第十二回「魔王is back!!」
(ナレーション)「絶対領域の魔力によって九州を楽々と従えた官兵衛殿は、天下御免のドヤ顔で大坂の秀吉の元に戻ってきたのです…」
(黄金の茶室でちこちこパソコンをいじっているのは、なんだかやつれた様子の秀吉。対してお顔つやっつやの官兵衛が口から唾を飛ばして九州遠征大成功をアピールする)
「はっはっはっー、秀吉様!官兵衛ついにやっちゃいましたよ!ちょろいもんですよ!九州を我が絶対領域の色に染めてきてやりましたよ!!」
「ほうかー、官兵衛大変だったなあー(棒読み)…ところで最近、農業がブームじゃろう?都会の暮らしとか変態どもの相手に疲れた経営者の人とかが、今までの暮らしを捨て帰農して新しい生活を目指すのが流行ってるんじゃとー」
「そうですか!て言うか秀吉様、この気持ち、醒めぬうちに次は関東へ行きましょう!徳川も北条も我が絶対領域の虜にしてみせまするぞ!今、旅するチカン兵衛がアツいですよ!頼まれなくても異世界とか勝手に行っちゃいますよ!じゃらんとかで特集組んじゃいますか!まず目指すは京急小田原線沿線で!!」
「うんうん、官兵衛、元気で安心したわー。こりゃもうわしがおらんでも大丈夫だなあ。ところで知ってるか官兵衛、今は農村でも後継者を募集していてな、農業指導はしてくれるし使わなくなった古民家も貸してくれるし、受け入れ体制もばっちりなんじゃと。ほらわし百姓だったけど、針とか売ったりしてたからまともに農業したことないじゃろ。そんな人でも安心なんだわ…」
「え…待って下さい秀吉様!天下惣絶対領域…いや惣無事の夢はすぐそこですぞ!何をふぬけたことを?それにさっきから、うざいほど挟んでくる都会の暮らしに疲れたOLみたいなその農業トークなんですか?!…橋本ちかげみたいにまさか今頃『の●りん』にはまってるとかじゃないですよね!?」
「いやアニメやラノベはうんざりなんだが…しようかな、そろそろ、と思って」
「何をですか?」
「リタイア」
「りっ、リタイヤ!?なっ、なにを血迷ったこと言ってるんですか!?馬鹿じゃないですか!?」
「いや、天下人を馬鹿とか言うなよ…て言うか年中血迷ってるお前には特に言われたくないのだが…なんか最近、色々虚しくなってなあ。天下人って言ったってもう事務仕事しかやることないし、職場は変態まみれだし。なーんかやる気なくなっちゃったんだ(テンション低)…で、いいかな寧々と二人、田舎に籠もって農業して暮らすのも、とかさ」
「全然よくありませんよ!大体何ですかその、パワーのない突っ込みは!中国大返しのときを思い出して下さいよ!そのまま織田家牛耳ったじゃないですか!あのときの秀吉様の絶対領域に対する熱意とガッツはどこへ行ったんですか!つーかまだ何も始まっちゃいないくらいですよ!!」
「絶対領域に異常な熱意を燃やしてるのはお前だけだろ?わしはもういいよ。特に欲しいものないし」
「じゃあ、やりたいこととか!まだあるでしょう。天下人なんだから!」
「あ、一つあった。わしが引退する前にお触れ出そうと思ってたんだ」
「あるじゃないですか!どんな命令ですか」
「変態追放令」
「なっ、なんでですか!秀吉様っこの官兵衛のどこがお気に召さないと言うんですか!?」
「変態の自覚はあるんだな…だがな官兵衛、変態はお前だけじゃなかったんだ。この豊臣家変態ばっかりでな。お前とは趣味が被るからいいが…わしはもうちかれた。それでとにかくわしの周りから…て言うか、日本中から変態を追放したらどうだろうかと思うんだ」
「そんなことしたら日本中人がいなくなっちゃいますよ!戦国時代すっかすかですよ!」
「そんなにこの国変態だらけなのか…終わってるな」
「だから終わってないと言ってるでしょう!ぼそっと突っ込むの止めてくださいよ切れ味悪いな。大体、秀吉様も変態じゃないと言い切れるんですか!?あるでしょう、おおっぴらに出来ない性癖が!浮気症とか女好きとか、略奪愛とか主君の妹萌えとか」
「お前よく主君のわしの性癖にそこまで厳しい追及が出来るな。…まあだが官兵衛の言うことも一理ある。わしも妻に嫌がられる性癖はあるし、個々人の性生活までは干渉してはまずいな。じゃあ、こうするか。他人に変態を広める人間を追放しよう」
