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歯医者は痛いよ、どこまでも  作者: 双鶴


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エピローグ

大学の講義室は、いつも少し寒い。

白衣の袖をまくりながら、タケルは教科書をめくる。

歯学部三年。実習とレポートと試験に追われる日々。


彼女はいない。

出会いの予感も、今はない。

昼休みは、コンビニのおにぎりと、解剖図の復習。


でも、ふとした瞬間に思い出す。

あの頃の自分。

中学一年生。男子校。虫歯。麻酔。照れ。妄想。


「口、開けてくださいね」

その一言に、心臓が跳ねた日。

唇がしびれて、目のやり場に困った日。

歯石動画に絶句して、未来の彼女を妄想した日。


あの頃の自分は、痛みに怯えていた。

でも、どこかで信じていた。

“いつか”が来ると。

“いつか”のために、歯を磨くと。


今のタケルは、痛みの仕組みを知っている。

神経の走行も、麻酔の作用も、歯周病の進行も。

でも、あの頃の“照れ”だけは、まだうまく説明できない。


だから、いつか。

いつか、自分のような男子校生が、

診察室で口を開けるのをためらっていたら――


タケルは、静かに言うだろう。


「大丈夫。痛くないよ。ちょっとだけ、チクッとするだけ」


そして、心の中でそっと思う。


(俺も、昔は君と同じだった)


照れと痛みと妄想と希望。

それらが、口の中でぐるぐると回っていた日々を、

タケルは、忘れない。


そして、励ます。

“どこまでも”痛いと思っていた少年に、

“ここから”始まる未来を。


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