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審判1~人生交換2⑤

「エリンちゃん、あたし…… ずっとあなたの事が……」

「リッカ…… 私もよ。貴方の事が気になって、夜も眠れない……」


 2人のアリス族の娘は視線を合わせ、潤んだ表情でじっと見つめ合う。

 彼女達は甘い香りを漂わせ、光沢のある長い金髪、幼げな顔、まさに美少女種族という名に恥じない輝きを放っている。

 その2人は、お互いの顔をゆっくりと吐息が届きそうな距離まで近づけていく。


「ねぇ…… キス…… してもいい?」

「うん」


 その問いに、顔を赤らめ恥ずかしそうに頷くアリスの少女。

 2人は両手と両脚を絡み付かせ合うと、そのまま深く口づけを交わし合う。

 お互いの乳房も圧迫しあう程身体を密着させ、互いの肌の温もりを感じあっていた。


「んっ!」


 片方のアリスの娘は、恍惚とした表情で可愛い声で漏らし愛し合う悦びを示す。

 そんな女の子同士の甘い情事はしばらく続いた……


挿絵(By みてみん)


「うぉーーーっ!」

「すっげぇ、萌えるッ!」

「本物の百合だーー」


 突然、堰を切ったようにはしゃぎ始めるギャラリー達。舞台の上で口づけを重ね合う2人の少女の周囲には、1000人近い娘達が、そのアリスの美少女の濃密な百合シーンをみて興奮している。


 もっとも、それを見学する彼らの身体も、全員アリスの美少女であった。


****************************************


 帝都アスンシオンの市内にアリス族が集まる館がある。アリス族には、アリス倶楽部という、情報交換のための組合のようなものが存在し、定期に集まって会合を開いていた。

 情報交換が主だが、催し物などもあるし、彼女達の好きなゲームなどの余興も行われる。運営は完全に寄付によって賄われている。彼女達に寄付をする男は後を絶たない。


 その日も、帝都中の若いアリス族達が館で最も大きい「白兎の間」に集まって、お茶会を開いていた。

 だが、今日の催し物は今までにない異常なものである。

 舞台の上で、アリス族のリッカ・アティラウと、エリン・メンショーフの姿が見つめ合い、そしてお互いを抱擁しながらディープキスをしている。

 そして、その淫靡な様子を周囲にいるアリス族の美少女達は、興奮しながら囃し立て、じっくり鑑賞しているのである。


 行為を除けば、外見上は全員アリス倶楽部のメンバーに違いはない。だが、その中身は完全に別物であった。


“イ=スの奇跡”によって、リッカ・アティラウの身体はムラト族旅団第1衛生大隊の大隊長フロッドに、そしてエリン・メンショーフの身体はムラト族旅団第2衛生大隊の大隊長エイロイによって奪われていた。

 それは壇上の2人だけではない。

 この館にいる全ての若いアリス族の美少女達は、ムラト族旅団の男達によって、文字通り、彼女達の全てを奪われていたのである。


 彼らムラト族は変った趣味を持つ者が多い。そのうちムラト族の男性の一部が嗜好するという百合シーンを実際にやって試していたのである。

 妄想だけの夢物語が、現実に目の前に現れ、その香り、吐息、肌や胸の柔らかさ、それらを感じると、彼らはすぐに興奮を始める。

 そして、すぐに自分でそれを楽しみたくなり、2人組になって同様の行為をし始めた。

 彼らに身体を奪われた美少女達は、既に彼女達のプライベートゾーンのあらゆる秘密、生理的機能を知られている。だが、自分の身体だけでは、こういう絡みのシーンは作り出すことは出来ない。

