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塔5~帝国軍壊滅②

挿絵(By みてみん)


 午前中、それは第15師団の上空に音もなく飛来した。

 敵の航空騎兵を監視する際、バックファイアの煙を目標にする。航空騎兵は地上から狙われないように、高々度を雲に隠れて移動するため、それが基本である。

 万一、低空で接近すれば容易に分かる。法力エンジンは騒音が凄く、発見しやすい対象だ。

 ところが、彼らの前に現れたその飛行物は排煙なし、航行の音もなく、低空で突っ込んで来た。そして、彼らの防空陣地の上空に到着すると、その砦の上に降り立って、驚いた守備隊といきなり白兵戦を開始したのである。


 第15師団の防御陣地に最初の奇襲攻撃を加えたのは、ファルス軍の特殊部隊兼宮廷楽師のバールバド率いるグライダー部隊であった。

 強固な壁や深い堀などの地上の工作陣地は上空からの攻撃に無力である。

 ただし、対空防御の為に各所に長射程の弩を備え、また対空法兵を配置し、航空騎や気球による侵入作戦は防げるように工夫されていた。

 航空騎兵は、“ヴェスタの加護”がある女性しか乗れない上に、携行できる武装も限られている。そして、羽を傷つけられたら終わりなので消耗しやすく、対航空騎用の射撃武器で固められた陣地に近づくのは容易ではない。

 さらに航空騎に乗る都合上、軽い武器で鎧も身につけていない若い乙女が降下し、フル装備の鍛えられた男性兵士相手に対地攻撃するなど絶望的だ。


 気球も同様である。

 気球を利用して、兵士をパラシュートで降下させる作戦も過去には事例があった。こちらは男性兵士も送り込めるが、重量制限が厳しく、携行できる装備に限りがある。

 特に気球は遅くて発見されやすく、風に左右されて制御が難しい。また、パラシュートは大きく目立つので降下される場所を容易に察知されてしまい、易々と補足されてしまう。

 その点、グライダーはパラシュートよりも輸送力が大きく、自力で滑空できる。

 ただし、グライダーの使用には様々な困難が伴った。

 まず、エンジンがないため、上昇には航空騎による曳航が必要である。

 航空騎は飛行しながら、飛行場で待機しているグライダーに近寄り、フックを掛けて牽引、そのままグライダーを引っ張って加速、高度を上げる。

 その後の飛行の操縦も容易ではない。航空騎は法力エンジンにより、ロケットのように加速するため、曳航時にバランスを取るのは極めて難しい。さらに曳航後は無動力で飛ぶために相当な慣れが必要だった。

