第二十七話:最下層
私の名前はカトリーナ。ナインの街で祈祷所のパーティー斡旋所に勤めている。
仕事は楽勝、というかお客さんなんて居ない。毎日座ってお茶を飲み、雑誌を眺めているだけでお金が貰える。でも実の所、コネで雇って貰ったの。
祈祷所の所長が私のパトロン。
彼の名はパッゲー。廊下で私を見つけると歩み寄り、壁際の死角から伸びて来た手がお尻を撫でて来た。
「カトリーナ、聞いたぞ?今日、あの銀色の問題児をよそ者に押し付けてくれたらしいな。お前は優秀な受付だ。斡旋所を利用する様なはみ出し者は、どんどん纏めてしまえ。碌な連携も取れずに纏めてクタバレば良い。」
「うふふ、」
ご機嫌ね、お給料上げてくれないかしら?
◆
白銀の閃光。なんて呼びづらいので、新しくメンバーになった自立型ゴーレムさんのお名前はケモとなった。擬態がケモ耳少女だったからだ。
迷宮の明るい通路を三人で歩く。リンカは未だ反対しているが、これは決定だ。
薄暗いB2に到達した。暫く行くと早速ヒーローデーモンに出くわした。
黄色だ。力でごり押ししてくるタイプ。
「ケモ、最初だけ一人で相手して見てくれないか?実力を見たい。」
「承知。」
武器は短槍。柄も金属の重い武器だ。ボリュームのある尻尾を揺らしながら、ケモ耳少女は突進する。尾っぽにボリュームが有って良かった。何せミニスカートで来やがったからな、このロボット。
最初の迎合でヒーローデーモンのスーツに3つ穴が開いた。
うむ、スピードもパワーも申し分ない。用紙に書かれていた、一人でヒーローデーモン討伐経験有りというのは本物だ。だが、分からない。なぜ、それ程の実力があるのにパーティーを欲する?
「参戦する。いつも通り、リンカは待って居ろ。」
「ちょっと、一人にしないでよ。あと、剣を貸して。」
渋々、ごっちゃん刀を渡し、カバ丸を抜いてスキル斬魔を発動して斬り込んだ。
派手な音を立てて黄色いデーモンが真っ二つになった。
「凄まじい力ですね…」
ケモが驚いた。内心俺も驚いた。前回レインボーヒーローデーモンには此処迄威力を発しなかったので、斬魔の力を見誤っていた。
「これなら、私とパーティーを組む必要など無かったのでは?」
ケモはそう言うが、俺には足手纏いがいて、狩りの効率が上がらないのだ。
「いや、不意打ちとか遭う事を考えると戦える仲間が一人居るのと居ないのとでは大違いだ。」
そう言ってからリンカを振り返ると、腰元で小さく手を振ってきた。全く。嫌味の通じない奴だ。
順調に階を重ね、俺が殆ど止めを刺した為、高確率でスキルカードも拾えた。
最初は両耳を立てて驚いていたケモも段々慣れて来て最後は片耳をぺこりとお辞儀する程度。
その日から俺達の快進撃が始まった。
◆
B5階より先はヒーローデーモン達が高確率で徒党を組む様になる。
彼らは互いをフォローし、立ち向かって来るので1+1が3になり、3匹、4匹徒党を組むとまるで10匹近くを相手している様な錯覚に陥る。
とは言え、4匹以上のグループはB9以降で無いと出くわさない。
そしてB8以降は俺達以外の探索者は居ない。
つまり、俺達が最前線。
なのだが…
「きゃー、こっち来ないで!あっち、あっち、あっちけー!」
腰の入って居ないリンカの一振りはあっさりとグリーンヒーローデーモンに躱された。
その広い緑の背中は俺の放った斬魔で真っ二つに切り裂かれ、噴き出した体液が頭からリンカに降り注ぐ。
群青色の粘液を被ったリンカが顔を拭うと、白くて健康的な頬が現れた。
「リンカ、これ以上は危険だ。今日は此処までしよう。そして明日からお前は宿で待って居ろ。」
「そうです。リンカさん。死にますよ?」
俺達に責められると、リンカは借り物の剣を抱きしめて嫌がる。
「厭よ!待ってたら分け前貰えないじゃない。」
それは仕方が無いだろう?不労所得なんて本人の為にならない。
「今までの分け前で、もう借金は返せたんじゃ無いのか?」
「こないだ家を買ったから又増えたの!私の夢を奪わないでー!」
溜息がでる。とんだ貧乏神だ。
「今日は10階まで降りるからな?死んでも文句言うなよ?」
そう釘を刺して先に進む。
だが、10階はモンスターハウス並みに敵で溢れていた。
直ぐに撤退して9階に戻ってくると、引き返す。あれは、リンカ連れては絶対無理だ。
その夜、俺はリンカに翌日の留守番を言いつけた。
流石に10階で死の恐怖を感じたのだろう、リンカも今度は大人しく頷いた。




