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愚者3~無血クーデター③

 翌日早朝、政庁の大議事堂には、貴族家と何人かの市民が参集していた。ただし実際、どの身体が誰の精神かはわからない。


 開始時刻になると、皇帝の身体が雛壇に入って来る。議事場にいる者は、かつて皆そうしたように、一斉に起立し敬礼する。

 その多くが女性で、本来、女性はこのような敬礼はしないが、女性の身体で男性の敬礼をしている。


「さて、この帝都で発生したこの現象だけど、先に告示したこの法律で正式決定したいと思う。異論有る人はいるかな?」


 精神入れ替わり特別措置法、通称TS法の骨子は、精神準拠で財産権などを認める法律である。ただし皇家と貴族だけは、身体準拠で財産権を認めるというものであった。

 これは、皇帝と貴族は血脈を基本とした特権階級なので当然ともいえる。参加者から異論はなく、TS法については問題なく承認された。

 その承認は、同時に今目の前にいる皇帝の身体をアスンシオン帝国の皇帝として認めることである。


「TS法に異論はありません、しかし新皇帝陛下にひとつ質問があります」


 元第5師団長、ゴーヴィン・コンテ・タブアエランは、彼の次女クーデリア・コンテ・タブアエランの身体で発言する。


「新しい陛下は、この国をどうされるおつもりか。この現象を恣意的に利用されるのであれば、他の者達がどうであろうと、我が家は承認しない」


 タブアエラン伯爵は勇壮の士で知られている。決断や意見もはっきりとしていた。

 その隣で控えていた、長男のレーヴァン・コンテ・タブアエランは、タブアエラン伯爵の長女、つまり妹のナーディア・コンテ・タブアエランの身体で、父の直言に恐縮している。

 本来、臣下の身分で皇帝に異を唱えることなど憚れることである。それを父が、堂々と唱えたのである。もちろん、精神は父でも身体は妹の身体であったが。


「タブアエラン伯爵、わが国は未曽有の危機に瀕している。私は、皇帝の責任として迫りくる敵を倒し国を救うよ」

「陛下の心が誰かは息子より聞いています。だが、このような現象にある以上、我が部下の6万の兵を直ちに戦闘に投入するつもりはありません」


 TS法を解釈すれば、タブアエラン伯は新編成中の帝都師団の司令官である。彼ははっきりと、女性の身体になった兵士達も、兵士の身体になったその妻や娘達も、すぐに戦うことはできないと説明した。

 そして、その意見を唱えたのは彼だけではなかった。


「帝都南のカバンバイの丘陵には、ファルス軍に対しての市民から徴兵した防衛部隊20万が配置されています。これも全員が帝都の女性の精神が入り、その防衛部隊だった市民達は女性の身体になってしまっています。私も防衛司令官として、この兵士達で戦うことはできません」


 そう発言したのは、皇后エリーゼ・コンテ・ヴォルチの身体を使う、アンセム・コンテ・ヴォルチである。

 もっとも、彼だけは今回の事件で入れ替わったわけではない。


「防衛に関しては、とりあえず我が配下のムラト族旅団と、すぐに応対可能な仲間達だけで戦うよ」

「しかし、南から来るファルス軍は20万、東から来るレナ軍は30万、たった3万程度の兵力でどうやって敵を倒すのです?」

「北から来るアテナ族の白海王ロックズヒルの海賊船団も驚異ですね」


 カラザール伯の長女、第76妃ミーティア・コンテ・カラザールの身体を使う、ルーファス・コンテ・カラザールが言った。彼は次男であるが、伯爵が行方不明となり、長男は当主代行を辞退したため、名目上彼が当主代行である。


「もちろん、すぐに全ての敵を倒すことはできないさ。しかし対応はできる。それで時間を稼いでいる間に、君達の協力を得て、効果的な体制を作る必要があるね。あと、もし私に敵を倒す力が無いと判断するなら、自領に帰ってもらって構わない。TS法は恣意的ではないから、君たちの貴族の身分はとりあえず保証されているから」


