第二回「信長様チラリズム!(のぶちら)」
ナレーション「兵庫地裁一審で無罪を勝ち取った官兵衛は、その足で秀吉と安土の信長公に謁見したのでございます…」
「官兵衛、謁見前に言うておくがな、信長さまは性犯罪にも厳しいお方じゃ!絶対領域とか、くれぐれもその種の発言は控えてくれい」
「はっ、羽柴さま、その点、官兵衛抜かりはござりませぬ」
「いや本当、頼むぞ官兵衛…」
(信長、スマホでスポーツニュースを見ながらてくてく歩いてくる)
「信長さま!官兵衛戻りました」
「あー官兵衛、まーなんだ。とにかく良かったでや。我もおぬしが無実信じておったでや!」
「ありがとうございます…自分を信じて裁判を戦った甲斐がありました」
「うむ、祝着だでや!ところで官兵衛、お前に聞きたき儀があったのだわ。お前が申してた絶対領域のことだわ」
(秀吉、目を反らす)
「いやあの信長さま、官兵衛はもう真人間でござります…」
(信長、秀吉を無視してぐいぐい食いつく)
「わしはお前に言われて電車に乗ってみたが、乗っておるのはただの夏服のおなごではないか。ちちやしりやふとももなど珍しくもないのだわ」
「信長さま、それはわからなくて当然のこと。なにしろあなたは、まだ絶対領域の入り口に立たれたばかり。恐れながら信長さまにはチラリズムからご理解頂きとう存じます」
「ほう。申すでや」
「チラリズムとは見えそうで見えない真理を探求する言わば新取の心構えにて」
「ほう。続けよ」
「我らの間ではちちやしりやふとももそのものは決して、求める本願にありませぬ。見えそで見えない。その中身をいかに妄想で描き出すか、これこそチラリズムの極意にござります」
「ふん、新取の心構えとは南蛮にもなき考えだでや。そうかっ感じ入ったでや!見えぬものをあえて見ようとせず妄想で補う、それが極意とはな!道理であやつらに電車で『見せよ』と命令しても、どきどきしなかったのだわ」
「御意に。さすがは信長さま」
「て言うか信長さま電車でそんなことしてたんですか…」
「浅ましきようで深き道をゆく。さすが官兵衛、中々深い奴だでや。圧し切りの長谷部をとらせる。この調子で精進するがええでや」
「えええーっ!」
「ハゲネズミ、官兵衛をせいぜい大切にするでや!おのれも女癖で寧々に怒られてばかりでなく官兵衛のように、深き道を邁進せい。お前の女房にメール返すのめんどいのだわ。よし、下がれ!」
(席を辞して)
「羽柴さま、官兵衛やりました。圧し切りの長谷部もらっちゃいました~」
「なんだそのどや顔は」
(はしゃぐ官兵衛を尻目に秀吉頭を抱える)
「…官兵衛、わしは旅に出ても良いか。お前が来てから、なぜか何も信じられなくなった」