ずっと・・・秘密
ある小さな町で、ひとりの中学三年生の女の子のほんの少し不思議な夏休みの出来事があった。
夏休み初日、少女は、家に遊びに来た友達から「プールに行こう」と誘われる。何度も断ってきたが、友達のしつこい頼みに、仕方なく家を出た。
その日は泳げない自分を責めるのではなく、プールの縁を歩くだけが精いっぱいだった。
疲れた少女は家路につくと、すぐにぐっすり眠りに落ちた。
一週間が過ぎたある日、またプールに誘われた時、"歩くだけか多分"と心で思い、ため息をついた。
プールへ向かう途中、ふと足元に目を留めた。道路に落ちていた金色に輝くもの。
それはまるで魔法のように光を放ち、腕にぴったり合う形状だった。その輝くものを身に付けると心にあたたかな期待が生まれた。
プールに到着し、いつものように中へ入った。
すると、これまで感じた事のない不思議な感覚に誘われた。特別なことはしていないが自然と息継ぎが出来、手が動く、スイスイ。
泳げてしまう・・・
水そのものが、包んでくれているような、表現できない感覚だ。
その後、少女は毎回プールに行くときはあの金色の「宝物」を必ず持参した。
しかし、ある日の事、プールに出かけるため、金色の宝物を探した。
「どこへも動かさないはずで、鞄にいつもあったはずなのに、ない・・・、どうしよう。」
机の上、引き出し、鞄の中、いろいろ探し回った。見当たらない。
諦めて、少女は家を出た。
いつものように、プールの中へ。歩こうとしていた。
自然に、気が付いたら泳いでる・・・あれ?泳ぐ自分に少女は気づいた。
「あの輝きは、私の中に泳ぐきっかけをともしてくれたのね、きっと・・・」
金色の宝物がなくても、あの夏の日の記憶は、今も少女の胸の中で静かに輝き続けている。
誰にも話すことがなかった、この体験はいつしか、少女の「ずっと・・・秘密」となった。大人に成長しても・・・
もしも今後、また何かに立ち向かうとき、その秘密は、密かに背中を押して応援してくれるだろう。
この物語は、ありふれた日常の中に潜む不思議な輝きや、小さな勇気を描いています。少女の体験は、実際にあった奇跡かもしれないし、ただの夢の一部かもしれません。
でも、大切なのは、その瞬間に心が動いたということ。
誰かに話すのではなく、そっと自分だけの宝物として、あたためる。「ずっと・・・秘密」の意味かもしれません。
皆さんも、ふとした瞬間に感じた小さな勇気や奇跡を大切にしていただけたら幸いです。
じゅラン 椿