第四話:交換
べそをかいていると、親切そうな男が声を掛けてくれた。
「よう、坊主。この街に来た所かい?この街は武器の街だ。中には力が50も上がるハンマーってなお宝もある。その反面ここの敵は堅い。そりゃあもう素手でなんて絶対倒せない程にね。だからここでは先ず武器を購入するんだ。君は小柄だからナイフが良いだろう。力+10で良ければ俺が持って居るから、君の持って居る装備品の幾つかと交換してあげよう。君は何処から来たのかな?」
男を見上げた。にこやかな笑顔。本当に親切心から申し出てくれているのだろう。
だが、クリオの言葉が脳裏を走る。
『奴ら直ぐぼったくろうとするからな。』『何件か回るんだ』
俺は右手を隠したまま、少しづつ後ずさりした。
「あの...友達と逸れただけなんです...ご親切に有難うございました!」
そう言い残し脱兎の如く走る。
暫く走ると息が上がり動けなくなった。身近な商店のドアを潜る。そこは武器屋の様だ。出て隣に入っても又武器屋だった。どうやら武器の街と言うのは本当の様だ。
「あの、指輪を買いたいのですが売っていますか?」
左目に黒い眼帯をした無精ひげの店主に尋ねると、ぷいっとそっぽを向かれる。
「道具屋は3軒先だ。」
「有難うございました。」
礼を言い道具屋へ行くと、其処には確かに指輪が売ってあったが金の指輪(力+2)が短剣(+8)で売ってある。どういう事?物々交換?
そこで思い出した。前の街では力を貯める為に必要最低限しか指輪を売らなかったが、売った指輪は主に鉛か鉄、銅の指輪だった。雑貨屋にはそれらの指輪に値札が付いて売られて居たが、数少ない金の指輪は貨幣では無く、同等の価値がある金の指輪か複数の力が弱い金の指輪による物々交換となっていた。つまりこの世界ではアイテムは貨幣の代わりでもあったのだ。
「でも...剣なんて何本も持てないし、お金と交換できなと不便だよ。」
ブツブツ言いながら数少ない道具屋を一軒一軒丁寧に回ると、どうやら短剣(+10)前後が金の指輪(力+3)前後と等価らしいと辺りを付ける事に成功する。
だが、自慢じゃ無いが力+3なんてチンケな指輪は持って居ない。最低でも力+5である。中には+15という物もあったが、それはクリオに渡した。彼がアタッカーだから当然である。
「あの、そこの短剣(力+20)を買いたいのですが。」
珍しく女性店主の店だったので、購入を試みる。
「あいよ、支払いはカードかい?」
カード?何だろう。
「いえ、指輪で…」
女性店主の目が色めき立った。
「ほう、指輪かい。久しぶりだねえ。てことはアンタ新参者だね。良く騙されずにこの店までこれたもんだ。大したしっかり者だよ。」
いえ、見事に騙されかけました。それどころか、今でもあの親切なおじさんの事を善意だと思い込んで居ます。
「金の指輪(力+2)を3個でどうだい?」
あれ?短剣が+20なのに指輪が+2が3つって如何いう事だろう?クリオ曰く、力+2は金の指輪なら一番ありがちな数値らしいけど、それって金の指輪にしては価値が低いって事だよね?価値の低い物が3つで良いって事は短剣(力+20)の価値は低い?
「あの、それより良い短剣って有りますか?金の指輪ももう少し付与の強い物を出しますので。」
「本当かい?!アンタ、それ助かるよ。うちの旦那が潜るんだけど、武器で強化するにもある程度の物を揃えちまうと其処から値段が跳ね上がっちまって。指輪は稀にしか入荷しないから皆取り合いだし、でも敵が固いから少しでも力を底上げしたいって何時もぼやいているからさあ。」
そう言って店主は短剣(力+30、素早さ+5)とショートソード(力+28、素早さ+11)を出してくれた。
「力+4の金の指輪となら交換してあげるよ?若しかして+6かい?それなら女用の小さいケープを1枚つけてあげる。」
「今言った3つ全部お願い出来ますか?力+5です。」
女性店主は数値を聞いて驚いていた。どうやら+5以上は掘り出し物の様だ。
「良いのかい?そんな貴重品。旦那が喜ぶよ。悪いねえ。帽子とブーツも付けて上げるから、これからもご贔屓にね。」
店から出るとすっかりこの街の住人らしくなったデニーは無料の水飲み場ですきっ腹を紛らわせた後、食堂を探す。
だが、食堂では前の街から持って来た僅かばかりの小銭が使えなかった。何とカード払いしか受け付けないと言う。
仕方が無く、カードを作れると言う商業ギルドへ出向く。
血を一滴垂らしただけでカードはあっさりと作って貰えた。作るのとチャージは無料だが、利用時に5%の手数料が引かれると言う。
「どうやってチャージすれば良いのですか?」
すきっ腹が空き過ぎてキリキリ痛む胃を擦りながら尋ねると、受付の綺麗な女性は丁寧に教えてくれた。
「礼拝堂の地下に迷宮があって、そこで魔物を狩ると武器や稀にポーションがドロップします。それをこちら迄納品頂ければ品質に応じた買取ポイントをチャージさせて頂きます。」
「もう、お腹が空き過ぎて死にそう…です。」
お姉さんの柔らかい対応に思わず本音が漏れ泣き言を言ってしまった。
「では、そちらの食堂でお食事をしてローン払いと言って下さい。ローンには1日で5%の利子が付きますが単利ですので普通に狩りに行けば直ぐ返せるはずです。」
礼を言いその場を去ると食堂に駆け込み思いっきり注文した。散々食べ物を飲み込むと急激に眠くなってきたが、路上で寝ていて指輪を取られでもしたら大変だ。
教えて貰った通りローンで支払い、フラフラと酔っ払いの様な足取りで近くの宿屋へ辿り着き、ドアのカギを閉めた状態でそのまま蹲る様に気を失った。