15.ふたり旅
翌日、侯爵家のシェフの作ったお弁当をもらって、馬車で出立した。もちろんジオも一緒だ。こうなったら道中の宿の手配もしてあるのだろう。
もう、どうとでもなれ、という気分であるが、ひとつ許せないことがある。
「なぜ、先に全部言ってくれなかったの? それに一緒に生きるって、私聞いてないんだけど?」
怒ってみせたらジオが気持ち小さくなって答えた。
「根回しをしないとプロポーズは出来ないから」
「は? 気が早いわよ。私達いくつだと思ってるのよ」
「愛とかはまだわからないけど、ずっと一緒にいたいし、他のやつに取られたくないと思ってる。そもそも他のやつのところに行けると思ってる?」
「……………………ない」
もう! お貴族様ってやつは…………!!
仕方ないので今は許すことにした。
それに、けっこう愛されてる感じがする。
向かいから隣の席に移動した。嘘か真か鑑定では見えないけれど、手を繋げはなんとなく感じ取れる、良い距離感かもしれない。
寄り添って旅路は進んでゆく。
すっかり眠っていたけど、着いた街はクロスウェルという賑わったところだった。
宿屋に行くと一部屋と御者さんの部屋しか取られてなかった。というか手違いではなく、同室でとってあった。不思議に思うと、安全のためだと言われた。
「え? 今まで一人で大丈夫だったわよ?」
「昨夜、父さんと少し話してたんだけど、公爵家の影がついてたっぽいよ。その辺から身分の秘密が分かったらしいけど」
「じゃあ今は? いないの?」
「どうだろうねぇ」
考えても仕方ないので、街に繰り出すことにした。交易の盛んな街らしく、いろんな露天が立ち並ぶ。
シルバーに緑の石がハマった細工物の髪飾りに目を奪われた。
この石は、アビリティで出したガラスじゃないかなとのことだったけれど、蔦と花と鳥の模様に緑の石の組み合わせがとても素敵だったので、今日の記念に買おうとしたらジオがプレゼントしてくれた。
なんだか貰ってばかりな気がする。
手を繋ぎ、宿に戻ると、宿の食堂で夕食をいただいた。パンとシチューとサラダだったけど、しっかり煮込んだシチューは絶品で美味しかった。
部屋に戻ってからが問題だった。ベッドはちゃんと別だし衝立はあるんだけど、ジオってば時間を止められるじゃない。恥ずかしいわ。
固まって考えていたら、ドアの外にいるから着替えたら呼んでと言ってくれた。清拭用のお湯を運んでくれた宿屋の従業員にお礼を言うと、大慌てで身体を拭いて着替えた。
先にお湯をもらってごめんねと言って、部屋を出ようとしたら止められた。
「危ないから、不安だから、そこにいて!」
衝立の向こうの衣擦れの音が艶かしく感じて恥ずかしいのだった。




