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シルバライ  作者: ゴスマ
一つの終わり
12/15

第十二話:答えの数


「マギーとラナーナは軽装だね?鎧は着ないの?」


そう尋ねるとクリスが噴き出す。


「はっはっはっ。スマンスマン。実はこいつ等特殊な職業で、いや職業柄って訳じゃ無くて体が細くて力が無いから重たいのは無理なんだ。」


「ちょっと、失礼ね。その代わりと言っては何ですけど、私の鞭は音速で敵を捕らえるし、ラナーナの魔法の威力は先ほどご覧の通り。このフォーメーションで危なかった事なんて今まで一回しか、あっ。ごめん。ラナーナ。」


マギーが俯くラナーナに駆け寄るとそっとハグする。


何があったが気に成るが、出会ったばかりだ立ち入り過ぎない方が良いだろう。


その後1階の探索は順調に進み、2時間程で目的の階段へと辿り着く。


出会ったモンスターは全部で6体で、スケルトン兵士が4、足軽コボルトが2だった。


1階は通過するだけと言うパーティーが多い所為で、これでも通り道にしては遭遇数が多かったらしい。


ドロップ品は鈍い銀色をしたネックガードが一つ。大した品でも無いらしく、彼らは出会った記念にとそれを俺にくれた。


彼らが階段を下りるのを見届けた後、身近な松明に触って直ぐ街に戻る。モニュメント前はまだガラガラで誰も未だ迷宮から戻って来て居ない。皆今頃、一生懸命本日の稼ぎを目指して探索中なのだろう。


少しだけ上機嫌で宿へ戻ると昼飯を注文した。


普段、探索者は昼食を迷宮内で取るので、宿屋での昼食は別料金となる。


「はいお待ちどうさま。でもアンタ。昼帰りなんて良いご身分ね。」


宿屋の娘に嫌味をチクリと言われたが、心は目の前の旨そうなハムエッグに奪われていた。


「頂きます!」


一口頬張ると口中に美味しさが広がる。


「このハムすげー旨い。ハッジさんのハムみたいだ。」


「あらそう。気に入って貰って良かったわ、ロムニー牧場っていう割と有名なブランド物よ。」


娘がカードから昼食代を引き落としながら言った言葉に、テビ―が食いついた。


「えっ?ロムニーって言った?オルク村の?」


「ちょっと、何?急に。冷める前に食べちゃってよね。何処の村か迄は知らないわ。でも仕入れのトラベラーさんなら知っていると思う。名前?さあ、お母さんなら知ってるかも、聞いといてあげる。来るのは...多分来週くらいね。」


食堂に掲げてある手書きっぽいカレンダーを見ながら娘は答えると、忙しそうに去って行った。


 これは重要な情報である。


若しかしらドエインさんの事かも知れない。使ったチーズと小麦粉は指輪で返すとして。合流したらもう二度と逸れない様にして、トラベラーの移動方法を良く教えて貰わなくちゃ。


その日から毎昼、宿で昼食を取る。


小麦がドンドン減って行くが、その分朝一で迷宮に入る為に早朝から礼拝堂に並び、どんなに遅くともお昼には戻って来るという生活が始まった。


毎日人の半分の時間だったが、階層も最高で3階層の入り口までだったが、戦果は同じ階層のパーティー達と同じかそれ以上をキープ出来ている。


地下1階では骨兵士の鎧、骨兵士の具足、足軽の胴縁、和装籠手を入手した。


松明が消え発光苔のぼんやりとした灯りが頼りになる地下2階は、ポーション類を落とすヌメヌメした魔物の宝庫で巨大な人サイズのナメクジや蜥蜴、蛇に蛙と女性冒険者が悲鳴を上げそうな魔物ばかり出たが、鈍器が効きずらいナメクジや蛙にもカタナは滑る事無くしっかり断裁してくれた。


