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塔1~未来視達の謀略戦⑤

 第13師団長ランスロット・リッツ・ローザリアは、軍議を終えてサマルカンド東側に展開している自分の師団に戻ると、すぐに幹部達を集めてアスンシオン帝国とエルミナ王国の合同軍議で決定された戦略方針を伝達した。

 ローザリア卿自身は、スミルノフ参謀長の考案した慎重策について消極的だとは思ったが妥当だと考えている。

 今回のエルミナ出征の目的は戦う事ではない。ファルスが諦めて退いてくれれば戦略目標は達成される。だから、参謀長の作戦案である慎重に敵と間合いを詰めていくのは合理的である。

 だが、それでも疑念はある。彼の師団にはこういう時の為に連れて来た男がいるので、それを尋ねずにはいられない。


「レン殿、この方針どう思う?」


 ローザリア卿はさっそく、連れて来たムラト族の老年間近の男にその質問をぶつけてみる。


「スミルノフ参謀長も、その案を了承した幹部の皆さんも、物量の力を過信していませんかねぇ」

「というと?」

「戦争っていうのは物質が戦うんじゃなくて、精神が戦うんですよ」


 ムラト族旅団長レンが突然語りだした精神論に、師団参謀のダルボッド・ヴィス・グリッペンベルグは、苦笑しながら応答する。


「ローザリア卿が稀代の軍師として連れて来られたレン殿が、古臭い精神論とは。意外に戦略性の無い事をおっしゃいますな。兵士へ叱咤激励や勝利への信念を煽るだけで敵は倒せません。精神論のような無形の力で敵を倒せるなど、誇大妄想主義に蝕まれた愚かな指揮官の典型ではないですか」

「グリッペンベルグ参謀、それは精神の弱い人間がツイートする精神的な病の一種です。本物の精神論は、物質を動かす理を突く。肉体を統括するのは常に精神ですよ? 肉体が精神を支配しているのではないのです。まぁ、肉体の欲求に精神を支配されて、流されるままにしか行動できない人もいますけどね」


“ツイートする”という用語はムラト族文化の用語で“つぶやく”という意味である。


「ふむ、では具体的に本作戦案のどの辺りが拙いと思うのですか?」


 ローザリア卿は、レンの説明が抽象的であったので、具体的な指摘事項についての説明を求めた。


「では中路軍から」


 レンは咳払いすると、地図上のサマルカンドを指した。サマルカンド周辺には中路軍37万とエルミナ軍の主力10万が展開している。


「まず、聖女連隊ですが、それを率いるエルマリア王女は、見た目は気品のある美人でも、精神は怠惰で極めて自己中心的。彼女は自分の幸福の事しか考えられず、自分の立場が国家によって支えられている事を理解できていない。きっとランス族の誇りだ、最強部隊だ、決戦まで温存だ、などと逃げ向上を言い続けて、エルミナが亡国になっても戦いません。自分達が一番優れていると考え、そういう中で教育を受けている精神の人間にはありがちなことです。彼女の部下の聖女連隊もそういう隊長様の影響が強く、受けている思想も教育も同じで、やはり戦わないでしょう」

「どうしてそれがわかります?」

「師団長は初めて殺された死体を見た時、どう思いましたか」

「それは…… 気分の良いものではないが、職務上は仕方がないと思ったな」

「彼女も、聖女連隊の隊員も、戦闘部隊なのに誰も死体を見た事がないそうですよ。“撮影球”を使った映像ですらない。理由は、死体は気持ち悪いから見たくないそうです。どうしてそれで戦いの役に立つんですか?」


 エルミナ軍の聖女連隊は、通常の兵士とは異なる特別な訓練が成されているという。だが、ローザリア卿がその内容を伝え聞くだけでも、非実戦的な規則、無意味な儀礼、美徳や清廉さなどの強調に縛られ、自分達が国で最も優れた誇り高き部隊であることを主張するものばかりであった。

