時計塔の告発
夏休みが終わり、二学期はじめでまだ暑い時期。
とあるカップルたちの話。
「結菜、陽斗ー。そろそろ帰らんかー?」
「おー悠馬。あれ、お隣の子がもしかして?」
「そ。僕の彼女ー。」
「初めまして。松井栞奈と言います。」
俺の友達の宮里悠馬そしてその彼女、松井栞奈さん。
「初めまして。えっと、あなたが三浦さんで、その彼女さんの綾瀬さんですか?」
「そうだよ。初めましてー。栞奈ちゃんってよんでいい?私のことも結菜ってよんで!」
「ありがとうございます!」
俺の彼女、かわいー。横を見ると悠馬もほんわかした顔をしていた。
「おまえらーそろそろ帰れよー。」
担任が教室のカギを持ってドアのそばにいる。
「はーい帰りまーす。きっちゃん仕事頑張ってねー。」
「はいはい。陽斗は明日、きちんと課題終わらせて来いよ。」
「はーい。さよならー。」
私立常聖学園中学高等学校。100年の歴史を誇る名門校。そこに四人の学生がいた。三浦陽斗、綾瀬結菜、宮里悠馬、松井栞奈。探偵を行っている。そんな学校でとある事件が起こる。
「うれしいなー探偵組、女の子一人だったから、栞奈ちゃんが入ってきてくれてよかったー。」
「私こそありがとうございます!結菜ちゃんといれて、うれしいです。」
あー、僕/俺の彼女可愛いー。
「おー陽斗!お前なんかきっちゃんが探してたぞ。また課題せんかったんか?」
「ちゃいますよ先輩。なんだろー。行ってみます。」
「おん。またなー。」
「あざます先輩!」
手を挙げてにこやかに先輩が走っていった。
「じゃあみんなで行ってみる?」
「いいのか結菜?ありがとー。」
廊下はガラス張りで、冷房もない。蒸し暑い廊下を歩いて、職員室に向かう。
「あ、木村先生いますよ?」
「よお陽斗。それに、綾瀬、宮里、松井。これ、お前らが適任だと思ってな。探偵組だったろ。」
「何ですか、これ。手紙?まさか、愛の告白?」
陽斗が変なことを言っている。確かに、木村先生は陽斗だけ下の名前だけど。
「違うわ。これ、今日いきなり生徒会室の机の上にあってな。差出人もないし、監視カメラを見ても何もわからないんだ。」
陽斗が封筒を開く。私たちはそれを覗き込む。
『”あの事件”はまだ終わっていない。再び時計塔の鐘が鳴るとき、真実が暴かれるだろう。』
「あの事件?」
「そう。あの事件ってのが何かわかんないし、時計塔ってのも…。」
私たちの学校には古い大きな時計塔がある。でも、もう壊れていて動かない。何かの悪戯だろうか。
「んだこれー。」
「悪戯だとは思うが、面白半分で考えてみてくれ。捨てるように頼まれてたから、こっそり調べてくれな。たのんだよー探偵組ー。」
「んー!お昼だー!弁当だー!事件だー!」
「うるさいなー陽斗。静かにしろ。で、事件って?」
「いや、朝のあの手紙。」
「あー。でもあれ悪戯じゃないの?もう鳴らない時計塔がなった時って、なんかわかんないんだけど。」
「私も思います。あんまり現実味はないかと…。」
「んー、そーなだけど…。」
椅子を斜めに傾けながら封筒を掲げる。
「『あの事件』気になんだよなー。」
はっきりと示された言葉、『あの事件』はアヤシイ。
「でも、そのあの事件がどの事件かわからないから解決のしようがないですね。」
「そーなんだよね。もっと詳しくかいてくれれば。わあ!」
ガタンと椅子が前に傾く。
「っぶねー。こけるとこだった。」
「陽斗、もうやめなさい。こけたら怒るよ。」
「ごめんなさい。」
「おっはよー結菜ちゃん。」
「あ、悠馬くん。」
「荷物もとっか?」
「ダイジョーブでーす。」
今日はいつもより早い時間。結菜ちゃんの提案で、図書室の学校歴史書で時計塔がかかわる事件を片っ端から調べて見ようということになった。