 また、グライダーは気象の影響を大きく受ける。天候はもとより風向きも最適でなくてはならない。

 ファルス軍は、このグライダー戦術を取り入れ、極秘に編成した部隊で猛訓練をしていた。

 アスンシオン帝国軍が時間を無駄に過ごしていた間、ファルス軍は要塞陣地に対する対策を練り、攻略の為の戦術を考案し、そのための物資を投入して、必要な訓練をしていた。

 そして、作戦実行に適切な気象条件の日を待ち、作戦を決行したのである。


 実際のところ、よく観察すればグライダーも目立つ。彼らがもっと鋭敏な感覚で毎日の監視を徹底していれば、もう少し早くの察知は可能であったはずだ。

 長期間の対陣で弛緩した監視体制が、予想外の接近に対する油断になったことは疑いようがない。

 グライダーの突入後、第15師団の上空に航空騎兵の大編隊が襲来した。こちらは静かに飛来する先発隊と違って法力エンジンを鳴り響かせた騒々しいものだ。


「対空陣地は何をしている! 上の女どもを叩き落せ!」


 第15師団長のガロン・ヴィス・ゼーレイは、敵の大編隊の出現に、反撃を指示する。

 しかし、この時点では、ゼーレイ卿はグライダーによる奇襲攻撃の報告を受けていなかった。

 それでも、健在ないくつかの対空陣地は地上から反撃を行ったが、2000騎以上に及ぶ航空騎の大編隊には効果は乏しい。

 それからさらに間を置かず、第15師団の陣地のあちこちから激しい炸裂音が発生し、同時に火の手が揚がったのである。


「敵の法兵!? まだ届かない距離のはずだ。どうして……」


 前面の敵歩兵に動きがあるという情報があり、既に防御の配置は済んでいたが、法兵隊の配置には時間が掛かるはずだった。

 それが明らかに早いペースで彼らの陣地に法弾が撃ち込まれている。それも、トルバドール族が得意とする風魔法ではなく、陣地破壊用の迫撃魔法である。

 第15師団の指揮所に、伝令が駆け込んで来た。


「敵の法兵隊正面! 数5000以上!」

「すぐに援軍を要請しろ! 敵の本命はここだ!」


 師団長のゼーレイ卿は、怒号をあげて後方の第8師団や本部に増援を求める。

 明らかにコネの人選で師団長に選ばれたゼーレイ卿でも、この場所に対して敵の圧力がケタ違いに大きいことは理解できた。

 敵の法兵達に接近されたのは迂闊としかいいようがないが、これは古来よりよくある手法で、近くまで隠蔽した塹壕を掘っておき昨夜のうちに接近したのだろう。


 航空騎兵対策は取られていたしマニュアルもあった。

 陣地に設置されていた対空射台は、上空に留まる航空騎対策の物である。だが、グライダーによる奇襲によって、対空陣地が沈黙させられるなど想定外なのだ。

 そして、対空陣地の沈黙は、航空騎兵と法兵の連携による一方的な攻撃を可能にしていた。


「この程度の迫撃法弾ならたいしたことはない。予備師団の来援まで各自拠点を死守せよ」


 彼らの前線陣地は、多少の法撃には耐えるように設計されていた。この程度の攻撃は想定範囲のはずだった。

 ゼーレイ卿は援軍が来るまで十分に粘れると考えていた。陣地は強固に築城され、ファルスのトルバドール=ツインテール族やカンバーランドのアリハント族の法兵火力でも簡単に破られるものではないはずだ。


 しかし、師団長のゼーレイは知らなかったが、この時のファルス軍の法兵隊は強固な陣地を突破するための専用の新型の弾頭を使用した法撃を行っていた。

 ファルス軍が使用したのは成形炸薬法弾である。物理的な法撃エネルギーの応用で、一方向に対しての強い穿孔力を生じさせる法弾であり、特に装甲のある建造物の破壊に優れていた。ただし、使用には訓練が必要で、さらに高価なので量産は難しい。

 この成形炸薬法弾の法撃は、彼らの計算した“今までの”法弾に耐えうる設計をほぼ無意味にしていた。

 敵に与えた時間は、高価な弾薬を蓄積させる準備期間をも与えてしまったのである。

 トルバドール=ツインテール族は、竜巻魔法が得意だが、練習すれば迫撃魔法も使用できる。

 ファルス軍の航空騎兵隊のアイーシャ率いる“シュトゥーカ”隊の正確な着弾誘導を受けて、リクミク率いる法兵隊の新型法弾を使用した迫撃魔法を加えた事により、第15師団の陣地はあっという間に各所で打ち破られた。

 さらに、破壊されて強度が低下した陣地に対して、カンバーランド軍のジーナ率いる賢者連隊の迫撃砲弾が次々と着弾する。

 横にならんだ砦群など、背後で突破を待つ騎兵隊が通れるための大きな穴が1か所開けば十分である。

 爆破の粉塵と煙が治まるのを待たずに、ファルスの大将軍アル・タ・バズス自ら率いる騎兵隊が、法撃で空いた穴から突入を開始した。


****************************************


 カルシ市近郊に設けられたアスンシオン軍の総司令部では、前線でファルス軍の進撃が開始されたという報告を受けていた。

 直ちに総司令官のテニアナロタ公と、中路軍司令官のオムスク公、スミルノフ参謀長らの幹部が召集され、敵の主目標が何処であるかを検討したが、この時点ではファルス軍は全戦線で攻撃を開始しており、容易に判断できない。