ドロップ品は赤瓶(体力回復薬)・青瓶(魔力回復薬)・紫瓶(解毒薬)・白瓶(痛み止め)、と此処までは普通だったが、色違いの巨大蛙を倒した時にピンク色の瓶が出た。

ギルドに持って行って調べて貰うと、珍しい惚れ薬だそうで随分高いポイントを振り込んで貰えた。


そうこうする内にその日がやって来る。


何時もの様に昼食を取って居ると娘が駆け寄って来た。


「来たわよ、例のトラベラーさん。名前分かったら後で教えてね。」


結局、宿屋の女将さんも名前を知らなかったのだが、この世界では余り名前を聞く風習が無いので仕方が無い。


裏口へ回ると、そこに居たのはドエインでもステインでも無かった。


がっかりしたが、第一印象は大切だ。態と明るく自己紹介する。


「こんにちは、僕テビ―って言います。トラベラーのひよっこです。良かったらトラベラーの事、何でも良いので教えて頂けませんか?テラさん、麦芽酒を一つお願いします。」


 女将さんが良く呼んでいるので娘さんの通称はスラスラ出て来る。


「麦芽酒?農村でも無い街にそんなものある訳…」


「はーい、魔法のポットでキンキンに冷やした麦芽酒1杯。有難うございまーす。」


 実は持って来た小麦は半分が粉で残りが未製粉の物。それを使って麦芽酒を造る魔道具がこの店にはある。宿屋の主人が道楽で買った物らしいが割と客からの評判も良く重宝されている。俺が持って来たドエインの小麦袋の半分は未製粉だったので、一袋を先払いで朝晩の食事代として払ってある。


 酒の力は偉大だ。男はゴクリと唾を飲み込むと無言で麦芽酒の前に座って手招きした。


「で、何が知りたいんだ?テビ―。」


 椅子に座ると、慎重に切り出す。


「実は、人を探して居まして、ステインさん、ドエインさん、ドッジさんという中年の男性を知りませんか?後俺くらいの背格好でクリオとルルっていう、ルルは女の子ですけど、子供も。」


「うーん、聞いた事無いなあ。グビグビグビ、ぷはー。昼間っから最高だな、こりゃ。」


「そうですか、ではもう一つだけ。この街のモニュメントには『欲する物を我に唱えよ。されば扉は開かん。』と有りますが、その答えは?」


「えっ?うひゃひゃひゃ、それマジで聞いて居るのか、坊主。いや、トラベラーのヒヨコたって言ってたもんな、スマン、スマン。正解も何も、何でも良い。自分が欲しい物を思い浮かべるんだ。そうしたら、それに近い場所へ送ってくれる。」


「近い場所?」


「そうさ、まあ、ピタリそうな時もあるし、まあまあ似てる場合もあるって事さ。後注意点があって…」


「じゃあ、僕は出ようと思えばいつでもこの街を出れるって事ですか?」


「うっ。その通りだ。モニュメントに近づくと遠くへ飛ばされる。何も望んではいけない。そこの嬢ちゃんでも知ってる戒めだと思うがな。」


ショックだった。テラさんが答えを知っていたなんて。灯台元暗しとはこの事。全ての問いに答えが一つしか無いなんて只の思い込みだった。


だがそうと分かれば城塞都市ビギナを、いやクリオを思い出せば良い。


早る気持ちを抑え、奥に居た女将さんに残りの小麦は全部貰って下さいとだけ伝えると、チーズとハッジさんの為に買った革切り鋏をリュックに放り込み、モニュメントの前まで小走りに走る。


目を瞑りクリオを思いだす。一緒に過ごした楽しい日々。楽しい思い出繋がりでルルの横顔まで出て来た。今はルルは後回し。再び意識を集中するとモニュメントが光り出す。


その頃、トラベラーは宿で2杯目の麦芽酒を煽っていた。宿に臨時収入で小麦が入ったので、そのお礼という事だった。


「うー、キンキンに冷えててマジ旨いなコレ。坊主さまさまだなこりゃ。」


「もう戻りたかった街に付いている事かしら?」


「ああ、多分その場所には十中八九行けるさ。でもな…」


宿屋の娘テラはそのトラベラーの言い草がとても気に成った。


「ちょっと、でも何よ?」


トラベラーは意地悪そうな顔で口の周りに付いた泡をペロリと舐めた。


「アンタらはモニュメントに近寄すと遠くに飛ばされちまうから近寄るなって言われているんだろう?だから知らないと思いが、アレの前で欲をかいていっぺんに沢山の物を思い浮かべちまうと、飛んじまうんだ。色々な。信じられんと思うが。」


