#1 レンタルCDビデオ店店主事件
東綺羅星鶴子外交官の事件簿
#1 レンタルCDビデオ店店主事件
【1】
やたら赤い門が目に止まる一帯だった。
それは横丁に入れば飲食店や煙草屋の店先にもあったし、広い本通りに出れば郵便局や病院の玄関口にもある。また、小学校や中学校の校門も当然のごとく赤く塗られている。
都内のそんな一画の、見るからに権威的かつ支配的で厳かな赤黒い門の真向かいに、一軒のレンタルCDビデオ店があった。
この当時はテープ式のビデオの方もまだ生き残っていたのだろうが、やはりそこにも赤い門をかたどった派手なネオンサインがチカチカ点滅している。
その店の薄暗い外壁沿いに、裏手方向を急ぐ黒い人影があった。
全身黒ずくめで頭部も黒覆面で覆っている。性別は不明だ。
その怪人物は、裏手の勝手口のドアを背にしてぴたと立ち止まり、周囲をうかがった。
右横はブラインドが半分上がったサッシ窓。その中は事務室だ。蛍光灯が白々としているがひとけはない。
前方には民家に通ずる私道が横切っているが、この時間帯は誰も通らない。
年末恒例の事務所荒らしか。だが時間はまだ早い。表通りには人通りもある。
そのレンタルCDビデオ店もまだ営業中で、隣りは赤いランプの派出所なのだ。
「九時二十二分。あと三分ぐらいある」
腕時計に目を落した怪人物はそう小声で呟き、気持ちを落ち着かせようと、タバコを取り出した。
体をぴっちりと締めつけた上下を着込んでいるが、よく見ると下腹が突き出ている。
たぶん中年男だ。年がら年中季節を問わず次年分の桜が咲いても確定申告のことしか頭にない中小の商店主。
常に地面や床を注視し、もし階段に紙が落ちていようものなら、
あれは逆の紙に違いない、身に憶えの無い請求書に指紋を付けるのは良くない、悪用されるぞ、と考えながらも先を越されまいと一旦ダダダと下まで降り、急ターンして裏手に回り込み、階段の陰から手を伸ばし、税務署の制服を着たおばさんから痴漢扱いされ踏ん付けられてもその紙は手放さない、そんなレベルかと思われるような個人事業主だ。
探偵ドラマに登場するスマートな盗賊ではない。辺り構わずタバコをふかし、それも根元まできっちりと・・・
だが、何か予期せぬ事態が起こったのか、ドアを背にしたまま前方の路地裏に瞳を凝らした。
眼前にはちょっとした・・でもどこか・・そこはかとなく・・何かでも出そうな・・
ま、まさか・・髪を振り乱した鬼婆が・・赤いロウソクの炎が揺れる台所でお能か謡曲を・・そこまで恐く無くても・・研磨不要な猫印の包丁で鱧か鰯か小鯛でもさばいて・・あとは骨と頭でこっちのダシを・・ああ、そうそう、青いネギとおぼろ・・いえ、やっぱり・とろろ昆布・・と・この・味の・・素・・じろ・・ほほほ・・見ま・した・・わ・ね・・
そんな雰囲気の中古物件風な民家だ。
庭にも生垣か領土かのように園芸用のビニル棒を巡らし、
いったい全部で何本あるのかと数えていたら12本目一帯はアーメンホール・パー2も兼ね、
この自生と見紛う草類に難度をもお任せかと恐る恐る問うても、
他生ーなりとも・ペンペン・種も~お農薬も飛来しベンベン、栄枯盛衰、祇園精舎のー鐘の声、東の果てにも都の候ぞ・ペンペン、とか長々と呟かれ、
まだ怨念や無造作や財力が尽きぬのか、かつての瀟洒な奥露地に惜しげも無くコンクリートを流し込んで給湯器用室外機や赤い中型車を配しつつも後ろバンパ付近の手水鉢の破損面を何事も無かったかのように自然風化中に委ね、
盆栽の鉢なら根が突き破り雑木林となり、
郵便ポストや玄関引戸の桟ももっと赤くし、
太陽光発電パネル横の鬼瓦の眠り猫も、その顔面に猫パンチする近隣猫まで赤よもぎ猫である。
東日本の日光陽明門等を讃美し、西の雅な離宮等を逆に非難するかのように・・・
察するに、前に住んでいた趣味人とは別種の風流人か京の都から追い出された下級公家一族の末裔かが借家住まいでもしているのか・・
まあ例えば、勅使院使団の往復代の節約のため、伴食役や草履持ちは饗応側幕臣の家来に鞍替えになって江戸詰になり・・ついでにお城や大奥をスパイせよ・・・
ピシ・モー・ぽたぽた・ピシ・モー・・吉報の早牛車とな・・くるくる・ぱあー・・ああ逆さまじゃ・・ほー・かくも・・ころころ・清廉のお旗本も、やはり・ころころ・元禄に御座っ・・これ、こら待たんか、世にも親切なご高家お筆頭がそちを召そうと・・もっと喜べ・・とか・・
ぼちゃん・・ぼちゃん・・
爬虫類が数匹その池泉に飛び込んだ。
冬眠中も自炊自活しているのだろうが、ワンワン吠える忠犬でなくて良かった。
まあ、お家来衆の紹介ももういいとして、
その家の一階に明りが灯り、ガラス窓には女子大生風のポニーテイルと赤いセータの上半身が映った。
「あ・・あの子は・・・」
見知った女性なのか、覆面怪人物は思わずそう呟き、さらに瞳を凝らした。
そこは浴室の横の小部屋であろうが、うまい具合に、まるでそこだけ庭木を切り倒したかのように、ぽっかりと筒抜けに見えている。
その女性は、セータの裾に手を掛け、横向きのまま背を反らした。
大きめのポニーテイルが品良くも小生意気そうな小顔に似合っている。
覆面怪人物の性別は早くも判明した。やはりその人物は男だった。早くも股間が膨れ始めたのだ。
何を想像し期待しているのか。暗闇の彼方の深窓に全画面モザイク処理されたかのごとく浮かび上がったおぼろげながらもくっきりと鮮明な上半分だけのショウ。
そんな盗撮ビデオ風の趣向も想像力を掻きたて悪くはない。
見られているとはつゆ知らず確実に裸になりつつある光景をこっそりと垣間見るのは、爆乳や美乳など見飽きた中年好色男には・・勿体ない。
彼女は髪を揺らせながらセータを脱ぎ去った。
それを見て、男は淫靡に唇を蠢かせた。
「ふふふ、次は右ソックスだ」
そんな命令に従うように、小室の彼女は、背を屈めた。
男の目はランランランと輝き、股間はさらに一段と膨れあがった。
次の次やその次の次ぎに何を脱ぐのかはもう判っている。
次の次でさえも、気高くつんとブラウスを押し上げる薄布がいやでも露わになるのだ。
そんな無垢の上半身が厭らしい中年男の目を愉しませ、布段階からでも縛って吊り上げているほど小生意気そうに・・・
ああ遅漏気味な中年男でも、想像上も我慢できない・・のに・・その次の次とやらは・・いくら遠慮勝ちに想像しても・・・
分厚い・お腹までな・ストッ・・キング・・
それは・・冬期でも頑丈・・過ぎる。仮に厚手で無くとも、それ自体がこの段階では不格好でみっともない・・
たとえ清純派なお嬢さんであろうとも、いやそうならばなおのことだ・・
それなら?・・スポーツにしてこれを使え?・・ちら・ちら?・・そ、それは・・25センチ級・・物差し・・・
ふ、ふふふ・・この原点側を・・ど、どこに・・
いや、いかん・・敗者さんはこの台に昇って下さーい・や・はーい測りますよーは・・素脚とはいえ幼稚過ぎる。
こんな変態観戦反スポーツ趣味を公には出来ない・・なら・・ふふ・・ふ・・膝小僧もその上部の下半分も・・生々・・ではない・・えー?・・逆に言え・・補集合の方を重視しろ・・
だから、・・・な・・・が・・・なガータタイプ・・だが・・夏よ早く来いと願わなくても・・・
男は数回考え直して彼女の腰から下をロングスカートから一挙にジーンズにチェンジした。
「となると、左ソックスを含めても・・あと・・・5枚・・ふふふ」
その枚数をもっと減らさんと彼女はもう一度膝丈スカートなまま屈み込み・・そしてとうとう、右の手が・・ブラ・ウスに・・・
しかし、気が変わったのか予定通りなのか、胸の釦を素通りさせたその手をさらに上げ、ポニーテイルを解き始めた。
「う・・・」
水をさされ、男の表情はちょっと曇った。しかし、ご馳走が少々お預けをくうのも悪くはない。美味が倍加する。
「ふふ、焦らせているな」
性急さを嫌う中年男は余裕の薄笑いを口元に浮かべた。
「時間はまだたっぷり・・」
男は腕時計を見た。表情がまた変化した。目が少し怒っている。
「うう・・・」
髪を解いた彼女は、一人きりの小部屋で何をしているのか、両手でも胸を隠し、右に左に小首を傾げ、上体も左に右にスイングさせ始めた。
鏡の前で我が身の美しさに見とれているのか。それともどんな仕草をすればこれ以上かわゆく見えるか研究しているのか。
そして、小さなブラシをゆっくりと取上げ、髪ではなく、それを可愛いお口に持って行った。
「早く・・磨け」
エロ覆面男は急かすようにそう命令すると、また腕時計に目を落した。
「あ・・いかん」
男はそう呟くと、実に残念そうに後ろ手にドアを開け、後ろ向きのまま、用心深くドアの中に消えた。
「うーん。何か釈然としない」
ビデオを見終わって、捜査本部長代理の坂井巡査長は唸って腕を組んだ。
ここは本郷赤門前派出所の奥の畳部屋。その休憩室の入口には『貸しビデオCD店現金連続盗難事件捜査本部』の立札が掛かっていた。
一派出所としては異例の処置だった。とはいえ、これを表玄関に堂々と掲げえない事情もあった。
「次は五日前の事件のです」
捜査本部長代理補佐の井上巡査がテープを入れ替え、見終わったテープを脇に置いた。それが置かれたのは小さな弁当箱と数冊の洋書の上だった。
「この連続盗難事件だけでも早期解決しないとまたマスコミが騒ぎ出す」
「はい。今朝も記者連中がうろうろしていました」
二人は電気コタツの上に広げてあった新聞に目をやった。『警視庁リストラ!秒読み段階。手始めは文京区!』。そんな記事が社会面の片隅にあった。
「しかし我々二人では・・・」
「だが、本署でもこんな事件どころじゃない。困った」
本富士本暑は一ヶ月前から、五つもある捜査本部の看板を一つも外せないままだ。いずれもこれよりも重大事件だった。
「本富士暑は富坂暑に吸収されて交番に格下げとの噂もあります」
「うむ。知っている」
二人の警察官はまた新聞に目をやった。
『異常事態!増える一方の捜査本部の看板』。『これ以上増えたら本署幹部の更迭は必至!』。そんな記事もあった。
「困った」
本署が交番に格下げなら、赤門派出所は消滅だ。せいぜい臨時駐在所だ。
そうなれば、リストラ要員の候補だ。坂井巡査長は暗澹たる気分になった。
「それにしても、あんな看板を出しておく必要があるのでしょうか」
「うむ」
坂井巡査長も苦々しく頷いた。正直、彼もあの張り紙は少々大げさに感じていた。しかし少額とは言え連続盗難。中事件だ。
「とにかくあれを早急に外さないと」
「はい。では再生します」
二人の警官が険しい顔付きでまたビデオのチェックを再開しようとした時、
「あの・・・」
畳部屋の入口に赤いセータの少女が現われた。
彼女はいつも膝丈スカートやジーンズ姿で近場の官学に通う大学一年生の東綺羅星鶴子。
派出所の便所掃除を終え、いま家に帰ろうとしていた。
「私はもう帰ります」
「東綺羅星さん。いつもありがとう。助かります」
坂井巡査長は振り返り、礼を言った。彼女がボランティアで来てくれるので、便器はいつもピカピカだった。
「いえ、近所ですので・・・それではまた今度」
「ひ、東綺羅星さん。次はいつ来られますか」
独身の井上巡査は、少女の赤いセータの胸の膨らみから目を逸らし、少し赤くなってどもった。
「来週の火曜日に来ます」
「では・・・一週間後ですね」
井上巡査はちょっと寂びそうな顔をした。以前はほとんど毎日のように、ここに顔を見せていたのだ。
「井上君。無理を言っちゃいかんよ。東綺羅星さんをこの赤門派出所だけで独占する訳にはいかない。君が悪いんだ。言い触らすからだよ」
可愛い女子大生がいつも便所掃除をしてくれると井上巡査は自慢げにあちこちで吹聴していた。
そんな噂を聞き付けたのか、うちにも来てほしいなどと厚かましいことを言って来る交番や派出所がいっぱいあり、鶴子も少々困っていた。
「前から一度お聞きしたいと思っていたのですが・・やや古風なお名前ですね」
「曾祖母がカメで祖母もお亀で、母も亀子と言います」
カメは三越デパートの水練着フロアでスカウトされたが銀幕も売り子も断って大番頭の秘書になり、
お亀は大奥極秘物語では東下りの摂家姫のお付き女御役やお風呂番腰元役をやり、
亀子も国内便だともっと短いとか脅かされ説得もされて嫌々ニューヨーク便やパリ便で我慢し、
本人も母親や母方親戚から、ミス硬派教養キャンパスの次はミス太秦映画村か大磯勝気ミニビーチ姫に・・
えーと・ほらほら、縦幅約25センチぐらいの腰巻きみたいな・・ああ、横殴りのそよ風や微風が吹いても横の脇がピラっと捲れるだけで安心な・・それそれ、強気な顔をした清純派とかが超ナントかスカート風に隠すやつ・・はい、そのひらひらに決定、お澄まし顔にもぴったり・・だからー、それも厳重に巻き付けてもいいから・・とか勧められて閉口している。
「それで・・鶴・・さんに」
「それは・・良かった」
「・・きっと・・ご由緒正しい・」
「いいえ、それほどでも・・ぺんぺん草も適度に生えていますし・・」
「東京が東綺羅星さんなら、きっと九州には・・南綺羅星さんとかいう家も・・あるのではないですか」
「家名分類表に拠れば、それらは1桁方角家とか言うらしいのですが・・」
「それなら・・北北東綺羅星さん・・とかも」
「その遠戚なら、中米アカプルコ在住の父方の祖母の話では、米沢上杉15万石が更に減封されそうになった時に代わりにお取り潰しにされ、先日、旧東本願寺派大谷綺羅星の先先々代の3女が再興したとか」
「・・そんな先日に・・」
「でもメキシコカリブ海湾岸のお婆様はフルブライト留学生に選ばれ、確かコロンビア大かプリンストンでオッペンハイ・」
「たぶん・・違います。核ではなくきっと通信です。いまはMITとかいう専門学校の電気科のシャノン先生と1+1=10アンペアとか実験していたと自慢していました・・が、もう隠居しています」
「・・しかし・・名字だけでも・・東本願寺派大谷綺羅星・・1234567・」
「真宗を入れていたら全12桁」
「区や郵便局やNTTから・・苦情が来ませんか」
「はい、せめて計7桁以下に止めよ、と逓信省も前島密の部下に法令を作らせて・・ただ最近は、勝手にご破算にして6桁や5桁に戻したり・・我が家もその手ですが・・もっと悪質なのは、それを逆手に取ってあたかも伝統があるかのように装う3桁返り咲き家も・・」
「・・自主的を装って逆に縮めて・・伝統の上にまた伝統を・・」
「・・どこの誰かは知らないけれど・・悪辣だなあ・・」
「ではご本家はやはり・・綺羅星・・と極めてごく簡便に」
「ですから、中心からはずっと離れた数回もリセットされたただの綺羅星も、いることはいますが・・数値家等もいて・・三州吉良綺羅星とか一条出戻り橋金綺羅とか・・でもこれはもしかして、某漫遊記の任侠物か鬼退治か魔物封じ・・だったかも知れません・・再放送を母が何回も繰り返し見ていて、私の記憶までごちゃ混ぜに・・」
「へえー・・そんなに色々と・・」
「その他・・御室桜綺羅院の満開上人や御所車滝口止綺羅羅から家出した野々宮横笛入道・・本当にこんな一族やお坊さんがいたのかしら・・のように応仁の乱の後も駆落ちしたまま舞鶴や若狭や丹波篠山から戻らず・」
「待っ・・て下さい。つまり・・室町期の争乱の折りに戦火を逃れて都落ちし、そのまま居着いた家もあったのですか」
「いまはその枝の先に6万人ほどぶら下がって・」
「えー・・北近畿・地域人口の・・ほぼ3分の1が・・」
「にわかには実の娘でも信じ難いですが、ネズミ算式にどんどん増えれば半世紀以上後はそれくらいになりますし、それも単に血がつながっているだけです」
「そ、それ・・も・・そうですが・・」
「・・ほほほ・・」
「それで・・そのご本家とやらは・・どこに」
「さあ・・たぶん母でも・・」
「そういう家系図みたいなものは残ってないのですか」
「さあ・・清盛像や安宅の弁慶像が広げているその巻物なら信長が比叡山延暦寺裏の金平御坊焼き討ちのどさくさに燃やしたとか大原の寂光院で共に灰になったとか・・GHQが731関連の資料と間違えて持ち帰って、トルーマンやライシャワーに叱られて、別の人のせいにし、今はボストンの美術館の東洋部にあるとか・・これこそ誰も知ってないが大観がコピーして芸大の校長像の口の中にも隠したとか・・もう持て余していて・・」
「・・うーん・・建礼門院徳子を見舞った後白河院が尼寺に火を・」
「それは違う。放火犯はまだ捕まっていないはずだ」
「まあこの事件なら、近年の史実です」
「・・畏れ多いことですが・・ご華族等の存続問題の身代わりとして・・訴追免除のバーター・」
「それも、無いと・・こんなのは・・誰かの子守歌か平家寝物語かおとぎ話集かに出てくるだけです。この場を借りてお詫び致します」
「でも・・お母様も美人でおスタイル・」
「では、私はこれで・・」
と言いながら鶴子は部屋の隅に置いた弁当箱と本に手を伸ばした。が、
「あ・・・」
思わず声を上げた。
可愛らしい弁当箱と難解な原書の上には一本のビデオがあった。タイトルは『サド教授の基礎保体講座』。
「ひ、東綺羅星さん。これはそんなビデオじゃないんだ」
井上巡査は、後ずさりする彼女に慌てて訴えた。
「・・・」
鶴子は眉をひそめ、おもてを逸らせた。正視に耐えない汚物だ。
「そう。ラベルは変だけど、内容は全然違う。隣りのレンタルビデオ屋から借りて来た・・いや押収して来た物です」
坂井巡査長ももどかしげに弁明した。
「押収?」
強権を持って差し押さえ、その内容をいまチェック中なのか。
「違法なビデオなのですね」
鶴子はまた迷惑気にうつむいた。
「いえ、そんな種類のじゃないのです。見てもらえば分かるけど」
「いや、彼女にこんなもの見せる訳にはいかない」
坂井巡査長は困った顔をして腕を組んだ。便所掃除をしてもらっているとはいえ、捜査上の機密を軽々しく一民間人に開示などできない。
「そんなものは・・見たくありません」
アダルトコーナーなどといういかがわしい一角に並んでいる下等低級作品のその一番基礎になっている教育的な保健体育物である。心も清純な彼女には、そんな物体の存在すら許せない・・
まあそこまでではなくとも、遠慮したい。基礎程度や・・低レベルな知識ぐらいならある・・だろうし、習ってもいる。
「東綺羅星さん。これは君が想像しているのとは全く違うんだ。防犯ビデオなのです」
「防犯?」
「はい。連続盗難事件のです」
「この張り紙の事件ですか」
畳部屋の入口に掛かる捜査本部の看板にちらっと目をやって、鶴子は訊ねた。
「うむ。その事件だ。君も事件のあったことは知っているだろ」
「それは・・裏隣りですから」
鶴子も事件の発生ぐらいは知っていた。東綺羅星家はそのレンタルビデオ店の裏隣家だ。派出所から見れば斜め後ろになる。
「ビデオ店の社長が古くなった商品を流用したのです」
「選りによってこんな教育ビデオに再録画しなくてもいいのに」
「そうなんです。元の内容でさえも基礎教育物だったのですよ」