 皇帝ははっきりと、そう告げた。

 その場にいた多くの貴族達は迷っていた。身体は皇帝でも精神は別人である。だが、その身体には確かに皇家の血が流れている。

 前の皇帝の精神は国難に際して職務を放棄し、一か月も自室に引き籠っていた。

 彼ら貴族として皇家に対して忠誠心に揺らぎはない。しかし、皇帝の血筋のない皇帝の個人に対して忠誠を誓うわけでもない。

 それに、大きな問題もあった。精神が別人だから、今の皇帝を認めないとすると、自分たちの身体も別人なので貴族として認められない者も出て来る。


 結局、とりあえず帝都は現状維持で新体制を確立させ、戦闘はムラト族旅団だけが行うということで了解された。


「それじゃあ、TS法が施工されたところで新体制を作るよ。各自任命された職務を執行するように。まず、帝国宰相には前陸軍大臣ワリード・ヴィス・グリッペンベルグを任命する」


 実は、この指名には彼の孫の第24妃リオーネ・ヴィス・グリッペンベルグの身体を使う、ダルボッド・ヴィス・グリッペンベルグから内々に内示があった。

 しかし、今のグリッペンベルグ伯の身体は、その孫娘のリリカ・ヴィス・グリッペンベルグである。リリカは5歳の少女。会議机に背が届かないので、椅子に馬の鞍を置いて立っていた。


「謹んでお受けしたいのですが、私はこんな孫娘の身体。それに65歳を過ぎると首相職にはなれないと法で決められています。職務を執行できるかどうか……」


 帝国の“啓蒙の法”では行政の長である首相職、もしくは侍従長を兼ねた宰相職はその健康上の理由から定年制だった。

 この法律は、過去に老齢の宰相がその職に留まったため、健康上の理由で働くのが困難になって、弊害が発生したためである。


「別に、身体が未成年でも宰相の仕事は適切な判断を下すだけ、仕事をする分には何の問題もない。定年制も健康上の理由からでしょう。実績から考えても卿が適任だよ」


挿絵(By みてみん)


