第十四話:希望
二章の始まりです。
転移の光の中で、明るい未来を思い描く。
これから現実で起こるであろう魔物の暴走からクリオとルルを助けられる程強くなる。
そして皆で幸せに暮らすのだ。
だから、目の前に現れた街並みに見覚えが無かったとしても気をしっかり持てた。
何処か陰気で殺伐とした空気が流れている。
高級な表構えをした宿屋の数が多い。ここの迷宮は何を産するのであろうか?
探し当てた安宿で聞くと、ここはフォスの街だという。
カードの交換所の場所を聞き、残高が少なかったがカバ丸刀を預ける事で残高を増やす事が出来た。
そう言えば、モニュメントの文字を確認するのを忘れた。まあ、何時でもチャンスがある。明日の朝一番で迷宮へ行き、何か稼ぎを得なければ質草として刀を取られていまう。
宿は老夫婦だけで切り盛りしていて、若者は居なかった。宿泊客も疎らで、そう言えばここへ来てから若者を見て居ない。
翌日、宿で聞いた通りの道を行き、祈祷所へ辿り着く。
並んでいるのは中年以上のロートルばかりだ。
だが、皆オーラの様な物を纏っている。強そうだ。
順番が来てカードで支払いをすると、美人なおばさんが興味深そうに話しかけて来た。
「あなた位の年でこの街に来るなんて本当に珍しいわ。きっと大変な目にあったのね。」
どういう意味だろう?
「無理しないでね。」
最後まで心配してくれたが、何故?ここの魔物はそんなに強いのか?
ふと気づくと前に入った3人組が立ち止って居た。中年剣士ばかりのパーティーだ。
強盗か?迷宮内での犯罪は少なくはない。
そっと刀に手を掛けた。
すると中央の剣士が両手をあげ、ひらひら手を振る。
「襲うつもりはない。ちょっと頼みたい事があるんだ。」
両脇の剣士も腰に手を当て、攻撃の素振りは無かった。
「さっき並んでいる時にすれば良かったんじゃ無いですか?」
俺の手は柄を握り続ける。
「いやあ、新人に頼んでいるのを聞かれるのも何か恥ずかしくてねえ。」
何が恥ずかしいのだろう?ゆっくりと距離を詰めて来る男達に警戒しつつ、油断なく監視した。
「実は、大人数の方がボスに着きやすいんだ。ゴールドは山分けするから一緒に回ってくれないか?」
男の言葉に思わず首を傾げた。ボスに着く?ゴールド?
余程妙な顔をしたのだろう。男は慌てて付け加えた。
「勿論、最後尾で剣を構えて突いて来てくれるだけで良いから。」
どうやら本当にパーティー人数を増やす事が目的の様だ。
俺は了承すると、抜刀し彼らの後ろに付く。
暫く行くと前方から何やらゲコゲコ聞こえて来た。
石の置物の様だが、岩ガエルとでも言った所の動く魔物達だった。
剣士たちは火花を散らしながら岩ガエルを蹴散らして行くが、驚いた事に霧散した蛙の居た場所には豆粒程の金塊が落ちている。
「出てから山分けするが、心配なら拾って君が持って居てくれたまえ。」
そう言われたので喜んで砂金広いに勤しむ。成るほど、迷宮で金が落ちるなら、あれ程簡単に交換所が金を貸してくれた事にも納得が行く。
我を忘れて金拾いを楽しんでいると、突然周りの気配が消失した。
慌てて金をポケットに仕舞うと、剣を構え直す。
いつの間にか辺りは薄暗く、剣士達は疎か岩ガエルの姿も見えなかった。
ヒタリ、ヒタリと2本脚の何かが地面を歩く音が前方から近づいて来る。
何だ?カブットか?いや、もう一回り大きい。
見た事の無いシルエットに鼓動が早まる。
俺は暗闇から現れた身の丈2mを越す巨人蛙に飛び掛かった。
斬鉄の効果が発揮され、分厚い胴が真っ二つになると突然辺りが明るくなり気が付くとモニュメントの広場に居た。
周囲に剣士達の姿は無い。
まあ、居ない方が砂金を独り占め出来るので嬉しいのだが、次に会った時気まずいのも嫌なので言い訳程度に待つことにした。
その甲斐あって、10分後に一人、その後数分づつ空けて残りの二人とも無事合流する。
「坊主、随分早かったな。すげーじゃないか?」
褒められたがそれ程嬉しくない。
「あの人蛙がボスなの?倒しても何も落ちなかったけど?」
俺、運は良い方なのだが…
「ははは、ここのボスが落とすのは目に見える物じゃあ無い。さっそく道具屋で鑑定しよう。」
男達がそう言うので、道具屋へ行き進められるままに銀色のプレートが3枚吊るされた首飾りを購入する。
「こいつの代金は俺達からの奢りだ。いつもより随分早くボスに会えたしな。そう、首に掛けて、ほら1枚色が変わっただろう?それは力の鑑定プレートだ。」
どういう事だろう?力が増えたのか、しかしそれでは何も反応しない部分は何のステータスなのだろう?いや、それよりも増えた分だけ鑑定なんて無理な筈。
「どういう事?」
「つまり、お前さんは今日ボスに会って其れを倒した。その事によりお前さんの力は何割か、まあその色を見る限り1割って所だが、増えたって事になる。ボスには3種類あって、それぞれ力、スピード、防御力を何割か上げてくれるんだ。」
「そんなバカな。でも若しそれが本当だったら、力の指輪の効果も増える?」
特製ベストの内側には上等な力の指輪が何個も仕舞われている。
「はーはっは。指輪だと?残念ながら指輪には効果が無い。指輪の力に頼るのはひよっこだけだ。猛者になるにはボスを倒して自分の力を何倍にも引き上げるのが王道ってもんよ。だが、気を抜くなよ?不思議な事に出て来るボス共は俺達に合わせてどんどん強くなる。そしてボスとは常に一対一だ。誰かの助けは期待できない。」
「ええっ?じゃあ指輪はここじゃ価値が無いって事?」
「まあ、そういう事だ。雑貨屋でも二束三文だな。そんな物に頼らなくても、ボスに勝ち続けさえすれば直ぐに強くなれるからな。だからこの街は強さに飢えたトラベラーが集まる。まあ、おっさんばかりなのには別の理由があるんだが。」
まさか指輪が無価値になるとは想像もしていなかった。何か困れば力の指輪を一つ売れば良いやと安心していたのが根底から崩れさる。
だが、今日倒したボスのお陰で自分の力が1割上がったと言う。ベースの力が分からないが、この調子で力が上がって行けば指輪の効果が翳んで行くというのも分かる気がした。