まだ少し疑わしそうにビデオに視線を落している彼女を見て、井上巡査はくやしそうに説明した。
このまま彼女に帰られては、誤解は完全に解けない。ため息をつき巡査長は腕を解いた。
「こうなっては仕方がない。君にも見てもらおう」
民間人に対しての捜査応援要請もあり得るし、市民や近隣住民の捜査協力は逆に義務とも言える。
東綺羅星家は事件現場の近所でもある。
それに彼女は探偵小説好きだし聡明で頭も良い。うえに、江戸時代の親戚も知恵伊豆松平信綱のおしめを洗ったとかその姪の孫も大岡越前守忠相や長谷川平蔵に捕物帖を読み聞かせたらしいとか、いや床の間にも暴れん坊将軍松平某のサイン入り色紙まで軸装して飾ってある、とかいう噂も聞く。
犯人検挙の手掛かりが掴めるかも知れない。
坂井巡査長はそう考え、ビデオデッキの再生釦を押した。
テレビモニタ画面上には事務室の一部が映し出された。音声は無く、映像のみだった。
「ここは・・隣の・・」
「そうです。赤門ビデオの事務室です」
カメラアングルは斜め上方からだった。
画面中央左横には正面を向いた小型金庫があり、ブラインドが半分上がった窓や屋外に通ずるドアの一部も奥に映っている。
そんな誰もいない場面がしばらく続いたあと井上巡査が言った。
「いまから登場する人物が被害者の社長です」
別のドアから入って来たのか、一人の男が悠然と画面右方から現われた。
赤門ビデオの社長だ。鶴子も顔ぐらいは知っていた。彼は、胸ポケットから札束を取り出し、それを金庫に入れ、また右方に去った。
一分後、奥のドアがそっと開かれ、全身黒ずくめの人物が現われた。その怪しい人物は、鍵の掛かってない金庫から札束を取り出し、そして部屋から素早く去った。
「現金泥棒ですね」
「ええ。百万円です」
「大金と言えば大金です。この後にまた社長が現われ、盗難を知ります」
井上巡査の説明に鶴子はまたテレビに向き直った。
モニタ画面にはまた社長が現われた。今度は少し不安げな顔付きだ。彼はせわしなく金庫を開けた。
そして、空っぽの金庫を覗き込んで天を仰いだ。
「実はこの時、我々は隣りの店内にいました」
「え・・・ビデオ店の店内にお二人が」
そんな事実を聞かされ、鶴子は少し複雑な表情をした。
「ひ、東綺羅星さん。ビデオを借りに行ってた訳じゃありません。彼とお茶を飲んでいたのです」
井上巡査はまた言い訳をした。若い彼はビデオ店、即アダルト物と過剰に意識してしまうのだ。
「我々は古書『赤門』の前で彼に呼び止められたのです」
「ええ、実は・・・」
坂井巡査長は事件の顛末を語った。
彼等は街頭パトロール中にビデオ店社長に声を掛けられた。
聞くと、銀行からの帰り道、彼等も派出所に戻る途中だったので、社長と店の前まで同行した。
熱いお茶でも飲んで行って下さいと誘われ、彼等もビデオ店内に入った。
社長は現金を金庫にしまうと、新作ビデオの棚を眺めていた警官に茶を出した。
事件はその直後だった。
怪しい物音がしませんでしたか、と、社長は不審顔で奥を見た。そして慌て気味に事務室に入った社長は、血相を変えて直ぐに戻って来た。
た、大変だ。金が盗まれた。
井上巡査は直ちに路上に飛び出した。
社長はまた慌てて事務室に駆け込んだ。坂井巡査長もその後を追った。
「坂井さん。このビデオに不審な点でもあるのですか」
事件の概要を聞き終わり、鶴子は二人に問うた。
「いや、そういう訳でもないのだが・・・」
彼女の質問に巡査長は言葉を濁した。
「しかし、あの社長はどこか胡散臭いです」
井上巡査はそう小声で言って巡査長を見た。
「うむ。ここだけの話ですが、彼は財布を拾って警察に届けてない」
「まあ・・・そんな非常識な」
「はい。彼の使っている小銭入れは今年の夏に坂井巡査長が落した物です。中華『赤門』横の自販機前で私は見ました」
「まあ・・・」
隣りの派出所の警察官の財布を中身もろとも私物化しようとは・・・末法の世の中年男に有り勝ちなそんな厚かましさに、鶴子はただ呆れ驚いた。
だが、彼女も彼には良い印象は無かった。時給三千円でカウンターのアルバイトに来ないかと誘われたことも高校三年の時にあったし、その他にも思い当たる節もある。
「私もあの社長には・・・」
「まさか・・・何か変なことでも」
井上巡査は心配げに問うた。まさか、その恰好良く持ち上がっている彼女の赤い胸に厭らしい手が・・・
「いえ、そんなことはないのですが・・・」
痴漢じみた行為を想像し、鶴子は否定した。だが、いつもいやな思いはしていた。
彼女はたまにそのビデオ店に行く。するとなぜか社長が必ず奥から現われ、彼自身がカウンターで対応するのだった。
そしてうんうんと厭らしくうなずきながら、ビデオのパッケージを裏表ひっくり返しながらチェックし、彼女の顔や胸元をも無遠慮に眺めるのだった。
「それに彼のビデオ店は経営不振に陥っている。二号店の進出が裏目に出たようだ」
後楽園裏に最近オープンした『黄門漫遊店』。その経営が思わしくない。
「実は・・・」
巡査長は、そこで言葉を切り、改めて鶴子を見上げた。
「我々はこの事件が彼の狂言ではないかと睨んでいるのです」
「狂言・・・でも現金が金庫に入れられたのも、泥棒がそれを盗んだのも、二回目に社長が金庫を開けた時、すでに空っぽだったのも、全て映っていました」
「ええ、それは事実でしょう」
誰が盗ったかは別としても、金が盗まれたのは事実だ。映像は盗難の全てを写している。
「問題は誰が盗ったかです」
巡査長は事件の核心に触れた。
「では・・・あの泥棒が彼の自作自演だと?」
鶴子は怪訝そうな表情で問い返した。
「はい。犯人の体型が彼に酷似しています」
井上巡査は断言した。
「しかし・・・」
二人の警察官は複雑な表情になった。
そうなのだ。この防犯ビデオの映像が真実を捉えているなら、社長は盗難犯ではありえない。覆面の賊が侵入した時、彼は二人の警察官とお茶を飲んでいたのだ。
「この映像が事件当日の同時刻に撮影された物であるとの確証はあるのですか?」
事前に用意された映像ではないのか。鶴子はそう考えた。当然の疑問点だ。
「その確証はあります。録画中の防犯ビデオを停止させたのは本官なのです」
「そうなのですか?しかし・・・」
「それに、その直後その場で巻き戻して再生画面も見ました」
「社長ではなく、坂井さんがデッキの釦操作をなされたのですか」
「はい。デッキの中にテープは確かに入っていたし、停止させる前だってテープは回っていた。防犯カメラも実際そのデッキに接続されてもいた」
「そうですか・・・でもなぜ・・・」
デッキに入っていた録画中のテープを停止させ、その場でその内容を確認したとなれば、疑わしき点はないと言えるだろう。
だが、なぜ社長自身で操作しなかったのか。警察官にそれをさせた点に何か作為はなかったのか。
「そのとき彼は私に言ったのです」
そ、そうだ。防犯ビデオに犯人が写っているかもしれない。坂井さん、そのビデオデッキを停止させて、再生してみて下さい。
壁際の金庫の前で立ち上がり、社長は振り返りざまそう言ったのだった。
「では・・・盗難の箇所だけ別の日に録画されていたとは考えられませんか」
防犯ビデオ前半部の盗難シーンは当日以前に撮影済みだったのではないのか。鶴子はその可能性を問うた。
「それはないです。科捜研で検査してもらいましたが、連続的に録画されているそうです。テープの途中から再録画をされた痕跡はないとの結論です」
巡査長の説明を聞き、鶴子は少々考え込んでしまった。
怪しいと思われる箇所はその他にもある。例えば社長はなぜ外に通ずるドアや金庫に鍵を掛けなかったのかという点だ。
警察官が事務室の隣りにいたから油断したとも考えられるが、金庫やドアを壊したりしたら後で修理代がかさむとそう思って、お手軽にすませたのではないのか。もしそうなら中年男らしい図々しい手抜きといえる。
しかし、そんなことより問題は防犯テープだ。何かのトリックが施されているならこれだ。それを見破らなければ彼の犯罪は立証できない。
三人はしばし黙考した。
「坂井さん」
あることを思い付き、鶴子は沈黙を破った。
「ビデオデッキとモニタ画面はどんな位置にありましたか?」
「位置関係ですか?テレビの下にデッキがありました。ラックに収まっていました。それが何か?」
「テレビの真下ですか」
「そう。上下に並んでいました」
鶴子の質問に巡査長はそう答えた。それが常識だ。ビデオデッキだけ有っても役には立たない。だから別々に置いたりはしない。
「巻き戻しも再生も御自分で、リモコンを使わず、直接操作されたのですね」
鶴子は気になっていた疑問点を再確認した。
「ええ。少し巻き戻して、再生釦を押しました。いま見た映像と同じでした」
「その時、社長は金庫の前にいたのですね?」
「はい。後で振り返ると、壁際の金庫の前に立って・・・悔しそうにほこりを被ったビデオデッキを叩いて・・いました・・が・・」
坂井巡査長は答えた。だが途中から何か得体の知れない不安感を覚えた。
「そのビデオデッキには電源が入っていませんでしたか」
「う・・・そういえば赤いランプが・・・ま、まさか・・・」
坂井巡査長は絶句した。彼もまた、ある可能性に思い至ったのだ。
「はい。その可能性はあります」
「どういうことですか」
「井上君。こういうことだ」
巡査長はその時の状況を思い出しつつ説明した。
「テレビモニタには、そのほこりを被ったビデオデッキから接続されていたのだ。社長は、私の手元を後ろから覗き込みながら、私の釦スイッチ操作に合わせて、そのデッキを操作していたのだ。その可能性は否定できない」
こんな小娘に捜査の手抜かりを指摘され、巡査長は己れの迂闊さに唇を噛んだ。
「テレビの直下にあるデッキの釦を直接操作して、画面の映像が操作通りになれば、誰でもそのデッキに入っているテープの映像だと思います」
それが真実なら、そのデッキに録画されていたはずの真の防犯ビデオには盗難など記録されて無く、そんなどうでもいい光景が、単にデッキ内だけで再生されていた、ことになる。
「では、これはやはり事前に用意された物という可能性はありますね」
「うむ・・・しかし、変だな」
巡査長は首を傾げた。
「このビデオは私がその場でデッキから抜き出して押収してきた物だ」
「テレビの真下のデッキからですか」
重要ポイントだ。それが事実なら、これまでの推理は覆されかねない。
「そうです」
「坂井さん。このビデオを一度社長に手渡しませんでしたか」
「いや・・・まてよ・・・ケースに入れてやろうと言われて、その時に・」
「その時にすり替えられたのではないですか」
間髪を入れず井上巡査は鋭く言い放った。
「いや、それは・・・同じテープだった。もう一度中を抜き出して確認したのだ。確かにこの『お嬢さま女子大生シリーズ5・水着撮影前日編』だ」
そう断言して巡査長は右手でデッキからテープを取り出した。
「それにケースのシリーズナンバーも同じ5だ」
さらに巡査長はコタツの中からテープケースを取り出し、それを左手に持って、間違いないと両手を二人に振りかざした。
その麗々しいケースカバーには、前日編にふさわしく、水着屋さんの看板を両手で隠したり、その隣の洋装店でロングドレスを体に宛がっているカットもある。
「巡査長。本当にシリーズ5でしたか」
彼が取り出した本当のテープは、シリーズ6か7かの当日編もしくは3か4の前々日編ではなかったのか。
「うむ・・・そう言われると・・・」
井上巡査に詰め寄られ、巡査長は自信なさげに手にしたテープに目を落した。
「それに、レンタルビデオ店ですから、同じ作品のテープを何本も持っていたとも考えられます」
ビデオに詳しい井上巡査は別の解釈を付け加えた。たとえ準アダルト物でもこんな大作なら数セットあった可能性もある。
「きっと彼の策略です。印象に残るように、わざとこんな注意を引くテープを使ったのです」
鶴子はテープケースから目を背け結論を急ぐように言った。こんなもの早くしまってほしい。
「うーん。悪賢い奴だ」
巡査長はコタツの中にケースを戻しながら唸った。
「ええ、太い奴・・い、いえ・・保険金目当てでしょうか」
「もしくは確定申告が狙いだ。盗難証明が出れば税金は安くなる」
「うーん。ずる賢い奴だ。坂井巡査長。昨晩の事件のビデオも彼女に見てもらったらどうでしょう」
『サド教授の基礎保体講座』を取上げ、井上巡査はそう提案した。
これも防犯ビデオで、若干の相違点はあったが最初の事件とほぼ同一内容である。
「うむ。こちらの方も疑わしかった。きっとまたトリックを弄している。井上君」
「はい。再生します」
井上巡査がテープをデッキにセットし再生釦を押すと、前回同様の無音声の映像が流れた。
詳細は省くが、また金庫からの現金盗難で、手口も事件発生状況も最初の事件と酷似している。また、金庫の中の様子も泥棒が現金に手を出す一部始終も、今度もはっきりと写っている。
前回との違いは、社長が現金を金庫にしまった後、泥棒が侵入する三分前に、最初の事件の事情聴取に訪れていた井上巡査の顔が写っている。その点が違っていた。
映像を一通り見終わって、鶴子は彼等に質問した。
「社長が現金を金庫にしまったのは事情聴取の途中だったのですか」
「いいえ、その前です。社長は、『ちょっと待ってくれ、その前に現金を金庫にしまってくる』と言って、ポケットから百万円の札束を取り出し、事務室に入って行きました」
「途中で井上さんが映っていますね」
「店のカウンター横のドアをちょっと開けて事務所の様子を覗いたのです。彼に話を聞いている途中でした」
今度の防犯ビデオにはドアが二つ写っていた。
一つは前回も写っていた賊が侵入した屋外に通ずるドア。もう一つは社長が出入りする店内に通ずるドア。井上巡査が写ったのはそのドアだ。彼はそのドアの後ろから顔だけを数秒覗かせていた。
「しかし本官の当夜の姿が、数秒とはいえ防犯ビデオにはっきり写っている以上は・・・」
「はい。事前に用意されていたものではないですね」
なぜドアが二つ写るようにカメラをセットし直したか不明だが、事件発生当時刻の映像であるのは間違いない。
「でも、なぜ事務所の中を」
「彼が怪しい物音が事務所の中からしたような気がすると言ったからです」
「またですか」
「はい。それで本官が部屋の様子を確認したのです。社長はその後で、嫌な予感がするから金はやっぱりポケットに入れておこうと言い出して、また事務室に行ったのです」
「それで、盗まれたと」
「はい。慌てて戻って来ました」
「事情聴取の間中、お二人は社長とは同席なされていたのですか?」
「ええ、ずっと一緒にいました・・・ただ、五、六分くらいトイレで席を外しましたね。井上君が事務室の様子を見た一分ぐらい前のことです」
「はい。そのトイレの直後に社長が物音を聞いたと言い出したのです」
「では、その時に素早く変装して犯行に及んだのではないですか」
五、六分あればその犯行は可能だ。
「我々も最初はそう考えました。しかし・・・」
「そうですね。矛盾しますね」
犯行は、井上巡査が事務室の様子を見た三分後だ。
順序はトイレ、井上巡査の確認、盗難だ。テープに写った彼の姿は、防犯ビデオの正当性と社長のアリバイを同時に立証している。
「泥棒は単なる見せ掛けなのではないでしょうか。現金など元々金庫には・・・でも、それもあり得ませんね」
「はい。金庫の中も映っていますから」
社長は百万円を金庫に入れているし、泥棒はその金庫から百万円を持ち去っている。ビデオの映像はそれを写している。
それに、盗難に見せかけようと企んで、二回目に社長が入った時に、彼が金を盗ったのでもない。二回目に彼が金庫を開けた時、その中は本当に空だった。これもビデオの映像が証明している。
質問を終え、鶴子は畳の縁に腰掛けた。ずっと立ったままだったので少々疲れたのだ。
「井上さんが事務室を覗いたのは、トイレの前ではないのですか」
本当は、井上巡査が部屋を確認した一分後に社長はトイレに行ったのではなかったのか。その点を鶴子は再確認した。
「いいえ、違います。その逆です」
しかし、井上巡査はそんな勘違いをきっぱりと否定した。
ただもし逆であったとしても、やはり少しおかしいのだ。
映像では、井上巡査がドアの後ろから顔を覗かせた三分後に泥棒が侵入している。その差は二分だ。二分間できちんと変装して現われるのは困難な気がする。
「うーん。この盗難が真実なら、最初の事件も事実と言わざるを得ない」
「はい。確たる証拠もありませんし、それに、明らかに同一犯ですから」
この件も社長自身による犯行と判明すれば、捜査本部の看板は降ろせるのだ。
だが、社長以外の何者かが現金を奪ったのが事実なら、それが映っている以上、これは狂言犯罪などではない。それに、防犯ビデオが事件発生時刻の映像であるのも間違いのない事実だ。二人の警察官は残念そうに膝を叩いた。
「しかし・・・ビデオで見ていると彼の動作が何かぎこちない」
顔を上げ、巡査長は呟いた。
「はい。歩き方が変です」
井上巡査も同調した。
「彼だけじゃないですね。泥棒も・・・」
鶴子もいま見た映像に同様の疑問を感じていた。社長だけでなく泥棒の歩き方も変だった。まるで一歩一歩大地を踏みしめるような歩行なのだ。
そのこととは別に、実は鶴子には気になる点があった。覆面の賊が映っている箇所だった。
ただ、それは盗難とは全く無関係の事柄だ。
こんなこと若い女性が気にしてはいけない。いや、本当は気付いてもいけない。鶴子は、ビデオを見てそれを直ぐに発見した自分を反省した。しかし、どう考えても変なのだ。私の知識はまさかと思うがひょっとして間違っているのではないのか、とも考えたが、やはりおかしい。
「あの・・・」
こんなことを持ち出すのは場違いとも思えるし、口に出すのもためらわれる。だが、鶴子はこれをうやむやにしてはいけないと考え直した。ことは重大犯罪なのだ。
それに、それと関連して昨夜から心配していたこともある。
「泥棒が侵入して来た時刻は・・分かりますか」
鶴子は意を決し巡査長に問い掛けた。
「時刻だね。分かるよ。九時三十分頃だ」
「そうですか・・・」
ひょっとしたらと思っていたが、やはりだった。やはり昨夜のことと関連が有る。
「それが何か」
「いえ・・・あの・・・たいしたことではないのですが・・・」
「なにかね、東綺羅星さん。気が付いたことがあれば何でも言ってくれ」
「事件とは無関係と思いますが・・・」
昨晩の九時三十分頃なら・・・
茶の間のNHKのニュースが終わり、九時二十分に私は風呂に立ったのだ。その時にひょっとして、泥棒はビデオ店の裏にいて、表庭を通してお風呂場の方角に目をやったのでは・・・
鶴子は浴室の隣の小部屋に入り、セータを脱いで、歯磨きをした。のみならず、鏡に映った自分のウエストに幸福感を覚え、体をちょっと揺らせたりもしたのだ。
