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愚者5~約束された平和③

 停戦破りという作戦自体は古今東西、どこでも存在する。皇帝レン独自の考案というものではない。


 もちろん、手練れのファルス側も警戒していた。撤収の最後尾には大将軍アル・タ・バズスが自ら勤めている。

 分遣隊将軍ハサン・トゥトシュは、早くもカラザール市方向に向かって帰路の確保を目指していた。


 捕虜は、カザン公に、降伏したプルコヴォ公、テニアナロタ公の長男マチスなど、著名な名家ばかり。彼らを見殺しにするとも思えない。

 彼らが提示した条件も、相手が納得できない内容ではない。条約を守ればタダで占領地は返される。

 だから、敵がそこまで徹底的にやって来るとは考えていなかったのである。


 しかし、彼らの敵、いや、その男はファルス軍を全力で潰しに来た。


****************************************


「どこの隊よ!? 帝都を攻撃しているのは!」


 帝国歴3017年8月17日正午ごろ、ファルス軍航空騎兵隊“シュトゥーカ”隊長のアイーシャは、プリンセス・ラインの西側に建設された飛行場で、ファルス軍の航空騎兵が帝都に焼夷擲弾を投げ込んでいるという情報を得た。

 遠くから偵察していた隊員がその状況を目撃し、直ちに報告したのである。


「停戦が発効した今、帝都で焼夷擲弾を落とす部隊なんていません。我々の航空騎兵に扮した敵の謀略では?」

「ありうるわ! 敵が奇襲を掛けて来る前兆よ。本陣に連絡します。索敵を密に、敵の動向に警戒をして頂戴」


 アイーシャは、すぐに帝国軍の条約破りを疑った。

 そして自ら愛騎に跨って発進準備を整える。


「整備班も全員召集して、もしかしたら今日は大きな戦いに――


 そこまで口にしていたアイーシャの口がピタッと止まる。周囲にいた航空騎兵の隊員達の動きも、同時に止まった。

 静止したのは僅かな時間だけで、彼女達はすぐに動き出す。


 しかし、再び動き出した彼女達は、それまでの行動など、まったく心得ない奇妙な行動を取り始めた。


 アイーシャは、突然、周囲をキョロキョロと見回し、下を見る。すると、いきなり自分の股間に自分の手を入れてその状態を確認し始めたのである。

 その異様な行動を取ったのは、彼女だけではない。周囲にいた航空騎兵の乙女たち全員だった。

 アイーシャは、その状況を調べると、自らの愛騎から降りて、周囲に号令した。


挿絵(By みてみん)


「ムラト族第2騎兵連隊の隊員、集まれ!」


 アイーシャは、なぜか自分達をムラト族第2騎兵連隊と言っている。

 ムラト族第2騎兵連隊は、レナ軍が撤退したため、東方から集めることができたムラト族の若者を中心の部隊であり、2日前に結成されたばかりの最も新しい騎兵部隊だった。


 騎兵と名乗っているが、まだ騎馬はおろか、武器も装備も与えられていない。一応、故郷でレナ軍相手に自警していた時に、基本的な部隊訓練だけはしている。


 結論から言えば、このムラト族第2騎兵連隊は、いきなり武器と装備、そして航空騎という高価な騎馬、そしてその航空騎を使える処女の身体を手に入れた。

 東方戦線で敵から逃げ回る事しかできなかった彼らが、いきなり、ファルス軍最強の航空騎隊をまるまる手に入れたのである。


 アイーシャ達“シュトゥーカ”の隊員、そして整備兵の身体は、新しい所有者によって整列させられた。

 そして、彼らは一通り新しい身体の機能の確認を終えると、すぐに、味方の航空騎を出迎える準備を行う。


 帝国の航空騎兵、“ミラージュ”“アルセナル”“シュペルミステール”の身体を使うムラト族第1騎兵連隊が、この飛行場に到着する予定だった。


 すぐにも、2000騎近い航空騎が次々と飛来、飛行場に着陸する。彼ら、“シュトゥーカ”の隊員の身体は、その敵の航空騎兵の身体を、手を振って出迎えた。


「ハリー隊長、こちらの制圧は問題なく終了しました」

「ホアン、よくやった。既に総攻撃が開始されている。我々もすぐに出撃する。補給を頼む」

「了解しました」


 アイーシャはホアンと呼ばれ、彼ら“シュトゥーカ”の精鋭達とその整備兵は、すぐに帝国の航空騎の整備を開始した。勉強した通り、燃料を補給し、羽の被膜の損傷をチェックする。ファルスの精鋭航空騎兵達がまるで雑用係である。


 新しいアイーシャ達の身体の持ち主である第2騎兵連隊は、航空騎で飛行するのに必要な技術を何も持っていない。

 飛来した第1騎兵連隊の隊員達も、まだに二週間くらいしか訓練していないが、一応、猛訓練により、航空騎を出発させて動かし、遠くから索敵、連絡するぐらいはできるようになっている。


