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第6話 地球のエネルギー

 翌朝、目覚めたミサキはもう一度、石の道を歩いた。朝の日射しと、まだ夜の涼しさが若干残る空気が気持ち良かった。

 やはり昨日同様、自分が足を置くべき石が判る気がして、それに導かれるように進んでいった。それは昨日と同じ石ではなかったかも知れない。だが不思議と判るのだった。

 歩きながら自然や宇宙と一体になったような気分を味わい、ミサキは浜へと戻って来た……。

 そこで待っていた女性が、ミサキの表情を見て尋ねる。


「……どうでしたか?」

「……自分は、この世界のごくごく小さな一部に過ぎないんだと思いました……いや、それは当たり前の事なんですけど、何ていうのかな……上手く言えないんですが……」


 ミサキは良い言葉が浮かんで来なかったが、それを聞いた女性は微笑んで言った。


「……それで良いんです。あなたはもう大丈夫でしょう。さあ、次の島へお行きなさい」


 二人の会話を聞いていたシオ爺が腰を上げながら言う。


「それじゃあ、行くとするかね。次の島へ……」


 どうやら彼はミサキが石の道を歩いている間に結構魚を釣っていたようで、その半分くらいを女性にあげていた。

 舟に乗り込むと、ミサキは女性に言った。


「どうもありがとうございました」

「どういたしまして。けど、まだ旅は始まったばかりです。どうぞ貴女の航路が良い風に導かれますように……」


 そして、舟は海へと漕ぎ出した……。


 ― ― ― ― ―


 ミサキとシオ爺を乗せた舟は、風を受けて海面を滑るように進んでいく。ミサキはシオ爺に尋ねた。


「今日はどうですか? 風の導き、あります?」

「ああ、今日は風の示す道がハッキリ見えるわい……見ろ、もう目的の島が見えて来たぞ」


 そう言いながらシオ爺の指差す方に目をやると、数キロほど先に一つの島が浮かんでいるのが見えた。


 ― ― ― ― ―


 今度の島は最初の島よりも更に小さ目の島だった。だが浜と桟橋はあり、上陸する事は出来た。


「ようこそ、いらっしゃい」


 今度の島守は三十代半ばぐらいの男性だった。爽やかな印象で、このような島に滞在しているためか、肌は良く日に焼けている。


「こんにちは、ここはどんな島なんですか?」

「ここはですね……そう……『地球のエネルギーを得られる島』とでも言いましょうか……」

「地球のエネルギー……!?」

「ええ、私達の住んでいるこの地表のずっとずっと下には、大きなエネルギーの流れがあるんですよ。……そもそも地球というのはエネルギーの塊で、私たち人間や他の生物は、その表面で、その恩恵に与りながら生きさせてもらっているに過ぎないんです。

 このエネルギーは目に見えるものではありませんし、普通の人は感じる事もありません。けれど確かにあるものです。生命力の源泉ですね。南太平洋の島々ではそれを『マナ』と呼んできました。東洋では『気』、その地下の流れが『龍脈』です。西洋では『レイライン』と呼ばれています。そうして、そのエネルギーの流れが地表に出る『吹き出し口』というのが所々にあるんですよ。『パワースポット』と呼ばれるものですね」

「それ、聞いた事あります。この島の地下に、そのエネルギーの流れというのがあるんですね?」

「その通りです。……というか、この凪浦群島全体の地下にエネルギーの流れが巡っているようで、その中でも特にこの島が、そのエネルギーが最も地表に近い所を流れている……つまり吹き出し口になっているんです」

「なるほど……そう言われてみると確かに、ここに居るだけで何となく力が湧いてくるような気がします」

「地球のエネルギーが溢れて、そこら中に満ちているからです。目には見えませんがね……向こうの遺跡では、更にそれを感じられますよ。どうぞこちらへ……」


 案内されるまま着いてゆく。森というほども無い林を抜けると、そこにこの島の遺跡があった。数本の木柱が立っており、屋根が掛けられている。壁は無い。東屋(あずまや)のようなものだが、細長い形をしている。そして更に妙な事には、その屋根の下、ちょうど日影になる所に、大きな平べったい岩が幾つも並んでいるのだった。

