷惑そうに背を向けていた……。
「それと、ローズはどこに行ったんだ?」
「さぁ、本人に直接聞いてみてはどうですか?」
レッドはたいして興味がなかったので、まぁいいや、と目を新聞に戻した。
しばらく静寂が続いた。時折、ホワイトの本をめくる音と、レッドが新聞をめくるおとがするだけ。
「ホワイト。」
不意に呼ばれた彼女は、本から視線を上げる。
「ホワイトの誕生日って、いつ?」
レッドはある記事を見つめていた。
「ほら、誕生日パーティーみたいなことさ、4人まとめてやってるから、知らないんだよ。だから、教えてよ。」
「えっと、12月10日です。」
––––––なぜ、そんなことを聞くのでしょうか?
そう思うも、ホワイトはなかなか口に出せない。
レッドは何も言わず、何かを指でたどっていた。
単なる思い付きだったのかと、ホワイトは視線を本に戻そうとした時だった。
「……オレの誕生日って、いつなんだろう?」
レッドは微かな声でつぶやいた。
「計画書ができたときか、培養器で発生したときか––––それとも、外に放り出されたときか……。」
レッドが見ていた記事は、『占い特集!!誕生月別相性占い』だった。