 聖女連隊は遺伝子の血脈的な特殊能力“陽彩”を持つ者達だけで編成された、若い娘だけの部隊である。彼女達は実戦経験などないのに、エルミナの歪んだ思想によって、短期間の偏った教育により、国の最強の部隊として育成される。だから、肉体的には素晴らしい特殊能力を持っていても、実務的には役に立たない精神的に極めて歪んだ部隊になってしまっているのだという。


「しかし、エルマリア王女と“聖女連隊”無しでも、エルミナ軍と合同すれば中路軍だけで十分戦える戦力はあるでしょう」


 師団参謀のグリッペンベルグは、それでも十分な戦力があると指摘する。


「では次に、エルミナ軍ですが、まったく役に立たないどころか、我が軍とファルス軍の共倒れを画策しているんじゃないですかね。特にタシケント太守のヒンデン・フォーラ・タシケントって奴は、そうでしょうね。会議でそういう雰囲気を感じませんでしたか」


 レンに指摘されて、ローザリア卿は軍議を思い出す。

 確か、エルミナの太守や騎士達の発言は騎士長バンクレインだけで、他の者達は何の意見も挟まなかった。


「エルミナの太守や騎士達は我々の作戦案に何の反論もしなかったが……」

「この戦争はエルミナの戦いです。エルミナ軍の将兵にやる気があれば、自らの立場と実力を我々に誇示するために『ここは私達が』、『こっちは我々に任せろ』などと強く主張するものですよ。それをしないということは、我々に対して、『かってに戦って、お互い程良く減ってくれ、協力する気はない』と思っているのです」


 ローザリア卿はレンの指摘に驚く。エルミナ側が何も言わないのは、国王の戦死で意気消沈しているからだと思っていた。

 しかし、これがもし逆の立場ならどうだろう。信頼できる味方の来援、恨みある敵に対して反撃の機会と知れば、普通は士気揚がって、自分の実力と存在を示そうとするだろう。だが、エルミナの軍人は皆黙ったまま。

 アスンシオンとファルスが潰し合うことだけ狙って、自国の兵力温存を最優先にしていると考えれば、辻褄が合う。

 タシケントの太守らが黙っていたのは、レンの指摘通りなのかもしれない。


「つまり、中路軍の戦力は我々だけだと……」

「まぁ、それでも戦力的にまだ勝てますよ。勝敗の分岐点はカウル族の存在ですかね。でも彼らは自治区の同盟異種族ですし、エルミナのラグナ族第一主義者を快く思っていないですから。彼らにちゃんとした利益誘導をして、丁寧な配慮で心を繋ぎ留めないと、ダメです」


 帝国政府の命令では、自治区からの兵力の抽出には限界がある。しかし今回、カウル族には要求数より多くの軽騎兵を供出させている。ファルス軍が強力な軽騎兵隊を持つので、対抗するために多くの動員を依頼したのである。

 そのために裏取引をしている。現在、カウル族自治区はシル川とアム川の間にあるマーワラーアンナフル地区の北側にあり、エルミナ併合の際はさらに南側まで拡大させると約束している。拡大されれば彼らの土地は2倍~3倍になる。

