第三回「まさかの妻バレ」
(ナレーション)「難敵信長公を独自の論理で退け、意気揚々と帰国した官兵衛を迎えたのはまるでおかんがしたごとく机の上に投げ出された自作DVDの山と、鬼の形相で仁王立ちする妻・光だったのでございます…」
「殿っ、なんですかこれはっ!?やけに電車での出張が多いと思っていたら、こんなことを…なんですかっ、この盗撮画像はっ!?」
「お、落ち着け光。それはその…あれだよ、仕事に必要なのだ。盗撮画像などと人聞きの悪い!ああああっあれは、すべて織田家、ひいては羽柴様のためを思ってしたことに相違なく」
「何が相違なくですかっ、どこが仕事なのです!ただの異常な趣味ではありませぬかっ!松寿丸に娘たち、何よりわたしというものがおりながらこの仕儀、光は納得いくように説明頂かねば、今宵は殿を家に入れませぬ!」
「し、信じてくれ、光。仕事なのは本当なのだって。今日、信長様にもそのお話をしてきた。それでほら、もらっちゃった☆圧し切りの長谷部」
(官兵衛が見せびらかそうと取り出した圧し切りの長谷部を、光、ひったくって放り投げる)
「ああっ、無礼者!何をするのだ!」
「無礼は殿の方でござりますっ!かような趣味に走るなど、わたくしの…わたくしのどこが不満だと言うのですかっ!?見たければいつでも何でも、見せて差し上げます。どうか自ら黒田の家名を貶める真似はおやめください。再逮捕されたらどうするのです…(泣)」
「光。お前の言うことも確かに分かる。分かるが、絶対領域と男の浪漫は切っても切り離せぬのだ。それにな、ああいうのは見えればいいと言う物ではないのだ。女のお前には判らぬが、チラリズムと言う秘宝が」
(光、栗山善助と母里太兵衛に合図する。二人、城門を破るのに使う大木槌を運んできて積み上げられたDVDを次々と粉々にする)
「ぜっ、善助、太兵衛やめぬかっ…お前ら主君を裏切るのかっ!?」
「殿、申し訳ありませぬ!同じ男として心苦しいとは申せ、善助は再逮捕される殿のお姿が目に浮かぶのです!お方様の言うとおり、ここは心を鬼に!お覚悟なさいませ!」
(ええいっ、と気合をかけてDVDを破砕する善助)
「わああっ善助、それを撮影するのにわしが何日電車に乗ったと思っておるのじゃ!太兵衛、見てないでとめぬかっ!頼むっ善助を止めてくれええっ」
「殿、すみません。お方様に逆らうと晩飯抜きにされちゃうんで」
「晩飯で主君を売るのか、お前は!分かった太兵衛、お前には何か奢ってやるから!善助をとめよ!」
(それを見ていた光、太兵衛ににこやかに声をかける)
「太兵衛、わたくしの言うとおりゴミを処分出来たら今日はすき焼きですよ~」
「アイアイサー、ボス☆」
(太兵衛、思いっきりジャンプしてDVDに木槌を叩きつける)
「わああああっ、お前らそれでも人かっ!…やめろ、やめてくれっ!男の浪漫が、わしの王国が…わしが夢見た絶対領域がっ」
「太兵衛、善助、これも割ってしまいなさい」
(官兵衛のデジカメとスマホを差し出す光)
「冗談だろ、光。それがないと次回作…いやいや、仕事がその」
「お寿司も頼みましょうか、二人とも」
(にっこり笑うと親指を下に向ける光。善助、太兵衛、いい顔で返事する)
「「はーいっ…せーのっ!」」
「うわああっ、そっ、それだけは…それだけはあああああっ!」
(翌日、長浜城に現れた官兵衛。ずっと部屋の隅で体育座りをしている)
「わっ、なんだ置物かと思った!官兵衛こんな暗いところで電気もつけずに!どうしたと言うのだ!?」
(ぎょっとする秀吉にうつろな視線を投げかける官兵衛)
「秀吉様…私の心は闇です。もはや、すべてが信じられなくなりました…」