心中お察しいたします
その街には、ちょっとした有名人がいた。彼は悩みのある人を聞きつけては駆けつけて、ほんのすこしの時間で解決してしまう。
誰もが彼のことを魔法使いだと信じて疑わなかった。
「彼はすごいの。まるで心の中が読めるよう!」
「あぁ、彼に話を聞いてもらうだけで、すぐに心が楽になった。あれはまさしく魔法だ」
街の人々は、彼に話を聞いて欲しがった。あくる日もあくる日も、街中は悩みだらけ。彼は大忙しで駆けつけ、また別の場所へと移動する。
例えば、悩みの内容はこんなものだった。機能は、花がすぐ枯れることについて。子どもが言うことを聞かないことについて。料理が上手くいかないことについて。孫がかわいくてたまらないということについてーーエトセトラ。みな、解決されていった。
彼、という人について、街中の人が知る情報はすくない。というのも、彼は秘密主義者だからだ。人の悩みを聞くからには秘密は守る。自分のことも、同時に秘密にしていた。
彼は魔法使いと呼ばれている自分を、ひどくーー嫌悪していた。彼は自分のことが大嫌いだった。人の悩みを聞くことに対しても、これっぽっちも興味がなかった。彼はただ、「人の悩みを聞く」という仕事を会社から与えられただけの人間だった。
しかし彼は、人前でその姿は見せなかった。あくまで自分は魔法使いなのだと思わせるために、服装はいつも同じスーツを着て、しぐさも完璧にした。おだやかな笑顔に、心地良いタイミングでのうなずき。
人々は、悩みを解決してもらっていたのではなかった。実際にはただ話を聞いてもらえること言うことだけで、すっかり満足してしまっていたのだった。だから街中の人々が彼の心地良い”愛想”を求めていたのだ。
とある日のことだった。
街で一番の大金持ちが、彼に相談をした。金庫の中にある宝石がいつか盗まれそうで怖い、と話した。彼はいつもの笑顔で、おだやかに話を聞いて、次に「ご不安な気持ち、とてもよくわかります」と続けた。大金持ちはそのとき心のなかで金庫の鍵となる数字を思い出していた。
その日は不安がいくらか解消されたことに嬉しさを覚えた大金持ちだったが、二日後にその宝石が盗まれてしまった。
不安が的中してしまった大金持ちは、彼についてのうわさを思い出した。
『彼は心の中が読めるのよ!』
彼は街で有名人となった。今度は泥棒としてであった。心の中なんて読めなければ、無論、犯人は彼ではなかった。それを知らない人々は、彼に石を投げた。
「魔法使いなら、石を避けてみなさいよ!」
「この大ウソつき! 街から出ていけ!」
全くの無実だった。しかしそれを人々が知ることはなかった。街中にはびこる不安、悩み、それらを全て聞いてきた人間が、処されようとしているのだから。
彼はこれまで人々をだました罪、そして宝石を盗んだ罪。そして人々の暴動により、死刑となった。死ぬときすら、彼はおだやかに笑い、人々の不安を一身に受けてそれを解決した。
「僕が死ぬことで解決するのであれば、さあ、すぐにでもどうぞ」