 カウル族はランス族のラグナ族第一主義を快く思っていない。エルミナの危機など知った事ではないはずだ。それを帝国は利益で釣っているわけである。


「ほら、エルマリア王女と聖女連隊の怠慢の話も、タシケント太守とエルミナ軍の背信の話も、カウル族の利益誘導の話も、みーんな精神論でしょう?」

「確かに……」


 グリッペンベルグ卿は、見事に説明されて反論の余地がない。しかし、負けると宣告されたわけではないので、まだ良かったのだろう。


「では、東路軍はどうなのでしょうか、心配症の例の先輩がまた手紙を寄こしたので」


 ローザリア卿は地図上のコーカンドを指して東路軍13万に話題を移す。例の先輩とは、もちろん東路軍所属の第4師団長のマトロソヴァ伯のことである。


「まず、東路軍に合流する予定のハイランド軍は、本当に来るかどうかはわからない」


 レンはコーカンド市のさらに東に位置するハイランド王国を指して言う。


「しかし、グンドール国王は今まで盟約を違えたことのない名君。約束は必ず守る人だし、今回も同盟軍として活躍してくれると思いますが」


 ローザリア卿もグリッペンベルグ卿も、イリ戦役、ローランド戦役でのハイランドの強兵とグンドール国王の優れた采配を知っていた。強力な味方になるはずである。


「前回活躍したからと言って、今回活躍できるかどうかはわかりません。その分析の理由は、相手の国の体力を見ます。こっちの方は精神論じゃなくて物質論。師団長とは数ヶ月前ローランド戦役でハイランドに共に行きましたが、あの国の国民はもう物質的に戦争に耐えられない。名君などというのは、我々外国人の評価です」

「グンドール国王は国内でも賞賛されているようにみえたが……」

「そりゃ、賞賛する人が道に出て大声で叫んでいるんだから目に付くだけです。グンドール国王は、先ほど師団参謀殿がおっしゃっていた誇大妄想主義に蝕まれた愚かな指揮官の典型ですよ。もう、ハイランドの国民は物質的に疲れ果てていて戦えません。今回、4個師団で来援なんて不可能です。すでにハイランダー族は、国王の首を挿げ替えるか…… それとも、別の政治形態を受け入れるかを考えている段階でしょうね」


 ムラト族旅団長のレンは、今度はハイランドに対しては精神論を用いず、物質的に限界に達していると指摘している。しかも他国の賞賛や名声を浴びる名君と評される者を、ただの誇大妄想主義の愚かな指揮官だという。


「東路軍は、ハイランド軍と合流できなくても6個師団あります。容易く負けるという事はないのでは?」

「カザン公は、相手と同数の戦力なら、戦力を小出しにして負けるタイプですよ。これは私の評価じゃありません」

「……」


 師団長のローザリア卿も師団参謀のグリッペンベルグ卿も、またレンの指摘に黙ってしまう。実際にローランド戦役の際にカザン公の指揮を受けたが、レンの言う片鱗は随所にみられたからである。「カザン公は、同数の戦力なら戦力を小出しにして負ける」はローザリア卿もグリッペンベルグ卿も思っていた事なのだ。


「西路軍のタルナフ伯の実力ならば、一気に戦局を打開することも可能ではないですかな」


 それまで黙っていた騎兵大隊長のマーティン・リッツ・タクナアリタが発言する。彼は北方総督のタルナフ伯が、武人として数々の戦いに勝利して名声を得、出世街道を進んでいる事を尊敬しているようだった。

 西路軍はエルミナ軍と合わせて15万程度がヒヴァ市に駐屯している。


「周囲を老害ばかりの人選で固められて、さぞやタルナフ伯もやりにくいでしょうな」


 レンがいう老害とはプルコヴォ公とその派閥のことであろうことは誰でも分かった。しかし、帝国軍は東路軍、中路軍、西路軍と分けるような場合は、各軍に帝国七公爵家を付けるのが慣例である。帝国軍の爵位のバランスを取る上でやむを得ない人選であったのだ。だが、レンはそれを痛烈に批判している。


「タルナフ伯は強力な河川艦隊を有している。敵にこれに対抗できる河川艦艇はないでしょう」

「川底に杭を打たれて終わり。だから敵はアム川下流のブハラ方面だけには前衛を配置しているんですよ。もう作業はだいぶ進めているんじゃないですかね」

「しかし、タルナフ伯が率いるヴァン族とテーベ族の歩兵は精強、戦えば負けないはずだ」


 騎兵大隊長タクナアリタは、西路軍に所属する歩兵の種族的な強さを説いた。


「同盟異種族の歩兵達は、得意武器に特化しているから融通利かなくてダメですね。広大な平原での戦闘で、短弓の射程を快速で維持する敵主力の軽騎兵相手に、“月影”みたいな投擲貫通能力がなんの役に立ちます?」

