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シルバライ  作者: ゴスマ
一つの終わり
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第十三話:一つの終わり

混乱していた。


突然成人になった、クリオ。それにルルと思われる美女。


俺自身もそうだ。


再会を喜ぶクリオとは真逆にルルはまるで仇でも見る様に睨みつけてくるし、周りの人間は今日が二人の結婚式だと言う。


「でたぞー!戦える者は武器を取れー!」


通りを数人の若者が大声で叫びながら走り抜けていく。


「ちっ、ゆっくり結婚式もさせてくれねーのか。」


「クリオ、行くわよ。特級探索者クリオ&ルルの力を奴達に見せつけてやるわ。」


武器を持ち出す新婦・新郎をダントンと奥さんが引き留めるが、ルルは頑として聞かない。


クリオは二人を宥めながら俺に向かって願った。


「クリオ、ここで二人を守ってくれないか?俺にとっては初めての親ごさんになるんだ。頼む。」


「なあ、奴らって何なんだ?危ないのか?」


状況が飲み込めなかった。


クリオは呆れた様に肩を竦める。


「ルルが先に行っちまった。追いかけないと。ここ数年魔物が迷宮からあふれ出す様になった事も知らないって事は、お前が居た場所はそういう事態にはなって居ないったことなんだな?羨ましい限りだ。」


魔物が?溢れ出す?


そんな話は聞いた事が無い。


いや、急に成人したからここ数年の事は何も分からない。


通りは皆家の扉や窓を閉め切り、武器を持った若者達が礼拝堂の方向へ走って行く。


老ダルトンさん夫妻を中に避難させると中から鍵を掛けさせた。


階段に座った俺は遠くから聞こえる戦いの騒音にぼんやりと耳を傾けていた。


それは徐々に近づくと、ルルがクリオを支えながら戻って来た。


腹を抑えたクリオの傷は、一言で言うと酷かった。


「テビ―、頼みがある。この街はもう駄目だ。ルルと義父母さん達を違う街に連れて行ってやってくれ。トラベラーのお前なら出来る筈だ。」


「厭よ、あなた。絶対に離れないわ。私達もう夫婦なのよ?」


ルルがクリオの胸に顔を埋め号泣するが、クリオの顔色は見る見る内に生気を失って行く。


「アンタよ、アンタが来た所為でクリオが!アンタが死ねば良かったのよ!」


「ルル、それは八つ当たりという物だ。」


ダルトンさんが諭したがルルは半狂乱にクリオの名を叫ぶ。


俺は目の前で息を止めた親友の姿に放心していた。


やっと会えたのに、こんな事ってある?


気が付くとダルトンさんに揺さぶられていた。


「ルルが又戦いに行ってしまった。心配だから私も武器を取る。妻には君と一緒に逃げろと言ったのだが、」


隣で夫人は悲しそうに微笑みながら首を横に振った。


「私はここで夫と娘の帰りを待ちます。テビ―君、貴方は逃げなさい。」


「俺も戦います!」


溢れ出して来た魔物達は普段入り口を屯しているような雑魚では無かった。


全身を黒光りする甲冑に包んだ剣士の中身はスケルトンナイト。


数は20体以上。街の人達が上手く誘導して単体を囲む様に攻撃しているが、負傷者が彼方此方に倒れている。


ルルに追いつき加勢するが脇から別の一体に接近を許してしまう。


「こいつは俺が引き付けます!」


ダルトンさんは頷き、ルルは俺を睨みつけた。


頭上から迫る剣を受け流し胴へ一発攻撃を入れると甲冑に薄く切り込みが入り一瞬敵が動揺した。


「こっちだ!こっちに来い!」


自慢の甲冑に傷を付けた人間を怒り露わに追って来た。


その場から離れると、別の方向からもう一体現れた。


二体を引き連れ街中を逃走する。


何処か戦いやすい場所は無いかと探していると、広場まで来てしまった。


しかも広場にも2体のスケルトンナイトが彷徨っている。一体何体街の中に入ったのだ?


「もう、やるしか無い!」


広場で円を描く様に逃げながら、先頭のスケルトンナイトに斬りかかる。


攻撃を入ると直ぐに逃げ、離れ過ぎず近すぎず距離を保ちながら攻撃を積み重ねる。


もし此奴らの空っぽの頭蓋骨に人の半分も脳みそが入っていたら、こんな戦法は使えなかっただろう。だが、知能が低いこいつ等は馬鹿の一つ覚えみたいに追いかけてくる。


時間は掛かったが4体倒しきった。


流石にへとへとなので座り込む。


傍らの石碑に刻まれた金色の文字が忌々しく感じた。


『我が名を唱えよ。さすれば扉は開かん。』


ことわり。これを強く思えばハッジさんが居る農村へ逃げる事が出来る。


だが、逃げる心算は無い。


この街を守る。クリオの仇を…


突然心の中が真っ暗になる。


クリオが死んだ。俺の希望は消えた、もう終わりだ。何のために生きているのか分からなくなった。


何がことわりだ。ここはくそったれだ。理不尽で、意味も無く、混沌。それが世界のことわりなら、俺はその全てを憎む。


「くそっ!もうこんな世界なんて嫌だ。お前の名前はことわりなんかじゃない。無秩序、冷酷、いや理不尽だ!」



「おやおや、テビ―坊やじゃ無いの?どうしたんだい、そんなに泣いて。うちにいらっしゃいな。旦那も喜ぶわ。」


 ハッジ婦人に手を引かれロムニーさんの家に着く。


 大人用の椅子に昇ると暖かいミルクが入ったコップを引き寄せると、手をじっと見つめる。


 小さい。まだ成長し切っていない少年の手だ。


 俺は戻って来たのか?


 クリオは...今この時は生きている…


 希望が全身を駆け巡る。


 そうだ、未だ生きているに違いない。


 もう一度クリオを探し、そして成人するまでにソードの防御を高め魔物の暴走を食い止めれれば…


「ハッジさん。これ鋏…。俺、大事な用事が出来たから又行くね!」


「あらあら、元気になったみたいで良かったわ。また何時でも戻っていらっしゃいな。」



モニュメントまで戻り、金色の文字を読む。


 『人を人たらしめるものの名を唱えよ。さすれば扉は開かん。』


 光に包まれながらクリオが死なずに済む明るい未来を思い描いていた。



第一章終わり









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