今までは露地の庭木に隠れて、絶対に浴室は見えなかった。だが、その日の夕方に母親が、飛んで来た虫や農薬のせいで木まで枯れた、とか言って、脱衣所前の大きな羅漢樹を掘り起こしていたのだ。
鶴子は、その時、そのことに気付いてなかった。人通りなど絶対に無い私道の突き当たりに彼女の家はあるが、そのことを知っていたら、真っ暗なまま風呂に入っただろう。
「変でした」
真剣な表情で鶴子は巡査長に訴えた。
「どこが・・」
「黒覆面の賊が映っている箇所です」
「そのどこが・・・ですか」
「股間・・です・・・確かに変でした」
「コカン?」
巡査長はポカンとなった。
「ああ・・・こ、股間だね」
意味が把握できなかった巡査長も、彼女の、早く気付け、19才の清純派が股間と言ったらもうそこしかない、清純派をいたぶると、しまいに怒るぞ、1回適切に恥ずかしがって見せてもいいのか、というような様子を目にして、やっとそれと覚った。
「う、うん。そういえば、若干変だった・・・なあ井上君」
「え・・・は、はい。我々もちょっと気にはなっていました。妙に・・・」
二人の警察官もそれは気付いていた。股間が不自然にもっこり膨れ上がっていれば、男性でも気になる。
「しかし・・・」
「・・・ええ。変と言えば変ですが・・・」
泥棒中に大きくするなど、若い女性でなくとも不謹慎で怪しからんと思うかもしれない。しかし、それはごく一般的な生理現象とも言えるし、コントロールも不能なのだ。井上巡査だって、一日に数回は勃起する。覚られないようにしているが、鶴子の顔を見ただけで固くなる時もある。
「そうだな。取り立てて非難される性質のものではない・・・かな」
巡査長も一男性として暗に理解を求めた。
「いえ、私はそれがいけないと言っているのではないのです。ただ・・・順序が変だと・・・そう思っただけです」
「順序?」
「はい・・・なぜ、金を盗んでから・・・大きくなったのでしょう」
そう小声で言ってから、鶴子はまたちょっと反省した。
いくら歳若い女性の関心事とは言え、清純派が注目すべき箇所や変化ではない。
やむなく気付いたりしても、意識したり口に出して指摘するなど慎まねばならない・・のだが・・きっといまごろお白洲か小法廷で・・
以上の推理により、これは、彼女が劣情を唆せ、角度や硬度をも誘導し、余罪に至ったものと考えます・・わー・・がやがや・・んまあ・可愛い顔をして、なんて破廉・しー、こっち見てるわよ・・相当勝気・トントン・・傍聴席は静粛に・・しーん・・では原告捜査団側も反論を・・さあ許可しますよ・・いいえ特にありません・・か・・精々でも・・
よいな、そなたも今後ハレンチは程々にして、教養で勉学に励めよ・・お、お奉行様・・よ・・よよ・よ・・本日のお裁きはーこれにて終了・・か・・
『ミス駒場・膝丈スカートでエロ中年を翻弄!』がスポーツ紙の1面にデカ文字・・だ・・
が、しかし、彼女はその順序の点がどうにも腑に落ちないのだ。
「井上君」
「は、はい」
再チェックの必要性を感じ、二人の警察官は、少し首を傾げながらも、頷き合った。
「もう一度再生します」
彼等も股間の異変には気付いていたが、鶴子のようにそこまで詳細に注意して見ていなかったのだ。
「そこだ。止めてくれ」
ビデオの途中で巡査長は命じた。賊がドアを開けて侵入して来た場面だ。
「普通ですね」
井上巡査は賊の股間を注視した。この段階ではまだ普通だった。
「うむ。再生を続けてくれ」
画面は進んだ。賊が金庫から現金を盗み出し、立ち上がった場面になった。
「う・・?」
井上巡査は短く声をあげた。金を盗んでから勃起し始めている。
「うーむ」
巡査長も変な顔で唸った。
「これはいったい・・」
「ストップ」
巡査長はまた命じた。賊が部屋から出ようとドアを開けた場面だった。
「そうとう大きくなっている」
「はい。突っ張っています」
「金を盗んで気が昂ぶったのだろうか?」
「いえ。普通はむしろ小さくなります」
「うむ。そうだな。萎縮する」
ビデオをチェックし、彼等は何か複雑な気分だった。常識外の不可解な現象であるのは間違いないが、これをどう解釈すればよいのか分からない。
「・・・しかし」
「うむ・・・」
二人の警察官はさっきから黙り込んでしまった鶴子の方をちらっと見た。そして、この事実によくぞ気付いた鶴子の観察眼に感心した。しかし、もちろんそんなことは口に出して言わなかった。
「ところで、このビデオを停止させたのは、また坂井さんですか」
一時停止のままになっているテレビ画面から顔を背けて、鶴子は違う質問をした。
「いや、違う。たぶんテープ切れで停止したんだろう」
「六十分のテープですから、この種のビデオはたいてい・・・い、いえ。本官もよく知らないのですが、社長がそう言っていました・・・ははは。し、しかし何か変だなあ」
井上巡査はそう言って頭を掻いた。
鶴子は勃起のことを考えていた。なぜ、あのような変な勃起になったのか。
覆面男が事務所に押し入る直前に、自分の姿を垣間見て欲情したのは確実だと思っていた。それは時間的にも符合する。
それに清純派の脱衣室準セミヌード姿を想像して、平静でいられる中年男などいるはずがない。清純度と角度は正比例する。これが常識。とも密かに思っている。
だからそのことは、良くはないがよいとして、彼女が不可解に感じたのはその男が勃起したタイミングの点なのだ。なぜそれが変にずれたのか。
男性の生理に疎い・・いや未精通な・彼女は・・もとい・・彼女でさえも、これが遅漏とかいう病理現象なのかと、全く見当違いなことをちょっと考えていた。
テレビの画面は、いつの間にか一時停止が解除され、場面が進んでいた。
井上巡査は、立ち上がったついでに、誰もいない事務室が写っているだけの映像を止めようとした。
「井上さん。そのまま再生を続けて下さい」
「しかし、この後は何も写っていません」
「いや、一度最後まで見てみよう」
このあとに先ほどのような何かの手掛かりとなる映像があるかもしれない。そんなこと考えながら巡査長はコタツに足を入れた。
少し寒くなり鶴子も膝を入れた。
トイレから帰って来た井上巡査は、小さなコタツなので遠慮したのか、ちょっと迷って、鶴子の向かいに座った。
そして薄い掛け布団を捲った。もちろん中など覗き込まなかった。しかし、堅い物がつま先に触れ、思わず首を曲げた。
ビデオのケースと正面の鶴子の下半身だけがちらっと目に入った。もちろんきちんと正座していたし・・ストッキングも厚手だった。だが、スカートは少し上方にずれ上がっていた。
お行儀の良い膝小僧と水着屋の看板に井上巡査は勃起した。
「あの・・・」
鶴子まだ勃起のことを考えていた。その単語が頭にこびり付いて離れない。
「何ですか?東綺羅星さん」
「あの・・・トイレから帰った後に・・・」
巡査長はトイレから戻って来た井上巡査をちらっと見た。
「そのあと大きくなっていませんでしたか」
「え・・・ぼ、僕はそんな・・・」
勘の良い彼女に覚られた。それも重大事件捜査の只中に。ああこの状態でもまだ・・ああダ、ダメだ・・ナ、ナン・・トか・・ストッキングが・・う、上よ、消えろー・・・井上巡査の脳裏には、懲戒免職の漢字四文字もその片仮名の横に並んだ。
「い、いえ。井上さんのことではありません」
鶴子はとっさに否定した。そして変なタイミングで変なことを言ってしまったと後悔した。彼女も、彼の強張って居心地悪そうな様子が少し気になっていたのだ。
「ビデオ店の社長のことです」
鶴子は強いて真剣な顔をした。彼が、いや社長がトイレから戻った後、もし勃起していたなら、それは有力な状況証拠となりうる。
しかし、そんな鶴子の想定は、
「いや、そんなふうではなかった」
巡査長が残念そうに否定した。
「そうですか・・・変なこと聞きました」
勃起という現象を観念的には理解している彼女だが、その硬直がどの程度永続するものなのかは学術的にも知らないのだ。
「いやいや、東綺羅星さんの観察眼には・・・ミ、ミカンでも食べよう。井上君取ってくれ」
部屋の隅にある棚をとっさに見上げて巡査長は話を逸らせた。
「は、はい」
井上巡査は少しうろたえた。
「私が取ります」
即座に鶴子が立ち上がった。
「ひ、東綺羅星さん。すみません」
井上巡査は、ミカンの小鉢を持って来た彼女に礼を言った。
「いえ」
もし彼が勃起して困ったなら、自分にも責任の一半はある。何でもないハプニングだが、あんな時、男性陣の視線がどんなふうに素早く動くかもストッキングにわざわざ何かを付加するのも鶴子だって薄々知っている。
「あ・・・」
鶴子の持つ小鉢からミカンがこぼれ落ち、足元に転がった。
「あっ・・・こ、これは」
彼女が凝視するテレビ画面を見て、井上巡査は呆然とした。
映像は突如ペニスの縦断面イラスト図になったのだ。
幸いモザイクは入っていたが玉とか亀頭とか黒板に矢印付きで書き込んでもある。教授の指示棒は亀頭の縁部を指し示しているから、もし音声入りなら、ここが一番の弱点とか説明されているのだろう。
「い、井上君。停止だ。ストップだ」
坂井巡査長は叫んだ。
「は、はい」
井上巡査は慌ててデッキの停止釦を押した。
「・・・」
鶴子は思案顔でぼんやりと立ち竦んでいた。
いくら探してもどこにも隙が無く、やむを得ずスカートの裾から侵入した小波も厚手のストッキングで阻まれ引き返した・・のか・・
だが、いっとき停止していた脳活動は、
「井上さん。続けて下さい」
再開した。
念のためにもう1回断って置くが、間違って両膝小僧の隙間を遡上してしまったさざ波が膝小僧をも通過した・・のでは無い。
「えっ・・・しかし・・・」
清らかな十九歳の女性が見るべきものではない。
「かまいません」
ちょっとした変化が鶴子の体に、いや脳髄に起こり始めていた。スカートを遠慮してセータから入って来たその微熱波動が脳髄に至るや推理のひらめきを触発したのだ。
「しかし・・・こんな」
「気になることがあります。続きを見せて下さい」
鶴子は真剣な表情で彼等に訴えた。
「東綺羅星さん。この映像に不審な点があるのですか?」
「もしかしたら・・・逆かもしれません」
「逆?何が・・ですか」
「この映像そのものです。もしそうならば、この先を見ればはっきりするはずです」
ビデオ映像は再開された。
これがもし逆ならば・・・鶴子は眼前のビデオ映像を凝視し続けた。
何を延々と紙芝居風に講義しているのか、ペニスの角度が段々高くなっている映像が続いていた。
しかしこの段階ではまだ不明だった。上下運動では駄目なのだ。それがはっきりする場面がこの後にある。
次のシーンで角度が更に高高度となった。
信じ難い角度に鶴子は目を見張ったが、また反省して視線を逸らせた。
「き、東綺羅星さん」
「いえ・・・もう少し我慢して見ます」
まだ駄目なのだ。
「ああ・・・」
巡査長が思わず声をあげた。
その次は先端部からの噴出だ。
「い、いいのですか?こんなものを見て・・・ああ、見ていられない」
中年警察官と清純な女子大生が同席して見る映像ではない。
「まだです。これではまだ・・・」
鶴子が欲しているのもこんな映像ではなかった。
彼女は先ほど見た防犯ビデオの映像を思い出しながら、事件の推理を試みた。
つまり・・・ドアにたどり着くまでは慌てた振りをし、ドアを開けた後は平然と事務室に入り・・・金庫を開き、いや脚を・・・違う違う金庫を開き、そして札束をポケットに入れ、ポケットに入れ・・・そう、入れてから出して・・・しかし、この往復運動も・・順番は・・逆なら合っていても・・往復や発射では・・まだ・・・
破廉恥な基礎講義映像を前にして、考えはまとまらない。
鶴子はテープを早送りした。これ以上は男女合同で見ていられない。
講義が終了したのか、教授は教壇から降りた。
「あ・・・」
「逆だ・・・」
二人の巡査は同時に叫んだ。
「こ、これは・・・」
井上巡査は早送りを解除した。それは後ろ向きで教壇から遠ざかる場面だった。
「逆に歩いている。それも、早送りを解除したのに、やや早足だ」
「逆転再生されている」
「はい。巻き戻し再生の映像です」
「しかし、いままで見ていたのは普通に再生した映像ですよ。なぜ逆なんだ」
不可解な映像を目の当たりにして、井上巡査は鶴子に問い掛けた。
「巻き戻し再生の映像を別のテープにダビングしたビデオです」
これ以上見る必要がなくなり、鶴子はビデオデッキを停止させ、二人の警察官に向き直った。
「では、事件の映像はどうなるのです」
「防犯ビデオの方も逆方向に再生したものです」
「では・・・彼は・・巻き戻し再生のテープ速度をも考慮しながら・・逆に行動していたのですか?」
「そうです。彼が現金を金庫に入れると言って最初に事務室に入った時に、実は、金庫が空っぽで驚いた演技を逆スローでやったのです」
「一番最初に最後の映像を写したのですか?それも後で逆転再生して、まともな動作になるように・・・」
「そうです。ですから、金庫にはその時、現金が入れられたのではないのです。彼のポケットには札束はまだ入っていたのです」
ビデオの最後の方に、空の金庫が写っているから、当然そうなる。
「その後、彼はトイレに行くと偽って、変装して、別のドアから入ったのです。この時ももちろん後ろ向きで現われました」
「で、金を盗んだ・・・いや、金はまだ金庫にはない。どうやって盗んだのです」
「泥棒は、盗んだのではなく、現金を金庫に入れに来たのです」
「え・・・」
「では、僕の顔が写ったのは、いったいいつなんだ」
「泥棒がつまり社長が現金を置いて行った後です。映像は逆ですから、つまり本当はトイレと偽って金を置いて来た一分後に井上さんは事務所を覗いたのです」
「逆に再生すれば、そうなり・・ます・・が、ややこしいなあ」
「じゃあ、金はいつ盗まれたのだ」
「最後に、金庫が空っぽだと戻って来た時です」
「その時、彼は事務室の中で、どんな演技を・・・」
「防犯ビデオの最初です」
「現金を金庫に入れた?」
「その逆です」
二人警官の前では、つまりドアにたどり着くまでは慌てた振りをして、ドアを開けたその後は平然と金庫に近づき、そして札束をポケットに入れ、また戻ったのだった。
「それを逆動作で行った」
「はい。真実の盗難はテープの最初に行われたのです」
「つまり一番最後に・・・ああ、頭が変になる」
「全て逆動作で行動して、それを防犯ビデオに収めたのです。それを逆からダビングして坂井さんに・・・」
「ま、待ってくれ。そんな時間的猶予は無かった。テープは事件後すぐに押収した」
「事件後にその場でテープを見ませんでしたか」
「うん。見た。しかし、その後すぐに彼からテープをもらった」
「その逆再生中の映像を別のデッキで同時に録画していたのです」
「うーむ」
「東綺羅星さん。では、あの講義の映像は・・・」
「社長が防犯ビデオをセットした時、完全に頭出ししなかったのです。これは彼の致命的なミスです」
「つまり授業の途中の、そんな場面の途中から録画してしまったのですね」
「ええ。そして、それをうっかり丸ごとダビングしてしまったのです」
鶴子は彼等の疑問の数々に答え終え、またコタツに入った。
「うーん。それにしてもなんとややこしい手の込んだ犯罪を企んだものだ」
井上巡査は呆れながらも少々感心した。
「変なビデオを流用したのが奴の命取りだったな」
事件解決の目途が立ち、巡査長は口元をゆるめた。
「はい。新品のビデオやCDを惜しんだからです」
中年男の変な節約精神がちょっと可笑しく、鶴子の頬も少しゆるんだ。
「巡査長」
コタツのミカンを手に取り、井上巡査は思い出したように言い出した。
「例の社長の股間の件ですが・・・」
「うん。ちょっと不可解な点はあるな」
彼が金を盗んでから勃起したのでないことは判明した。彼は後ろ向きで裏口から事務所に入る前に、硬直したのだ。だが・・・
「なぜ、ああなったのでしょう?」
井上巡査は勃起そのものを疑問に思った。それどころではなかったはずなのだ。
「それは・・・あれだろう。たぶんどこかの家の寝室でも目に入ったのだろう。裏口から侵入する前に」
「そうですね・・・しかし、あの時刻ならきっと風呂場です。ここは民家がそう多くありませんが、きっとどこかの浴室が目に止まったのでしょう」
「しかし、今は真冬だ。夏ならともかく窓など開けてないし、ぜいぜい上半身がぼんやりと見える程度だ。犯行時にああなったのだから、相当の刺激を受けたはずだ」
巡査長は反論した。捜査上の重要ポイントとは言えなくとも、おろそかにはできない。送検、起訴、公判。どこで綻びが出るやも知れないのだ。
「ですが、九時半頃です。十一時頃なら、寝室の可能性もありますが」
「うむ。まだ就寝時間にすらなっていないな」
「巡査長、風呂場です。間違いありません。若い女性が入浴していたのです」
「あの。私はそろそろ・・・」
「東綺羅星さん。ミカンでも食べて下さい」
腰を浮かせかけた鶴子に巡査長はミカンを差し出した。
「きっと、劣情をそそる思いがけない光景が垣根越しに・・も、もちろん、東綺羅星さんの家じゃありません。東綺羅星さんの屋敷はちゃんと見えないように配慮がなされていて・・・ははは、普通なら東綺羅星さんとこみたいに大きな木を何本も植えるとかすべきです」
「そう。ちゃんとした家庭なら、そうあって然るべきだ」
「美味しいですね」
「はい。家内の実家が和歌山で母親が毎年送ってくれます。母親といえば、うちの婆さんは六時頃に風呂に入る」
「巡査長。それは参考になりません」
「そうだな・・・ところで、東綺羅星さん。若い女性なら何時ごろに入浴されますか?」
「わ、私ですか」
「い、いえ、東綺羅星さんのことじゃありません。一般的な話です」
「九時か十時頃かしら・・・あの・・裁判の時にはそんなことも検証されるのでしょうか」
鶴子は恐る恐る問い質した。法廷における参考人として、私のおぼろげで上半身のみのブラウス姿が犯行直前の被告の欲情を著しく刺激しました、それに相違ありません、などと小恥かしい証言をなさねばならないのか。
「それはないでしょう。奴も素直に罪を認めるでしょうから」
「そうですか。安心・・・いえ・・・」
「まあそんなことはよいとして、これで事件解決の目途が立ちました。捜査本部長もきっと大喜びでしょう。東綺羅星さん、礼を言います」
「いえ。お礼だなんて・・・」
「東綺羅星さん。よく気がつかれましたね」
「いえ・・・偶然です」
「うむ。些細な点にまで注意深く観察されておられる。我々も見習わなくてはいけない」
「・・・いえ」
鶴子は迷惑げに顔を伏せた。
「井上君。逮捕状の用意だ」
巡査長は立ち上がって叫んだ。
これ以上誉めると彼女がますます困惑する。「はい。許せません。東綺羅星さんに変なビデオを無理やり見せ付けて」
鶴子も許せなかった。すりガラス越しの上半身ブラウス姿とはいえ、厭らしい中年男に浴室の隣の小部屋を覗かれていたのも、証明されてしまったからだ。