「それピンポイントで私のことじゃないですか!?こんなに尽くしてきたのに、秀吉様、あーた私に恨みでもあるんですか!?」
「いや、官兵衛には感謝してるよ。うん、でも…今のわしはとにかく変態どもの相手に疲れたのよ。はーっ、政権返上できないかなー」
(秀吉の不吉なつぶやきを官兵衛がもてあましてると、背後から白いスーツを着た派手な男が出てくる)
「おうハゲネズミ、それにチカン兵衛でにゃあか!元気でやっとるきゃあ」
「のっ、ののの信長様!えええええっ!い、生きてたんすか…」
(ぎょっとして隅っこに固まる二人。白スーツの信長、黄金の茶室とかにべたべた触ってうろうろしている)
「生きておるに決まっておろう、そんなに驚かんでもええだわ。しかしハゲネズミ、お前にしては中々ええ城建てたでや。これで安土城がなくなってもこの国は安泰だわ」
「あっ、あの(秀吉消え入りそうな声で)…今まで何をされてたんですか…?その、私たち信長様が死んだと思って、仇とか…とっちゃったんですけど」
「ふん、キンカンめが謀反したらしいな。まあそれも今となってはどうでもええことだでや。我は今、夢のセカンドライフを謳歌中なのだわ。ほれこれ、お前らにやる」
(信長、何かのチケットとパンフレットを二人に手渡してくる。恐る恐る覗き込んだ二人、また びっくりする)
「「リストランテ、『モッコー・オダ』!?なんですかこれは!?」」
「我が展開するイタリア料理店だでや。あれから我は博多から宣教師どもに頼みこんでイタリアで修行してな、ナポリの石窯ピッツァの店をオープンしたのだわ。本場イタリアのミラノとローマにも店を構えておるし、この秋、パリとマドリードにも支店を出すでや。来年は香港、上海をさきがけにアジア圏でのグループ展開を視野に入れておるのだわ。我が懐かしき日ノ本にもいずれ、店を出そうと極秘来日中でなあ。いやあハゲネズミ、お前が後を継いでくれて助かったわ!うちが店を出すときはこの大坂城でテナント契約してもらうでや!まあよろしく頼むでや!」
「「は、はあ…」」
(あまりにも新しすぎる信長の方針転換に唖然として言葉もない二人。そこに、包帯を巻いた中二茶々が通りかかる)
「ふははははっ、この城、さては魔が入り込んだな!感じるう…感じるぞお、邪気眼じゃあっ、わたしの邪気眼が疼くぞ!」
「あっ、あの人なんですかっ!?ゾンビ…じゃなくてまさかお茶々様!?」
「ああ、そうなのだ。見ての通り茶々様は永遠の中二病…あの邪気眼設定に付き合わないと、まともに会話もしてくれんのだ…」
(がっくりと肩を落とす秀吉。邪気眼設定の茶々様、のりのりで話しかけてくる)
「ふははははっ、魔猿めっ、また汚い謀議を巡らしておるな!我が聖域に魔を引き入れたのはお前じゃな!そこの通りすがりの愚民め、案ずるな。わたしがいる限りこの城は燃やさせぬぞ!」
「と、ずっと、こんな感じなんじゃ」
「て言うか私、通りすがりの愚民設定じゃないですか…」
(必殺ポーズをとりながら、くるくると踊る眼帯茶々。じっと見ている信長の前で、それがぴったり停まる)
「きっ、貴様…なっ何者っ!?まさか」
「(信長、中二設定程度の衣装ではまるでびっくりしない)なーんだ、どこのハロウィンかと思ったら姪のお茶々ではないか。久しぶりだでや!元気にしておったかや!」
「あっ、あなたはまさしく天下無敵の伯父上様!えっ、えええっ!?なっ、亡くなられたはずの伯父上様がなぜ、ここに!?」
(茶々、なぜか急いで包帯を脱ぎ棄てる。カーラーで睫毛を整え、ばさばさの髪を梳かして物凄い勢いでメイクをし直す)
「何だもかんだもにゃあでや!今わしはヨーロッパ中でレストラン経営をしとるのだわ。ほれお茶々、お前やお市にもパリやミラノで土産を買うてきたのだぞ。いらんのなら棄ててしまうでや!」
(信長、気前よく、シャネルとかグッチとか本場ブランドの高額商品がいっぱいに入った袋を茶々に向かって無造作に投げ渡す。茶々、目の色を変えてこれに飛びつく!)
