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23.春休み

 学年が変わる前の休みがやってきた。休みはそんなに長くないけど、実家に帰る生徒は多い。

 でも、私は今回はメイフィルには帰らないことになった。両親がこちらに来ることになったからだ。


 アシュワース侯爵の強い勧めで、両親は侯爵家に泊まることになったけれども、私はそれまで寮に居るつもりだった。そのつもりだったのだけど、ジオに連れられ侯爵家に来ることになった。なんで?


 以前とは違う可愛らしい設えのお部屋に通されたし、侍女さんもつけられた。クローゼットにはたくさんのドレスがあったし、いたれりつくせりだった。


ジオは

 

「止められなくてごめん」

 

 と言い、侯爵様は

 

「悪いようにはしないから」


 とご機嫌に微笑んでいたが、何かを企んでいるのはまるわかりだ。何しろ、侍女さんだけでなく、マナーの家庭教師も充てがわれたからだ。


 冬休みは、気持ちがいっぱいいっぱいで、それどころじゃなかったけれど、後から聞いたらジオのお母さんは、ジオが5歳のときに亡くなったらしい。


 だから、侍女さんは私のためだけに雇われたのだろう。間違いなく。ああ~、逃げたい。


 それでもマナーの授業は真面目に受けた。お茶の時間は、美味しいお菓子が出るから割と好きだ。

 

「所作はきれいですね。及第点と思います。表情が豊かなのがちょっと……」


 何がだめなのか疑問に思っていると、ジオがやってきて、言い放った。


「ラーラにそんなことは求めてない」


 なんでさ、と不服に思っていたら、困ったように先生が、


「美味しくないものも表情でわかると、お付き合いに支障が出ますわ」

「好き嫌いはないし、どれも美味しいから問題ないわね!」

「…………お言葉使いも」


 先生の小さな声は、聞こえなかったことにした。


 筋肉痛になりながら、カーテシーという挨拶も学んだ。覚えておいた方がいいと言われたけれど、お辞儀じゃどうして駄目なのかわからなかったわ。


 そうして付け焼き刃のマナーを学んでるうちに、両親がやってくる日がきた。

 

 お父さんの緊張は手に取るように伝わって来たけど、お母さんは普通のワンピースながらカーテシーをしてみせた。その優雅な様子に、お母さんが貴族だったことを思い知ったのだった。


 お父さん達と侯爵様は何度も手紙のやり取りをして日程の調整をしたらしい。だから、もうお母さんと縁談のあった叔父さんがどうしてるか知っているそうだ。


「よく来てくれた。フェルジオードの父です」


 と言う侯爵様の歓待に、もう驚かなかった。明日は、お祖父さんとお祖母さんに会いに行く日だ。今夜は眠れるかな?

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