それは彼女にとっては、盗難事件なんかより、数十倍・・いや数倍・・許せない・・思い出だった・・が・・
【2】
・・パカーン・・
「いかが・・かしら」
「お、おや・・お嬢ちゃ・」
「その・・お嬢ちゃんは止めて頂戴・・お着替えは済みましたが、爺は何を」
「薪割り・・です」
・・パカン・・
「ポカンと見とれていると失敗するわよ」
「ははは・・えい・」
スカ・・
「お・・おっと・・これは一時中断して・・さて・・さて・・」
「・・それで・・モデル姫はどんなポーズを・・」
「・・そ、そうです・・ねえ・・そうだ・・そうだ・・町立美術館の像・・のような・・」
「それは・・どんなポーズ」
「では先ず・・お手手を上に・・上げて・・その両手を・・お頭の後ろで・・」
「・・こう・・組む・・ね・・どう・」
「へ・・えー・・結・・構・・結構・・でも・・お学校のプールでも・・この布・・も・・セット・・で・・」
「そうどす・・ねん・・がな・・でっせ・・よ。江戸や京都のお厳しいおばちゃんたちが、もっと隠しなはれ・・な・・と」
「・・なるほど・・お将来が・・お楽しみ・ああこれは・・松子様・・お早い・・お着きで・・・」
・・あれれ・・なんで・・こんな出店で・・もぐもぐ・と・・ふふふ・・いきなり現れて驚かせ・・いや・・このままスパイしていたら・・きっと・・あの中に・・よ、よし・・弱みを・・も・・我が物に・・でも・・おやおや・・あっちの・・ソーキそばコーナでも・・つるつると・・あのおばさんは・・両国綺羅橋の竹子さん・・とかいう・・
・・うーん・・この顔は・・かつてどこかで見・・ああ思い出した・・
・・が・・ひょっ・・として・・み、見え・・る・・かも・・パリン・・
し、しまった・・・うーん・どうすれば・・では・・これを・・ぐにゅ・・ああ・はみ出たぞ・・目立つなあ・・
・・そうだ・・よし・・ああして、こうしよう・・
しかし6月の下旬は・・確か外務省の係員も・・毎年うろうろ・・
では念のため・・3週間後に直して・・
だが・・天候不順で・・まさか・・たらい回しで・のこのこと・・
まあいい・・どれくらい短くなったか見物してやろう・・ずら・・
ねえ、見て見て・・ま、まあ・まあ・・少しはお年齢を・・だから、衣装じゃなくて、これよこれ・・あら、なぜ案内状に、文京区が・・もしかして舞踊教養学部でも新設・・でも、それだと駒場だと思うわ・・そうね・・きっと印刷ミスよ・・そんなことより、もっと高くて大きい靴ないの・・そうね、馬場さんだと・・・
「課長代理、臨時係長代理はどちらに」
「東綺羅星臨時係長代理は本省だろう。初期研修中の有給休暇の件だと思う。避暑に行きたいとか言っていたから」
「そうですか・・でも、いいなあ・・僕も那須か軽井沢・」
「スタイルのいい美人に、何か・・用事でも」
「ご親戚の方が面会に見えられています」
「お名前は」
「えーと・・メモをしたはず・・これだ・・北梅小路東綺羅星梅子さん・・こちらも相当長いですが、我々にまでお土産を持って来られました」
「ほー・・どれどれ・・生八つ橋と柴漬けじゃないか」
「しかし・・困りましたね」
「うーん。京都からわざわざ文京区にまで見えられて・・おや、鑑識の六角堂くん。遺留品のレースのハンカチから指紋が採集・」
「いえ、それは相当困難で、まだなのですが、東綺羅星臨時少年補導係長代理なら、一旦本署に戻られて、鑑識課の古いビデオテープを借り出して、いまから部下と国会図書館に行くから、と伝言を頼まれまして・・」
「・・家来まで連れ出して・・」
・・井上巡査?・・
「しかし、例の貸しCDビデオ屋なら、執行猶予になり、店も畳んで軽井沢に引っ越して、いまは役場等の清掃等をしている・・とか」
「いえ、それとは別件です」
「あ・そうなの」
「ただ、相当古い・・もう30年も前・」
「そ、それでは時効が・・過ぎて・・いる」
「しかし国会図書館などに・・何の調査で」
「それなら、βの再生機がないかと考えたのでしょう」
「そのβとやらは何ですか」
「若い連中は知らないだろうが、βとは大昔にあった録音方式さ」
「はい、調書に拠れば、わざとらしく幼児にコーヒを溢させているシーンとかもあったらしくて」
「それを・・また逆行動し・・逆転再生させて・・ダビングした・・とか・・」
「・・いえ・・それは・・不可能です」
「・・あ・そうか・・液体や気体の拡散は不可逆過程だな」
「こっちは完全犯罪かも知れないのに」
「・・まあ・・臨時の初期研修なのだから・・派遣交流中に捜査や補導の手法を身に付けて貰えれば・・今後何かに・・幼児の世話とか躾とか・・に役立つだろう」
「それで・・北梅小路東綺羅星梅子さんの方は・・」
「そうだな・・本富士署からは相当遠いけれど・・出向いて貰ったらどうかな」
「それより電話して貰って・・どこかで会って頂いたらどうでしょう」
「でも・・何の用事だろう」
「・・たぶん・・寿な・・」
「あら、そうですか、私は、鶴子さんもお成長なされたわ、と思ったのですが」
「でもなぜ竹子おばさんが・・ここを・・こんな所を」
「ですから、去年の夏ここであなたを見掛けた、と昨夜彼女から聞かされたから、それなら、ここで落ち合おうと」
ここは某デパートの2階・・『今夏も沖縄大セールス』とか『今年こそカップル海水浴』とか『お嬢さん、あなたのことですよ、ド、ドキ』とか・・旗も立っている。
「もう双方忙しくて・・ああ・そやそや・・これを鶴子・はんに・・さあどうぞ」
「あら、京・大安の・・おおきに・・で御座います」
「上加茂で・・っせ・・よ」
「それで・・場所柄も時節も・・お日柄も・・ぴったりだ・・と」
「そうだす・・お真面目一方で、お重厚で、お噂でも胸毛さん黒々で、お眉も・・びっくりしたらあきまへんえ・・男らしい右の毛ともっとおダンディな左のお毛とが・・やがて・」
「繋が・・って一体化している・・とか」
「いいえ、分離して隙間も幾分あります・・し、最近もたまには、不器用者です、とかおジョークも・・え・・」
「・・まあまあ・・これは・・ブラッ・・クなお冗談・・ねん・・でっせ・・なこと・・」
「お写真は、こっそり夜中・・い、いいえ夕方にでも、恐る恐るそっと開いてもろて・・驚きなはるとして、若干28才で、早くもいきいき健康課係長補佐で、府体もおバタフライ3位ですよ。大きな声では言えまへんが、もうお筋肉なん・・か・・正直・・ま、まあ・・わても・・ここまで・・お隆々は・・で・・いかが・・かしら・・どう・・え・・」
「・・お同感・・かと・・」
「・・そお・・やっぱり・・やっぱり誰かさんは・・重重しいのが、お・」
「お・・人・・柄重視・・です・・がな」
「・・おほほ・・分かって・ま・・きっと・・お顔のお可愛・」
「ま、まあ・・まあ・・うちを・・そないお褒め頂いて・・恐縮・・どす・・え」
「・・そな・・今後のことも・・ありますけ・・な・・」
「・・?・・ありますけ・・な・・・あります・・から?・・」
「お正解・・」
「・・それ・・で」
「ですから、中いとさんのお写真も・・」
・・三姉妹の真ん中?・・
「・・えー・・私の・・」
「着物姿とかお水さんとか・・おミ・」
「お残念・・ですが・・」
「やっぱり・・」
「・・ほほほ・・まあワンピー・」
「あら、おワンピを、そなそれを・」
「そっち・・では・・ありま・・へん」
「ほなら、せめて・・そのワンピース姿の横に、世のお殿方どもよ驚くな、さあお好きなだけお想像しなはれ、と、はんなり・・ばっちり付記するおサイ・」
「こ、ここ・・では・・」
「・・ああそれもお嫌これもお嫌・・それで・・お官僚にならはるとかで・・お勤め先は・・確か・・」
「はい。一時は、財務省か警察庁かNHKにしようかとも思ったのですが、結局・・そこに」
「それなら、お南欧お南米赴任もあるのですから・・ついでに・・ほな・・お見物でも・・さ・・はよ・・来・・よし・・」
「何だこれは」
「今朝郵便ポストに投げ込まれていて・・いちおう3課長にも・・と思いまして・・」
7月20日の午後3時に、軽井沢町立美術館の麗子像を頂戴する。腕利きの捜査員をパトロールさせた方がいいぞ・・・わははは・・・怪盗ルパンより・・・
「ここは東京だぞ」
「最低でも国家止まりだ」
同席中の3課長補佐も追随した。
「ですが、いたずらの可能性もありますが、総監や長官の・・例えば、抜き打ちテストかも知れません」
「それにしても・・怪盗ルパンとは・・」
「はい・・如何にも有りそうで・・」
彼らトップ二人の怪盗風な容貌も脳裏を横切った・・のだが、名探偵明智小五郎やホームズや怪人二十面相や金田一耕助物も・・総監の孫の誕生日にも刑事部長がプレゼントし、祖父から褒められたらしい・・のだ。
「長野県のルパンなど・・どうしろと言うのだ」
「厄介だな。セーラムーン以下・」
コンコン・・
「・・石山です」
「開いている。入っていい」
「実は今しがた・・警察庁の警備局と刑事局経由で、外務省官房の危機管理調整と儀典の方から文書が届きました」
「・・ややこしいな・・国から・・国を経て・・東京に・・」
「・・でもなぜ・・外務省から・・警察庁を一旦経由して・・警視庁に・・」
・・2重たらい回し?・・
「お次は要人警護か・・テロか」
「そうでも無いようでも・・有るようでも・・です・・が・・」
「見せろ」
「これです・・」
第7回 軽井沢大文化芸術大祭
さて、文化人教養人芸術家芸能人が集い、財界人や政府要人さらには各国高官さえもが別荘を構える、ここ軽井沢で、大文化芸術大祭が開催されて、今年で早もう第7回目。
・・中略・・
アマチュア芸術賞も模擬店も有り。
そのうえ今回は、なんとなんと、飛び入りのパレードショーまで・・
よい子のみんなも集まってね。あんパンマンもキレイなお姉さんもいるよー・・え・お父さん?・・エスコート拒否、地元署に即連行・・
・・中略・・
もちろん熟女もミニスカとハイヒールでハッスルよ・・
主催・・軽井沢町役場及び公民館及び連合町内会。
協賛及びご来賓等・・軽井沢商工組合、JA軽井沢支部・・等々・・在日ブラジリアン協会浅草及び文京区支部、軽井沢署生安課、外務省・・
審査・芸大芸術系学部在学生。
「関連箇所には波線を追記しました」
「・・外務省もチェック済みなようだな・・」
「・・うーん・・」
「警察も入っていますから・・こちらの警察にも再回送されてしまった・・のではないかと・・」
「文京区も波線入りだが」
「あ・・それは間違え・」
「いや、それは・・いい・・構・・わん」
「それで、その像とやらの価値は」
「ネット等で調査しますと、時価170万円は下らない・・らしく・・」
「益々厄介だ」
「こんなもの、2つともどこか・・本富士署にでも転送しろ」
・・やっぱり・・第3たらい回し・・
「はい。では長野県警の広域共助捜査課にも打診して、軽井沢署との協力体制を署に取らせます」
「なぜ、こんな・・不幸の予告文や芸術大祭の招待状が、2つも、我が署に」
「署長が課長の未決箱に入れて置けと」
またたらい回し・・
「こことここの双方に、刑事局長の判子も押してあって・・それから、脅迫状にも、本件は任す、と刑事部長も、簡潔に、直筆でも・・」
「誰か適任者は・・」
・・またたらい回し?・・
「あの・・軽井沢なら僕が・」
「だめだ。我々は一眼となって、早急に更なる新たな不審毛髪をローラ発見しなければならない。穿り返された農場一帯を発掘隊が再度また埋め戻す前に、だ・・種が蒔かれたら、完全に手遅れなんだぞ」
そうそう・・他学部や付属病院や赤い門の周辺にも埋まっているかも知れないし・・
「まだあるぞ・・小石川後楽園でおばあさんがジェットコースタからコンタクトレンズを落として困っていたとか君が言っていたではないか・・誰か暇な・・時効済み捜査班とか・・少年補導係とか・・」
・・やっぱりたらい回し・・
「それに、ルパンなら外人だろうしフランス語を話せ・」
「あの・・お話中ですが・・」
「何だね、加藤クン」
「ここと・ここと・・ここにも判を・・」
「何の書類だ」
「えーと・・交流派遣型・初期研修の本省中間報告と・・軽井沢署応援依頼許諾と・・夏期休暇願い・・ですが・」
「ハー・・ハー・・」
ばーん・ばーん・・ばーん・・・
ああ、たらいの水が・・
「では、例年通りとはいかないが、今年はなんとか5人体制で・」
「しかし山田さんの年齢制限が・・とっくに過ぎて・・います・・が」
警察が詐欺行為を・・
「そこをなんとか・・毎年地元応援隊もやって来るし・・」
定年退職直前なのか、それとも1年後は移動予定なのか・・
「ですか・・ずるずるもう5年も・・本人は、仕方がないだべさ、とか言ってますが」
「では彼女には・・ルパン事件の方に回ってもらったらどうでしょう」
次は・・ビリヤード人事・・又は玉突き事故。
「そうすると・・余計足らなくなる・・なあ」
「もう3回も雨天順延で・・まあ幸い当日は快晴の予報で気温も・」
「署長ー返答がー」
「何だね。ヤマさん・・朗報以外は拒否だぞ・・」
・・冷水・・いや温風が・・
「どこだろう・・さ」
「巡査長が、また地元紙の地元欄にまた載っていたっちゃ、とか、またを2回も使って・・ああ・・これだな・・」
【再募集】・女・50以下・面談無・千~2千/時・制服支給(要返却)・迷子犬猫世話豚汁便所等・靴24固定・コンパニオン経験不要・残少な・
「この50は、50人・・だべさか」
「50才以下だろうが・・両方かも知れない・・極力短くして・・」
「だからか・・ずら・・こりゃ・・よっぽど、集まらね・」
「だから、文の方も例年以上に短くしてある・・のだろう・・と」
「制服支給には、(要返却)とまで付け加えているのに・・ぺ」
「そうなると・・町役場にも寄るように・・と・・知らせなければ」
「えー・・もう1回東京に電話しろぺ・・と・・疲れるべ」
「それから、ハイヒールが24センチでもいいか確認も・・」
「・・えーと・・首都圏の花のお江戸の・・本富士署は・・」
・・ふぁー・・そよ・・そよ・・ピラっ・・
「もしもし・・ああ恵美ちゃん・・音蔵さんは・・そう・・裏で薪割り・・と?・・まあ・・もう石膏の用意も・・・悪いけれど、もう1回呼んでもらえ・・へえ、携帯も買った・・子機も持ち歩いている。じゃあ、そっちに・・」
「・・パカーン・・はい、音蔵です。ご到着日時のことですか」
「それもだけれど、もう彫刻の準備をしているとか」
「はい、替え玉の・・パカーン・・像が早急に必要になったとかで、軽井沢署から頼まれまして・・」
専門家に頼むと高く付くし、えーそんな水着すら着ていない偽物など芸術家が造れないとへそも曲げられるから・・誰か手先が器用な者が近郷にいないのか・・となったのだろう。
「じゃあ・・警察からも直接依頼されたのね」
「そうです・・が・・その事件に・・鶴子お嬢様も・」
「その言い方は止めて頂戴。どうしてもなら、お嬢さんぐらいにして」
「・・では鶴子お嬢さんも・・何かご関係でも・・」
「そうよ、私もそれの製作をお願いしようかと思っていたの。私はね、大文化芸術大祭のパトロール官兼案内嬢に抜擢され・・てしまったのよ。ちょっと凄いでしょ」
「へえー・・それはそれは・・やや畑違いとは言え、ご大役・・爺も・・嬉しいです・・が・・大丈夫ですか」
「まあね・・正直・・色々不安の方が多いけれど・・いまは各省庁も交流人事が盛んで・・」
外務官僚の卵が初期研修で、警察庁、警視庁、所轄署臨時出向、地方署短期出張、駐在所赴任、便所掃除・不良取締り・非行少年補導・幼児遊び相手等・・珍事に近い。
「それならお断りし・・ては・・いけません・・ね・・確か・・かつて階段の手前辺りに・・教えか・・覚えか・・」
・・日課か呪縛か諸法度・・みたいなものが・・ペタペタと・・
「まあ・・あれを・・」
・・①敢えて火中の栗を拾い給え・・「ゴミもよ、屈んで拾いなさい」・・
②前方が枝分かれしていたら正直にその道を選び給え・・「これはわざわざ書いて無いけれど、棘道や坂道のこと」・・
③そこです、そこ、そこをぎりぎりまで我慢し給え・・「そうそう・・天上の神様がいまあなたのそこを双眼鏡で見ているのですよ・・そう思いなさい・・地上の人間もですよ」・・
④能力等の出し惜しみは程々に止め給えよ・・「仮にその等が何であっても、お勉強でもお稽古事でも・・前記でも、きっと紳士もいます」・・
⑤色々思うのは自由だが口に出して恥ずかしいとか中々言ってはいけない・・「そういう時はお恥ずかしいとか小恥ずかしいとか照れちゃうとか・・後は自分で考えなさい」・・
⑥稚気を発散しお澄まし顔を忘れるな・・「幼児がわらわら寄って来たら・・遊んであげたり叱ったりしなさい」・・
「・・見た・・のね」
「いいえ、大昔に、チラとだけ・・」
「お恥ずかしいものがどこかに貼ってありましたがもう破り捨てましたし・・元々気にもしてません」
「では・・それをはね除けて・・何事も自力や自身の信念で」
「と、当然・・です。子供じゃあるまいし、そんなお節介も過剰な道徳も無視・・いえ、忘れ・・ようと努力・・というより・・そう努め・・なくてはいけません」
「分かりました。爺も協力を惜しみませんが・あまりご無理・」
「それは音蔵ももう忘れなさい。要らぬ憶測や詮索も・・程々にして・・頂戴・・よ」
誰にしても・・やや勝ち気な清純派なら特に・・何かに迷ったり判断したりのたびに・・お・これは⑧が脳内にこびり付いている証拠・・とか・・おお・正直に言って崖っぷちに立ったぞとか・・いちいち思われたく無い。
「それで・・その着衣麗子像とやらは・・大人・・ね・・」
それは膝丈フレアワンピース姿の背丈1mほどの全身立像だ。
「はい・・それに美人でスタイルも・・」
「なるほど・・もし、どうしても・・なら・・どうしてもモデルも必要・・と言うのなら・・もう1回・・なって・・あげ・」
「その前に・・ご存知ないと思いますが・・その像は、鶴子お嬢さんと・・特に顔が・・パカーン・・そっくりなのです」
「それ・・は・知らな・・かった・・じゃあ・・あげても・・いいわ・・よ・・どころか・・もう決定・・」
・・早々決定。ああ推理はあるのか・・
「それは・・願ったり・・もう叶ったり・・ですが、今度は着衣ですよ」
「それだと、以前の大昔のモデルは無着衣だった・・みたいよ」
「いいえ、ですから今回は・・パ、パカーン・・水着など無し・・ああ段々もっと・・変・・だ」
「ほほ・・残念だわ」
この・・ほほ・・は、ほほほとは違い、何か動揺や不安や次ぎに続くフレーズを打ち消しているような・・
「ははは・・これはいつもの・・鉄橋や信号機があっても川と線路を渡る用意周到頑固者の、つい詰まらない、取り越し苦・・スカ・・おっと・・手元が」
「気を付けてよ。重・・大発・・表の前なんだから」
「えー・・いまから・・な、何を・・」
「それを乙女に言わせる気。いま想像していることを・・ほ、ほら・・どれくらい成長したか・・なー・・とか・・」