「ああっ、伯父様っ、お金持ちでブランド好きで国際企業の経営者なんてっ、お茶々やっぱり伯父様が一番好き!好き好き大好きっ、素敵!!」
(絶句する秀吉と官兵衛)
「ブレた…信長様に会ったら一発で、キャラがブレた…」
(茶々、邪気眼設定を吹っ飛ばして、ぶりぶりに媚びながら信長にアピールする)
「伯父様ぁ、お茶々ぁヨーロッパでセレブ生活なんて憧れですぅ…て言うかぁ、こーんなお姫さまなんか辞めてぇ、伯父様の娘になってヨーロッパ住みたぁい!ねーえ、このままぁお茶々をヨーロッパに連れてってにゃあん☆」
「二十歳の媚び方じゃない…て言うかさっきまで邪気眼が疼くとか言ってたのに…」
「若干、語尾にアニメキャラが残ってますけどね…」
(変わり身のあまりにも素早いお茶々にげんなりする二人)
「はははっお茶々よ、そう無茶を言うな。わしはもう戦国大名辞めたし、パツキン美人の妻が沢山おるのだでや。お前たちはお前たちで、日本でがんばるのだ。金なら猿がたんまり持っておろうがや」
「(恐る恐る)あのお茶々様…お金なら、この秀吉も不自由はさせないんですが。その、ヨーロッパのブランド品なら今からでも」
「黙れえっ、この魔猿王が!お前のような金だけ持ってる猿と、天下一素敵な上、センスがあってかあっこいい伯父様じゃ話になるわけないだろうが!見て判らんのか!」
(秀吉に相対するときだけ、中二設定に戻るお茶々、秀吉、はた目からみても気の毒なくらいがっくりする…)
「わしもう辞める。天下人辞めて、農業学校でアイドルと結婚する…」
「微妙に煩悩残ってますよね…」
「うるさいっ…ルックスとかセンスの話とかされたらもう…わしはもう信長様には及ばんのじゃ!ううー、もう引退してやる…」
「そっ、そんな!秀吉様がんばってますよ!がんばってますよねえ!信長様からも何か言ってあげて下さいよ!」
「ふはははっ、そう落ち込むな、ハゲネズミ。おのれはよくやっておるでや。わしの跡を継ぐのは、お前しかいない。弟や息子たちでは頼りないやつばかりだでな。このお茶々めの行く末もな、安心して任せられるわ。何より、お前に気張ってもらわなきゃ、まだまだこの日本が困るでや!」
「のっ、信長様…」
(いつになく優しい信長に慰められ、はっと顔を上げる秀吉。感動の涙がぼろぼろ落ちる)
「つーかお前に引退されるとうちの店が困るのだわ!」
「やっ、やっぱり利益優先のお話でしたか…」
(感動しかけた秀吉、みるみる萎える)
「わしを誰と思うておるか。織田信長ぞ、商売優先に決まっておるでや。来年には日本出店でリサーチ入るから、お前の顔でよろしく頼むでや。この大坂城店のテナント契約は後でエージェント遣わすから、それまでこの城ちゃんとスペースを空けておくでや。分かったな!?」
「だったら信長様が自ら大坂城を仕切ればいいのでは…?」
「うつけめっ!わしにまた戦国大名までさせようと言うのかや!そんな暇ないでや!武士は飽きたと言っておろうが!大体昔から有名な諺でよく言うじゃろ、お前」
「は…?」
「『もらったものは返せない~』ってな」
「…あのそれ、諺じゃなくて子供の理屈ですよね。やっぱり天下とかもそうなんでしょうか…?」
「ふははははっ、当たり前だでや!何はともかくわしの次の帰国まで励めハゲネズミよ!」
(ツッコミどころを無視して嵐のようにいなくなる信長。官兵衛、うずくまる秀吉をなんと慰めていいかおろおろする)
「いや、あの秀吉様…元気、出しましょうよ。これでまあ一応、信長様からも豊臣政権公認もらったわけですし…まだまだ引退とかは」
「く…くくくくく…」
「ほら泣かないで秀吉様。たまには官兵衛が朝まで付き合いますから」
「くっくくくく…馬鹿め!違うわ!…ふふふははっ、官兵衛…わしは悟ったのだぞ!引退などしてたまるか!わしは今、ようやく判ったのだ!超えるべきものが何かが、な!ふははははははっそうじゃそうじゃあっ、官兵衛、わしは信長様を超えればいいんじゃ!そしたら茶々様はあの中二設定を解除してくれるはず!」
(秀吉のかつてない不気味な高笑いとぶっ飛んだ考えに後ずさる官兵衛)
「いや、あのそれは無茶では…?」
「何が無茶か!ルックスとかセンスとかの話をしとるわけじゃないぞ!財力と軍事力の話をしとるのじゃ!つーか信長様に勝てそうなとこってそれしかないじゃん!そしたら茶々様も絶対振り向いてくれる!ふふふふっ、この秀吉、まだまだ稼ぐぞ!引退なんかしてたまるかっ!稼いで稼いでいつか、信長様より金持ちになってやるのじゃ!」
「いや、その…そーんな問題じゃなかった気がするんですけど…なんか上手く言えない」
(異様なリビドーを燃やす秀吉を持て余す官兵衛)
(ナレーション)「こうして突如目覚めた一人の修羅によって、チカン兵衛と日本の運命はまた一つ、大きく斜め上に狂っていくのでございました…」