 結局、各予備隊は待機となり、前線からの報告待ちによって対応は遅れた。


 午後になると、すぐにも第15師団と第19師団に対する敵の猛攻撃の報告が入ってくる。だが、航空騎と法兵隊の集中運用を知っても、スミルノフ参謀長は余裕の表情を見せていた。


「カウル族の軽騎兵隊と予備の第8師団に命じて援護させれば、問題ありません」


 敵の法兵隊の動きが予想以上に早い事は意外だったが、この程度は想定の範囲であった。前線の防御陣地で敵の攻撃を受け止めて、予備戦力で補強し、軽騎兵の反撃で叩く。古来よりある戦術の定石である。

 結局、この日の総司令部が出したのは第8師団とカウル族旅団に、圧力を受けている第15師団、第19師団の援護に向かう指示を与え、別の予備師団である第18師団とエルミナ軍第1師団に対してそれを援護できる位置に移動する指示だけに留まった。


 この時、総司令部は目に見えないミスを犯していた。

 実は、「支援をしろ」という指示を出したが、「支援をするな」という指示をしなかったのである。

 ファルス軍は全戦線で攻撃を行っており、戦線西方ではエルミナ第3師団も歩兵隊の攻撃を受けていた。

 エルミナ騎兵師団は、総司令部の指示が無かったので、独自の判断でこちらの方面にある自軍の救援に向かってしまったのである。だが、誰の目にもエルミナ第3師団への敵の攻撃は、明らかな助攻であり、本命ではないというのはわかるはず。

 結局、エルミナ騎兵師団は目先にある自国の軍隊の生命の安全を最優先にした。彼らからすれば当然の判断である。


****************************************


 アスンシオン軍総司令部が情報待ちをしていた頃、前線各所の上空ではアスンシオン軍の航空騎兵部隊と、ファルス軍の航空騎兵部隊による処女達の華々しい空中戦が発生していた。

 特に第15師団上空で行われたアスンシオン軍の精鋭“ミラージュ”の隊長メーヴェ・コンテ・ランヴァニア率いる約300騎と、ファルス軍の精鋭“シュトゥーカ”の副長ナスリーン率いる約200騎で行われた戦闘は、この戦役中でも最も激しい空中戦となった。

 お互い言葉が届くぐらいの近距離で、投げ槍を把持しての混戦である。

 両陣営とも精鋭の航空騎部隊であり、戦闘は日暮れまで続く激戦となったが、この上空の戦いはアスンシオン軍の“ミラージュ”の方が、兵力が多かったにも関わらず、ファルス軍の“シュトゥーカ”によって蹴散らされた。

 この場所だけでなく、どこで発生した航空騎兵部隊同士の戦闘も、ほとんどがファルス側の処女達に軍配が上がった。


 これだけ一方的な結果になったのには原因がある。

 まず、個々の技量の差がある。

 航空騎兵は若い娘ばかりで、16歳~22歳程度である。アスンシオンでは航空騎兵士官学校を設立し、若い頃から優秀な娘を集めて航空騎兵を養成していた。女性としては最も名誉あるエリートコースである。

 ただし、いくら名誉があるといっても、帝国で彼女達の処女まで管理できない。

 航空騎兵の厳しく危険な訓練に対して、彼女達がそれを嫌だと思えば、航空騎兵は簡単に引退できる。ユニコーンに選ばれた美少女である彼女達を引退に誘う男はいくらでもいるのだ。

 だから、帝国では厳しい訓練を無理強いすることができない。

 ファルスでは、航空騎兵の訓練期間は王都エクバタナで2年だけ、その後、引退までユニコーンを貸し与えられ、旅を兼ねた自由な訓練が認められていた。

 トルバドール族は特に旅好きで有名である。彼女達は、航空騎を使えば、あっという間に国内の好きな場所に旅行できる。これは彼女達にとって大きな魅力であった。

 育成に掛かる高額な投資を無駄にしたくないため、引退を恐れて厳しい訓練が出来ず、彼女達を全寮制にして男性から隔離しようとするアスンシオンと、引退を恐れずその場合はユニコーンだけ回収すればいいと考えるファルス。