「それは・・常・・々・・でも・・意味が・・良く」
「と、言っても、着衣は着衣よ」
「も、もちろん・・で御座いま・・しょう・・が」
「ただ・・大着衣か小・・で・・よ・・」
「・・・?・・パカン・・」
「ま、まあね・・来年の今頃はニースかバリかスーダンか・・アンカレジか、そろそろ決めなさい・・とか・・えーリオの公館からも求人が・・とか・・へえーおトイレ掃除の経験有り、それはもう願ったり叶ったりです・・とか・・」
・・ブラジルのブラジリアのブラジ・ル人が大使か外務大臣かに人員派遣の督促状を出した・・いやそれとも・・現地のベテランスタッフが・・そろそろ若い子にチェンジして欲しい・・と中南米局長に泣き付いて来た・・のだろうか・・
「・・で・・どちら・・いや、それは問いませんが、リオ・・デジャ・・パカーン・・ネイロは」
「そ、そう・・じゃあ・・スーダン等に・・し・・ちゃお・・かしら」
「そ、それが良いです。爺も・・賛・成ですが・・何か・・お、お練・・習の・・よう・・な」
「ま、まあね」
「・・念のため・・重ねて・・問います・・が・・これは・・お祭りやルパンや・・南仏や観光等島の・・気候や風習・・パカーン・・お風俗等と・・何か関連・」
「そ・・そう・・です・・よ」
「ど、どんな・・ご心境の・・激変・・」
「・・ま、まあ・・まあ・・そんな・・オーバな・・止めて頂戴・・」
「ま、確かに・・普通と言えば・・普・・通・・です・・が・・」
「・・では・・その大僧正の大袈裟を・・先ずリセットし・・・したの」
「は、はい・・え、えい・・ぽち・・」
「次は・・少し低レベルに・・」
「・・どれ・・くらい・・まで・・さ、下げれば・・」
「普通の・・何とか派のような・・ものに・・まで」
「は、はい・・・簡単に言いますが・・出来るか・・な・・じゃあ・・スル・・ス、スル・・ああ逆・・ズ、ズル・・ズル・・・ま、まだまだ・・とー・・ぐさ・・」
「いま、グサって厭な音が・・ねえ、もしもし、どうかしたの」
「平気です。生きています。喜んで実験・・台になります・・が・・あ・・血が・・痛てて」
「本当に大丈夫なの」
「はい・・しかし・・ちょっと・・困ったな・・」
「・・私も・・という・・より・・こ、ここまで・・泳ぎ着いて・・もう・・やや残・・念・」
「い、いえ・・そのご決意・・ああ・・勿体・・無い・・です・・」
「・・ど、どう・・したら・・」
「・・ご冷静・」
「そ・こ・・まで・・お、怒って・・は・・いません・・た、ただ・・感情が・・そのうち・・たぶん・・直ぐに・・僥倖側に・」
「そ・・れは・・いけません・・いけ・・ません・・では・・そうですねえ・・ああ・・早く・・考え・・ないと・・そ、そうだ・・だ、誰かにも・・て、手伝って・・貰って・・」
「・・そ、そう・・ねえ・・」
「・・それしか・・もう手立てが・・」
「・・ま・・まあ・・ね・・芸大の・・」
「1留して・・お3年にもなれば・・それも・・お彫刻科」
「そう・・らしい・・わね・・つい最近はご無沙汰・・で・・てっきり・・で・・」
「それに審査が芸術系学部の在学生・・」
「・・それも用意されて・・いました」
「・・それも・・お年下で・・お顔も・」
「わ、分かって・・ます・・わ・・よ」
「もし、鶴子お嬢さんが、絶対に嫌・」
「そ、そう・・だわ・・ねえ・・そこ・・まで・・は・・ない・・かな・・と・・」
「・・どうしても・・まだ・・ま、またまた、つい余計なことを・・いいえ、ですから、清い身・・ああお許しを・・お許しは・」
「ま、まあ・・大目に・・みましょう・・」
「・・しかし・・お心も可愛いし・・ご実家も結構財力が・・でも、霞ヶ関一帯には、もっと人材が・・」
「いるかしら・・と思っても・・本省にもピカっとしたのが・・」
「ただ・・こう申しては甚だ失礼なのですが・・巷の芸術家連中よりも・・やや安全・・とも・・」
「そう。それは確かに・・そう・・」
芸能界や写真集の話もあった。
「しかし・・私も責任上言いますが・・言っていいですか・・」
「・・・」
「分かりました。普通の門出は手傷を負った忠臣の忠臣蔵ごっこにしま・・しょう。本当は真っ正面からお真面目に・」
「そ、それは・・止めて・・ね」
「そのお気持ちは・・分かります」
「何を言おうと・・しているのか・・普通の清純派にもおおよその想像も見当も付きます・・が・・言い・・な・・さい」
私も東綺羅星の嫡女・・
「きっと・・この像はお肌の露出が少ないなあとか・・そうなるとどうせまた顔と膝下だけかとか・・思われ・・ああどこに不要な独創性を出そうか悩む・・と悩む振りもされ・・で・・爺は・・どんな予定や算段を・・だから、ここだけの話・・えー最低でも準ミニ・・け、怪しからん・・彼女も同罪・・何ー、進んで、お灸を・・お、お灸の用意・・じゃ・ー・・ははー・・ああ、お口から涎と泡が・・となります」
「・・まあ・・た、確かに・・」
「ご幼少の頃なら・・いいえ、いま目の前にある小5鶴子さん像でさえ、小学校3年生のお夏休み・・」
・・年齢詐称?・・小3ではスタイルが良過ぎた?・・おませ過ぎた?・・
「ああ・・あれ・・ね・・ポーズが・・同じな・・」
付け加えれば、これも背丈1mほどで、服装も麗子像と同じよう・・でも違う・・フレアワンピで・・で・・そのフレア部は腰巻き状になっている。
「・・なのにそれが・・段々と・・お年頃になるに連れて・・・さあ・・どうなったのです。先ずこれの再認識を・・」
「・・お水・・嫌いに・・なりました」
「水泳がお得意なのを隠して・・」
「・・はい・・」
・・赴任予定者紹介リストの特記欄にも・・派遣研修係長が・・本人は謙遜して隠していますが得意なのは水泳。地中海やアマゾン川の対岸まで泳ぎ切ります・・と記入してあった・・
「では・・もっとお姿を・・はっきりくっきりに・・」
「・・私は・・ワン・・ピ嫌いになり・・ました」
「ご親戚の松子様も・・なぜプールで賞賛や注目を浴びないのか・・せめてテニスの好機ぐらいには・・そこな東男、来週は膝上25センチよ、とか、目測もし直しなさい、とか・・」
・・若鮎さんぴちぴちよ、お刺身にして頂戴、とか・・よ、よーし・・いまからおジーンズ・・ぬ、脱ぎ脱ぎし・・ちゃう・・もん・・とか・・
「どうしてそれぐらい言えないのかしら・・と・・私は耳を塞いでいますから・・さあ・・今度は心の中で・・」
・・これも後でいいから、お風呂かその隣の小部屋で復誦しなさい・・
「・・・」
「もう終わりましたか」
「・・はい」
「膝上はお何センチでしたか」
「・・25・・センチ・・でした」
「もっとありましたが・・これ以上は、いまはまだ・・いいですね、その他はあとで・・ですよ」
「は・・はい・・はい・・言い・・ます」
「これではお嫁さんどころか婿の選び取り合戦なんか不可能です。どのお家も、ああどこぞに家柄の低い、どうにでもなる手頃で手軽なのがおらんのかと虎視眈々なのですよ・・ともお嘆きに・・」
「それも・・少し・・反省しています・・」
・・お嫁さんごっこをすら本当にちゃんとやったのか心配だわ。1回聞かなくてはいけませんね・・
「続けなさい。我慢して聞きます」
「もし、ここに呼ぼうものなら・・すっかり婚約者気取りで・・へー・心身とも健全に成長したなとか・・ウエストは細いなとか・」
「それ・・くらい・・は言います。いいえ、言われます」
「いえ、言わせなくてはいけません。そんな受身形では、音蔵の面目も立ちません・・さあ・・いまここで・・ほほー・心身の特に後者が初々しく成長したな・・と誘導してでも言わせると・・」
「・・はい・・はい・・」
「はいは1回。もっとはっきりと最後まで・・」
「は、はい・・言・・わせ・・ます」
「・・も、もう・・そろそろ」
「いいえ、まだまだ普通の清純派ではありません」
「そうなると・・向こうは芸大の彫刻・・水着も・・平気・・だと・・いいのですが・・」
「・・そ、そう・・です・・ね」
「それを・・願う・・の・・です・・ね」
「は、はい・・」
「おプライベートミニも・・当然・・あり・・にしたい」
「そ、それぐらいは・・持って・・行き・・ます」
「お寸法も・・言わされる・・ように・・なってしまう」
「と、当然・・も・・当・・然」
「その前に・・そのおサイズの想像を・・」
「・・・」
「さあ・・させる・・と・・」
「・・さ、させ・・ます・・」
「・・で・」
「で・・で・・ま、まだ、何かこれ以上な・・陰謀・・が」
「差し出がましい・・としかもう言いようも怒られようも・・ありま・・せん・・」
「よほど・・言い難いこと・・を」
「・・な、何か・・卒中みたいな・・ほ、ほら・・め、目隠し・・脳内・・お限定・・な・・」
「・・その・・不真面目な・・お想・・像・お何とか・・とやらの・・お想像の・・下を・・敢えて・・言って・・ご覧・・な・・さい・・」
「・・お・・お悩・」
「う・」
「お、お図・・星・・ごっこ・・かも・・で、申し訳ありません」
「は、はい・・はい・・わ、分か・・りました・・良く・・不真面目に言い・・ました・・」
・・やっぱり・・それ・・その言い難いことを・・づけづけと・・乙女の弱点と武器は・・兵器だ・・とばかりに・・それそれ・・最初は想像・・ランランラン・・だと・・
「爺も・・作戦を考えて・・置きます・・」
軽井沢署から偽物の麗子像を造って欲しいと依頼され、その像を思い出していたら、これは、東綺羅星の鶴子様に似ているとも思い出し、今頃フランス大使館かベルサイユの・・ああ、そうだ、光野源次様に、ご注進・・いや、その必要も無いかも・・でも・・それは・・うーん・・困った・・とも・・
「そしたら・・」
「はい、鶴子お嬢様も訪ねていらして、安いホテルが満杯で、一週間ばかり、ご厄介になりたいと」
「それで・・さあどうぞどうぞ1年でも半世紀でも」
「全くその通りで・・ああ、そ、そうそう・・お茶でも・・」
「何をそう白々しく狼狽えて」
「い、いいえ・・」
「・・いま9時半だが・・彼女は・・」
「さ、さあ・・もうご就寝かと」
「本当かな。まさかお風呂に入って・・えー裸か水着で。それでは残念だが、では明日・・ああ、明日の朝が楽しみだ・・ど、どんなパジャマ・・こ、これは内密に・・」
「・・はい・・絶対に言いません・・が・・さぞお疲れで・・しょう」
「ええ、風呂にでものんびり浸かりたい」
「そ、それは・・う、うーん・・」
「今度はどもったり唸ったり・・」
「実は・・鶴子お嬢様が・・そこに・・」
「・・そ、それは・・い、い・・い・・いや、まず・・い」
「いいえ、たぶん、まだ、その隣の小部屋・」
「そ、それ・・こそ、もっと・・まずい・・いや、その正反対だが・・もっと大変なタイミングだ・・では、僕はもう1回外に出て、30分後に到着したということに・」
「いけません」
「ど、どうすれば・・」
「そうですね・・先ずドアをノックして驚かせ・・」
「・・はは・・は・・それを・・」
「やりたい・・と」
「もち・・ろん・・あ、あの板張りを・・」
「そのドアなら、上部30センチ四方はすりガラスに今朝交換を」
「しかし・・それでは、彼女が異議を・・」
「・・いえ・・」
「・・ま、まさか・・共犯・」
「それはいちおう内緒・・という・・それくらいのお配慮は当然です・・」
「・・では・・ドキドキしながらも・・ちょっと・・ワクワク・」
「ですから・・そこまでは・・ドキドキだけ」
「しかし、早くも手の内を明かせて・・」
「騙し討ちは避けたいから、少しづつ漏らせとも」
「お澄まし顔をして・・ちょっと・・お灸を・・」
「そうそう」
「そうと決まれば早く。小部屋から出てしまう」
「今頃はまだ歯磨きなどを・・」
「・・向こうは向こうで、なるべく被害を最小限・・いや・・最大のままにしておきたいと・・時間稼ぎを・・あいや、分かった・・それならこっちも時間・・調節を・・少し・・程々に・・」
「では、昔、公民館でやった・・お殿様ごっこ劇を・・」
「・・それは・・」
「どっち・・を・・」
「僕は・・真面目なのを、そういうとても小恥ずかしいのを・・したい・・が・・」
「そうでしょう。誰もがそうしたい・・しかし・・出来そうにない・・」
「・・諦め・・ます。断念します。彼女も無理でしょう」
「そういうのは・・将来のおプライベートタイムに・・こっそりと・・」
「・・はは・・た、楽しみ・・で・・す・・」
「あなたは・・何者ですか」
「・・バカ・・殿・・じゃ」
「私もご同行します」
「美姫の身に良からぬ災難が降り懸かりそうで心配な忠臣・・と・な」
「はい・・若はちょっと助平で、うっかり妄言を吐くが、老臣はそれを適当に諫める」
「心配せぬでも良い。これ以上好き者と思われても困る。ドアを隔てて、心身の・・最初はその前者の・成長を・・ぼ、僕はいま前者等の健全な成長を想像中です・・そ、そんなことも等も口に出さないで・・とか何気無い会話中にさり気無く明らかにし・・まあできれば・・両者の健全な成長等も・・ちょっとは・・5ミリほど開けて・・もいいですか・・ダメ・」
「そ・」
「待て。大事を前にして結論を急ぐな・・もう少し楽しみたい・・し・・もう少し遅らせも・・した方が・・いいな・・うーん・・やっぱり止めるべきか。こんなことをしたら妄想出歯亀だぞ。逆に軽蔑される。きっと・・あなたはミドリ亀以下です。ぺんぺん草もお預け・・ぺんぺん・・ああ、しかしこのペンペンな欲望を・・・でも・・ぼ、僕に初々しい小部屋段階中を途中段階まで知らないふりして想像させて下さい・・そんな正々堂々と・・僕の方がもっと恥ずかしい・・いや、それ以前に・・その途中段階とはどこなの・・そ、それは・・ああ具体的に言わないで・・パシ・・ああ・・どうしたら・・」
「・・お戯れも・・遅延も・・ほど・・ほど・・に・・」
「・・時間を使い過ぎた・・かな・・」
「・・さあ・・まあ・・そろそろ・・丁度良い・・頃かも」
「急ごう。今後も予を助け、精勤に励めよ」
「・・はい・・私も・・お幸せ・・です」
ソロ・・ソロ・・
・・ソ、ソロ・・ソ・・ギー・・
「さて、お風呂にでも入ろうか・」
「しー・・そんな大声を出さなくても・・足音だけでも・・もう聞こえています」
「しかし、姫君がキャーとは言えず、かと言って婚約者を拒絶も出来ず・・ああ、仕方がない・・変態華族の末裔とはこんなもの・・顔が可愛いだけ・・まだしも、まし・・分かりました・・お転婆姫も・・そろそろ少し・・づつ・・おハレンチに・・なりま・・う・・うう・・」
「ああ・・ご勿体ない・・く・・くくく・・」
「いやいや・・これで一安心・・ばんざーい・・忠臣の脳には猛毒です・・うふふ・・と笑っ・」
「無理です」
「おや、誰か先客がいるぞ。音蔵、いま薄ピンクの影がすりガラスの陰に・・」
・・ガチャ・・
「それに鍵が掛かるような物音までが・・し、しまった・・早もう警戒されている」
「実は鶴子お嬢様が・・いましがた・・」
「ほーそれは偶然で目出度い・・が、しかし、困ったぞ。迂闊に入れな・」
「本当に入らないで下さい」
「・・では・・」
・・コン・・コン・・
「・・な、何でしょうか」
「拙者、怪しい者・・だ・・」
「・・分かって・・ます」
「せめて衣擦れの音でもせぬかと無風流者が・」
「何か用事でも」
「では、聞き難いことを敢えて聞きますが・・いま、どのようなお段階・」
「お、お嬢様・・お湯加減は」
「まだ入ってません。歯を磨いているところです・・が・・誰が・・呼んだのですか」
「それは忠僕の音蔵が・・ああせっかくのチャンスなのに、そうですねー、よし、この爺が・・許し・・ま・・しょう。まだ3枚姿程度なら構いませ・」
「た、確かに言わされましたが、まだ枚数・」
「しっ・・静まれ・・」
「・・な、何事で・・」
・・じゃー・・ぽた・・ぽた・・
「微かだが・・慌てて・・開いていた洗面台の蛇口を・・逆にそっと・・閉めている」
「それは・・お口でも・・ゆすごうとして・・」
「では・・なぜ、水を止めたのだ」
「あ、あまり・・深く・・追求しない方が・・」
「お前も、その所業に思い至ったか」
「な、なに・・に・・」
じゃあー・・
「お、今度は・・ああ覚られたとばかりに盛大に・・」
「・・音でもって・・音を制す」
「もっと幼稚なことを・・さあ、思い切って聞いてみよ」
「な、何を・・」
「このバカ殿に・・お嬢さーん、いまから、お口をくちゅ・くちゅして、ぺーの時に屈むのですねー・・などと問えと・・そ、それが何かー・・おお、ほぼ肯定したな・・と、いうことは・・いまスリップ姿ですねー・・そ、そう・・です・・では正面の斜め上から見下ろすのとーその正反対のーやや下方から斜め上方を見上げるように背後に屈むのではー、どっちを、ちょっと想像してもいいですかー・・・おや、返事が無い・・これは・・ふむ・ふむ・・よっぽど、どっちかを覚られ・」
「ど、どっち・・でも」
「もっとー返答拒否禁止事項を聞きますがー・・そのスリップは膝上何セ・」
「どこか、居間か玄関でも行ってて下さい」
「はーい、後でまた聞き・」
「いいえ、もう一押しを・・」
「これ以上何を」
「・・今後の予定とか・・」
「あのー・・まだ物足りないですかー」
「そう・・よー」
「どんどん進むが・・次は」
「私たちは退散しますから、棚に置かれた小型機器の釦を押して、独り言をどもりながら呟いて下さいと・・」
「・・聞こえま・」
「聞こえ・・ましたー」
「その釦は・」
「それは言わなくても、実況録音スタート/リセット等とテプラで・・」
「えー・・そ、それを押すん・・ですかー」
「・・ぽ、ぽち・・お、押しましたー」
「・・えー・・録音スタートだけではだめ・・だと」
「何が何でも実況の2文字を入れなさいと・・しかしこんな小機器の小テプラに収まり切れません・・他の文字は米粒以下でもいいです・・と・・」
「しかし本当に・・釦を・・」
「それは・・私にも・・」
「・・嘘だ。おい、教えろ」
「く、苦しい・・ああお部屋だ」
・・コンコン・・
「お目覚めですかー・・」
「・・はい。ちょっと待って下さい。まだパジャマ姿で・・」
「昨夜はー、嫌がる音蔵を説き伏せて、若殿と忠実な家来の珍道中ごっこをしよう・・などと・・」
「へえーそんなことを・・」
「のみならず、その名君がー・・やや好色・」
「それも・・良くあるパターンです」
「どんな格好でー・・現れ・」
「それは、いま問うてはいけません」
「・・も、もしかして」
「いえ、もしか・・したら・・おジーンズ・・かも」
「それも・・いい」
「実は・昨晩・いえ一昨晩・・戸締まりを確認していたら・・お部屋の中で・・本当に釦を押したら・・ジーンズで現れ・・ようかしら・・とか独り言」
「えー」
「何をーこそこそ・・かと思えば、大声も」
「い、いいえー」
「それでは・・ドアを・・開けます」
「は、はい・・」
・・ガチャ・・ギー・・・
「・・さ、ささ・・下へ・・お朝食を・・」
・・しず・・しず・・
・・カチャ・・カ、カチャ・・パリーン・・
