さっちゃん
超売れっ子の作家で友達皆がシュウさんを褒めていたわ。作品の幅も広いから褒めるほどの内容は知らないけれど、作品の名前は知っているという事がよくある大作家。そんなシュウさんの所へ嫁入りするというと周りからはずいぶんと羨ましがられたものよ。たとえ、男と心中未遂をして生き残ってしまった経歴に傷のある男の人でもお金を持っていることには変わりないわ。些細な事よ。
お金や名声は大事なことよ。生きていくためには必要な事よ。その為には何でもするべきよ。
シュウさんはいつもビクビクしていて空っぽな人のような気がしたの。今の生活に後ろめたさがあるみたい。
それなのに人を笑わせようと頑張るみたいな作品を書くからまるでへたくそな笑わせ人形みたいよ。どうやって笑わせたいのか、何をしたいのかまったくわからないへたくそな笑わせ人形。シュウさんは『斜陽』風に言うと自分の事をM・Cであると思っているみたいだけれど、とってもへたくそで笑えないわ。だって、他の作家さんからはその人を感じられるのにシュウさんの作品からシュウさんが感じられないもの。
「シュウさんは何がしたいの? 何になりたいの? 私はシュウさんの作品をいくつか読んだけど全然シュウさんが見えてこなかったわ」
そう言った数日後、シュウさんは自殺したわ。そばに書きかけのものがあったけれど、手書きだったから体が倒れた時にインク壺がひっくり返ったのか紙一面が真っ黒でなんて書いてあるかわからなくなっていたの。だから、シュウさんが最期に何を書いたのかその内容はもう誰にも分からないのよ。
シュウさんの死んだ後に、私は妊娠していることがわかったの。これから私は自殺した超売れっ子作家シュウの未亡人になる。お腹の子と私はこれからも前を向いて生きていくのよ。