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シルバライ  作者: ゴスマ
一つの終わり
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第三話:喪失


「拙いよ、クリオ。やり過ぎると自警団が…」


自警団とはこの無秩序な街の住人達の中から有志が集まり作った組織で、主に殺人やアイテム泥棒を働いた重罪人を捉え、檻に入れる集団だ。


「大丈夫だ。怪我をさせた位じゃ奴らは動きゃしないさ。」


「でも、ほら、アイテムを取られたって嘘つかれるかも...」


この街でアイテム泥棒は重罪だ。だからこそ、気に入らない相手を陥れる為にアイテムを盗まれたと嘘偽りを申し立てる者も中には居る。その為、アイテム泥棒に関しては申し立てた側も一緒に牢屋に入る規則があるくらいだ。勿論、本当にアイテムが盗まれたのだと確認できれば取り返したアイテムと一緒に牢屋から出して貰えるが、相手が自白しなかったり既に売られていて証拠が乏しかったりと中々難しいという噂がある。


「ちっ。二度と近寄ってくるんじゃねーぞ!」


忠告が聞いたのかクリオは不良の腕を離し、足早に移動を始める。


「ねえ、クリオ。怒っているの?」


鼻息の荒い背中へ必死に語り掛ける。


無言だったが、暫くするとクリオは突然くるりと振り返った。


「なあ、俺達そろそろ次の街に行かないか?」


クリオの予想では、迷宮内に有る下へ降りる縦穴のどれかが次の街に繋がっているのだという。


これまで幾つもの縦穴を降りたが、何れも行き止まりで灯りも無かった。もしロープが切れればそこで飢え死にするしかない危険な作業だ。


「絶対何処かに出口がある。なぜなら…」


「クリオの恩人が街から消えたからでしょう?何度も聞いたよ、その話。」


クリオの恩人は1カ月ほどこの街でクリオと行動を共にした後、笑ったこう言ったそうだ。


『クリオ、俺は扉の鍵を見つけたから先に行く。お前も頑張って追い付いてこい。』


鍵..鍵を見つけた。まるで扉は初めから見つけていた様な言い草だ。だがこの街の扉で出口と呼ばれる物は無い。街を丹念に調べたので間違いない。


「若しかすると、鍵を持って居ないと縦穴の先へは進めないのかも知れない。鍵、鍵って何だろうな?ドロップする?もしそうだとしたら、最近の俺達の運の良さが助けてくれるかも知れないよな?」


確かに運が良い。運が3割向上する効果が付いた金の指輪を拾ってから、実に良い品を拾い続けた。中には運が+10される物や、運が1割向上する物なども含まれていたため、それらを装備した今の俺は可成り運が良いのだと想像する。まあ、初期値が分からないので比較の仕様も無いのだが体感では徐々にドロップ品のお宝率が上がっている様に感じていた。


そうして、とうとう俺達は始めて、宝石で出来た指輪を拾う事になる。


「まじか、翡翠の指輪。始めて見た。」


クリオは其れを扉の鍵だと認識した様だ。


「なあ、トビー。これが有れば次の街に行けるんじゃ無いのか?」


確かに最高峰と言われるお宝をゲットしたのだ。これ以上此処にいる必要が和らいだとも言える。力も付いた。アイテムを比較的に運向きに振っている俺でさえ今や片足でクリケットの群れをあしらえる。クリオなど片手だ。


その日、二人は街に戻って鑑定もせずにそのまま迷宮を探索し続けた。幾つもの縦穴を探り丸1日が過ぎた所で飢えと渇きに耐えられず外へ出る。久しぶりの地上、夕暮れの風が涼しくモニュメント脇にある無料水飲み場で馬の様に水を喉へかき込むと大の字になって寝転んだ。


「はあ、はあ、こんな所を襲われたら面白くもねえがもう体力が厳しい。倒れる前に俺ちょっと飯買って来るから、トビーお前はお宝を持ってその辺の草むらにも隠れてろ?」


「分かった…そうする。」


大事な翡翠の指輪。落とさない様に指に嵌めると握り拳を作り、上から隠す様に反対の手を重ねる。


そうして人通りの少ないモニュメント前に立つと、正面に刻まれた文字を読んだ。


此処へ来てから何度も読んだ文字は既に頭の中にすっかり記憶されている。


『力の裏側を我に唱えよ。されば扉は開かん。』


俺はこのモニュメントが扉なのでは?と勘ぐっていた。


なのでこれまで何度も迷宮から帰って来ると此処でモニュメントに向かって言葉を掛けていた。今日はこの翡翠の指輪を持って居る。若しかしてこれが鍵なら扉が開くかもしれない。そうしたら、戻って来たクリオと二人で次の街へ行こう。しっかり者のクリオと一緒なら何処へ行っても平気だ。


「開け。オープン。リフタッシュ。うーん…やっぱこの『力の裏側』って奴を解かないと駄目なのかなあ~」


力の裏側。力の反対に位置する物?弱い、非力、弱者…


「子供?お年寄り?怪我人、病人、死人?うーん、裏側って何だろう…」


此処に来たころは無力だったが良品のドロップを身に着ける事で力が増し、今ではその辺を歩く大人に負けない力を手に入れた。毎日コツコツ作業を熟し積み上げた力…まるでお小遣いをコツコツ貯めて欲しかった物が買える様になった時の様な高揚感がある。


「お小遣い?何だっけ?」


最近は時々この様に全く知らない言葉が頭に浮かんで来る事がある。もしかすると徐々に記憶が戻ろうとしている兆候なのかも知れないと期待していたりした。


「そうだ、お金の事だ。お金。」


お小遣いとは目上の人から頂くお金の事だった。


思い出した言葉の意味を噛みしめていると、徐々に周りが明るくなって来た。


キョロキョロと当たりを見渡すが、数少ない通行人達は全く気付かない様子で歩いている。


この感じ、前にも…



瞬きの後は雑踏の中で座り込んでいた。右手は握ったままで左手が右こぶしを隠す様に添えたまま。空を見上げて涙が溢れる。黄色い空、見慣れぬ街角、道行く男達は皆カーボーイハットにマント姿でマントの中の武器がマントをひょっこり盛り上げている。


「如何しよう。クリオ。どうしよう。」


又一人になってしまった。



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