「えっ?何それ。」


「実はな、稀に時間を飛び越えちまうんだよ。しかも飛び越えた先の時間に合わせて自分の年齢も変化しちまう。悲惨なのが、100年以上先の未来に飛び込んだ瞬間老衰で死亡したトラベラーとか。お嬢ちゃん、聞いた事ないか?突然現れて死んじまうぽっくり爺さんの話とか、突然現れる赤ん坊の話。あれ実は全部本当なんだぜ。」


テラは酷く動揺した。


「大変。テビ―にこの事、教えてあげなくちゃ!」


「お待ち!モニュメントには近寄っちゃ駄目だよ?あそこで何人も行方不明になっているんだからねっ!」


厨房から母親が大声を上げたが、テラは勢いよく出て行った。だが、彼女の努力は報われない。


モニュメントが見えて来た時、其処には迷宮帰りのガタイのよい女戦士とその仲間達しか居なかった。


「はあ、はあ、はあ。間に合わなかったわ。テビ―君行っちゃった。ちゃんと着けますように!」


両手を互いに握り祈る様に空を見上げる少女。その頃俺は、目の前に現れた見慣れた街並みに心躍らせていた。


「やった!今度こそソードの街に間違いない。でも何故ビギナじゃ無くソード何だろう。チラッとルルの事を考えちゃったからかなあ。よし、先ずルルに会いに行って、それから…ハッジさんに鋏を届けに行ってから、もう一度セカンに飛んでそこから今度こそクリオの所へ…」


目まぐるしく計画を立てると見知った街角を駆ける。何だか荷物が軽く感じた。走る速さも一歩一歩の進みが早く感じる。


ルルのお母さんが営む宿屋が見えて来た。玄関口に立つ白い衣服を着た成年男女が周囲に集まった人々から米粒や花弁を振りかけられ、祝福されている。


ルルは何処だ?人ごみの中にいた小さい子供を覗き込む様に確認していくが、知らない子供ばかりだ。


すると宿の中か?恐らく結婚式の料理を女将さんと今一生懸命準備しているに違いない。


あれ?


新郎新婦の後ろに控える壮年の男女に釘付けになる。


随分老けた感じだが、間違いなくダントンさんと奥さんだ。


身を低くして人込みを抜けると、脇からちょいちょいと手招きする。


「おじさん、おばさん。お久しぶりです。」


二人とも目頭が赤くなっていた。


「ああ、こんにちわ。所で、最近年で物忘れが酷くて。どこでお会いしましたかな?」


テビ―は噴き出しそうになった。確かに老けて見えるが、その年でもう物忘れだなんて。


「嫌だなあ僕ですよ。テビ―。ほら、ルルの探索仲間の。彼女、奥に居ます?今忙しければ後にしますけど。」


「ああ、テビ―か。随分立派になって。何いーテビ―だとっ‼」


おじさんが大声を上げたので、驚いた新郎新婦が此方を振り向く。


突然の事にオロオロしていると、新郎がこっちに向かって突進して来た。


「何を!?」


タックルされたと思ったら、抱き着いて来た。何だこれ、一体どうなって居るんだ?


「テビ―!良く戻って来てくれた。俺だよ、クリオだよ。お前も立派になって。今日は俺の結婚式なんだ。紹介するよ、ルル。俺の妻だ。」


え?何?


自らをクリオだと主張する青年の目元には確かに見覚えがある。だが、何故青年?それに俺の事を立派だと。まてまて、そもそも俺、この青年と目線が一緒だ。えっ?


その時気づく。


階段の上で立つ綺麗な花嫁が、美しい陶器の様に澄ました顔で、殺気を帯びた瞳を持って睨みつけていた。



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