 皇帝がそういうと、グリッペンベルグ卿は諦めて承諾する。以降の組閣は、グリッペンベルグ卿が行うことになる。

 もっとも素案自体はレンが最初から作成していた。グリッペンベルグ卿はその人事案を見て、それで決定するだけである。


 陸軍大臣は、次女クーデリア・コンテ・タブアエランの身体を使う、元第5師団長当主ゴーヴィン・コンテ・タブアエラン。

 警察大臣は、プルコヴォ公の後妻ベアトリーチェの身体を使う、フィリップ・コイスギンが留任。

 通商大臣は、ニコリスコエ公の孫のミッフィー・デューク・ニコリスコエの身体を使う、冤罪で投獄されていた元経済官僚の当主フィルス・リッツ・パーペン。

 外務大臣は、姪の第50妃ルーラ・ヴィス・ヴェネディクトの身体を使う、叔父のヴィラード・ヴィス・ヴェネディクト。

 騎兵総監は、ヤロスラヴリ家の若い後妻シレーヌの身体を使う、タクナアリタ家当主で元第21師団長の当主ルーデティン・リッツ・タクナアリタ。

 法兵総監は、タクナアリタ家の若い後妻ヴィータの身体を使う、ヤロスラヴリ家当主で元アスタナ要塞司令官の当主バンドゥール・リッツ・ヤロスラヴリ。

 陸軍参謀長は、ウェイトレスのマリアンナの身体を使う、元ムラト族旅団第2歩兵連隊第3大隊長ガスト。


 帝都師団長は、姉の第38妃アンネ・リッツ・ローザリアの身体を使う、元第13師団長で当主のランスロット・リッツ・ローザリア。

 帝都師団副官は、元第4師団長で兄のロウディル・コンテ・マトロソヴァの身体を使う、第16妃レニー・コンテ・マトロソヴァ。

 帝都師団参謀に、従兄妹の第24妃リオーネ・ヴィス・グリッペンベルグの身体を使う、元第13師団参謀で従兄妹のダルボッド・ヴィス・グリッペンベルグ。

 帝都師団騎兵長に、第9妃オフィーリア・リッツ・ヤロスラヴリの身体を使う、元第13師団騎兵長のマーティン・リッツ・タクナアリタ。

 帝都師団法兵長に、第15妃ラーナ・リッツ・タクナアリタの身体を使う、元第5師団法兵長のバーベル・リッツ・ヤロスラヴリ。


 帝都防衛司令官は、妹の第39妃で皇后のエリーゼ・コンテ・ヴォルチの身体を使う、アンセム・コンテ・ヴォルチ。

 帝都防衛副官に、妹の第25妃ナーディア・コンテ・タブアエランの身体を使う、元第5師団騎兵長で兄のレーヴァン・コンテ・タブアエラン。

 帝都防衛参謀に、妹の第78妃レシア・リッツ・フォーサイスの身体を使う、元第20師団長で兄のシムス・リッツ・フォーサイス。


 そして、ムラト族旅団は後宮師団と改称され、ほとんどが元ムラト族旅団の所属だった精神のままである。

 ただし、ラグナ族でも後宮師団に加えられた者もいる。

 後宮騎兵長に、妹の第8妃プリムローザ・コンテ・ドノーの身体を使う、元第18師団長で当主のハティル・コンテ・ドノー。

 後宮法兵長に、妹の第16妃レニー・コンテ・マトロソヴァの身体を使う、元第4師団長で当主のロウディル・コンテ・マトロソヴァ。

 そして海軍司令官に、姉の第76妃ミーティア・コンテ・カラザールの身体を使う、弟で当主代行のルーファス・コンテ・カラザールが配置された。


 閣僚の任命等はここにいるメンバーから考えれば、それほど意外な人事ではなく、異論なく受け入れた。

 だが、個々の任命された者達からは情勢について異なる意見も出る。

 最初に意見したのは、皇后のアンセムだった。

 もっとも、彼の役職は変わっていない。


「陛下、カバンバイの防衛陣地に配置されている兵士たちは精神が女になってしまっています。これでは到底敵を防げません。なんとか訓練している兵士を配置してもらえないでしょうか」

「ああ、君の防衛線には20万の兵力を増員する」

「20万!?」


 新しい閣僚たちからは驚きの声が上がった。


「帝都に戻った市民兵20万の精神と、防衛線にいる市民兵の身体20万、合わせて40万」


 帝国では、有事の際でも女性は徴兵されない。

 ところが、このシオンのもたらした“奇跡”の所為で、誰が男か、誰が女かという基準はとても曖昧になってしまった。そのため、この皇帝は国防の為に性別に関わらず全員を動員するという。


「ちょっとまってください。女の身体の市民兵じゃ、戦闘で使い物になりません!」

「でも、精神は君が一か月かけて訓練した兵士じゃないか。軍隊っていうのは体の弱い者もいれば強い者もいる。それを上手く使いこなすのが指揮官の役目だろう? それに防衛陣地の構築はそういう者達でも戦える為にするんだ。違うかい? 戦闘未経験の宮女を指導して三か月の後宮籠城を成功させた皇后さま?」


 新しい皇帝は意地悪に促した。


「それはそうですが……」

「じゃあ、頑張ってくれ。もちろん、訓練や工事には指導員は必要だから、君がやりやすいように幕僚には優秀で気心の知れた親友を付けたよ。他にも帝都師団の工兵隊の精神持ちは全員君の防衛線に送り込む。具体的な計画は任せる。ファルス軍の進撃を防げるだけの陣地を作り、帝都を守ってみせなさい」

