第二十四話:キルトレイン女
何体かヒーローデーモンを倒すと、カードを入手する。
その時前方で探索者同士が言い争う声がした。
こっそり近づいて見ると3人組の冒険者が黄色とピンクのヒーローデーモン2匹と争っていた。
ヒーローデーモンは単独行動を好むはず、珍しい事もある物だと思いながら目を凝らすと、口汚くののしり合っている一人に見覚えがある。
「あの盗人、大金手に入れたっていうのにまだキルトレインやっているのか。呆れた奴だ。」
そんな言葉が思わず口にでたが、そのまま成り行きを見守って居た。暫くすると泥棒女が一人逃げ出しこっちへ走って来た。
「ふんっ!」
物凄いダッシュ力で隣を通り過ぎようとした泥棒に気合と共に光のロープを投げつけ、体を絡めとる。
「何すんのよっ!げっ、アンタ!」
離せ離せと煩い女をその場に放置して、苦戦している探索者の助太刀に入る。
男二人組はそれぞれ防御と攻撃を分担しているらしく、片方は盾で防戦一方、剣を持ったもう一人は時々反撃をする物の皮を突き破れず、殴られ放題といった状態だ。
「手を貸すぞ?良いか?」
「おおっ、助かる。戦っていたらキルトレインされてしまったんだ。」
盾持ちが答えた。
「知ってる、俺もやられた口だ。硬皮!」
ピンクの蹴りを硬化させた左腕で受けると、右手に斬鉄を起動する。
一瞬目の前がクラっとしたが、そのままピンクの胴をかっ捌く。
すると盾持ちは苦戦している相棒の守りに入る。一息ついた剣士は体勢を立て直し、盾役の後ろから振りかぶって斬りつけた。今度はすこしダメージが入った様だ。しかしこの調子では一体倒すのにどれだけ長期戦になるやら。
「悪いが急いでいる。黄色いのもやる。」
そう断って二人の前に割って入ると、硬皮を解き剛力を発動させた。又もや眩暈に襲われ、歯を食いしばって剣を突き出すと、その効果は凄まじく、黄色いスーツが衝撃で爆散してビリビリになる。
2体目からはカードがドロップした。
「そいつはアンタらの取り分で良い。但し、あの悪い女は俺が貰う。」
冒険者達は喜んで取引に応じてくれた。紫色のカードだったから100万で売れるだろうし、200万クレジットあれば1枚で二人が1カ月暮らしていけるだろう。
女の所に戻るとロープから逃げ出そうと未だ藻掻いていた。
「俺の名はテビ―、お前は?」
「くそっ、なにさ。名前はリンカよ。この縄を解きなさいよ、」
しゃがみ込み、女の顔を覗き込む。
可愛い顔しているんだけどなあ~。行動が糞過ぎる。
「俺の愛刀売ってくれただろう?買い戻すから金寄こせ?」
「いやよっ!」
「断れる立場か!?」
リンカを縛ったまま昨日の武器屋へ連れて行くと、盗品の返品を求めるが強欲な店主は応じなかった。
「盗品だろうがこれはもう、うちの商品だ。欲しけりゃ1億クレジット出しな。」
「じゃあ自警団を呼ぶが良いのか?下手したら没収された上に、盗品を売りさばいた罪で掴まって営業できなくなるぞ?」
「ふんっ!ヒヨッコ共に何が出来るか。」
1億と聞いてリンカが口をアングリ開けていた。こいつ、余程買い叩かれたな?本当に間抜けな盗人だ。
その後、自警団を二人連れて再訪した。
店主の言う通り、自警団は及び腰だった。というのも、街のルールでは確かに盗品を売り買いすることは罪に問われるのだが、証言以外に証明方法が無いためいつも決め手に欠けるのだという。
「まず、リンカ。お前本当に剣を盗んだのか?」
「盗んで無いわ。」
そう、こいつも罪から逃れようと平気で嘘を付く。
「俺は盗まれたと主張する。」
「では、店主に聞く。この男が盗まれたと主張するその剣だが、リンカから買った。間違いないな?」
「ああ、5千万クレジットで買った。」
「嘘よっ!2千万クレジットしか貰って無いわ。」
自警団の男は口髭を弄りながら店主をぐっと睨みつける。
「アルフレッドさん。クレジットの取引記録は照会すれば分かるんですよ?」
店主は嫌そうに小さく「2千万だったかもな」と言い直した。
「リンカ、この剣はどうやって手に入れた。」
「迷宮で宝箱を空けたら出て来たのよ。」
「宝箱?そんなもん迷信じゃないのか?」
宝箱というおとぎ話は探索者達の間で語り継がれるが、実際に見たという人間に会った事が無い。
自警団の男達には手詰まり感が漂い始めていた。なので、少し手助けをしてやる。
「宝箱から出たという事は、リンカ曰く面識の無い俺はその剣の事を何も知らないという事で良いんだな?リンカ。」
縛られたリンカは答えず睨みつけて来た。無言を肯定と捉えると更に畳みかける。
「じゃあ、自警団の方々。その剣の柄の中に彫り込みが有ります。因みにリンカ、何て書いてあるか分かるか?」
「えっ彫り込み?何だったか~?」
とボケやがって。
俺は紙と鉛筆を借りてサラサラと文字を書き、二つ折りにして自警団に渡す。
そして店主に柄の持ち手を抜く様に言った。
「ほう、確かに掘り込みがあるな。何々」「あっ読み上げないで自警団の人にだけ見せて下さい。」
それを見た自警団の髭の方は満足そうに頷く。
俺はまた紙と鉛筆を借りて今度は2枚に文字を書く。
「リンカ、お前がどうしても盗んでいないと主張するなら、あの中に書いてある言葉を選んで見ろ。」
紙には「斬鉄」「正義」と書いてある。
リンカは恐る恐る左側の紙を指差した。すると自警団の男が首を横に振る。
「ちょっと、同じ2文字だから間違っただけ。本当はこっち、右側よ!」
もう一人の自警団がリンカの腕を掴み縄を廻し始めた。リンカは泣きべそを書き始める。
「リンカ、今罪を認めれば被害届は出さないでやってもいいんだぞ?」
俺がそういうと、リンカは飛びついて来た。
「本当?!認める、認めます。私この人から剣を盗んでここで売りました。あの剣です。」
自警団の男が俺を見るので頷いてやった。
「じゃあ、アルフレッドさんも良いですね。2千万クレジットでその剣をリンカに返して、リンカがテビーさんに剣を返し、テビ―さんは被害届を出さない。」
だが、支払いで又問題が発生した。リンカの残りクレジットが1千万ちょっとしか残って居なかったのだ。
「高利貸しに返したのよ。仕方が無いでしょ。」
本当にだらしのない女だ。仕方が無いので残り1千万は俺が払うと、店主は手放すお宝を抱きしめて名残惜しんでいた。
俺は光量を落とす様に調整して魔力を込め空気の様に半透明になった魔法のロープを投げごっちゃん丸を奪い取ると、驚き顔の店主に捨て台詞を進呈する。
「こうやっていつでも取り返せたんだよ。でも、したら盗まれたってまた煩いでしょ?大体2千万で買った物を1億で売るって、盗品だと分かっていて買い叩いている。次こんな事を見かけたら容赦しませんよ?」