「“月影”は命中すれば素晴らしい威力がありますが」

「当たればね。軽装甲の軽騎兵ぐらい、投げ槍が当たればそんな特殊能力なんて無くても倒せるでしょ。だから、“月影”が使えなくなっても、軽騎兵相手に不利な投擲武器なんて武装はやめて、誰でも使いやすい長射程の弩でも持たせるべきなんです。また、ヴァン族は巨漢で接近戦では強いですけど、彼らのサイズ用の金属鎧は帝国の装備に無いですからね。彼らの体格に合う優秀な弓もない。弓っていう武器は体格に合うものじゃないとキチンと弾けないからダメなんです。射撃戦は体格のデカさより身体に合った優秀な弓と鋼の金属鎧です。もちろん体格がよくて生命力はあるから、普通の男の倍くらいは耐えるでしょうけどね」

「つまり異種族の歩兵達は、制約があって普通に戦えば苦しいということか」

「まぁ、戦術次第ですけどね。タルナフ伯のお手並み拝見といったところでしょうか」

「それでも、全軍を合わせれば我々と敵では兵力差が大きくあります。それを活かせば勝機はあるはずですが」

「では、その兵力差とやらをひっくり返してみせましょう」

「?」


 ローザリア卿もグリッペンベルグ卿もタクナアリタ卿も、ファルス軍の兵力がどうやって増えるのかまったく理解できなかった。現在の20万といわれるファルス軍の兵力は、国力的にも限界のはずだ。


「ファルス王国はデモニア首長国及びカンバーランド王国と同盟関係にあります。エルミナにアスンシオンの援軍が来るのに、ファルスにデモニアやカンバーランドから援軍が出ない理由はどこにもない。しかも、アスンシオンとエルミナは、内心はお互い潰れろと協力する意志は皆無。しかし、ファルスに援軍に来るカンバーランドとデモニアは、ファルスを少なくとも本気で救援する為に来ますよ。カンバーランドはローランド戦役でファルスと強固な同盟関係にあったし、デモニアのベリアル族は昔からトルバドール族と仲良しで、ファルスの戦利品を融通してもらっている間柄。カンバーランドの動員力は15万ぐらい、デモニアは20万くらいかな。さて、彼らがファルスに合流した場合、どちらの同盟軍の方が実力を発揮できますか?」

「敵に兵力を増強するためのアテはあるということですか……」

「レン殿の話はわかった。ではレン殿なら、どうやって勝つ?」


 ローザリア卿は質問を作戦の問題点の分析から変え、どうやって勝つかを訊ねた。


「スミルノフ参謀長が考案したものよりも、もっと慎重で確実な策がありますよ。これなら目的を達成できるという、とてもいい策が」

「ほう?」

「我々はサマルカンド、ヒヴァ、コーカンドに既に駐留しています。この三都市はエルミナの政治と産業基盤の中枢と言っていい」

「その三都市と周辺地域だけでエルミナの人口の70%は集中していますね」

「だから、エルミナとの同盟の盟約なんて守らずに、各都市に駐留した師団を使って、一斉に都市を掌握してしまえばいいんです。最強の聖女連隊と謳われる処女の娘様も、“陽彩”は這い寄る男を振り払う能力じゃないから、宿舎を男に夜這されたらあっという間に終わり。王女もついでに捕えて、ちょうどいい女の隔離施設である後宮に送りつけておけばいいんですよ。情報統制がされた密室の後宮に押し込んでしまえば、皇帝陛下がその気になれば、心がどうでも、身体は男の自由にできるじゃないですか」

「それは…… 盟約違反を咎められて反乱が起きるのでは」

「現在の我が軍の配置ならエルミナの中核となる軍事拠点は簡単に抑えられます。強兵のファルスと戦うよりよっぽど楽です。それに、どうせ貴方達はエルミナを併合するつもりなんでしょう。反乱しようと考えている人は、後で結局その時に反乱しますから、相手に反乱計画を練らせる時間的余裕を与えない分、そっちのほうが被害は少ない。この上策なら、たぶん1万~2万ぐらいの死傷者で済みますかね」


