第二十二話:ヒーローデーモン
初めてスキルカードをゲットした。
絵柄は稲妻と剣。もしや剣先から稲妻を発するスキルカードかと心が躍り、さっそく使って見た。
使い方は簡単だ、スキルカードを自分の額に押し込めば良い。
カードが額に吸い込まれ消えると、俺は獲得したスキルの名前を知る。
「斬鉄って、ごっちゃん刀と被っちゃってるじゃないか!」
がっかりした。
しかし、気を取り直して先を進むと前方から悲鳴が聞こえて来た。
女性の声だ、目を凝らすと折れた細剣を手に逃走する一人の探索者が近づいて来る。
追って居るのは青色のヒーローデーモン。
しぶしぶだが、腰を落として居合に構える。
「ごめーん!わざとじゃ無いから許して~!」
モンスターを引き連れて他のパーティーを巻き込むのは違法行為とされている。
パーティーと言えばこの女、ソロという事は無いだろう。他のパーティーメンバーはどうした?
乳を揺らし若い女探索者が通り過ぎた。直後、俺は目を見開きコンマ数秒の早業で刀を抜く。
「へぁっ!」
奇妙な掛け声、だが魔物の胴を真っ二つにぶった切る。
振り返った女は魔物が倒されたと知ると、急にしなを作りながら駆け寄って来た。
「有難う~。助けてくれて。仲間と逸れちゃって武器も折れちゃって。お願いっ、戻るまで一緒に居させて!」
厚かましい女だ。
俺は無視して歩きはじめる。
ヒーロースーツが破け、紫色の肌が露出した魔物の死体は沸々と黒い蒸気の泡と化し始めていた。
数秒、近くで立ち止まり、完全に消えるのを待つ。
残されたのは、やはりカード。頭に差すと効能が脳にダウンロードされた。
暗視
真っ暗な迷宮などで会った事が無いが、このスキルがあれば薄暗い場所でもスムースな戦闘が可能になる。
迷わずカードを使ったが、そう言えば取得できるスキル数に上限が無いのか気に成り始めた。
「おい、デストレイン女。」
デストレインとはモンスターを引き連れて他の探索者を巻き込む違法行為の事である。
呼ばれた女はふてぶてしい態度でそっぽを向く。
此奴、さっき迄こっちを観察していた事に気付いていないとでも思って居るのか?
「スキルの取得に上限はあるのか?教えたら同行を許してやる。」
「はいはいー!あるよ。でも人それぞれだし。一杯になったら捨てれば良いから。」
なに?スキルを捨てる事が出来るのか?それは有用な情報だ。
もう一つ質問しようとして、前方に何か違和感を感じたので早速暗視を起動する。
すると一気に視野が明るくなり洞窟の先が視界に入って来た。
またヒーローデーモン、今度はブルーだ。
確かブルーの放つオーラに触れると気力がマイナスに迄落ち込んで戦闘不能になるのだったか?
懐のレザーベストを探るとダガーがある。
スキル「斬鉄」を発動させ、遠投すると視界がぐらっと大きく揺れた。
「ちょっと、大丈夫?」
女が駆け寄ってくるが、手で制す。
前方ではぐぎゃっという叫びが上がったので攻撃はヒットした様だ。
眩暈の原因は恐らくスキルの多重起動。これは、慣れるまで我慢する他無い。
「少し休みなよ。私が見張っててあげるから。その代わり武器は貸してよね?」
立ち眩みで洞窟の壁に手を付く俺は、仕方なく愛刀を女に手渡す。
「良く切れるから気を付けろ。俺は少し横になる。前方の魔物が落としたカードの回収も頼む。勝手に使うなよ。」
女にくぎを刺して地面に座り込み、そのまま横になると。カードを取りに行く女の足音に耳を澄ました。
足音が戻って来る。
そして出口に向かって遠ざかって行く。
「おい、こら!」
寝そべったまま怒鳴ったが後の祭りである。
「ごめんね~。デストレインするような人間を簡単に信じない方が良いよ~。」
女は、異常な脚力で、よたよたと追いすがる俺をあっという間に引き離し消えてしまった。