 この結果、彼女達の技量に雲泥の差が出てしまう。

 だが、アスンシオンの航空騎兵達も、一部の者の士気は高く、特に精鋭の“ミラージュ”は選抜された者達だけで構成されていて、互いの個人技量にそれほど差は無かった。

 ここでの決定的な差は、アスンシオン軍の航空騎兵が、ファルス軍の航空騎兵の空戦の戦術で押されていたためである。

 ユニコーンに乗れなくなった娘は引退する。だから、個人的な戦術の研究は行われ難く、技術が失われやすい傾向がある。

 そのため、航空騎の空戦研究には、組織的な研究や継承が必要不可欠だ。だが、アスンシオン軍では、この研究が疎かにされる傾向があった。

 以前、ムラト族旅団長のレンが指摘していたが、整備力に差があるのもこの傾向によるものだ。

 また、地上部隊と連携した戦法もいくつか考えられるはずである。これも、方法論は検討されたが実際に訓練されることはなかった。

 過去、地上の部隊と連携の打ち合わせの際に、航空騎兵と男性士官の異性交遊が発生し、複数の引退者を出した事件があった。アスンシオンでは、その反省という名目で、航空騎兵と男性の士官との定期的な訓練は行われなくなったのである。


 ただし、この日の空中戦の結果だけを考えれば、損害はアスンシオン側の方が多かったが、完全損失となった航空騎兵はファルス側の方が多かった。

 理由は、この空中戦がまだアスンシオン・エルミナの勢力圏だった場所で行われたため、墜落した航空騎兵は即死でなければ味方によって回収されたからである。

 墜落して、味方に回収された航空騎兵は処女のまま病院に運ばれる。しかし、敵に回収された航空騎兵は、処女のままでは捕虜収容所に運ばれない。


 この空中戦の際、両陣営の乙女達は、お互いを紙面にできないような卑猥な言葉で罵倒し合っていたらしい。

 通常、男同士が殺し合いをしている場合は、発せられるのは破壊に関する文言が多いが、女性同士が死闘をする場合は、性的な文言が出やすいという。

 もちろん、聞いていた男性は1人もいないし、内容を報告する女性もいないので、どのような文言だったかはわからない。


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 戦線東端に位置する、第5師団の師団長ゴーヴィン・コンテ・タブアエランは、その日の午後から正面の敵支隊だけでなく、迷彩能力を持つアサマイト族の攻撃を受けていた。


「防衛設備の整った陣地で防げば、迷彩種族など恐れる必要は無い。我々の問題は、我々ではなく突破されそうな西の第19師団だ」


 現在のところ、師団長の中では、最も経験豊富な猛将として知られるタブアエラン伯は、自軍が攻撃を受けながらも、隣接する友軍の救援を計画していた。


「師団長、フルリ族の軽騎兵隊が南方の丘を掛け上がって、第19師団の側面を攻撃しようとしているようです」


 工兵隊長のヨハン・リッツ・エイブルが高台から双眼鏡を覗きながら報告する。

 第5師団の陣地はザラフシャン山脈の西端の斜面の上にあり、他の師団よりも高台にある。工事主任であるエイブル卿は少ない資材をやりくりして、監視力の高い陣地を形成していた。


「レーヴァン、騎兵を率いて討って出ろ。横から叩け」

「了解」


 タブアエラン伯は即断して、長男のレーヴァン・コンテ・タブアエラン率いる騎兵隊に出撃を命じた。

 タブアエラン伯爵の長男レーヴァンは皇后アンセムの士官学校での同期である。ついでにいえば、父親のタブアエラン伯爵も、アンセムの父のオーギュストと同期であった。

 娘のナーディアは後宮に妃として嫁いでおり、タブアエラン家は家族ぐるみで勝気な性格として知られている。

 この第5師団の繰り出した騎兵は、出撃を予想していなかったハイダル率いるフルリ族にとって側面を突かれる痛撃となった。しかし、50000のフルリ族の軽騎兵隊に対し、3000程度の騎兵の攻撃ではたいして効果が上がらず、冷静な指揮で反撃すると、レーヴァンも体勢を立て直される前に、陣地に後退した。