 レンの案は卑怯極まりない戦法である。エルミナに対して味方を装って騙し討ちにし、重要拠点と政治基盤、そして王女さえも奪ってしまえばいいというものだ。


「で、そのままエルミナの政権を奪って外交を自由にしてしまうのです。あとはファルスと交渉して、テルメスより南をファルス領、北をアスンシオンと分け合ってしまえば戦争は終わり。ファルス側は安全保障上の中立地帯が欲しいだけですよ。いいじゃないですか、くれてやれば」


 レンは得意気に案を語る。ローザリア卿もグリッペンベルグ卿も、それが効果的な策であることは頭では理解できるが、実行可能かと聞かれると、精神的に無理な作戦案である。


「いや、エルミナは我が国を信用して援軍要請をしているというのに、それを騙して国を奪うような案は、“啓蒙の法”に従う我々にはとても立案できるものではない」

「エルミナは我々との条約、“啓蒙の法”の盟約とやらを守るつもりはありません。自国が困った事になったので使い潰してやろうというだけです。我々の真の目的はエルミナの併合なんでしょう?  だから、やっちゃえばいいんですよ」

「そんなことをしては我が国の栄光の歴史に汚点が残るのではないですか」


 騎兵大隊長のタクナアリタ卿はレンの卑怯の案に対し反論する。


「エルマリア王女を捕えて後宮に送り込んだ後、皇帝と王女の子をエルミナ太守にすれば、未来に汚点なんてどこにも残りません。我々の正統性抜群です。ここ数年の評価じゃなくて数十年後の評価の方が重要でしょう。この案が実行できないのは、物質的な制限があるからじゃない。貴方達に精神的な制約があるからですよ」


 レンは戦争を精神論だと語った。ローザリア卿もグリッペンベルグ卿も、精神論で自軍の隙を説明され、そして精神論によって敵を打ち破る方法を聞かされている。


「しかし、外交的な裏切りの策は難しい、他に戦略的に勝つ方法はないのか」

「では下策ですが、全軍を敵中枢に進軍させて大軍で踏み潰すのがいいでしょう。まず、敵が河川艦隊の対策を準備する前に、速攻で船を駆って強引にテルメスにあるファルスの渡河地点を奪い取ります。その地点に強力な歩兵のテーベ族、ヴァン族を上陸させて死守させます。この楔を打ち込んで敵の行動を拘束するのに合わせ、全軍を一気に南下させれば、相手がどんな強兵でも支えきれません」


 ローザリア卿は驚く、レンの示した案は軍議の席で、ドノー伯が主張した強引な暴論と同じであったからである。そしてその案は一蹴されたはずであった。


「敵にも法兵はいるのだ。法撃によってこちらの被害が甚大なものになるのではないか」

「こちらの下策の場合は、だいたい3万~8万の被害が出るでしょうね。でも、被害が出るから、どうしたというのです。我々はエルミナ併合という美味しい果実を得るために、戦争という非常手段を仕掛けているのですよ。その程度の犠牲も払う勇気がないなら、戦争の結果に利益を得ようなんて思わないことです」


 レンの指摘は手厳しい。スミルノフ参謀長の消極案が採用されたのは、味方の被害を避けているのに、エルミナ併合という目的を達成しようと考えているから。目的達成の為に犠牲は避けられないのだという。


「レン殿の指摘は分かった。この先の状況が楽観できないにしろ、この地に戦力を持って立っている我々には何か出来る事があるはずだ。だから今は我々で可能な事を進めたいと思う。レン殿、今の我々だけで現状を少しでも有利にできる策はないだろうか?」


 戦略方針の見通しを聞いたところで、1つの師団長に過ぎないローザリア卿に出来る事は限られている。師団長はレンに現在可能な策がないかどうかを尋ねる。


「そうですね。では、彼らがやりそうな事を考えて、こういう応手はどうでしょうか」


 レンはローザリア卿にある策を耳打ちした。


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