 それはおよそ畳一枚分ぐらいの大きさの一枚岩で、表面はあの石の道に敷かれていた石と同様にツルツルと滑らかだった。さらに妙な事には微妙に湾曲して窪んでおり、それはちょうど人が横たわるのにちょうど良さそうな形をしていた。ミサキは思わず(つぶや)く。


「これって、ひょっとして……石のベッド?」

「ええ、そうです。この上に横たわっていただきます」

「ええ……?」


 ミサキは改めてその石の寝台を見る。確かに横たわるのに気持ち良さそうな形はしている。だが石で出来ている。触ってみたが、やはり硬い。


「……こんなベッドに寝ていられますかね?」

「ご安心ください。マットと枕をご用意しますから」

「ああ、それなら大丈夫そう……」

「昔の人達は植物の葉を厚く重ねて、その上に寝ていたようです……いずれにせよ、そうする事で、硬すぎず柔らかすぎず、ちょうど良い具合になりますよ」


 男はそう言いながらマットと枕を用意してくれた。


「……はい、どうぞ」

「それじゃあ…」


 ミサキは靴を脱いで横たわる……と、次の瞬間、彼女はある事に気付いた。


「この石……温かい!?」


 驚いたのも無理は無い。その石の寝台に横たわると、なぜか温かみを感じたのだった。気温や日射しによるものとは明らかに違う。そもそも屋根で日影になっているのでそれは無い。男は言った。


「ええ、そうでしょう。地球のエネルギーが地下から湧き上がって来ている証拠ですよ。そうしてその石の寝台を通して、あなたの身体にも地球の生命エネルギーが伝わっていきます……説明はこれで以上です。あとはどうぞ身体の力を抜いて、リラックスしてお過ごしください」

「はい……」


 そうさせてもうらう事にした。柔らかいマットを通すと、石の寝台の湾曲がまるで優しく包み込んでくれているようで、ミサキは安心感を覚えた。身体の力が抜けてゆく……。


(地球の生命エネルギーか……)


 そうしている内に次第に眠くなっていき、ミサキは眠りに落ちていった……。


 ― ― ― ― ―


「……起きてください」

「あれ……?」


 男の声で目覚める。どれぐらい眠っていたのか、まるで見当が付かない。


「私、何時間ぐらい寝てましたか……?」

「いえ、ほんの三十分程度ですよ」

「それだけですか……?」


 もっと長い時間が経っていたと思っていた。空を見ると、確かに太陽の位置はさして変わっていない。だが、確かに体内に生命力が満ちているのが感じられた。燃え立つような激しいエネルギーではなく、静かな……だが確かに感じられる力といったものだ。気分が良かった。ミサキは男に言った。


「もう少し地球のエネルギー、吸収させてもらっていって良いですか?」

「……いえ、申し訳ありませんが、これでお終いです。成人で三十分前後、子供で十五分前後と決まっています。その人の体質や体調にもよりますがね。それで充分なんです」

「けど何だかとっても良い気分なんです。もっと貰いたいぐらい。地球のエネルギーって一人の人間が沢山もらっちゃったからって減るものでも無いんでしょう……?」

「参ったなぁ……実は、あまりエネルギーを吸収し過ぎると、かえって良くないんです。制御しきれない程のエネルギーは、例えそれが本来は良いものであっても、多過ぎると心身に悪影響を及ぼす場合があるんです」

「そうなんですか……!」

「ええ、例えばお酒や美味しい料理なんかも、適量なら美味しくいただけますが、暴飲暴食は身体に負担がかかってしまうでしょう。運動、ゲーム、ネットなんかも同様です……いずれも()()なら良い気晴らしやストレス発散になりますが、一定量を超えると身体的にも精神的にも逆に良くはないんですよ」

「そう言われてみれば、そういうものかも知れませんね……すいませんでした」

「いえいえ、謝る事なんてありません。ここで地球のエネルギーを得られた方は皆『もっと続けたい』と仰いますから。けど、申し訳ありませんがお断りしてます。遺跡の活用を始める前に、ミヤボリ博士と島民達で色々試してみた結果、導き出した最適解が『三十分前後』という事ですからね」

「確かに……何事も適量が一番という事ですね」


 ……という訳で、ミサキはその島を後にしたのだった。


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