 彼らは見た目には女の子同士の甘くせつない、中身は男の偏狭な欲望の行使として、狂気にも満ちた淫靡な空間を作り楽しんでいた。


 そのようなアリス族への集団凌辱行為が行われているところへ、訪ねて来る者がいた。

 第21妃メトネ・バイコヌールの身体を使うフローラと、ミッフィー・メンショーフの身体を使うレンの弟子のリンクである。


「ちょっとあんた達、その身体で楽しむのはいいけど、自分達の仕事は忘れてないでしょうね」


 百合演劇が行われている白兎の間に入るなり、フローラは彼らに冷たくいい放った。

 この集団で精神も女なのは彼女だけである。


「はっ! アリス族連隊フローラ監察官に敬礼!」


 白兎の間の出入り口付近にいたアリーナ・リャザンの身体を使うムラト族衛生連隊の隊長エルヴィスは、屋内中に可愛い声で号令を掛ける。

 すると、室内で2人組を作って痴態を演じていたアリス族達は一斉に直立して向き直った。


「総監、今回の寄付金集めのテーマは百合にしようと思うのですが」


 アリーナ・リャザンの身体を使うエルヴィスはすぐに現状を報告する。

 彼ら衛生大隊はアリス族の身体になったため、通常の身体的な訓練はほとんど免除されていた。最低限の体力錬成程度で武器を扱う訓練はない。

 その代わり、戦時での味方に対する支援、それに役立つ一般技術の取得を命じられていたのである。

 ちなみに、百合シーンが見たいと最初に提案したのは連隊長のエルヴィスであった。


「あのねぇ、百合が流行るのはムラト族文化だけよ。あなた達がこれから商売する相手は、『ラグナ族の男の身体を使うラグナ族の女』なのよ、誰がそんなテーマに金を出すのよ」


 フローラはメトネの顔で呆れた表情で言った。


「しかし、美少女を見ると女性も『カワイイ』って持て囃すじゃないですか」

「男の可愛いと女の『カワイイ』は意味が違うのよ。それに、ラグナ族の女はアリス族を嫌っているから、無理に決まっているでしょう」


 連隊長のエルヴィス、大隊長のフロッドとエイロイは考え込んでしまう。儲けつつ、味方の支援にもなるようなうまい方法など思いつかない。

 もちろん彼らは美少女なので、その甘い体躯を遣えばいくらでも宣撫になりそうだが、応援する味方の身体も女の子なので、精神に訴えるような技術的なものでないとダメらしい。


 アリス族は、働くのを嫌う種族である。アリス族が得意な職種などない。

「微笑んで座っていれば誰かが仕事をやってくれ、おねだりすれば必要な物を誰かがプレゼントしてくれる」というアリス族を示した成語はそれを端的に表している。

 だが、そういう文化を持っていたアリス族の精神はその全員が身体から追い出された。

 そして、彼女達の身体にやってきた彼らも、アリス族の魅力に陥り始めている。

 なにせ、自分の身体がとんでもない美少女なのである。鏡をみて、いろいろとするだけで男としての欲望の大半は満たされる。わざわざ苦労して技術を磨いたり仕事をするのが面倒になってくるのだ。

 だが、それでも彼らはムラト族旅団として、旅団長のレンに臣従していた。もちろんその娘であり、アリス族部隊の総監であるフローラにも敬意を払っている。それに、身体の性能に妥協していると厳しい上司に身体を没収されることもありうる。


「しょうがないわねぇ、じゃあリンク。あの案を」

「了解」


 隣にいた彼女の同級生であるリンクは、70cmぐらいの白い片手用の棒を取り出した。


「これは、棍棒ですか」

「バトンに決まっているでしょう。今日から、アリス族連隊は全員でバトントワリングチームを組んで、支援部隊としての味方の宣撫を行います。もちろん、平時にはイベントを盛り上げる華としても使えるわ」


 フローラは、メトネの身体を使って器用にバトンを回転させて見せた。


「おおーっ、総監上手い!」


 その手慣れた動作は見事なものである。そのままフローラはバトンを使った基本技を見せた。その動作を見ているだけで相当に練習が大変なことは理解できる。


「えー、でもそれ、めんどくさそう……」


 一部の隊員から不満の声が上がる。


「あのねぇ。アリス族は腕力も体力も敏捷力もないけど、唯一器用なのが取り柄なのよ。これぐらい練習すれば誰でも簡単にできるようになるわよ」

「普通にチアリーディングでいいじゃないですか。ボンボンもってフレーッフレーッて」

「あんた達、チアリーディングをナメてるわね。アリス族は背が低いし、体力が乏しいのよ。スタンツでは持ち上げたり、ジャンプしたりするから、アリス族はそんなに向いていないわ。それじゃラグナ族の女の子の身体を使う他の支援部隊に負けるでしょう」


