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シルバライ  作者: ゴスマ
収束へ向かって
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第二十九話:要塞都市ビギン

 ここは…どこだ?


 雑踏の中立ち尽くす俺。


「よう、僕ちゃん。どうしたんだい?迷子かい?時々居るんだよねぇ君みたいな子。お兄さんが色々教えてあげるよ。」


 頭の上半分が真っ白な霧に覆われ、何も分からない。


「さあさあ、こっちに来い。名前は?」


 名前?な、ま、え。


「ヘブン…ナイ…」


 思わずそんな言葉が口に付いた。


「そうかい、変わった名前だな?じゃあ、ヘブンナイ。金目の物を全部出すんだ。俺が食べ物を買って来てやる。」


 後で考えると不思議な事に、思考が全くと言って良いほど機能しなかった。


 俺は木偶の様に言われるまま全て男に渡す。


「おうおう、指輪がこんなに。これは原石か?あと何だ、これ?」


 そう言って男が俺のカードをポイっと投げ捨てたなので、反射的にそれを拾い胸ポケットに仕舞うと、男は俺のチョッキを脱がせ、ご丁寧にもう一度カードを投げ捨てた。


 道端に落ちたカード。何に使うのかは分からないが、拾いたくなる。


 屈んで手を伸ばしている間に男は走り去った。


 俺は屈んだ序に其処に座り続けた。


 遠巻きに、気の毒そうに俺を見ていた民衆は居なくなり、夜になる。


 徐々に思考力が戻って来るに連れ、自分の仕出かした大失敗に心が黒い渦を巻く。


 あの指輪達は俺が…誰と?いや、誰か大切な人と得た大事な物だ。だが、誰だ?思い出せない。ここまで出かかっているのに、出て来ない。


 冷え込む夜に身じろぎしながら、浅い睡眠を繰り返す。夢の中で大事な事を思い出したと思うと目が覚めて、何の夢だったかが思い出せない。


 朝になって、俺の脚は自然と祈祷所へ向かう。


 素手、未成年、一人。


 流石に祈祷所の受付も迷宮への入場を拒否した。だが、俺は強引に駆け抜ける。


 カブットが居た。


 何故俺は魔物の名前を覚えて居る?自分自身の事は何も分からないのに?


 知らず知らずの内に俺は笑っていたらしい。


 笑い声が迷宮の通路に木霊し、カブットの死骸が累々と続く。


 時々ドロップ品を拾う。指輪だ。だが失った指輪程の価値はきっと無い。


 無い?無い、無い。何故か聞き覚えがある。


 だが、分からない。


 目に入るすべてが恐ろしい。恐ろしいのに笑いが止まらない。


 手あたり次第魔物を殺した。気が付くと両腕が光っていた。


 何故俺に、こんな力が有るのだろう?


 疑問を覚えた瞬間、手から光が消え失せる。


 そこからは地獄だった。先ほど迄、千切っては投げ千切っては投げを繰り返していた俺の攻撃は、まるで柔らかいバナナに変わったとでも言わんばかりに、全く意味をなさず逃げ惑うのみ。笑い顔は叩きつけれられ、無様に歪み、死に物狂いで逃げた。


 気が付くと、モニュメントの前で乱れた息を半屈みで整えていた。


 良く戻って来れた物だ。


記憶の鍵が開く日迄、死んで堪るか。


 懐に残って居た指輪を売って、武器を買う。

 

 手の光は切れかけた電球の様だった。当てにしない方が良い、その怪我が少ないからだ。


そしてひと月が経った。


 実入りは有っても少なく、貯えは無い。だが、少しづつ強くなって来ている感触はあった。


 そして黒チョキの妙な男に遭った。そいつは目を細めて俺に尋ねる。何かを探ろうとする狡猾な目つきだ。


「よう、お前俺の事を覚えて居るか?」


「知らねーよ。会ったかも知れんが昔の事は何も覚えて居ねーんだ。」


「そうか…なら、クレジットはどうだ?」


 そういって黒チョッキは四角い板を出す。俺も慌ててポケットから、何か分からない板を出す。すると男はニッと笑った。


「良いか、お前はトラベラーだ。そして、運の悪い事に記憶を失った。困っているだろう?同じトラベラーのよしみだ、お間のクレジットをくれたら代わりに飯をタンマリ食わせてやろう。何、10秒程その板を貸してくれれば良いだけだ。どうだ?」


 一にも、二にも俺は頷く。役に立たない板を貸すだけで飯が食えるなんて詐欺じゃないだろうか?


 だが、男は約束通り飯をたらふく食わせてくれた。それどころか、翌日もその翌日も何、何処からともなくふらりと合わられては俺に飯を奢ってくれた。正直、物凄く感謝した。いつか借りを返そうと心に誓った。


 男がフラリと居なくなるまでの1カ月程の間だったが、飯の心配が無くなった事で探索にも身が入る。


彼が居なくなる頃には一人で何とかやりくり出来る様になっていた。毎日一人で迷宮で戦った。声を掛けられても他の誰も信用しなかった。


 そんなある日、記憶喪失者を狙った詐欺師と、正に騙される寸前の少年を見た。詐欺師は多い。年下だと思われるその少年には一目で親近感が湧いた。


 騙されそうになった彼の手を取り、救い出す。彼は俺の名をく。俺は偽名を名乗った。今度はすっと名前を考える事が出来た。


「クリオだ。大丈夫、通り名だから。お間の事はテビ―って呼ぶことにする。来い、テビ―。飯の稼ぎ方を教えてやる。」

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