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歯医者は痛いよ、どこまでも  作者: 双鶴


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3/6

3話

「じゃあ、麻酔しますね」


歯科医師の先生がそう言った瞬間、タケルの背筋がぴんと伸びた。

注射器がトレーの上で静かに光っている。

その細さが逆に怖い。


(あれが俺の口に入るのか…)


先生は慣れた手つきで準備を進める。

ミナミさんは隣で吸引器を持っている。

タケルは、椅子の上で身動きできずにいた。


「ちょっとチクッとしますよ」


その言葉が、怖い。

“ちょっと”って、どれくらい?

“チクッ”って、どのレベル?

“しますよ”って、もう逃げられないってこと?


タケルは、目を閉じた。

でも、閉じると逆に意識してしまう。

唇が乾いている気がする。

(今、俺の口、注射に向いてない状態かもしれない…)


針が近づく。

タケルは、心の中で叫んだ。


(俺は今、人生で一番、無防備だ)

(これ、痛みの通過儀礼だ。男子校の洗礼だ。いや、違う。これは…)


針が刺さる。

チクッ。


(うわ、痛い。いや、痛くない。いや、痛い。いや、これ、どっち?)


唇がしびれてくる。

感覚がなくなっていく。

タケルは、思った。


(これ、もしかして…神経がバグってる?)

(俺、今なら口でペットボトル潰せるかも)


でも、そんなことを言える空気ではない。

先生は真剣な顔で器具を準備している。

ミナミさんは、静かに吸引器を持っている。


タケルは、唇を動かしてみる。

ぶよぶよしている。

(俺の顔、今、たぶん変な形してる)


「じゃあ、始めますね」


先生の声が、遠くに聞こえる。

タケルは、目を開けた。

天井のライトが、まぶしい。


その光の中で、タケルは思った。

(俺、今、ちょっとだけ大人になったかもしれない)


でも、唇がぶよぶよしていて、うまく閉じられなかった。

その瞬間、ミナミさんと目が合った。


タケルは、目をそらした。

照れとしびれと妄想が、口の中でぐるぐると回っていた。


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