「……了解しました」


 アンセムはレンという男のやり方について、未だに納得できない部分があった。

 彼はレンの今までの戦い方から犠牲を厭わない性格だというのを知っている。

 勝利の為なら容赦なく市民兵を切り捨てるだろう。


 だが同時に、この男は防衛線を突破されたら帝都を捨てて焦土作戦をすると明言していた。

 帝都のインフラをすべて破壊し、帝都市民の人口そのものを明け渡して敵の負担にする。

 この窮地を凌ぐにはそれしかないかもしれない。だが、その場合、帝国は再生不可能なほどの打撃を受けるだろう。

 それを防ぐには、帝都南の最終防衛線「プリンセス・ライン」で敵を食い止める。アンセムもそれが分かっているから、強固な防衛線の建設に腐心していたのだ。


「ローザリア卿はレニーと協力して、帝都師団の編成に当たってくれ、編成の方針の素案はすでにレニーが考えてくれているから、それで進めてほしい」

「了解しました」


 ローザリア卿は了承するが、彼にも腑に落ちないところがあった。副官が彼の先輩の身体の妹である。

 そして、その先輩の話では、レニーはこの計画を最初から知っていて、彼らに協力しているという。

 彼が不満なのは、彼もレンと一緒にずっと行軍していながら、今回の計画を知らされなかったからである。


「まぁ、ローザリア卿、そうムスっとしないでほしい。君はリュドミルにも忠実な男で、それも評価している。万一のことを考えれば当然だよ。それに、君の大好きな姉上の身体は他人に渡さずに済んだだろう?」

「……いえ、臣下の身分で私は特に不満を申し上げることはありません」

「はは、まぁ君の才能は評価しているから頑張ってくれ」


 ローザリア卿はそれでも不満気だったが、すぐに敬礼して引き下がった。


「陛下、我が部隊の隊員達は全員女にされてしまいました。騎兵は女では務まりません。どうにかならないでしょうか?」


 師団騎兵長に任命されたマーティン・リッツ・タクナアリタは、不満を漏らす。

 隣の法兵師団長に任命されたライバルのバーベル・リッツ・ヤロスラヴリに比べて彼の負担は非常に重い。

 理由は簡単である。法兵のPN回路は平均すると女性の方が高い。だから航空騎兵に続いて、法兵は女性の割合が多い兵種だった。

 法兵隊の男性もすべて女性の身体にされてしまっているようであるが、確認したところ彼らが入れられたのは全員、今までより強力なPN回路を持ち、さらに“ヴェスタの加護”持ちの身体になっているようだった。さらに元々女性の法兵も、別の身体であるが女性の法兵になっている。

 つまり、法兵は実質的に戦力が大幅に強化されているといっていい。問題点は男性の法兵が慣れていないスカートの制服を着ることになるぐらいだろう。


「ところで、マーティン君。古代から続いているオリンピックという競技大会で、ずっと続いていて、男女を区別せずに対戦する唯一の競技を挙げてみて」

「馬術です……」

「正解。じゃ、がんばって」


 レンの回答はあっさりしている。要はそのままやれということである。


「南から来るファルス軍は皇后様が防衛線で固めて凌ぐとして、陛下はどのように敵と戦うつもりなのですか?」


 新宰相のグリッペンベルグ卿が質問する。

 帝国最年長で、要職を歴任した老練の大臣であるが、見た目は幼女なので何かが変だ。


「そうだね。まず速攻でレナ軍を叩く。先発隊はもうアスタナ要塞に向かわせているよ。私も今日中に出発する。帝都の事は卿に任せるよ」


 皇帝レンは、あっさりとレナ軍を叩くと宣言した。

 しかし、閣僚達はそれを素直に受け入れることが出来ない。


「陛下、速攻といっても、ムラト族旅団…… いえ、後宮旅団は3万程度の兵力。対して敵は30万もいるのです。そして、あのヴェルダン要塞をたった3日で落とすほどの精鋭、容易に倒せる相手とは思えません。陛下は皇家の大切な身体。危険に晒すような真似は……」