「ああ・・て、手が・・滑っ・・ぶっ・・今度はコーヒが・・口から・・はは・は・・」
「断って置きますが、お目に掛かったのも、今日を含めて・・まだ5回・・まあ、それで充分ですが」
「いいえ、6回です」
「違います」
「ほら、去年の旧のお盆にも・・デパートの沖縄大キャンペーンバーゲンでも・・」
「まあ、どこかからこっそり見てらしたの・・ね」
「はい・・『来年の夏休みの海水浴の計画はもうお立ちですか?さあさあ彼氏もそんな突っ立っていないでご一緒にカップル用もご覧下さい』・・の横で・・」
「そう言えば・・怪しい色眼鏡がパンフレット類を・」
「いいえ、黒メガネでした。今も持っています」
「忘れ・・たわ」
「ではいいですか。もっと思い出させますよ・・その立て看板の横で、ゴーヤチャンプルを摘み食いして手を計画的に汚し・・キョロキョロとまるでテッシュペーパ配りに眼が合わぬ姿を演じて周囲をも納得させ・・バッグからもサングラスを取り出したが、はて、親切でお節介な女店員さんでも探している・・ボーン・ボーン・ボーン・・おや、彼女らは・・自動販売機方面に・・去っ・・て・・無人・」
「ああ私は紅茶も持って来ましょう・・」
「・・さあ、2人きりです・・悪行の数々はまだ有りましたが、ここで追求の鉾先を曲げて・・例の・・機器を・・ぼ、僕に」
・・やや普通化計画の前座の導入やお膳立ては済ませたから・・それに調子を合わせて欲しい?・・
「早速レッスン1の①ね・・それは・・できません」
「やっぱり・・いや、なぜ」
「これは・・お守りのような物ですから」
「・・うーん・・」
「レッスン1の②・・これには・・本当に録音されて・・」
「・・いな・・い・・」
「・・そうね、その方がいい・」
「い、いいえ」
「その③・・神様にお願い・」
「ああ神様どうか録音されてますように」
「・・誠意は認めますが・・ああ・・どっち・・かしら・・」
「悪女・・みたいな・・」
「だから、少しそうなる・・のです。もしお嫌・」
「い、いい・・え」
「その逆」
「ま、まあ・・」
「そ、そう・・これも念のために聞きますが・・あなたは心身のどちらを重視する・・タイプですか」
「も、もちろん、双方を」
「だから・・タイプと、抜け道を・・」
「・・そ、それなら・・ああ・・後者型・・か・・な・・」
「・・苦悩度が足りませんが・・いちおうクリアということに・・」
「・・良かった」
「・・いま・・想像をして・・いますか」
「は、はい・・色・・々と・・」
「まあ⑤はこの辺で・・後々になればなるほど・・心身の身が・・他単語になったり・・膝小僧に・・等を付けられて嬉しがられたり・・」
・・重ね語付きな天然鮎が・・片仮名を喋ったり・・それとは違う・・アルファベット・・も・・
「だから・・釦を押したか否かぐらい・・を・・」
「・・⑥・・悪女でも・・ま、迷・・い・・ます」
「・・きっと・・実際は・・」
「ちなみに・・この釦を7秒間押し続けると、頭から再生・」
「へ・・へー・・」
「しかし、7秒間中に、7回断続的に押せば・・メモリが・・」
「・・ま、まさか・・自動消去・・」
「・・1・・2・・3・・4・・5・」
「ち、中断・・して下さい・・ス、スパイ大作戦か007・・だ」
「・・1・・2・・3・・4・・5・」
「あ、あと2秒」
「・・6・・・」
「・・で、で・・」
「仮に釦を押したのなら、何を録音させたか・・言え・・と」
「そ、そうです」
「・・このスリップ長過ぎるかしら・・とか・・あら、肩紐が・・こんな上方で引っ掛かったわ・・とか・・これ以上は、大鏡クンは目を閉じてなさい・・えーイヤだ・・じゃあ、隅の方に移動して・・ねえ、視界に・・そうサイドが少しだけ・・とか・・かも・・」
「・・その後も・・延・・々・・と」
「さ、さあ・・どうだったかしら・・この釦を7秒間押し続けると分かるのだ・・けれど・・1・・2・・3・・4・・5・・6・」
「さあさあ・・お紅茶も・・でも鶴子様・・光学機器・」
「し、しー・・それは・・内緒」
「ああ、そうでした」
「は・・はは・・は・・け、怪しからん・・なあ・・そ、その大作・・戦を・・僕にも・・」
「これは・・照度も実行日も・・未定・・」
「い、いくら・・お少し・・ハレ・・おハレンチ・・お清純・」
「ま、まあ・・まあ・・そんな宣言・・してません・・普通の・・です。もっと・・ど、どもりますよ」
「・・お戯れは・・そろそろお終いと・・」
「じゃあ・・ほぼ・・冗談・・よ、良かった・・楽し・・かった・・」
・・もう前座が終了したのか・・
「ただその音響機器の方は・・私も知りませんが・では、そのお姿で・・いまから像を・」
「あ、あら・・ス、スポーツ・・ウェアを・・間違えて・・持って・」
「え・・おテ・・ニスの・・」
「・・ああ・・無駄で・・余計な・・ことを・・」
「・・ああ・・困っ・・いえ、突然の慶事が・・」
「・・多数決・・は、直ぐに2票が集まって、2対1は・・確実だし・・」
「サイコロも・・狡が多く・・」
「僕は・・立ち会っても・・いいので・・しょうか」
「・・お手伝いという役割はありますが・・そ、そうですね・・」
「・・例・・えば・・大学で・・溶接の火花が・」
「ああ、そうだった。医者から、しばらくサングラスを着用しなさいと・・」
「・・でも本当に・・黒メガネ程度で・・だ、大丈夫・・なの・・ですか」
「それでも不安も・・ありますが・・仮に無理矢理やったとして・・気絶など・・しません」
「・・で・・他に異議のある方は・・無いのでしたら・」
「え・・ほ、本当に・・じょ、冗談・・です」
「どれが・・冗談なのかは不明ですが・・では・・後刻・・コート・・か部屋で・・ゲームでも・・すればいいと・・思います・・」
「まあ・・リラックスして・・やりましょう」
「そうそう・・普通に・・」
「・・コンコン・・えーと・・こ、ここは・・後回し・・」
「外堀を埋める戦術・・ね」
「では私は後で監修しますから・・中座します・・」
「・・また・・い、いなくなった・・ぞ」
「・・きっとまた・・ま、薪割り・・に・・」
「・・で・・来年どこに行くのか知りませんが・・ど、どんな・・種類・」
「えーいきなりそんな・・何とかや何とか・」
「い、いや・・逆に・・コンコン・・似・・合う・・かも」
「いいえ、普通の清純派は選びません・・特に後者・・後ろが・」
「そ、そう・・か・・なあ・・」
「頭の中は・・色・・々な・・文字で・・もう洪水状態・」
「いえ、ぼ、僕は・・ワンピ・・かな・・と」
「わ、分かって・・ます。ちょっと反省もしています」
「では・・おナントカ・・お清純・・派側の・・脳内・・オン・・パレード中にも・・ビ・ビ・」
「と、登場しても・・時々・・です・・」
「・・しか・・し・・ワンピ・・でも・・」
「な、なあに・・言いたいことは・・お見通し・・よ・・」
「・・か、角度・」
「やっ・・ぱり・・」
「とこ・・ろが・・普通でも・・そこそこ・・」
「・・仕方が・・ない・・でしょ。販売していないのだから」
「・・外人に・・それも・・裸眼か眼鏡・・か双眼鏡か・」
「まだ決まっていません」
「・・オーイアツマレーニッポンノオジョウサンガオヨグゾードコダドコダオレニモミセロワシニモボクモボクニモヨダレヲタレナガサセロココダココダワーキョウハビ・」
「そ、そんなこと・・政府高官や貴族階級が・・島民も言いません・・」
・・ワーキョウハビキニダピーピーハヤクボウエンキョウヲトムニモマワシテクレヨイイカパウロヤミカエルタチニハイウナヨコチトラガッテンショウチノスケベカメヨホーズイブンコガラサカサマニミテデバガメガラクゴヲスルキカハハハスマンスマ・・ワースタイルイイーヨダレハジブンデフクンダゾタノムカラワシニモアップヲミセロヘーウエストガクビレテルジャナイカヌノガショウメンセキナノガイイモットカイスイニヌレローダカラウシロムキデカガメッテイウノアーアヒモガタナラヒッパレルノニブオトコナノニゼイタクイウ・
「観光客も・・よ」
「・・えーと・・麗子立像の・・おポーズは・・確か・・」
「そう・・ね・・その真似を・・しなければ・・また・・あの格好を・・」
「・・また?・・そういえば・・小5腰巻きさん像も・・」
「・・そのポーズ・・です」
「・・それでは・・先ず・・お手手を・・上に」
「こ、こう・・かしら・・」
「そして・・その両手を・・頭の後ろで・・組む」
「こ・こ・・う・・ね・・」
「・・しかし・・ああこんなサングラスをしていると・・もっと近寄って・・少し視線を・・下げ・・ようか・・な」
「ど・・う・・ぞ・・」
「・・ふむ・・ふむ・・ここは」
「さ、さあ・・」
「・・たぶん・・おへ・」
「具体的・・過ぎ」
「えー・・次ぎは・・一旦・・う、後ろに回り・・込み・・ま、またも少々・・眼を・・下・・に・・ああ・・こ、これで・・もっと・・生地が・・でも・・あ、あ」
「ざ、残念・・でも・・なさそう」
「し、しかし・・あ、ああ・・わー・・む、無防・・備・・です・・ねー」
「だ、断定・・や詠嘆を・・入れずに・・」
「また・・前に来て・・も、もう10セ・・でも・・やっぱり・・止めて、一挙に・・25センチ・・お、おおお・・ここは・・いったい膝上の・・何セ・痛て・・そ、そんな膝蹴りを・・」
「そろそろ・・ね・・」
「・・後は・・ロングスカート・・だったと・・まあ・・考えて・・コツコツ・・」
「テンションが・・下がっている・・みたい・・だけれど・・もう目に焼き付けたの」
「ま、まあ・・じゃあもう1回・・ジロ・ジロ・」
「その辺で・・もうお終い・・」
「・・しかし・・夕食後に・・対戦ゲームを・・別々の部屋で・・ですから・・正式な・」
「た・・例・・え・・ば・・」
「・・服・・コ、コン・コン・・装・・」
「・・も、もちろん・・だわ・・よ」
「や、やったー・・で・・その際・」
「ストップ・・何が追加かもう・・それ・・って・・あれと・・あ・・れ・・の・・どっち・・」
「・・で、出来れば・・正式の本式で・・あれも」
「両方とも・・でも・・多く・・なる・・わ」
「・・そ、その方が・・・増えて・・安全」
「そ、そうね・・オッ・・ケー・・」
「ところが・・増えたのに・・また減・」
「ス、スト・・ップ」
「・・このサングラス・・どうしよう・・かな」
「そ、そんなもの・・別室・・ま、まさか・・別室だから・・だから・・不明・」
「も、もう・・ま、迷って・・しまって・・」
「・・それ・・が・・お嬢さんサイドの・・努力目標・・と・・」
「・・それから」
「な、何か・・しら・・改まって・・今度はどんな・・罠・・が・・」
「・・もっと・・ぴったり・・なのがあるけれど・・まあ・・いいでしょう・・たぶん・・もう気付いて・」
「いま・・す」
「きっ・・と・・あ、悪女人形さんが・・悲しむ・・振り・・を・・」
「・・えー・・」
「・・実は・・画面上に・・お人形さんが・」
「あ、現れるの・・いちいち・・プレイ中・・とか・・ボー・・ル・・拾い・・中・・とか・・に・・も・・」
「・・はい・・その他にも・・1ゲーム終わる・・たびに・・も・・コ、コン・コン・・籠の・・ような物も・・足元に・」
「えー・・半・・直接的・・被害も・・イラスト・・追加・・で・・」
「その人質身代わり人形の・・横も・・数値が・・表示可能・・」
「・・それ・・も・・勝敗に応じた・・自己申告・・制・・」
「・・ああ・・ど、どこかで・・測ら・・コ、コン・コン・・ないと・・」
「・・夕・・食後・・に・・と・・」
「ああその時に・・表示順番も決めなくては・・うふふ・・一番目・」
「内・・緒・・よ・・最初が体重なのは・・」
「・・ど、どの・・正直な・・お数値か・・なー・・それとも・・おやおや・・もういきなり・・籠の中に・・ヘア・・バンド・・が・・」
「・・ティ・・アラ・・かも・・よ」
「それから・・」
「まだ・・ある・・の」
「・・ルール上・・両部屋に2脚づつ・・椅子を・・用意し・・」
「・・大変・・そう・・だけれど・・」
「前方の・・眼前の・・ソファに」
「的・・中・・でした・・」
「・・対戦相手が・・と仮定し・」
「そ、その前に・・そのコンコン・・止めなさい」
「ははは・・僕は音蔵みたいなヘマは・・で・・これを・」
「い・・いい・・わよ」
「それで・・も、もちろん降参釦も用意してありますが・・結局・・ぼ、僕の・・サン・・グラスは・」
「ど・・っち・・でも」
「やっ・・ぐさ・・たー・・」
「さて、光野君も来たことだし、夕食を頂こう」
「遅れましてすみません。傷の手当てをしていて・・」
「鶴子お嬢さんがさっきから塑像のようにお待ちかね、ですから、そわそわ・・ではありませんが、特に光野さんなんかはナイフなんか手に縛り付けて・」
「誰も・・僕も・・そんなもの落と・」
「はは今夜は・・四人・・ですね・・」
「・・そう・・そう・・また怪我をされても・・困り・・ます・・」
「でもお口がうるさい・・いえ、鶴子さんには特にお厳しいお親戚がまだお見えでなくて、良かったですね」
・・どうもここは、一族の共同別荘のようなものらしい。たぶん料金も徴収されるのだろう・・
「ははは・・良薬は口に苦し、だ」
「そして、お体にも効く」
「さあ、もう頂きます・・をしよう」
「・・そう・・そう・・効きます・・ね」
「頂きます」
・・ズズー・・
「頂きます・・これも恵美さんが」
・・ズー・・ズズー・・
「ええ、そうよ」
「・・頂きます」
「うん。このアサ・・リの・・スー・・」
「・・それは、お蛤です」
「あ・・ああ・・確・・かに・・」
「ですからパカンと開いていないのは・」
「さ、避けた方が・・いい」
「う、うん。美味しい・・なあ・・でも、そのおばさんたちは・・今年は5人ぐらいでバカンスも兼ねて南フランスに行くとか誰かが噂を・・」
「それは初耳だ」
「・・へえー・・バカンスも兼ねて・・南フランスに・・」
「きっと、下調べだわ。危険貴族が浜辺に出没・」
「そ、そんな・」
「ぶっ・・し、失礼・・」
「そうですね。いくら海外諜報活動でも、清純派なのですから、無理して超ビ・」
「い、いや、彼女は・・公使付きの短期季節秘書みたいなもので危険任務などやらされ・・ない」
・・そうそう・・いまも臨時少年補導係長代理・・程度・・
「・・そう・・です・・ね。無茶は控え・・ないと・・」
・・忘却しているといけないので、また繰り返して穿り返すが・・明日も・・制服支給・迷子犬猫世話豚汁便所等・コンパニオン経験不要・・
「あら、鶴子さん、さっきからレスポンスがワンテンポずれているわよ」
「・・あら・・そ、そう・・」
「そんなに、お慎重にならなくても・・誰もテーブルの下なんか・」
「は、はは・・は・・ところで・・さすがは彫刻科ですよ。中々な出来映えでした」
「そ、そう言って・・頂けて・・嬉しい・・です・・が・・まだ少し・・」
「そう、まだ・・一部未完成・・ですね」
「私も見ました。下半身の膝から・」
「そ、そこ・・です・・ね。あ、後で爺も・・手・」
チャリーン・・ころころ・・ころ・・
「・・・」
「・・・」
「・・あら・・おスプーンが・・どこか・・下に・・」
「・・ああ・・しま・・った・・」
「私が代わりのを取って来ます・・」
「・・ど、どこに・・ころころ・・と」
「たぶんーお嬢さんの真横のー光野様の足元まで・・転がって行ったかと・・」
「・・・」
「・・よ、よし・・僕が探し・・いや拾って・・やろう・・サ、サン・・グラスの・・まま・・で・・み、見える・・か・・な・・」
・・ボコ・・ちゃっぷちゃっぷ・・
「・・・」
「・・いまー・・ボコって・・鈍い音がー・・」
「・・・」
「あら皆様、針のムシロにでも・・無理もありませんが、はい、これは・・おスプーン・・で・・ああ、光野さんのおスープが・・まあ頭頂部にも・・おたんこぶ・・が・・」
「あ、頭は・・へ、平気・・です」
「でも・・お皿の回りがびしょ濡れで・・」
・・椅子の・・背もたれにも・・少し汁が・・
「では、こちら側のお席に・・」
「・・えーと・・あ、あそこ・・かな・・」
「はい。空いているのは、もう針席・」
「し、し・・仕・・方が・・ない・・」
「でも・・なぜ・・おサングラスを・・磨いて・」
「い、いや、磨いているのではなく、ショックで・・壊れてないかと見ていた・・んだ」
「そう、光野さんは溶接の火花にやられたのだ。まだそれを掛け続けた方が良い・・ですよ」
「そ、そうです・・ね」
「えーと・・これが、代わりのおスープ・・これは・・予備の食器等・・」
・・じゃらじゃら・・
「雑巾や布巾は分かるが・・なぜ・・じゃらじゃら予備のナイフや箸や・・」
「ですから、予備です・・それから、ついでにお風呂の用意もして来ました」
「そ、それは・・ご苦労・・さま・・」
「でも・・お二人ともお怪我を・」
「わ、わしは、もう治った」
「では・・光野さんの・・その前にご注意しますが、お魚の汁や内臓の付いたフォークを床に落とさないで下さいね・・さっきから見ているとお手元が危なかしくて・・それは手にも怪我をされて、バスルームでも右手を使えず」
「ま、まあ不自由・・じゃが・・ね」
「ご一緒になどと誰もまだ言っていません。それも真っ暗・」
「ぼ、暴走・・気味・・です・・よ」
「今夜は・・鶴子お嬢さんはお静かですね・・」
「・・いえ・・今日は結構2日分ほど喋ったので・・でもまだ・・余力とアルコールで・・あの階段の踏破・」
「お、これは旨い。こ、これは川魚・」
「鮎です。内臓も食べて下さい」
「こ、このこんがり焼けた・」
「それは若鶏です」
「へ・・えー・・き・・っと・・お、おジューシな・・胸肉・」
「いいえ、そこの部位は・」
「お、お・・っと・・危ない。フォークが滑・・った・・ぞ」
「あら、フレッシュなおモモ・」
チャリーン・・ころ・・・
「・・い、いったい・・ど、どこまで・・転が・・って・」
「いえ、きっと、真下ですよ・・」
「・・きっと・・レディファースト・・」
「それで・・お風呂には・・最初にどなたが・・」
「いいえ、別荘の庭にはムシロ巻きの物が2体あったそうです。今朝署長が出勤の途中で見ました」
「そのうちの1体は一時避難の本物の麗子像でしょうが」
「しかし昨晩は・・じゃあ・・あの鶴子さん像が自分で・・」
「像が一晩中散歩して別荘に戻って来た・・と・・でも・」
「まあ、そうとしか・・いやいや・・きっと・・だが、何でこんな部屋にわしが連れ込まれなくてはいけないのだ。茶も出ずに」
音蔵がいるのは軽井沢署の取調室。
「応接室が来賓でいっぱいで、女性軍も全員中央公園に出動済みなのです」
「昨夜のことをもう1回良く思い出して下さい」
「いいですか、先ず音蔵さんは・・」
別荘のニセ物像を美術館に運ぼうとして、間違って鶴子像(これにもニセ物像と同様に、誰かがムシロを被せたらしい)を軽トラに積み、美術館への道中の途中で、それが交換用のニセ物像ではないと気付き、それを一旦そこに降ろした。
