第三十話: ゴンスの視点
俺の名はコンフィ、ケチな詐欺師だ。
今日、俺は不思議な光景を見た。
街をぶらついていると、ガキが大声を上げたので振り返ると、二人の少年が見つめ合っていた。二人は瓜二つ。更に驚いた事に、声を上げた方のガキの姿が突然掻き消えたのだ。話は未だ終わりじゃあ無い。俺の詐欺師の感がピンと来た。
詐欺師は記憶力が一番、あれはトラベラーと呼ばれる奴らだ。記憶を失い街を彷徨っている奴の中にそういった奴らいると聞いた事がある。
そうそう、思い出した。いつか噂で聞いた事がある。時々奴らは時を超えるが、自分自身に遭遇すると記憶を失い彷徨うのだ。その証拠に、片方が消える前に残った奴の体が金色の光を帯びた。あれは祈祷所の祝福みたいな物だ。そんな真似出来る奴は滅多に居ない。
残った一人は立ち尽くして居たので、後ろから近づくと、ひょいと表に周り様子を伺う。
呆けた顔、ビンゴだぜ!
詐欺仲間の一人がトラベラーから財宝を巻き上げた話をしていた事を思い出す。こいつは絶対にお宝を隠し持って居る。今日はタンマリ稼がせて貰うぜ。
◆
俺の名はゴンス。串の屋台を営んでいる。
今日不思議な光景を見た。
見慣れない男の子が二人、見つめ合ってたかと思うと、片方が突然消えた。
何だったのかと、目を離せずにいると、コンフィの野郎が近づいて行くのが見えた。
詐欺師め、今日のカモを見つけたか?未だ子供じゃ無いか。
そう思って居ると、突然消えた子供が現れたのだ。やはり瓜二つ、いや先ほどより少しだけ雰囲気が大人びた様な…
だが本当に驚いたのはその後だ。
俺の頭の中に、後から現れた見知らぬ少年の事が突然浮かび上がったのだ。
誓って言う。さっき迄は全く知らない少年だった。だが、アイツは2~3カ月前に見かける様になった探索者の卵だ。時々串を買ってくれるから名前も分かる、確かクリオだ。
でも何故?
どうして突然偶に来る程度の客の記憶がこんなにも鮮明に浮かび上がったのだ?
いや、其処では無い。
あの瞬間、彼がこの街にいたという事実が突如として発生した。それが恐ろしい。
◆
「今日も大量だ。お前凄いぜ、テビ―」
「いやいや、俺なんかクリオが痛めつけたカブットに止めをさす事しか出来ていない。本当に凄いのは君だよ。」
謙遜するがテビーの運は凄い。俺の運気は悪いが問題無し。拾った指輪は官邸で運の指輪ならトビーに、力の指輪なら俺に割り振る事で俺達のチームは上手く回っていた。
俺達はお互い以外は誰も信じない。他の奴らから声を掛けられても返事などしない。そんな俺達を背格好が似ている所為か、周りの奴らは双子のルーキーと呼ぶようになった。ふっ、あからさまに俺の方が5mm程背が高く、筋肉だってついて居るのに全く曇った目をした奴らだ。
他人は無視して俺達は稼いだ。とにかくテビ―のドロップ率が凄まじくて、物凄く稼げたのだ。上等な指輪も溜まり、次の街への入り口を探す様になった。
そんなある日、遂に幻の翡翠指輪まで入手した。これが鍵だと確信したのに次の街へ繋がる迷宮の扉は見つからず、代わりにテビ―が消えた。
俺は激しく動揺した。そして悟った。俺は、次の街への入り口は迷宮の中にある物だと思い探し回っていたが、テビ―は広場のモニュメントを気にしていた。あの刻まれた言葉、『力の裏側を我に唱えよ。されば扉は開かん。』を反芻する。
力…力さえあれば他人に舐められない。カモにされない。尊敬すらされる。その裏側?裏ってなんだ?テビ―はこの答えを本当に解いたのか?そもそも言葉を発するだけで作動する扉って何だ?滅茶苦茶じゃないか。
「力の裏側は…弱い?違うのか、知識…くそっ、じゃあやられた方は悲しいからそれは違うのか?技とかどうだ?くそっ、何故反応しない!只の石に話し掛けている俺が馬鹿みたいじゃ無いか!」
怒りに任せ、モニュメントを殴ると拳の皮が剥け血が流れ出た。
モニュメントには当然傷一つ付いていない。ただ、俺が痛い目にあっただけ。
「くそっ。力が欲しい。この糞見たいな世界全てを俺が思う理想に変えるだけの力があれば…」
そんな言葉が口に付く。だが同時に思う。世界を変えて如何する?
力を持つ者側から見れば、寧ろ糞なのは此方、体制転覆を企む者は死罪に値する。
不平等?
否、むしろ平等な世の中など幻だ。力が不平等を産み、不均衡が力を産む。
「力を産む根源は不均衡…だがその裏側は、裏側いや裏地は均衡、それが答えだ…」
輝き出す手のひらを見つめながら俺は、それが本当の答えなのか、ぼんやりと考えて居た。




