第一話:金色
最近もっぱら(なろう読者)なゴスマです。
ワクワクするような作品を読んでいるとつい自分も書いて見たくなるのは何故でしょう?
もしお手元に取って頂けると幸いです。
眩しさに気付くと雑踏の片隅で座っていた。
光に手を翳し何かを思い出そうとするが、靄が掛かった様に曖昧である。辛うじて一つの名前が思い浮かぶが、これは俺の名か?
突然現れた奇妙な少年を取り巻く様に見ていた人々の中から、顔に傷のある男が得意満面の表情で進み出た。
「よう、坊主。大丈夫か?お前アレだろ、トラベラーだろ。」
困惑した顔をしていたに違い無い。彼が何を言っているのか分からなかった。
「まあそう心配するなって。俺がこの街を案内してやるよ。俺の名はライアー、お前は?」
「テビ…」
舌が上手く回らない。上半身が痺れている様だ。足は?親指が動く、大丈夫。
「テビ…ニックネームか?フルネームは何て言うんだい?」
「テビリア・ロ…」
拙い発声が止まったのは態とでは無い。唐突に柔らかくて小さな手に口を塞がれたのだ。
何時の間にか背後に回った子供の仕業だと気づくが、文句を言う前に頭上で響く甲高い声に聞き入っていた。
「おっさん、人前で真名を聞き出してどうするつもりだ。騙して奴隷にする気だろう。違うか!?こい、逃げるぞ!」
引かれた手がじんじんとした。
曲がり角でチラリを見ると、先ほどの親切そうな男が顔が曲がりそうなくらいに怒りを露わに喚き散らし、周囲の人々はそれを面白そうに揶揄している。
路地裏に逃げ込んだ俺の両頬へ手を置くと同じ目線でその浮浪児は透き通った眼差しを突き付けた。
「いいか、俺もお前みたいに騙されて真名を取られて奴隷にされたんだ。二度と人前で自分の真名をしゃべるな。」
では如何やってお互いを呼び合えば良いのか?そもそも奴隷落ちした子供がこのように自由に行動して良いのか?トラベラーとは何なのか?
様々な思考が頭の中で交差したが、口から出て来たのは単純な言葉だけだった。
「有難う…えっと。」
「クリオだ。大丈夫、通り名だから。お間の事はテビ―って呼ぶことにする。来い、テビ―。飯の稼ぎ方を教えてやる。」
街中をクリオに付いて歩く。活気が有り、立ち並ぶ店先へ人が消え、出て来る。
クリオは俺に色々な事を教えてくれた。
ここが要塞都市ビギナと呼ばれる街である事、要塞という名は周囲を高い壁で覆われているからだという事、嘗てクリオも気が付いたらこの街に居た事、以前騙されて奴隷をしていたが旅の男に助けられた事、今もその男を探している事。
「助けてくれた彼はもうこの街に居ないと思っている。彼はトラベラーだったんだ。だから俺も此処で稼ぎながら出る方法を探している。」
連れて行かれたのは小じんまりとした礼拝堂。其処には長蛇の列があった。
列に並ぶと再びクリオ先生による講義の続きである。
この礼拝堂の地下には迷宮が有り、クリオは恩人がこの迷宮を通じて外へ出たと考えて居る事。迷宮にはクリケットと呼ばれる人間の身長で言うと4~5歳児程の小柄な魔物が出て、ここの人間の多くは其れを狩って生活をしている事…
「魔物を狩るとどうなるの?お金を落とすとか?」
何故自分でもそう聞いたのか分からない。
「テビ―、幾ら記憶喪失だからって常識が無さ過ぎるよ。魔物がお金なんか持って居る筈無いだろう。」
「そっそうだよね。じゃあ、モンスターが落とすのは魔石だよね?」
「テビーぃ?クリケットが落とすのは…」
「次の方~」
ほんわかした声に振り向くと、色白だが目じりに若干皺のある、ぼっちゃりとした頬のシスターが微笑んで手招きしていた。
俺達はいつの間にか列の先頭に居た。
前に居た人々は中へ消えた。礼拝堂からは誰も出て来ないのに。
その秘密は直ぐに明かされる。良く掃除された木張りの床には地下へつながる階段が有り、レンガ壁の地下道には松明の灯りが此処そこらに燃えていた。
前を行く男女が左へ行ったので、クリオは十字路を右に曲がる。
何度も分かれ道を曲がる内に人気が無くなり、ガサガサと奇妙な音が迷宮の奥から響いてくるようになった。
「そろそろ来るよ?構えて。」
「えっ?」
その瞬間迷宮の灯りを黒い影が横切った。いや、小柄な黒い動物が渇いた足音を共に数体此方に駆け込んで来る。
掛け声と共にクリオが拳を突き出すと、飛び込んで来た魔物の黒光りする外骨格は意外にもグシャリと崩れた。
見た目より柔らかそうな体に、俺も足で攻撃する。
戦いは数分で終わった。
倒した4体のクリケットを前に座りごそごそしていたクリオが掲げた指先には金色をした指輪が一つ光っていた。
沢山の作品の中からお手に取って頂き大変有難う御座います。