 ファルス軍が建設した飛行場は、アカドゥル渓谷に布陣するファルス本陣と、プリンセス・ライン、帝都を望む中間地点にあり、絶好の中継地であった。

 ファルス軍は開戦初日、彼らの戦略上、最も重要な飛行場、そして航空騎兵たちの身体をすべて無傷で奪われたのである。


****************************************


 ファルス王国の同盟国であるカンバーランド軍は、プリンセス・ラインの南方に配置されていた。

 最盛期には7万近い援軍を送っていたカンバーランド軍だが、エルミナ王国を越えてアスンシオン領内へ送ったのは精鋭法兵である“賢者連隊”3000と、歩兵30000程度と半減させている。


 そのうち、“賢者連隊”と歩兵10000が、講和条約監視の為に最前線近くに配置されていた。“賢者連隊”の隊長ジーナを含めて、カンバーランド軍は、早く帰国することを心待ちにしている。


 その時、彼女達は、突然動きを止めると、周囲をキョロキョロと見回し、いきなり下を見る。

 そして、突然、自分の胸を揉み始めた。隣では部下たちも同じことをしている。


「ツァオン隊長、おっぱいデカいですよ~」

「う、うむ。そうだな」


 カンバーランド王国を構成するアリハント族は、R属カマラ系種族で生命力が豊かな事で知られている。特にカマラ系種族の女性はみな胸が大きいことで有名だった。

 アリハント族は帝国に住むアヴジェ族ともっとも近いという。

 その彼女達がまるで中年男性が巨乳にセクハラするように、自分の胸を弄っているのである。その痴態を終えた後、ジーナは胸を張って大きな声で号令する。


「ムラト族第2法兵連隊の隊員、集まれー!」


 ジーナは、なぜか自分達をムラト族第2法兵連隊と言っている。

 ムラト族第2法兵連隊は、レナ軍が撤退したため、東方から集めることができたムラト族の若者を中心の部隊であり、2日前に結成されたばかりの最も新しい法兵部隊だった。


 法兵と名乗っているが、まだ迫撃法はおろか、装備も与えられていない。一応、故郷でレナ軍相手に自警していた時に、基本的な訓練だけはしている。


 ムラト族第2法兵連隊は、いきなり武器と装備、そして迫撃法という高価な兵器、そしてその強力なPN回路持つ法兵の身体を手に入れた。

 東方戦線で敵から逃げ回る事しかできなかった彼らが、いきなり、カンバーランド軍最強の法兵隊を手に入れたのである。


 前線にいた、彼女達の法兵隊の視界内では、次々と「プリンセス・ライン」を越えて攻撃部隊が前進してくる。

 そして、前方にいるガンバーランド軍の歩兵隊10000は、その攻撃を阻止するどころか、すぐに白旗を上げて合図している。

 それだけではない。その隣にいた、ファルス軍が配置した後衛部隊30000も、白旗を上げて合図している。


****************************************


 ファルス軍で「プリンセス・ライン」の近くにいた、殿部隊を指揮する大将軍アル・タ・バズスは、帝国軍の攻撃開始時点から意味不明な言動をしている。周囲の兵士達も同様だ。


「さっすがご主人様の策よね~ 占領占領!」

「突撃しようよー。この身体強そうだし」

「いいね~」


 結論から言えば、ファルス軍30000とカンバーランド軍10000、大将軍アル・タ・バズスは、すべてレンの飼っているマリル族の娘、リルリルと身体を入れ替えられてしまっていた。


 彼女達は、帝国政府に察知されるのを防ぐため、イリ周辺に隠れ住んでいた。

 ムラト族旅団が帝国政府に警戒されていたのは知っていたし、マリル族は帝国では人間とは認められていない。帝都に入る時に、レンと行動を共にしていては、捕まってしまうだろう。だから、しばらく隠れていたのである。

 しかし、帝都で発生した“イ=スの奇跡”の後、レンが帝国をクーデターで乗っ取ったので、帝都に戻って来ている。

 彼女達の持つ“単為生殖”という能力は、いくつかの犠牲と手順を踏んだ上なら、さらに強引な方法で短い期間により増えることが出来る。その分、寿命や知力は減ってしまう。

 しかし、こういう作戦で、1つの精神で1つの身体を奪うという事であれば、1人は1人であった。


 ファルス軍の後衛部隊は、万一に備えて配置された殿(しんがり)役を務めるファルス軍の精鋭である。また、奇襲に備えるために、急造ながらも陣地構築をしていた。本来であれば、訓練未熟な市民兵相手には十分戦える戦力のはずである。

 この精鋭部隊、そして航空騎兵隊はまったく戦わずに、文字通り身体ごと奪われ、全てアスンシオン軍の手に渡ってしまったのである。


 帝都の市民軍50万は、次の日にはアカドゥル渓谷北口付近まで突進する。

 この膨大な兵力には、帝都防衛線の市民兵の身体に入った女も、女の身体に入った市民兵も、ムラト族の難民志願兵でラグナ族の若い女の身体を手に入れた男も、ほぼすべてが参加していた。

 彼らはほとんど訓練されていない市民達で武器を持ってただ突撃するだけだったが、50万という圧力は尋常ではない。

 防御陣地が崩れ、精鋭が崩壊している状態で押しとどめることはできない。


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