 フローラは意外にかなり負けず嫌いのようである。

 それだけではなく、アリス族を信奉していて、その種族としての力をもっと有効活用したいと考えているようだった。


「それに、あなた方の大好きなバトントワリング用のマーチングバンド衣装を軍が支給するわよ」


 衛生連隊のムラト族旅団員達は考えた。

 アリス族総監は指揮官ではない。だから命令権があるわけではない。隊長はあくまでエルヴィスで、フローラは監察・相談役である。

 だが、実際のところ、彼らは男なのでアリス族に何ができるかなど考えたことはなかった。男なので、美少女を楽しむ事しか眼中にない。もちろん女としての基本事項も知らない。


「総監、了解しました。衛生連隊の職務として、今日からバトントワリングを訓練いたします」


 連隊長のエルヴィスは了解する。隊員達も、美少女たちがチームで演技するバトントワリングをイメージしてやる気が出て来た。


「それからあなた達に、前回の教養で最低限の身嗜みを整えろって言ったわよねぇ……」


 フローラは隊員達の様子をよく見ると、急に顔に怒りを滲ませ、顔を強張らせている。


「は、はい。一応、教わった通りにみんな服を着ていますが……」


 フローラはいきなり、近くにいたアリス族の娘のスカートを捲って、穿いていた白いタイツを指さした。


「うわっ?」

「あんた、タイツが表裏よ! 男の靴下みたいに平気で逆に履いてんじゃないわよ!」


 次に、奥にいた娘を指さす。


「そこっ! そっちの3人はリボンの結び方がめちゃめちゃじゃないの! それに髪をちゃんと梳かしなさい!」


 フローラは隊員達の身嗜みを厳しくチェックした。

 まるで女子高の生徒指導のようである。だが、指摘事項は全て女性としての基本事項なので、彼らも文句の言いようがない。


「あなた方はアリス族なのよ。自分達の可愛さを磨きなさい。そしてそれをお父様に捧げるの。わかったわね? じゃないとお父様に言いつけて身体を没収するわよ」


 フローラの身体没収という発言を聞いて、慌てて髪の毛や服装を整える衛生連隊員達、フローラの指導を真剣に聞き、リボンの結び方を再度習っている。

 もちろんこの程度の女子としての身嗜みなら、怠惰なアリス族の精神でも行うことだ。


 ただし、フローラは身体の服装や清潔は指導したが、彼らの態度や行為は指摘しない。

 アリス族の美少女達は、脚を開いて座り、下着丸見えで脚を組み、人前で平然と下品な行動や卑猥な会話をした。

 だがフローラは彼らを男の仲間だと思っており、精神はあくまでムラト族の男で、行動や態度、会話までアリス族である必要はないと考えている。

 そして彼女は、彼らがさっそくバトンの練習を真剣に努力する様子を見て満足していた。

 この人生交換によって、確かに彼らは美少女の身体を手に入れ、その男性としての精神的欲望を満たしているかもしれない。

 しかし実は、この状態を希望したのは男の彼らではなく、女のフローラである。


 彼女は、以前アリス倶楽部の娘達に受けた復讐を果たした。アリス族の苦労を知らない娘達の精神は二度と「カワイイ」と言われることのない醜い身体に飛ばされ、恐るべき苦痛と人生の労苦を味わっているだろう。

 そして、彼女は、彼女が理想とする「カワイイ」アリス族に、彼らを自由に訓練することが出来るのである。


 それだけではない。

 その美少女達のすべてを、彼女が愛するお父様に捧げることができるのであった。


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