第二十五話:リンカ
随分腹を立てて店を出たと思う。
暫くすると後ろから足音が付いて来る事に気が付いた。
「えっ?君はたしか、リンカ。」
呼ばれた少女は、ばつの悪そうな顔で目線を逸らした。
「何の用?」
冷たく問い正すとモジモジしながら上目目線で嘆願して来た。
「あのー、私一文無しで、野宿する他無くて、お腹も空いちゃって倒れそうで…」
つまり?何が言いたいのか?そういう視線で凝視すると、耐え切れなかった様子で急に早口になった。
「ごめんなさい!もう二度とあんな事しません。気が付いたらこの街に居て、誰も頼れなくて、迷宮で亡くなった探索者と偶々遭遇して、剣を持って帰ったらお金になったから味を占めちゃって。本当に反省してます。何でも言う事を聞きます。だから、貴方のパーティーに入れて下さい!」
ホワイ?何故?論理が破城している。前半部分は分かる。俺も飛ばされた時最初はどうして良いか分からなかった。クリオは騙されて奴隷にされたと聞くし、突然飛ばされて途方に暮れた事は共感できる。しかし、なぜ盗んだ相手にパーティーを申し込む?
「何故俺が君とパーティーを組む義理が?」
「勿論義理何て無いわ、でもお願い。お腹が減って死にそうなの!」
よく見ると、リンカの腕は不自然に痩せていた。首元に目を移せば鎖骨が浮かび上がっている。腹が空いたからといって犯罪を犯して良い訳では無い。店の手伝いとか住み込みで働ける飲食店を探すとか、他に出来る事があったかも知れない。
「これから悪い事しないと誓うなら飯を食わせてやる。」
「有難う!」
こうして、不本意ながらスキルの街ナイにて、俺はリンカを仲間にした。
◆
リンカを連れて宿へ戻ると主人が大喜びでゴーレムマーモットの事を褒めてくれた。
なんでも掃除や給仕を手伝ってくれて大変助かったのだそうだ。
お礼に宿代を半分にしてくれるという。助かるが、リンカの部屋を追加で予約したのでトータルで支出は増えた。
仲間にしたリンカだが、一言で言えば探索者向きではなかった。
しかし、昔の相棒だったルルも最初はそうだった事を思い出す。
そして俺はリンカに経験を積ませるべく、今日も俺は迷宮へ足を運ぶ。
薄暗い2階に降りた所で、昨日取り戻したばかりの愛刀を差し出すと、リンカは目を潤ませた。
「くれるの?」
「馬鹿!貸すだけだ。逃げたら又ロープで捕まえて、今度は川に捨てるからな?」
これくらい脅しておかないと、信用できないからな。
剛力と硬皮と併用しながら、断鉄を発動させる。
随分慣れては来た物の、やはり未だ眩暈が酷い。
仕方が無いこれも修行の一環だ。ヒーローデーモンを数体狩るとカードを回収した。
1枚目の魔法カードに続き、2枚は非魔法カードだった。今日は簡易鑑定道具を買って来たので一旦鑑定する事にした。
「結界魔法と…斬鉄…だと?」
開始早々1000万クレジットを手に入れた。
だが、少し考える。俺が持つ斬鉄のスキル、これはカードから手に入れた物だ。
例えばの話、これをもう一度使うとどうなるんだろう?
勿論、常識的に考えれば何も起こらないに決まっている。そして俺は1000万クレジットを失うだろう。バカな思い付きの所為で。
カードを額に押し込むと斬鉄スキルの概要が復習の様に脳内に広がる。
『スキル斬魔』
突然その言葉が浮かんできた。魔を斬る。どういう意味が試して見よう。
次の遭遇は変わった色、というか初めて見るレインボーのヒーローデーモンだった。
抗うリンカからごっちゃん刀を奪い返すと一刀打ち込む。しかし、七色に輝くヒーロースーツは斬鉄の効果を跳ね返した。
今度は剣をカバ丸に戻し、斬魔を発動して打ち込むと、ダメージが入る。
攻撃をされて驚いたのか、背中を向けて逃げ出そうとしたデーモンを投げロープで絡めとると、頭蓋骨に剣先を残魔を込めて突き刺した。
ドロップしたのはこれまた見た事も無いレインボカード。
鑑定したが不能と出た。
仕方が無い、持って帰るか。