「なぜ、そんなゴミ収集所の横で、停止したのですか」
「それは、石膏の破片のような物を踏んだから、慌てて」
「それでその後も、像の交換の往復中にも石膏像のような物を低速度で轢いたのですね」
・・2回目からは安心して?轢いた・・
「しかしな、鶴子さん像を最後に持ち帰ろうとしたら、消えていたのじゃ」
「まるで高木彬光の有名な推理小説だ。益々怪しい」
「い、いや、そうではない・・あれはきっと・・ゴミ出しに来た人が・・彼はたまたま目利きの愛好家で・・おや、収集所の横にこんな立派な芸術品が・」
「で・・勝手に持ち帰ったと」
「そうじゃ・・そして・・翌朝・・し、しまった、ゴミを出すのを忘れた、もう1回・」
「あれれ、いますれ違ったのは収集車だった・・こっちのムシロ巻きのゴミは・・ああ誰かの別荘があるぞ、ここに捨てよう」
「・・不法投棄届も追加提出します」
ボーン・・
「おや、もうお昼だ。その後のことは改めて後で聞きますが、男性陣も忙しいので、少し遅れるかも知れません」
「暑いですが、ついでに我々も豚汁を頂きましょう・・」
「・・こ、こんに・・ちは」
「ど、どう・・」
「今日は・・子供たちもいっぱい集まって・・快晴で・・」
高原地帯なのに気温も30度・・そのうえ絶好の・・無風・・
「・・だから・・足元・・似合・・って・・る・・かしら・・」
「・・は、はい・・その感想は・・午前中にも・・」
カーニバル見物で先ず目慣らしし・・どさくさ紛れにして・・
「もしお祭り中に・・もし若い美人が・・もし一人だけローヒールで・・丈も・ロン・」
「め、目立ち・・過ぎ・・ます・・ね・・」
誰一人として、なのに。熟女もハッスルなのに・・
それに、隠密裏にさり気なくという硬軟かつ正邪な使命も目的もある。
「いよいよ午後3時に・・らしい・・わ」
「昨晩音蔵が美術館の本物麗子像と別荘のニセ物像を密かに交換したとか」
その作業は町役場から依頼されていた。
「そうよ」
本物麗子像は、これも役場から頼まれて、別荘で一時預かっている。ただ、後日また交換しなくてはいけないので、ムシロぐるぐる巻き状態のままだ。
「本当にルパンが・・約束通りに・・」
「さあ・・」
「まさか、既に盗まれている」
「それは無いわ。婦警さんたちがパトロールしているはずよ」
「じゃあ・・もう別のニセ物にすり替わっている・・とか」
「それなら・・あり得る・・かも・・」
「・・それにしても・・そんなことより・・元気・・やテンションも回復・・いや元に戻って・・また不安心で・・不安定・・でも・・ところが、それでも・・す、少し・・慣・・れた・・とか」
「お、お陰さまで・・少・・々・・は・・」
・・事件の話はもう終わった・・のか・・
「・・僕も・・真横のお陰・・で・・真横で・・一番風呂で・・」
「分かって・・います・・わ・・よ・・バスタブの中で・・」
「は、はい・・想像を・・しま・・した」
「どん・・な」
「・・いまごろ・・一旦2階に・・ああ・・いま・・ど、どの辺り」
「何・・段・・目」
「8・・段まで」
「そ、そんなに・・で・・その針・・席とか・・やら・・から・・は・・何・・が・」
「で、でも・・う、裏側・・」
「・・なに・・の・・」
「・・う、裏・・モ、・・い、痛い・・」
後ろからボールが飛んで来て、それが薬指に命中した。
「あ、あら左手・・も突き指・・ね」
「あとで湿布も・・しよう」
「・・そうね・・では・・お大事・」
「エーン」
10mほど先に女の子軍団がたむろしているが、男の子が何かへまでもして、彼女らに怒られたのか・・
「あれ、あの男の子はさっきも・・エーンと泣いていたが・・またその男の子がまた・」
「何回も何回も男の子男の子と・・子供ではなくて、幼児よ。背丈だって・・」
「うん。低いな・・まあそのうち取りに来るだろう」
「そうね、光野さんは審査とかあるから、私が持って行きます・・お大事・・に・・」
「これ、あなたたちのボールでしょ」
わらわら・・とぼ・とぼ・・
「ありがとうございまーす」
「・・僕はおかあさんにも叱られるからそろそろ・」
「ねねね、さっそく新しいボーイフレンドね」
「違います。さっきのは、トイレを聞かれただけ」
「可愛い顔をして・・」
「そう。どっち、とも・・」
「・・普通ここで、お返しを」
「あ・・ありが・・とう・・ね」
「気を付けなきゃダメ。今度もまたチラチラよ」
「あら・・そのチラチラスコー・」
「スカー・・ト・・」
「そのスカートスコートに・・小さくLと書いてあるわ」
「上着はMなのに・・」
「・・きっと込み入った事情・」
「そ、そんなことないわ。役場の人が間違えたの」
「何か怪しいわね」
「そんなに警戒しなくても、どうせ見えてもいいパ・」
「しー・・中年のおじさんに聞こえるわよ」
「・・そう・・そう・・」
「膝上15センチでも、何重になっていても、清純派にはショックもダメージもあるの」
「その清純派が、こんな箒と塵取りを持って・・」
「後ろに行列が着くわ」
「わ、曲がった・・とか・・げ、手鏡忘れた・・とか・・おい禿デブ、おまえの面積あり過ぎ・・とか・・前が全然見えない・・とか・・もう10分過ぎたぞ、もう順番替われ・・とか」
「・・あれれ・・おかあさんどこに・」
「それで・・直クンはもうおしっこしたの」
「げ」
「うん、やったよ」
「・・ほー・・」
「本当に足手まといなんだから」
「君のおちんちんなんか誰も見たくないの、ねえ」
「そ、そう・・そう・・手も洗いな・・さい」
「そうよ・・バイ菌マンが付いているのよ」
「・・ぼ、僕は・・もうそろそろ帰・」
「正直に言いなさい。さっき枝を持って嬉しそうにお姉さんの後ろにいたけれど、お姉さんのアンスコを見・」
「エーン」
「また泣いたわよ」
「もう3回目」
「ま、まあ、許してあげま・・しょ・・メ・・」
「違うよー。見えたのは、裏側のたったの・」
「めめ・・め・・」
「それで・・包帯の彼氏とはどんなご関係かしら」
「もうご一緒に・」
「ほほ・・残念・・ねえ・・そ、それが・・も、もちろん・・お・・風呂・・よ・・」
「まあ、もうズバリ正解を」
「恥ずかしいわとか思わな・」
「お、思って・・ます」
「でも大丈夫。その脚ならいちこ・」
「そ、そう・・かしら」
「いいえ、この膝裏でもいちころ・・とか・・」
「きっと内心・・胸もグッド・」
「えーそ、そっち・・そっち・・よ」
「日本語が変だわ」
「はてさて・・一番のおススメはどっちなのかしら」
「裏膝小僧段階でもうバレているのよ」
「そのトップ品質なお自慢ゾーンはどこからどこなのかを・・さあ・」
「えーん・・」
「嘘泣きはダメ」
「そうだわ。彼氏もここに・」
「よ、呼・・ばない・・で」
「我が儘ねえ・・」
「じゃあ、根掘り葉堀りの根は許してあげるとして・・」
「・・は、葉も・」
「ダメ」
「当然・・幹もよ」
「・・ド、ドキ・・」
「緊張感無いわねえ」
「余裕しゃくしゃく」
「お灸ね」
「それを駄々っ子部に・・」
「私は・」
「わ、私も・」
「作戦中です」
「もう8センチほど捲った所に」
「そこのちょっと内側か裏側」
「妥当ね」
「それに相当するのは・・ぱらぱら・・」
「あったの」
「やっぱり・・これね・・これ以外は無いのかしら。代わりに誰か読んで」
「えーと・・先ず、法的に全く無問題か」
「○」
「婚約者同士か」
「たぶん○」
「彼は純情そうで両手にケガをされているか・・◎」
「彼女側は一見清純派風でスタイルも良く腹黒なのも隠しているか」
「三重○・・あら、無いわ。どうする」
「じゃあ●のべた塗り」
「で・・どういう風に持ち込めと・・」
「・・真面目なお話をしている途中に・・あら、もう9時半ね・・ではお先に僕が・」
「それより・・あら、いまそれを外そうとしていたら・・ねえ、バッグの中から・・外そうとしていたけれど外さなくて良かった方だけを持って来て・・わ、分かるかなあ・・もし見付けたら、外す直前に、体重を教えちゃうかも・・よ、よし、探そう・・」
「それって・・おブラ」
「当然よ」
「胸も誇らしいみたいだからぴったり」
「でも近頃ルパンとか物騒だから・・そ、そうだ。そうだ・・じゃあもうしばらく見張っていて頂戴」
「ご感想は・・」
「・・ふむ・・ふむ・・か、賢いわ・・ねー・・」
「これぐらいは・・Hな話は敢えて避けて・・」
「そうよ。この時点で充分にそんな雰囲気よ」
「べ、勉強に・・なりま・・」
ウーウーウー
「あ、あら・・別荘方面から・・もくもくと・・煙が・・」
もし先に入ったら・・
・・コ、コン・・コン・・
「は、はい・・ど、どなた・・で」
「わ、私・・よー・・」
ああいちいちどもっていたら切りがない。
「手とお湯のお加減は」
「順調です・・が」
ここで順調と言ってはいけないが、
「そう、良かった」
となり、
「あの・」
「心配しなくても、上も半袖です」
「でも」
「でも・・よ・・靴下・・等が無いわ」
「つ、ついでに洗おうと思って」
「えー穿いたまま」
「はい」
これも拙いが、
「じゃあ、それなら・・背中でも」
「そ、そうだ・・なあ・・」
やっぱり・・こうな・・った・・
「心配も期待もしなくても、半膝ジーンズです」
・・ギー・・
「失礼」
パタン・・
・・ぐるぐる・・ザバ・・
・・ゴシゴシ・・
「いま何を考えて・・らして」
「・・仕返しが・・」
「恐いと・・それは偶然の一致です」
「えー鶴子さんも・・ぐ、偶然だなあ」
「こんな頑丈に・・二重に巻いて」
「はは・・は・・」
「・・水・・着以上」
「そ、それが・・いい」
「そ、そう・・かしら」
「グッド・・アイ・・デア・・です」
「・・そうなると・・こっちも・・ではなくて・・こっちは・・ソックス・・も・厳重に隠さ・・ねえ、ゴソゴソ探さな・」
「も・・も、もち・・ろん・・です」
「はい、お手手を上に」
「えー」
「腋の下はどうするの」
「ま、まあ・・後ろ向きな・・まま・・なら、それぐらい・・」
「では、ばんざーいを」
「・・ば、ばん・・ざー・・」
「まあまあ無防備な格好・・少し・・くすぐったい・・かも・・」
「・・あ・・あああ」
「明日の夜の10時頃が大変なのに、こんなことをしなければよかった」
「・・もう手遅れ・・じゃないと・・いいが」
「それで・・明日は順調になるのかしら」
「それはまだ」
「おへそは」
「そ、そこはいいです」
「洗ってという意味」
「いえ、結構・・いえ」
「あと上半身で残っているのは」
「ど、どこかなあ」
「胸」
「ああ、そ、そんなところがあった・・」
・・翌日の夜・・は・・飛ばして・・も・・逆の順番・・でも・・
・・ああなって・・こうなって・・その前にも・・またちょっと独り言があって・・その自慢話の最中に・・どこかに隙間が無いか探して・・またこうなって・・・
・・ああ・・ど、どっちでも・・ど、っちか・・を・・いや・・せ、せめて・・こっ・・ち・・ああなんという空想を・・
でも?・・こっちなら・・ある意味・・水着以下でミニ以下・・あ、悪魔め、早々に退散し・・違う?・・
お前の気持ちは、よー分かっとる・・私情は天頂に達した・・
音蔵も?途中段階なら想像してもいいと言った・・それに・・彼女も・・2枚姿は鏡に映した・・らしい・・ぞ・・ウ、ウエストは・・きっと・・約・・5・・下1桁は・・想像しては・・だめ・・なのに・・バカ殿は・・年がら年中・・助平なことばかりを・・
いや、芸術的なことも・・広重とか・・歌麿とか・・着衣の・・着衣のマハ・・ど、どうだ・・ああ、ま、また・・階段の・・えー・・12段目に・・ゴミ・・そ、それは・・し、知ら・・な・・かった・・あ、ああ・・あ・・いま・・チラっと・・ブラ・・ウスの・・第3釦の下の隙間・・の方だ・・ぞ・・お・・またも・・おおお・・麓側の・・谷間が・・チラ・・チラ・・おお・・白い・・も、もの・・も・・絶・・景・
「ほら、黒メガネさんの番よ」
「ああ・・そうだった・・」
・・コン・・ころころ・・カツン・・ころころ・・ころ・・
「じゃあ・・次は・・私だけれど・・ハイヒールさんは・・どの球を・・」
・・コツ・・コツ・・
「・・こ・・れ・・」
「これはまた・・突き難い・」
「そ・れ・・は・・偶・・々・・偶然・・」
「夕方役場で・・シャワーと洗濯機と乾燥機は使ったけれど、また同じ格好で晩餐会の料理運び・・いまも・・あら・・なぜか真横から・・なぜか真正面に移動を・」
「芝目・・のようなものを読まなくては・・」
・・チ、チラ・・チ・・ラ・・
「では第2釦を止めて・・」
「・・ど、どうぞ・・ははは・・」
「・・それにしても・・屈み・・易い所に・・玉が・・」
・・チ、チラ・・チ・・ラ・・コン・・ころころ・・
「・・は・・はは・・」
「でも音蔵が・・明日釈放されそうで、良かったわ」
「誤解が解けたのだろう。彼は像の運搬や交換をしただけだ・・が・・とこ・・ろで・・恵美ちゃんは・・」
・・そろそろ・・柱時計が・・
「・・おデート・・かも」
「へ、へえー・・」
「では・・場所を移して推理・・ごっこをしましょ・・」
「・・そう・・ですね・・どこか静かな・」
ボーン・・
「・・あら・・もう9時半・」
「ど、ど・・こが・・いい・・かな」
「で・・どこ・・に」
「お・・お入浴・・タイム・・だな」
「どっちが・」
「ど・・うぞ、鶴子さんから」
「もうだいたい想像はついているの」
「な、何の・・」
・・真正面の・・奥の・・背後の・・キャビン戸棚のガラスを・・頭部を傾げて・・ちらちら見ていたのを・・勘付かれたのか・・
「まあね・・事件・・もよ」
やっぱり・・
「え・早くも。じゃあ、それを・・」
「聞かせて欲しい・・と・・」
「・・いや・・それは・・自分でも考え・・よう・・」
・・その方が・・後々・・好都合な・・ような気が・・する・・
「ヒントは・・高木彬光の人形はなぜ・・と・・黒焦げになった像と・・どの像も同じ大きさで同じポーズであることと・・先程やっていたゲームも若干・・」
「へえー・・」
それはビリヤード・・玉を突いて・・遊んでいた。
「だから、ヒントの一環として、玉突きをしたのよ」
「・・駒は・・本物像と偽物像の・・2つ・・だね」
「タマは2つだと」
「い、いや・・まあ・・」
「そうではないかも・・ねえ、もっとヒントをたくさん・」
「いや・・」
いやいや、ずるずると長引かせた方が良い・・光野はまた直感した・・
「では・・そろそろ・・」
・・コツ・コツ・・
「あら、まだ借物のハイヒールを履いていたわ」
「それも・・ぬ、脱・・がな・・きゃ・・」
「でもなぜ・・交換した別荘の庭の像に火が付けられたの・・かしら」
「うん。本物のやや高価な像なのに、勿体ない」
「ルパンは午後3時に・・」
「・・別荘の像をぼうぼうと燃やして黒焦げに・・どうして・・こんなことを・・」
・・キー・・パタン・・・ガチャ・・
「・・それで・・ヒントは・・いつ頃から・・小出し・」
「うーん・・僕の方は・・頭の整理をしなくては・・いけない」
「小部屋側は適当に進めていろと」
「う、うーん・・だ・・なあ・・」
相当昔の作品なので、細かいことまで思い出せないが・・神津恭介博士と松下某が活躍し・・東海道本線を列車が走っていて・・確か・・人形等が何回も轢かれる・・のだが・・いったい・・どのタイミングで・・どんな札を出すと・・どこに・・軟・・着陸・・するのか・・
「・・とこ・・ろで・・そちらの・・持ち・・駒は・・」
「それは・・役場に返さなくてはいけない・・ヘア・・バンド等を入れて7つ・・以上・・だった・・けれど・・そうね・・スカーフも・・これも借り物だから・・」
・・スル・スル・・スルリ・・
「・・ということは・・現段階で・・も、もう・・たった・・5つ・・以上・・だが・・その以上には・・上記の5・」
「算数・・みたいに・・厳密に・・しない方が・・いいかも」
学術上は・・5か6か7か8か・・・だが・・非学術なら・・
「これは・・とても重・・要事で・・あって・・その5とやらにも密接に関わりますので・・追確認しますが・・例・・の・・あ、あれ・」
「な、何で・・しょうか」
「では言い直しますが・・これは・・なぜ幼児が2回も泣・」
「推理・・小説風・・です・・ね」
「これに関連が・・大有りな・」
「そ、そう・・ね」
「いえ、僕が先ず知りたかったのは、それが・・先程の5以上とやらに・・含・・」
「・・ま、まれ・・ます・・が・・あくまで・・5以上・・」
「そうなると・・これも・・重・・要なこと・・だから、確認しますが・・ソックスは両足分を・・1足」
「そ、そう・・よ・・」
「・・再々ですが・・どうしても事前に明確に・・したい・・のですが・・さっきの・・5以上は・・5の・・直下・・い、いや上の数値の・」
「そ、そう・・かも・・でも・・故意・・ね」
「ははは・・了・・解・・」
「さ、さて・・と・・例の・・習慣の何か・・でも・・しょう・・っと・・」
・・じゃー・・・
「お、おや・・水音が・・」
「・・何か仰った・・のかしら・・」
・・ゴシ・ゴシ・・
「い、いえ、これは独り・・言・・ですから・・気に・・」
「・・ガラガラ・・こっちも・・もっと・・もご・もご・・言えと」
「う、うーん・・だ・・なあ・・」
「また・・そのフレーズを・・」
「で、でも・・ど、どこ・・まで・・長・・々・・やって・・いいの・・で・・しょう・・ねえ」
「さ、さあ・・努力・・次第・・よ。頑張り・・なさい・・」
「・・それを・・両者が・・です・・ね」
「そ、そう・・です・・ね」
「・・では早速・・推理その1・・この事件は・・小説で人形が列車に轢かれたことと・・無関係ではない・・ははは・・安易過ぎかも知れませんが、最初はこんなものです・・正解ですね・・」
「・・はい・・はい・・正解・・の前に・・いま・・どっち向き」
「もちろん・・後ろ向きでサングラスも」
「じゃあ・・もご・もご・・正解・・ガラ・ガラ・・」
「ド、ドアに・・ほんの少し・・へばり・・付いても」
「ど・・う・・ぞ・・」
・・くちゅ・くちゅ・・
「・・う・・ふふ・・お口を・・と、なると・・つ、次は・・」
・・ぺー
「ああ・・いま・・ペー・・なのに、なぜもっと・・窓が・・下の方に・・」
光野青年のサングラス付き両眼は、すりガラスの下端ぎりぎりまで下がった・・が・・こんなことをするよりも、椅子を持って来て、背伸びもして・・もっと後方から・・の方が・・
「ねえ、こっちは後ろ向きで分からないけれど・・ドアを壊さないでよ」
「は、はい・・一旦少し離れ・・ああ・」
チラチラ・・後頭部が・・
「では、犯人や動機を・・ああしまった・・わ・・また習慣で、もうソックスを・・邪魔くさいけれど、もう1回」
「いえ・・いえ・・せっかく・・ぬ、脱いだ・・のに」
「そう・・ね・・ぽい・・ぽい・・こんな・・ぶかぶか24センチハイヒール用の・・大昔の古い分厚い靴下・・あ、し、しまった・・もうサイズと事件のヒントを・・同時に・・」
