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第5話 整う石の道(※これが第3話の次になります。)

※物語の性質上「第4話」と銘打った話を飛ばさせていただきました。この「第5話」が前話「第3話」の次になります。

 島は全長数キロ程のそれほど大きくない所で、もちろん凪浦の町ほどの港は無かったが、小さな桟橋が一つあって舟はそこに泊まった。ミサキが上陸すると一人の女性がやって来た。五十歳ぐらいか、穏やかな表情を浮かべて言った。


「こんにちは。ようこそいらっしゃいました。ここは『整う石の道の島』です」

「どうも、こんにちは…」


 お互い簡単な挨拶を交わすと、ミサキはさっそく気になった点を尋ねる。


「あの、今おっしゃった『整う石の道』とは…?」

「この島にあるんです。遠い昔の人達が造った石畳の道でね……まあ、言葉で説明するより実際見てもらった方が早いわね……案内しましょう、ついていらっしゃい」


 そう言うと女性は森の方へ向かって歩き始めた。ミサキも後へ続いて行く。五分も歩かない内にそれは見えて来た。確かに、石で敷かれた一本の道が浜から森の中へと向かって伸びている。


「これが…?」

「ええ、『整う石の道』です。この道の上を歩くとね、心や身体の調子が自然と整っていくと言われているんですよ」

「歩くだけで良いんですか?」

「ええ、歩くだけ……まあ、信じられないのも無理ないかも知れないわね。あなたも歩いてみてご覧なさい。きっと解かりますよ」

「はあ…」


 ミサキは改めてその道を見た。確かに平らな石がびっしりと敷かれている。形も大きさも不揃いで、手の平ぐらいの大きさのを中心に、もっと大きいのや、逆に小さいのもある。だがその表面は一様に磨かれたように滑らかでツルツルしており、裸足でも歩けそうなほどだ。道幅もまた不揃いだが、だいたい1~2mほど……。


「この道を歩いて行けば良いんですか…」

「ええ、道は島中に巡らされていますが、ご覧の通りそれほど大きくない島ですから……だいたい一時間ほどで一周して戻ってきます。安心して行ってらっしゃい」

「はあ、それでは……」


 …という訳で、ミサキはその石の道を歩き始めた。もちろん半信半疑だった。歩くだけで心身の不調が改善されていくだなんて、やはり信じられない……。


 森の中を進んでいく……。


 それにしても不思議な道である事には違いなかった。明らかに単なる島民の生活路といった感じではない。昔の人は一体、何を考えてこんな道を造ったのだろう?

 石の表面は押し並べて磨かれたようにツルツルと照り輝いている。長い年月、雨風に洗われてこうなったのか……それともやはり長い年月の中、何千何万という人々がこの道の上を通って行ったために、こんな風になったのかも知れない……。


(そうだ……昔この島に住んでいた人達は、たぶん靴なんて履いてなかったんじゃないかな……)


 ミサキは靴を脱いで裸足になってみた。やはり思った通り、滑らかな石の表面の上に裸足で立つと気持ちが良い。そのまま靴を手に歩き始める……。

 とはいえ何か落ちていないとも限らない。自然と石畳の上へと目が行く。石は形も色も大きさも様々である。


(不思議だ……次に自分が足を置くべき石が解かるような気がする……)


 まるで決まっているかのように……。もちろんそんな事はない。しかし見えるような気がするのだ。今度は青っぽい石の上を渡ってみよう、その次は赤っぽい石を……というように、ミサキは歩みを進めてゆく。木漏れ日の射している所の石は暖かく、木陰の石は少しひんやりとしている……。


 ……そんな風に歩いている内に、ミサキは次第に妙な感覚になっていった……。石畳の道も、周りの木々も、道の上を歩いている自分自身すらも、あって無いような、無くてあるような……そんな不思議な感覚だ。自分と世界が、一体になっているような感じがした……。

 まるで世界にはこの島と、この道と、それを歩いている自分しか存在しておらず、無限の昔からずっと歩き続けているような……そうして無限の未来にも、ずっと歩き続けているような……宇宙とはそういうものであるような……


「は…っ!」


 …ふと気が付いて我に返ると、目の前に一面の青い海が広がっていた。いつの間にか石の道は森を抜け、海の見える所に出たのだ。


(不思議……なんだか以前より、視界がクリアになったように感じる……)


 海と空の青、入道雲の白、それに植物の緑……凪浦に来てからというもの、飽きるほど目にしてきたそんな色達が、今までよりも妙に鮮やかに見えるような気がした。例えるなら、今まで汚れていた窓ガラスを綺麗に洗い落として、外の景色が良く見えるようになったような……。


(本当に不思議だ……)


 クリアになったのは視界だけではないような気がした。心というのか、精神というのか、今まで自分の中で何かズレていた部分が、しっかりと収まるべきように収まったような感覚がある。


「整う石の道か……確かに……」


 ― ― ― ― ―


 ミサキが戻って来ると、先ほどの女性とシオ爺が浜にいた。シオ爺は桟橋に腰を下ろして釣りをしている。女性はミサキを見ると言った。


「良い効果があったようですね」

「…分かるんですか?」

「ええ、表情を見ればね……もう夕方です。今夜はこの島で、ごゆっくりお休みください」


 西の空を見ると、日は既に傾いていた。


「ええと……つまり、あなたのお宅にお世話になるという事でしょうか……よろしいんですか?」

「各島には島めぐりの旅人が寝泊りするための簡単な宿泊所があるんですよ。ささやかですが、ご夕食もご用意させていただきますわ」

「そうなんですか。では、お世話になります」


 浜から少し行った所に、小屋が何件か建っていた。その内の少し大きな一軒がこの女性の住居という事で、食料保管庫、調理場、あとはお風呂なども備えているとの事だった。あとは寝泊り専用の簡単な小屋。他には浄水器や発電機などもあり、水と電気にも困らない。この様な数人が滞在可能な設備は各島にあるという事だった。


 その晩、ミサキとシオ爺と女性の三人で夕食を食べた。食卓には先ほどシオ爺が釣った魚も並んでいる。ミサキはさっきから少し気になっていた事を女性に尋ねた。


「あなたは、ずっとこの島で暮らしてるんですか?」

「いえいえ、島めぐりにはシーズンがあってね……その時期だけ島に滞在して寝泊りしてるんです。この凪浦の島々には、それぞれ私のような案内人がいて、『島守(しまもり)』とか『島司(しまつかさ)』と呼ばれてるんです。主な役割は、やって来た島めぐりの旅人の案内と、それ以外は遺跡の管理ね……」

「ああいう石の道みたいな遺跡が、他の島にもあるんですか?」

「ええ、この凪浦群島の遺跡群の発掘・研究をされてる考古学者のミヤボリ先生に言わせると、全て私達の遠い昔の祖先が造ったという事で……何でも祖先達もそれらの遺跡を使って『生命力再生の儀式』をしていたんだと……まあ、儀式というと大げさだけれど、つまり今でいうセラピーのようなものね……」

「あの石の道の効果は確かに感じましたよ。科学や医療の知識も無かった時代にそんな物を造ってたなんて……昔の人達の知恵って本当に凄い……」

「まったくじゃね……」


 二人の会話を聞いていたシオ爺が、酒の入ったコップをグイと傾けながら言った。


「…お陰でワシもこうして『渡し守』としての仕事を与えてもろて、おかげで漁師を引退した後も好きな海で小舟を繰って生きておれる……まったく、ご先祖様々じゃね」

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