4.おもしれー女
放課後になった。
ミネアにおもしれー女と言われてから、その言葉も頭に引っかかって消えない。ジオには揶揄われたんだなと苦い気持ちになった。
でも、それとこれとは別よ。私は今、資料室に来て生徒のアビリティを調べようとしている。確かジオはB組で合ってたはず。でも、名簿を見てもジオって名前は見つからない。本名じゃなかったのかと舌打ちしたい気持ちで名簿を眺めていたら、
「ここだよ」
目の前に他人の指が見えた。
・フェルジオード=アシュワース 【加速】【短時間停止】
振り向くと、いつの間にかジオがいて、でもなんとなくその近づく気配がないことに納得した。
睨むとジオは両手を上げて降参するような仕草をしてみせた。
「悪かったよ」
「ほんとは、そんなこと思ってないでしょう?」
「ちょっとは俺に興味わいた?」
声変わりの始まったかすれた声が脳に響くようだ。
ジオの能力が加速だとしたら、おそらくあれ――触れたときに流れてきた映像は、私の能力によるものだ。
「あなたは私の能力を知っていたの?」
「なんとなくはね」
「でも、あれは許さないわ」
「キスのこと? んー、じゃあ責任取ればいい?」
「わざわざ言わないでよ! それに責任って何よ、いらないわよ! これだからお貴族様は」
「貴族……ねぇ」
複雑そうな顔をしてから、ジオは話を続けた。
「ところでさぁ。何か見えた?」
動揺が答えだ。貴族は顔に出さない練習をするとか聞いたことがあるけど、平民の私は取り繕うことが出来なかった。観念するしかない。
「……未来のジオかしら、悲しそうなジオによく似た人が見えたわ」
「…………やっぱり」
小さな声は聞こえなかったけれど、難しそうな顔をしながら次に語ったことは、私を驚かせた。
「それは次兄だな。お前と似た能力を持ってる。鑑定の能力が高くて、人の悪意が見えすぎて、部屋から出てこなくなったんだ」
鑑定は珍しい能力のようだけど、全国的に見れば案外いるようで、マインズを飲むときにいたメイドさんも鑑定を使っていた。と言っても人それぞれにアビリティの範囲が違う。好感度が見える私は特異と言えるだろう。
「お兄さんの鑑定は何が見えるの?」
「普通にステータスも見えるけど、接触したら思念が伝わってくるんだ」
「接触って……」
思わず唇に手を添える。
「いやまあ、兄貴の場合は肩でもどこでも。粘膜だとより強かったみたいではあるけどね」
「……試したのね」
じとっと睨む。
「だから悪かったよ」
ジオの眉が下がってなんだか可愛い。
「カフェテラスの特大いちごパフェ! それで許してあげるわ」
ジオは目を見開いたあと、ゆっくりと口角をあげ、私の手をとった。
「おおせのままに」
その柔らかい微笑みに、またもや心臓が跳ねたのだった。
ちょっと私ってちょろくない?