「嬉しいけど、そりゃダメだね。そこにいるアンセム君は知っているし、宰相には以前、タルナフ卿の事件の時に説明しただろう? 責任者、つまりこの身体にすべての責任を押し付けて外交的に妥協するのは、なかなかいい手だって」

「それは……」

「私が負けて死んだら、そうすればいいさ。だけどね、レナ王国は本気で帝国を滅ぼすつもりはない。そこを突けば上手くいくと思うよ」


 マトロソヴァ伯とローザリア卿は、不思議な感覚を感じていた。

 彼らは、何度かレンの策を聞いたことがある。その洞察的な雰囲気をあの直情的な皇帝が語っている。

 見た目はラグナ族の壮健な男子である皇帝なのに、彼らにはムラト族の貧相な老人、レンに重なって見えたのだ。

 そのため、当時の気分になって質問をしてしまった。相手が皇帝なのに論客を相手にしているように質問をしたのである。


「しかしレン殿、レナ王国は30万も動員し、既にエステル川流域に入ったと聞いています。このまま西進して我が国の併合、もしくは東半分ぐらいは奪うつもりなのではないでしょうか」


 マトロソヴァ伯は、思わず皇帝を呼び捨てにしてしまったが、皇帝は気にせず微笑んで答えた。


「それはないね。彼らの意図は20年前に喪失した、プトラナ台地、ヴェルダン峠、タイミィルの奪還、それ以上はないよ。国王オロフ・アクセルソンはレナ族特有の死病に罹っていて、あと余命半年というじゃないか。今、帝国が混乱しているチャンスを逃したら、領土奪回が出来ないっていうんで介入して来たんだ」

「彼らは、我が国を滅亡させようとしてファルスと手を組んだ侵略ではないと?」

「うん。もしそうなら、カルシの大敗を知ってから介入してくるよ。ところが彼らはカルシの戦いよりも前に侵入してきた。おそらく、欲しい物があるからなんだ。だから、レナ族にはエサを与えてご帰宅願う。そのためには少し叩いて脅かさないとダメ。勢いがあるうちは交渉ってまとまらないからね」


 ここにいる者達は、リュドミルという男を知っていた。その皇帝が、まるで人が変わったように的確な判断をしている。


「ルーファスは予定通り、港町オムスク市へ向かってくれ。与えられた作戦は分かっているね?」

「はい、先生」


 ルーファスは微笑みながら答える。


「じゃあ、質問はもうないかな。各々、思うところはあるだろうが、国難の時と考えて、そこは自らの職責を果たして欲しい。では解散」


 本来、皇帝が解散指示などしないはずである。しかし、まるで小隊長に命令するかのように指示したので閣僚達は目を丸くする。

 しかし、明確な方針が示されたことで、彼らはすぐに動き出した。


****************************************


 アンセムは会議の後、皇帝レンを呼び止めた。


「陛下、質問をさせていただいて宜しいでしょうか?」

「なんだい? 収容所にいるムラト族旅団の身体の女性達なら、すでに収容状態からは解放するように指示を出しているよ。ただし、慣れない身体でかなり苦労しているだろうけどね」

「陛下は…… リュドミルはどうなったのです?」

「ああ、彼か。彼は、ムラト族難民キャンプで暮らすムラト族一般女性になっている。元航空騎兵の美人だよ。もっとも今は、昔の面影はあまりない中年女性で、かなり恰幅のいい体型だけどね」

「……」

「なにか不満?」

「いえ……」


 アンセムはそれを聞いて、ショックを受けると同時に、自らの責任を痛感した。

 彼は、皇帝リュドミルの命を守るために、一般市民の犠牲を強いる作戦を立てたのである。

 彼が守ろうとしたリュドミルが一般市民の身体になったからと言って、それを憐れんでいたら、自分は卑怯者だったことになる。


「奴の思い通りに進んでいることには気に入らないが…… 今はファルス軍を防ぐ体制を敷くしかない」


 アンセムは正直な気持ちを呟いた。

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