「はよーって、悠馬!なんで結菜といんだよ!」
「さっきたまたま会ったの。」
「みなさん、おはようございます。」
「栞奈!おはよう!」
「さ、みんな行くぞ!」
あからさまにはしゃいでんなー。昨日なんかあったんかな、悠馬。
また暑い廊下を通って職員室に行く。
「あ、丸山せんせー。丁度いいところに。」
「あらあら。あなた達どうしたの?」
丸山先生は図書司書の先生で、美人と有名な若い先生だ。
「おれら、図書室で調べものしたくって。開けてくれないですか?」
「あらあら、そうなの?でもごめんなさい。実は今から図書委員の子とお話があって。開けに行くことができないの。」
「そうなんですか。ごめんなさい、私たち無理言っちゃって。」
「なら俺が行ってやろうか?」
木村先生がどこからともなく現れる。
「木村先生。いいんですか。」
「ああ。丸山先生。鍵をもらってもいいですか。」
「はい。ありがとうございます木村先生。」
「にしてもお前ら二人が図書室使うなんて珍しいな。」
「はい。ちょっと学校の歴史とかについて調べたくて。」
本館の真新しい図書室に着く。本の匂いが心地いい。
「私久しぶりかも。図書室。」
「そうなの?結菜なら毎日来そうだけど。」
「それにしても、学校歴史書ないですね。」
「え、学校歴史書?だったら旧図書室かもな。」
「旧図書室なんてあるんですか。」
「うん。学校の歴史書とか、人気がなかった本、古い本はそこにあるよ。」
「へえ。僕たちの時はもうこの図書室しかありませんでしたから。」
旧図書室は知っている。今校舎ではなく旧校舎の三階に大きな図書室があるらしい。
「いってみる?旧図書室。」
新しい校舎とは違って、今にも崩れそうな外見。中には蜘蛛の巣が張っていて、空気は朝日に照らされ白く濁っている。さらに旧校舎は暑く、じめじめとしている。たまに蜘蛛が出て結菜さんが陽斗さんに抱き着いている。私も抱き着けるかな?
「着いたよ、旧図書室。」
ガチャリと扉をあけて、重いドアを引いて開ける。
「ここにいられるのはあと20分くらいだから、見たい本は借りてまた放課後に返すようにしような。」
「はい。」
古い本がきれいに並べられて、本は埃をかぶっている。
「くすんでるなー。」
ん?一冊だけ、横にされて置いてある。
何この本。一冊だけ出てる。
「おーい。栞奈ちゃん。歴史書コーナー見つけたよー。」
私とは正反対の方向。部屋の対角線のほうで声が聞こえる。
「す、すぐ行きます。」
本棚の角を曲がって声の聞こえるほうに行く。本棚の曲がり角、足の元のものにつまずいてこける。ん?なに…
「きゃあああ!」
「大丈夫?」
「はい。ありがとうございます…。」
悠馬くんの腕の中で目をつぶる。
「すみません。松井栞奈さん。お話伺ってもいいでしょうか。」
「はい。」
警察の人に話しかけられる。
私があの時つまずいたのは牧村先生でした。本棚で隠れて気が付かずつまずきました。特に血が出ていたわけでもなく、最初はただ倒れていただけだと思ったのですが、体が冷たくて、おかしいと思って通報してもらいました。ここに来るまでに誰にも会わなかったし、犯人の心辺りもないです。
事情徴収がおわり、学校から帰る。栞奈ちゃん大丈夫かな。栞奈ちゃんを呼んですぐ、悲鳴が聞こえてきた。駆けつけた時、こけた栞奈ちゃんと倒れた牧村先生がいた。一体どんな恐怖だろうか。
寝る前に課題を終わらせる。今日あったことを探偵組ノート(事件記録帳)で整理する。謎の手紙。死んだ牧村先生。そして”あの事件”。
「牧村先生、あそこで何してたんだろ。」
本棚には埃がかぶさっていたし、変な体制だった、まるで誰かを見上げるような格好だった。…あれ何だったんだろ。