 結局、この初日、前線陣地で騎兵隊を出撃させたのはこの第5師団だけであった。

 アスンシオン軍の騎兵隊は、各師団に分散配置されている。せっかくの騎兵隊も、陣地を守るために配置されたのでは完全に無意味であった。

 もっとも、アスンシオン軍には、カウル族の軽騎兵隊という強力な機動力を持つ騎兵隊を有するため、師団の誇りともいえる騎兵隊を取り上げて編成を行うなどということは、伝統的に難しかったという事情もある。


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 日が傾き始めた頃、総司令部からの命令により、後方の予備師団である第8師団は、第15師団と第19師団の救援に向かっていた。

 師団長のサンド・デューク・オムスクは、中路軍司令官のフレッド・デューク・オムスクの長男である。

 第8師団は、午前中から前方の第19師団と第15師団をすぐに救援できる位置にいて、前線からの火の手が揚がるのを確認し、上空を飛来する航空騎同士の激戦を目にしていながら、総司令部に現状を報告するばかりで、午後を過ぎてから彼らへの救援の命令が下るまで動かなかった。

 サンドは、名門のオムスク家の長子として、父に厳しく躾けられた。その結果は、彼を悪い方向に育てた。彼は士官学校の成績は優秀だったが、何事も父の指示を仰いでからでないと動けない人物に育ったのである。

 もちろん、彼にも言い分がある。このような戦線を打ち破る時は、陽動を絡めるものだ。東の第15師団、第19師団を攻めて主力をひきつけておき、本命は西から突破する。そのような事は過去の戦例でも数多ある。勉学に優秀な彼は当然、それをよく学んでいた。

 だが、この言い訳には彼の保身のための嘘がある。

 前方の第15師団から、敵法兵隊5000が出現したとの連絡を早い段階で受けていたのだから、ファルス軍の全法兵がこの戦線に投入されていることは明らかだ。十分な数の法兵がいなければ突破は難しい。

 その情報を知っていながら、自分で決断する事から逃げた彼は、やはり理由をつけて父や総司令部からの命令でしか動けない人物なのだろう。

 連絡を受けた第8師団は遅まきながら前進したが、その途中で早くもファルス軍の主力騎兵隊と遭遇した。

 サンドにとっては、既に戦線を突破されているなど想定外である。

 ファルス軍はまだ突破したばかりで態勢が整えられておらず、師団編成に騎兵が多い第8師団が集中的に攻撃すれば押し戻せる可能性はあった。

 だが、ここでも、彼は自分で思考することを投げて、総司令部に、「敵が既に前線を突破している。どうしますか?」と、再び問うだけであった。

 結局、連絡が届くまでには日が暮れてしまい、機会を逸することになる。


 攻撃初日、前線で孤立した第15師団と第19師団は、夜間ずっと攻撃を受け続けた。

 騎兵隊が突破した後に続いた後続のファルス軍歩兵隊とカンバーランド軍歩兵隊の猛攻を受け、第15師団長ガロン・ヴィス・ゼーレイは負傷して捕虜に、隣の第19師団長ヴィンソン・ヴィス・ヴェネディクトは乱戦の中、敵中を突破し、夜陰に紛れて北東へ逃走した。

 他の戦線でも、夜になっても照明弾が撃ち込まれ、今までの停滞が嘘のように夜通しの苛烈な攻撃が繰り返されている。

 ただし、第15師団と第19師団の消失に比べれば、強力な防衛陣地に守られた他の戦線の師団の被害はほとんどないといってもいい。

 各陣地の前にはファルス軍歩兵の死体の山が築かれたが、それでもファルス軍の将兵は攻撃を止めなかった。


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