「・・わ、分かった・・ような・・」
・・けれども、早くもここで・・僕が犯人を名指ししたら・・
「あら・・もう分かったの」
「そうなると・・それで・・即・・終了・・とか」
「・・いい・・え・・動機とか・・犯行・・手口とか・・」
「・・良か・・った・・」
「犯人と・・その動機は・・」
「両方ともを・・なぜ」
「簡単過ぎるから・・よ・・」
「・・しかし・・勿体・・ない・・ような・・」
「では・・それが分かれば・・悪女がオマケして・・上の・・釦全部・・ぽちぽちぽち・・かも」
「・・え・・そっちを・・先・・に」
・・ブラ・ウスが犠牲・・いや優先・・いや・・
「でも釦だけ・・で」
「発表しよう・・犯人は、鶴子さん」
「え、私」
「違います。犯人は、鶴子さんが数年前の大昔に困ったとか言う、僕も・・利用したことがある、元CDビデオレンタル店元店長であって、動機は、遺恨、逆恨み」
「・・利用の直前にためらいがあった・・わよ」
「それ・・は・・本件とは」
「それを正直に言えば・・もう少しだけ・・近寄っても・・可能・・よ」
「そこまでの譲歩があるのなら・・言います・・学園物のような・・清純・・準々・・アダ・・ルトみたいな物も・・借り・・ました・・うう・」
・・『ジーンズお嬢様女子大生シリーズW・ミニスカ撮影前々日編』を・・
「ああ寄り過ぎ・・だけれど・・嘘泣きしなくて・・いいわ・・よ・・」
・・誰かが・・『黒ワンピお嬢さん女子大生シリーズX・腰巻きチラっ撮影前日編』・・とやらを借りて来て・・これを参考にして少しはお勉強なさい・・とか・・来週は当日編かもよ・・とか・・
「おほ・・ほほ・・」
「・・音蔵が言っていましたが、彼はいま町役場のよろず請負業をしていて、便所掃除や美術館の清掃をしている・・とか・・」
「そうです。彼が犯人です。でも・」
「その前に・・全釦・・ぽちぽちぽち・・を」
「そ、そう・・ね・・じゃあ・・またちょっと・・こっち向き・・になって・・」
・・ぽち・・ぽち・・ぽち・・
「し、しかし、犯行手口は・・難問だな」
「それが分かれば・・ブラウス・・ぱっ・・かも・・なのに」
「えー・・やっぱり・・上・・が・・先」
「さ、さあ・・かも・・かも・・」
「・・うーん・・」
・・像を軽トラで運んだのは音蔵なのであるが、それは、犯人に利用されただけ・・
「これは、密室物かアリバイ崩し・・だ・・どうですか・・」
・・たぶんそうではないが・・間違えると・・修正してくれる・・かも・・
「清純派を小部屋に閉じ込めて、もっとヒントを出せ・・と・・軟禁して・・脅迫までもを・・」
「・・そうでないと・・そろそろ本当に降参・」
「早・・過ぎです。待・・ちな・・さい・・その線では・・ありません・・よ」
「そうなると・・推理その2・・人形の轢断・・と同様なことが・・あった・・」
本当は・・すり替え・・も思い付いたが、まだ、それは・・
「・・推理その1この事件は小説で人形が列車に轢かれたことと無関係ではない・・から・・進歩しました・・む・・むむ・・近付いた・・」
「では・・ぱっ・・を」
「し、仕方・・ない・・かな・・」
・・ぱっ・・
「・・きっと・・恐らく・・段々・・湯気でも・・曇って来て・・いえ、それすら不明な・・視界・・不良好・・状態です・・が・・ぱっの・・お・・つ、次ぎ・・は」
「予・・想・・は」
「ま、まあ・・たぶん・・きっと・・」
「そ・・れ、れ・・か・・も・・」
「・・もう・・ど・・っち・・か・・の・・は・・ず」
「そっちか・・も・・」
「・・本・・当・・は」
「うーん・・迷・・」
「・・その続きは・・さあ・・」
「・・ち、ち・・ゃうー・・わ・・」
「・・ああそうだ。もう1つ思い付いたぞ・・これが正解なら・・確定し・・ますね」
「卑怯な小出し戦法ね」
「それはまたも・・双方とも・・かと・・思います」
「・・まあいいでしょう・・それを・・先に・・認めま・・しょう」
「これも正解だと思いますよ」
「ですが・・正解でも・・どっちかが・・単にほぼ確定になるだけ・・よ・・」
「・・今度は・・何も減少しない・・と」
「そうよ。言ってみなさい・・」
「像のすり替えもやっていた・・さあ約束通りに・・」
「・・じゃあ・・どっちかに・・ほぼ・・確定・・」
「・・やっ・・たー」
「でも、なぜ、犯人はそんなことを」
「・・それ・・は・・」
推理困難だが、何としてもこのサングラス・・も・・は、早く・・は、外し・・て欲しい・・が・・しかし、この土壇場で・・まだ未出の・・
「・・ルール上・・身長や体重や座高等は・・」
「3つ限定・・になって・・いると・・」
「・・それは・・そう・・でも・・ところが・・今回は・・」
「・・それを・・や、止めろ・・と・・もっと・・そこそこ・・いいことを・・しろ・・と・・最低でも・・そこ・・まで・・行き着いて・・欲しい・・なあ・・と・・」
「・・希・・望です」
「あ、あら・・ひょっとして・・まだ黒メガネが・・」
「・・ああそう・・だった。つい・・忘れていた・・ぞ・・」
・・音蔵は別荘と美術館の間を、軽トラで像の運搬をしたのだが・・困ったことに・・どこか中間地点で、轢断とすり替えを挿入しなければならなくなってしまった・・
それに、音蔵に覚られぬまま轢断させる・・というのは無理なので・・それが発生しても不自然ではない状況にもしなければならない・・音蔵はそれに気付いていながらも、なぜか轢断をしたのだ。
先ず音蔵は別荘のニセ像を軽トラに積み、美術館で本物像と交換し、また別荘に戻り・・これではもう終了だ・・うーん・・
では、どっちの像が轢断されたか、から考えよう・・それは・・本物像の方だ。
なぜなら、別荘のニセ像なら昨晩は庭に放置されていたから、そっちを壊すならその場で破壊すればそれで済む。また、音蔵に罪をなすり付ければ、直前に運搬事故損害保険に加入して疑われることも無く、保険料金の支払いも無いので損もしない。
それに、ロングスカートだから惜しくもない・・
しかし、そうなると、なぜ、こんな得にもならないことを・・
まあ、それは後で推理するとして・・先ず壊す本物像を警備の薄い道中の中間点にまで引っ張り出す・・つまり、それは後で轢断されるのだから、とにかく道中の途中で本物像を降ろさなくていけない・・推理小説の掟では厳重警備警戒で被害に遭うが、それは無視する・・
となると・・往路は空荷で、復路では、美術館で積んだ本物像を中間点で降ろし・・戻った別荘でニセ像を積み・・途中で本物像を轢断して・・美術館でニセ像を降ろす・・
別にこれでもいいけれど・・これではすり替えが・・ないし、像も1つ減ってしまい・・バレやすい・・
なるほど・・それで・・タマは・・3つ・・あるのだな・・轢断やすり替えをやるために・・最初に別荘で積んだのは・・小5鶴子さん・・だ。
あの腰巻き鶴子さんだ。夜間作業だったので、音蔵はスカートの長短に気付かずに・・そうそう、運搬時の安全上からかニセ物像にもぐるぐるコモかムシロを巻いてあったが、犯人は腰巻きさんにもそれを施したのだ・・
先ず音蔵は別荘の鶴子さん像を軽トラに積み、ところが、途中で、あの持った時の感触は・・短かったぞ・・と思い出し、ああやっぱり間違えていた、これは降ろさなくてはいけない・・となった・・ふー・・
「そう・・なの・・ですね」
「な、何が・・」
「・・しらばくれて・」
「いません。説明して下さい」
「いいでしょう・・それはこうだ・・・どうです」
「では仮にそうだったとして、途中で思い出すのは・・好都合過ぎ・・のような・・他にも何か・・方法・・が・・」
「・・それは・・」
「・・ほら・・」
「ガソリン切れ」
「違います・・例・・えば・・砂利・・道とか・・凸凹・・」
「・・わ、分かった・・ぞ・・軽トラが通り掛かる以前にも・・石膏を砕いたような物が・・ばら撒かれていて・・音蔵は急停止し・・」
「そのショックで・・ムシロが落ちた・・とか」
「違うの・・ですか」
「もう少しましな推理を・・ほら・・誰かが・・既に・・木陰・・とか・・」
「軽トラが停止した隙に・・犯人が・・コモを・・引き摺り降ろした」
「そして・・像が心配な音蔵は・・」
「軽トラから降りて・・荷台を確認し・・」
「びっくりもして・・コモも元通りに引き上げ・・」
「その腰巻き鶴子さん像を一旦降ろした」
「なぜ」
「それは・・後々持ち帰らないといけない・・のだが・・倹約家はガソリン代も考慮した」
「それは・・それとして・・軽トラが・・ここで一旦停止・・をした・・お陰で・・」
「・・それ・・が」
「それが・・後刻・・心理的な効果を・・」
「・・生む・・とか」
「まあね・・心配性な人は・・もう1回ぐらい・・止まる・・かも・・」
・・音蔵が像を轢くという不自然さも・・これで減少した・・
腰巻き鶴子さん像を降ろして空荷になった軽トラは美術館に到着し、これまたコモかムシロ巻きな本物像を積み、中間点に来て、心配性な音蔵は・・ガタゴトするからと、超スロースピードになり・・その間に犯人は本物像を腰巻きさん(背丈は同じくらいでポーズも同じ)にすり替え・・別荘に到着し、音蔵は本物像と思っている腰巻きさんを別荘で降ろし・・その頃犯人は本物像を道路に横たえ・・次ぎに音蔵は別荘でニセ物像を積んで、また中間点に来て・・心配性でももう停止せず、低速度で本物像を轢断し、ニセ物像を美術館で降ろし、空荷で戻る途中に、再度本物像を轢き、別荘に戻る。
「・・はは・・どう・・だ・・」
「・・そう威張られても」
「さあ・」
「な、何を・・」
「・・ああ・・サングラスの次は・・ど、ど・・っち・・なの・・か」
「その前に、湯気で更に曇って殆ど見えないガラスもどうにか」
「いや、それは・・次の次ぎの次ぎだ」
「でもさっきの推理だと、最初に途中で降ろしたはずの、音蔵が、さて腰巻きさんをそろそろ連れて帰ろうと思った像を、最後の復路で回収出来なくなるわ」
「・・うーん・・像がまたも一体減って・・しまった」
「そう。道路の途中で・・道端で・・」
「ちょ、ちょっと・・タイム・・トイレに行きたい」
「どうぞ」
「・・その間・・くれぐれも・・勝手に・・事を進めない・・ように・・」
「・・はい・・はい・・」
・・じゃー・・
「トイレで考えて来たの」
「ええ。音蔵は、最後に空荷で別荘に戻る途中に腰巻きさんを持ち帰ろうと停止したが、積む予定だった腰巻き像さんが紛失していることに気付き、翌日盗難届を出そうと警察に出向いたが、参考人として取調室に連行された」
「でも、今朝はムシロを被せた像が2体有ったわよ」
「そうすると・・その1体は結局戻って来てしまった本物腰巻き像さん(これを音蔵らは本物麗子さん像と思っている)で、もう1つは・・中身は適当な別の像・・だ」
「と、なると、犯人は、像の落とし物を拾った善人を装いつつ窃盗罪も避けようと、音蔵のいない隙に別荘に適当な別の像を運び、さらに・」
「スト・・ップ・・それは僕の手柄に・・」
「・・どう・・ぞ」
「犯人は、音蔵の釈放前に証拠を隠滅しようと・・火を・・」
「どっちの像を」
「それは・・有ってはならない本物腰巻き像さん」
「な、なぜ、そっちを・・」
「・・だから・・それは・・止めて・・適当な別の像を・・燃やした」
「それで」
「でも後々バレるといけないので、頃合いを見計らってその黒焦げを我が物・」
「ど、どうして、燃やすために持ち込まれた黒焦げなんか引き取るのよ」
「・・うーん・・」
「持ち去るとすれば、以前から目を付けていた本物腰巻きさん像よ」
「・・そうだ・・そうだ・・」
「ご覧の通り、本物麗子さん像は正体不明な黒焦げなりましたが・・おやおや一体余りました。へえー誰かが勝手に持ち込んで来て困っている。コモを捲って確認・・その必要は無い?貴重な本物ミニ腰巻きさん像はとっくに道中で盗まれた。では清掃業者がお頂戴しましょう・・えー黒焦げも・・へい・へい・・では廃棄料5000円・・」
「・・ああ・・また手柄を横取りされた・・が・・程々にずる賢くて、何という欲張りな・・では・」
「でも・・本物腰巻きさん像を盗むのは副目的なの・・」
「主目的はあくまで・・道路かどこかで・・人に・・物を壊させる」
美術館は警備が結構厳重だからやり難い。
「そう。責任転嫁。責任のたらい回し・・もし真相がバレたとしても・・微罪」
自分の持ち物で焚き火しただけ。実際、黒焦げ像は本物麗子像ではなく、その本物麗子像を壊したのも自分ではない。
「・・うーん・・」
しかし、そうなると、なぜ、こんな得にもならない複雑なことを・・
「結構ややこしいわ」
「ここで一旦整理しよう・・」
先ず音蔵は別荘の本物腰巻き鶴子さん像(後々それはまた舞い戻って来る)を間違って軽トラに積み、途中で凸凹に出会い停止し、その際ガソリン代節減のためその鶴子さん像を降ろし、空荷になった軽トラは美術館に到着し、本物麗子像を積み、中間点に来て、超スロースピードになり、その間に犯人は本物麗子像を腰巻きさんにすり替え、軽トラは別荘に到着し、音蔵は本物麗子像と思っている腰巻きさんを別荘で降ろし、その頃犯人は本物麗子像を道路に横たえ、
次ぎに音蔵は別荘でニセ物麗子像を積んで、また中間点に来てももう停止せず、低速度で本物麗子像を轢断し、ニセ物麗子像を美術館で降ろし、空荷で別荘に戻る途中に本物腰巻きさんを持ち帰ろうと停止したが、その腰巻き像さんが紛失していて、
翌日盗難届を出そうと警察に出向いたが、参考人として取調室に連行され、その後善人が音蔵のいない隙に別荘に適当な別の像を運び、その像に火を付けて黒焦げにした。
いま現在別荘側には・・コモ巻きな本物腰巻きさん像(降ろした時は本物麗子像と思っていたが、いまは処分すべきがらくたと音蔵らは考えている)・及び・黒焦げな別の安物像(現在はこっちを本物麗子さん像と思わせてあるが、これもいずれ処分)
道路の途中には・・粉々になった本物麗子さん像(音蔵らはここには像は無いと思っているが、この破片ももう清掃業の犯人が片付けてある?)
美術館側には・・ニセ物麗子さん像(本物麗子像は燃えたらしいから、まあ永久にこっちでもいいかな)
ちなみに、音蔵は・・燃えたのが本物麗子さん像で良かったし、本物腰巻きさん像も誰か愛好家の手に渡り・・そうだ、そうだ・・がらくた2体廃棄後は2つも減り・・鶴子お嬢さんの滞在中に・・もう2体製作可能になったぞ・・先ず一体目は・・とか、きっともう思っている・・
「誰かさん似の本物麗子さん像は2回も轢断され、黒焦げにもなったとも思われて、一段と正体不明だけれど・・それなら・・もっと簡単にトンカチで壊すとか・・」
「それを簡単にできない理由・・ここで・・少し・・ヒントを・・」
「またなの・・ほら・・店も畳んで軽井沢に引っ越して、いまは役場の清掃等をしている・・とか・・誰かさん似・・とか・・服装も麗子像と同じようでも違うフレアワンピだ・・とか・・」
「ということは・・逆から見れば・・麗子像も・・フレアワンピ・・ース・・フレアー・・ひらひら・」
「ド、ドキ・・」
「しかし・・どうして・・」
「・・ああ・・それさえ・・分かれば・・」
「・・うーん・・」
「これが判明・・すれば・・」
「・・な、何が・」
「残念ねえ・・先ずは・・上が自慢される・・かも・・」
「・・う、うーん・・せめて・・この黒メ・」
「ええー・・黒メ・・ガネの・・次ぎに減らす際は・・幼児語を・・呟け」
「だ、誰も・・そんなことは・・まだ・・」
「・・ここで1回、神様・・教えてー・・とか」
「え、僕が・・」
「そうよ・・」
「・・神様・・助けてー・・」
「もっと・・真に迫って・・どもって・・」
「・・だ、誰か・・た、たすけ・・てー・・」
「ああ神様どうぞ助けてやっ・・それを?・・後で・・もう1回・し、しー・・」
「・・これ・・を・・何と・・してでも・・」
「ここで・・再度小出しを?・・ほらほら・・誰かさんなら・・フレアワンピースさんを・・目前にして・・どんな・・怪しげな・・振る舞い・・を?・・」
「・・ま、回りには・・誰も・・見てない・・と・・いう・・状況で・・」
「・・そう・・なのですか?・・そうじゃ」
「う、うーん・・これを・・正直に言えば・・何か・・いい・・こと・・が・・」
「・・あの・・こう申していますが・・どうすれば・・えー・・そ・・う・・かも・・はい・・はい・・え・清純派も?わしに・・あ、後で願え・・そ、それは必ず心中で・・ダ、ダメだと、発声しろと・・で、ですから、それはもっと後の・」
「そ、そう・・だ・・なあ・・あ、足元・・にでも・・」
「・・屈・・み込んで・・」
「・・おや・・ロ・・ング・・だなあ・・み、見・・えない・・じゃ・・ない・・か・・」
「・・それで」
「コ、コン・・コン・・固いぞ・・ゴツン・・痛いなあ・・ちょっと・・じゃ、邪魔」
「何が」
「す、裾・・」
「・・へえー・・知らな・・かった・・誰がそんなことを・・では、今度は犯人が・」
「えー・・もう1回・・こんな下品なこと・・を」
「そう・・これも真相究明のため・・」
「・・お、おやや・・このポニーテールは・・かつてどこかで・・そうだ。そうだ。思い出した・・あの小生意気さんだ・・結構・・精・・巧・・おい、ちゃんと掃除しろよ・・これは、館長さん、はい、どこかに埃でも溜まっていないかと・・それはいい心掛けだ。頼むよ・・スタスタ・・誰もいなく・・なった・・いまがお清掃のチャンスだ・・しかし・・以前・として・・ゴシゴシ・・長い・・よ、よし・・あ、足元・・に・・屈・・み込んで・・精密度を・・お・・おお・・ああ・・み、見・・えない・・じゃ・・ない・・か・・ゴチン・・痛てて・・頭が・・いや・・裾が・・邪魔・・ああ手の先にも目があれば・・いいのに・・しかし・・少しぐらい・・なら・・め、捲れる・・かも・・パリン・・し、しまった・・接着剤でくっ付けなくては」
「しかし目立つなあ・・そうだ・・誰かにもっと壊させよう」
「ああまた横取りされた」
「よし、こうしよう・・先ずルパンが警察に予告状を出し、ならば招待状も各界に配られ、地元紙にもコンパニオンの求人広告・・でもまさか本人がのこのこと・・まあいい・・どれくらい短くなったか見物してやろう・・それはおまけとしても・・そうすると音蔵が身代わりのニセ物像を別荘で造り、美術館のこの本物像と一時交換し・・うん、その運搬の際に轢断させよう・・しめしめ・・」
「・・・」
「どう・・」
「でも、検察送りとか刑務所送り・・とか・・軟禁・・尋問・・とか・・み、身・・元・・検査・・とか・・所持・・品・・調・・査・・とか・・拷問・・部屋・・で・・出・・来る・・かな」
「そうね。自分で轢断したわけではないし、その像がどの像だったのかも推測だし、自分で持ち込んだ石膏をムシロごと焚き火しても目撃者もいないし・・証拠品も真っ黒焦げー・・不起訴処分になる・・かもー・・」
「ずる賢い奴だ・・が・・で・・で、で・」
ドボン・・
「ああ遅過ぎた・・」