5.いちごパフェ
「ほんとに食うんだな。特大パフェって思ったより大きいな」
「もちろん食べるわよ。高くて躊躇ってたのよ。苺は今が美味しいのよ」
「オマエの場合、いつでも美味しそうだけどな」
ジオはクククと笑った。あたりを見回して
「なんだか、あちこちから見られてるわね」
と言いつつも、スプーンでクリームをすくう。
「まあ、俺はモテるからね」
一瞬険しい顔をしてから、俯きこぼした。
「貴族と言っても三男なんて、卒業すれば平民なのに」
「あらそうなの、大変ね」
スプーンじゃ刺せないわね、と苺をつまむ。
(顔がいいからじゃないの)
とは、言わなかった。
「そういえば、あなたってサブアビリティも持ってたわね」
「あぁ、少しの間時間を止めれるんだ」
「少しの間? あらやだえっち。スカートの中とか覗いてないでしょうね」
「なんでだよ」
「そういうのが、お約束じゃないの」
「オマエの頭の中どうなってるんだよ」
ジオはおかしそうに笑った。空気がやわらいだ。
「アビリティドリンクはいつ飲んだの?」
「オマエ本当に俺に興味なかったんだな。オリエンテーションで、上位に入ったんだよ」
「あの時? なんか早く終わりすぎて何もできなかったわ。
……それに戻ったときは表彰が終わってたのよ」
「迷子か!」
入学して2日目に校内を覚える意味もあって、あちこちに置いてあるアイテムを集めて数を競うゲームがあったのだ。確か上位5人にアビリティドリンクがもたらされ、ドリンクの説明もあったなあ。
「オマエは、アビリティドリンク、飲むなよ」
深刻な顔で言われた。
「なんでよ。まぁ、勝ち取れるとは思わないけどさ」
「メインアビリティの派生アビリティが得られるのが多いからな」
「決まったアビリティが得られると聞いてるわよ」
「それでも相互作用で思いもよらない能力が発現するかもだろ」
心配そうな顔を見るとそれ以上食い下がれなかった。おそらくジオのお兄さんはアビリティドリンクを飲んだんだろう。
それから、パフェを食べ終わるまで、いろんな話をしたけど、私が好きな食べ物の話をしていたのが多かった気がする。
ジオは優雅にブラックコーヒーを飲んでいた。12歳じゃないの?
「寮はどっち? 送るよ」
外へ出ると夕方だった。少し薄暗い気がしなくもないけど、まだ危ないとかそんな時間じゃないし、そもそも学園内だ。
「いいよ、学園内だし」
断ろうとしたとき、手を取られた。心細い感情が流れてきて、驚いた。心から心配されたことと二重の驚き、ミネアと手を繋いでも今まで何も起こらなかったんだもの。
「南棟。あっちよ」
結局建物の近くまで送ってもらった。なんだか明日からが怖い気がする。予感でも何でもない。確信だ。




