第二十八話:ケモ
翌日、ちゃっかり祈祷所の列に並ぶリンカに俺は、可成り手加減をした拳骨を落とした。
しかし、どうしても3階までは付いて行くと言って聞かない。家の借金を返す為に少しでも分け前を得ようと必死だ。
今日は最悪9階で1泊出来る様に荷物が多い。いつにも増して此奴の相手はしていられなかった。
仕方が無く、リンカの額にスキルカードを突き刺し、力を嵩増しすると即席のポーターを作り上げた。
だが、3階で一人引き返す段階になって、又もやリンカがごね始めた。武器が無いと一人で帰れないというのだ。
一度借りパクされているので、コイツが一人になる時に武器を貸すのは御免である。
仕方が無いので、地下1階まで一緒に戻り、松明に触る様言った。
やっかい者が居なくなったので、俺とケモは凄まじいスピードで迷宮を降り始めた。
9階で、下へ降りる階段の前で休憩を取る。とは言ってもロボットのケモは実際疲れ知らずだったので、見張ってて貰い一人休憩させて貰った。
十分休み、俺達は探索を再開する。
最下層の10階は、やはり異常な魔物密度で倒しても倒しても敵が出て来る。
戦いの最中にドロップ品を拾うのは、中々アクロバティックな行動だが、それも徐々に慣れて来た。魔断の連投による頭痛と全身の倦怠感で倒れそうになった頃、最深部のコアが見えて来た。
迷宮のコア。5m大の黒い球体型をしたこの物体は岩石か金属の様に固いが実は1日に数センチメートルづつ移動している。地面を食らう魔物だと噂されるこのコアを以前討伐しようとした者が居たが余りの固さに手も足も出なかったらしい。
しかも、もし此奴を倒した場合だが迷宮から魔物が居なくなるという。
一説によると、この魔物が地中に含まれる魔力を迷宮内に供給する事によって魔物が生まれるのだ。
「で、態々ここまで来たのは、此奴を倒す為なのですか?」
ケモは短槍を握り直して、そう聞いて来た。
「いや、違うよ。レインボーヒーローデーモンにまた会えるかなって思って。一番奥を目指しただけさ。もう帰ろう。因みにケモは何故迷宮に潜る?だって飯も睡眠も必要ないんだろう?」
すると、ケモは突然擬態を解き、銀色のアンドロイド姿に戻った。
どういう仕組みか体は大きくなるので、折角の服が破れてしまい、ケモは垂れ下がった服をビリビリと体から取ってしまった。
「ふう~。擬態にはエネルギーを使いますから。少しここで補給させて下さい。」
ん?補給するのか?否、魔石のエネルギーって補給できるのか?
「若しかして、」
「はい、私が迷宮に潜るのはエネルギーを補給する為です。まあ、魔物と戦闘になるとエネルギーを使うので、積極的に狩りはしませんが。」
「じゃあ、何で俺達の仲間になったんだ?狩り目的だって申告していたと思うが?」
ケモは胡坐をかいてリラックスした様子で答えた。
「一回、スキルカードを使って見たかったんです。私は余り戦闘をしないので、拾った事が無かったのです。」
そう言えば最初の方、低位のスキルカードをじっと見て居たので使って良いと言って渡すと大喜びしていた事を思い出す。
「で、スキルは付いたのか?」
「はい、予想通りと言うか、駄目でした。きっと、生き物で無いと駄目なのでしょう。」
それは残念だった。だが話を纏めると、もうパーティーにいる必要性が無いという事には成らないか?
「パーティー抜けるのか?」
「いいえ、リンカさんと続けて行こうと思います。あの人、誰か居ないと無茶して死んじゃいそうなので。」
「何だ、俺は蚊帳の外か。」
「いえ、テビ―さんは…一か所に落ち着く感じの人では無さそうですので。」
正解だ。そろそろ金も溜まった事だし、武器の街へ戻るルートを模索しようと考えて居た。勿論その時はリンカは置いて行く積りだったから、先ほどケモがリンカの面倒を見てくれると言った時は飛び上がりそうな程嬉しかった。
街に戻ると、早速荷物を纏めてペタ君に背負わせる。荷物運びが好きらしくて、俺が持って居る物は全て持ちたがる。最近で街中では武器も荷物袋に入れて持たせていた。危なく無いかって?大丈夫、今では斬鉄のスキルで手とうを放てばブロック壁でも一太刀である。
さて、この子をアップグレードするというのも魅力的だが、先ずは先に武器の街。
何も無い街の広場にて立ち止まる、ペタ君の短い手と手を繋ぐと、武器の街を思い浮かべた。ルルの顔が思い浮かび、続いて凛々しく成人したクリオとルルの結婚式の様が浮かんで来る。
戻れるのだろうか?実は暫くモニュメント見ていなかった。トラベラーサービスを利用していたからなのだが、そもそも広場にモニュメントが無かったのだ。
鞄マークの店を訪ね、奥の部屋へ案内される。
移動特有の輝きが収まった時、そこは屋外だった。掴んでいた筈の腕は無く、俺は又一人に逆戻りとなり、愛刀達をペタ君の持つ荷物袋に纏めていた事を死ぬほど後悔した。一瞬心が折れそうになる。だが、何処か見覚えのある風景にはっとする。
要塞都市ビギナだ!
焦る気持ちで広場へ向かうが、やたら道が長く感じて上手く走れない。
居た!
俺は懐かしいクリオの姿を見つけて走り出す。
記憶より少し童顔に見えるが、それは俺が成長した証拠、ペタ君や愛刀を失った悲しみなど吹き飛んでいた。
「クリオ!」
大きく開いたクリオの瞳孔と目が合った。その瞬間、世界が真っ白な霧に覆われた。




